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星は微笑み花は瞬く  作者: 椎名杏花
第1章
3/5

2話 お出かけの日

表情筋が痛い。ついでにお尻も痛い。そしてどうしてこうなった……

私は今黒塗りに金で王家の紋章が描かれた豪奢な馬車に乗っている。中の座席は真紅のビロードと金の房飾りで統一されている。超高級素材とはいえ長時間揺られているとお尻が痛くなってくる。

外を覗くと街道からは

「姫さまー!」

「ミラ様!」

「こっち!ミラ様こっち!」

と、まぁこんな感じだ。国民たちがこぞって手を振りにきてくれている。

  


数日前のこと

「ね!ミラ。お母さんに会いにうちのマナーハウスに来ない?しばらく会ってないでしょ恋しがってるよ」

「確かに。しばらく会ってないわね」

「ミラ様は事あるごとに城から脱走しようとするので最近は俺がいても外出禁止されてました。が、シェアト様のところに行くのであれば陛下も許可してくださるのでは?」

「ゔっ…一言二言余計なのよフェルカドは」

タレスの提案でタレスの母シェアトの元へ顔を見せに行くことになった。

シェアトは私の母ベガ王妃と従姉妹なので私とは親戚なのだ。だからタレスも私の親戚。

父も快諾してくれてこのままうまくいけば街にも遊びに行ける…と思っていたのが間違いだった。


「し、死ぬっギブギブギブ」

「姫さま、身だしなみです我慢!」

私はぎちぎちにコルセットを締められ柔らかなメイクを施され豪奢なドレスを身につけている。

「ねぇ、ちょっと何でこんなことになってるの?シェアトさんのとこに行くだけでしょ?」

「シェアト様の元に行くだけでしたらミラ様馬車から逃げ出して街で遊んだり野原に行ったり森の中に消えてったりするじゃないですか」

侍女たちに飾り立てられながら後ろに控えているフェルカドに文句を言う。が、帰ってきたのはこれまた一言も二言も余計な言葉だった。 

「確かに野原の近くで馬車止めてもらおっかなーとか街に抜け出して遊ぼうかなとか思ってたけどさぁ…?」

「公式なお出かけにしてしまえば警備の騎士もいますし簡単には馬車も止められないという陛下のお考えですよ。」

「ことごとく信用がないっ!…んぶっ」

鏡越しにフェルカドを睨むと侍女に最後の仕上げにたっぷりとパウダーを叩かれて口を閉じざるを得ない。

その様子を楽しそうに見ているフェルカドが憎たらしくて後で足の一つでも踏んでやろうかと思う。完全に八つ当たりだが。


時は戻って現在。

そんなこんなで第一王女が公式におでかけすると聞いた国民たちが私を一目見ようと中央街道に押し寄せているらしい。

流石に国民に手を振られて振り返さない最悪な王女ではないのでにこやかに返していたが、この先もずっと続いているらしいと聞いて少しうんざりしてきた。なんせ一時間半も微笑みっぱなしなので口角筋が痙攣している。

「フェルカドあとどんぐらいで着く?」

「王城から2の刻と少しなのであと半刻ほどでつきますよ」

「そんな遠かったっけ!!!!!」

「以前は陛下と王妃様が幼いミラ様のご機嫌取ってたりしていたらしいじゃないですか。あとギウス様が体を張って飽きさせないように。」

「あぁ、なるほど…って誰から聞いたそれ!?」

「そりゃ妹馬鹿なギウス様からですが。」

シェアトは生まれつき体が弱くて城下街から離れたグロリオーサ家のマナーハウスにタレスと暮らしている。アークは基本はタウンハウスで生活して、時々休みが取れると必ず2人に会いに戻っているという。

幼い頃は何度か通っていたがスピカが生まれ、私も勉強が忙しくなってからはあまり行く余裕もなくなっていた。

 

またしばらく馬車に揺られていると景色が街並みから広大な田畑に変わってくる。

デルフィニウム王国では光の月の真ん中あたりからようやく春が訪れる。田畑は芽吹きはじめ、遠くにはまだ白い雪を被った国境の山脈が見える。

「もうすぐですよミラ様」

「長いねぇタレスも王城にくるの大変だなこりゃ」

そんな会話をしていると馬車はグロリオーサ家の門扉をくぐる。

田舎の大領主、という言葉使いが正しいか分からないがとりあえず王城と同じくらいかそれより広いのではと錯覚するほどの大豪邸に着いた。

鉄の門扉にはグロリオーサのレリーフが施されており、真っ白な外壁に真っ赤な屋根そして金色の窓枠。沢山の緑が生い茂る前庭。まるでおとぎ話に出てくるような見た目の邸宅がそこにはあった。

「ミラ!フェルカド!長い道お疲れ様、疲れたでしょ」

玄関でタレスが手を振っている。そのままこちらに駆け寄って来て手をとられる。エスコートしてくれるみたいだ。

「グロリオーサ家のマナーハウスへようこそ!」

「「「「いらっしゃいませミラ様」」」」

タレスが玄関の戸に近づくと魔法でゆっくりと開いていく。扉には大きな魔石が見事な彫刻を施されて嵌め込まれていた。

我が国では日々の魔力消費を抑えるために、鉱山から発掘される魔石を日常的に用いているのだが、これほどの大きさは城でもなかなか見かけなかったりする。

扉の向こうでは沢山の使用人たちが出迎えてくれる。

「みんな久しぶり、元気にしてた?」

「お久しぶりです、皆変わりなく。」

老齢な執事長のトゥーバンが穏やかに返してくれる

「あのさあのさ、トゥーバン。おもてなしも何もしてないんだけどお母さんが会いたいっていうから連れてくね」

タレスの柔らかな手にぎゅっと握られシェアトの寝室へと連れていかれる。

「お母さん!ミラがきたよ」

ギィと音を立てて木製の扉が開くとタレスは窓際に置かれたベッドに横になっているシェアトに声をかける。

「けほっ…お出迎えもできずごめんねミラちゃん。」

ゆっくりと起きあがろうとする彼女の背を支えにタレスが駆け寄る。

ネグリジェ姿のシェアトはネグリジェと同じぐらい色白でまるで透けて消えてなくなりそうだった。  

「いえ、無理なさらず。こちらこそご無沙汰してました。」

「あら、貴方は初めましてね。」

「初めまして、ミラ様の専属執事をしておりますフェルカド・ロベリアと申します」

「あらあらあら、ミラちゃんもう9つなのね。専属執事がつく歳になったなんて成長は早いわねぇ。こっちいらっしゃい、お顔よく見せて」

手招きされベッドサイドまで歩みを進める。しゃがみ込みシェアトと同じ高さまで目線を下げる。と、そっと両頬を包み込まれ撫でられる。少し冷たい体温が心地いい。

「大きくなったわねミラちゃん。…こほっこほっ………こんなに綺麗になって。ますますベガとアルタくんに似て来たわね」

「光栄です。シェアトさん」

シェアトは前より細く白くなってしまっている、見ていて痛々しいくらいだ。医者に診てもらっているが一向に良くならないという。

「お母さんどう?起きれそう?」

「けほっ…ううん無理そうかも、ごめんねタレス、ミラちゃん」

「ううん大丈夫」

「お気になさらず。」

「お顔見れてよかったわ、ゆっくりしてってね」

長居すると負担になるかもしれないので早々に退出し、中庭でティータイムにすることにした。



「せっかく来てもらったのにごめんね、ミラ」

「ううん仕方ないよ」

「ミラ様…お話中申し訳ありませんがシェアト様は魔力病なのでは?」

「魔力病?」

「魔力増幅による体力低下及びその合併症。通称魔力病といいまして…」

フェルカドによると魔力病というのはまあまあ珍しい病気らしい。

普通、魔力と体力・精神力は比例している。が、極稀に魔力が自身の体力等を上回ってしまう体質の人がいて、その人は生まれつき魔力暴走を無意識下で抑えようとするため体力精神力が削られ他の病気を併発しやすい。

単なる体が弱い人と取られてしまうことも多く、名医でも診断が難しい症例もある。専属医師がついている貴族ならまだしも、街の人や医者すらもいないスラム街では診察代も馬鹿にならないため、診察しようとも思わなかったりするのだそうだ。

このような状況のため人数は確定できないが、相当な数の患者がいるようだ。

ということだった。フェルカドの妹も魔力病らしく見覚えのある症状にピンと来たという

「え、どうすれば治るのフェルカド!治んないの?死んじゃうの?」

「タレス落ち着いて大丈夫だから」

「そうです、ちゃんと治療すれば完治はせずとも改善される病気なので」

慌てて椅子を立ったあとよろよろと座り込んだタレスの背を撫でながらフェルカドは言う。

治療は魔力の定期的な放出と体力作りだとフェルカドは話す。

「ただ、魔力病か魔力病でないかを100%見分ける方法がないと間違った治療を受けさせてしまうことになります」

「うぅーん…どうしたもんかねえ」

魔力…魔力…ブツブツと呟きながら考える3人。

どんどんと紅茶だけが冷えていく。

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