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星は微笑み花は瞬く  作者: 椎名杏花
第1章
2/5

1話 王女、落ちる。

「ふーん6柱の神々、かぁ」

私は屋根の縁に腰掛け神話の描かれた本を読んでいた。

「ミラ様!危ないですから屋根からお降りください!と言うかどうやってそこまで登ったんですか!」

青髪をポニーテールにした私の専属執事フェルカドが下の方で呼んでいる。

私は読みかけの本を閉じため息をつく。対してフェルカドはようやく降りてくるのかとほっと息をつく。

「行きたくありませぇ〜ん礼儀作法も勉強も飽きましたぁー!ちなみに降り方もわかりませぇーん!」 

「馬鹿野郎!!!!!!」

「私もそう思う!!!!!」

フェルカドは時々執事にしては口が悪くなる。昔ヤンチャだったらしく口調が乱れるのだとちょうどこの前教えてくれた。全く……執事としてはどうなのか。

「私は王都の夕焼けを見つつ本が読みたいの!あわよくば街で遊びたーーーーーい!!!!」

私は城下の人々のような自由な暮らしがしたいのに。自由に野原を駆け回りたいのに。木登りも森への探索もワクワクすることで溢れているというのに!


「もう!そんなに降りて来て欲しいなら風魔法かなんかで降ろしてよ!」

そう下の方に叫んだ瞬間バランスが崩れた。

ぐらっ、と体が傾ぐ。 

慌ててバランスを取ろうとするが本を抱えていてうまく体勢を立て直せない。

これは、やばい。

そう思ったのも束の間そのまま体は下へ下へと落ちていった。

「うわぁぁあぁぁぁぁぁぁ!?!?!?」

「馬鹿っ!!!」

慌てて駆け寄ろうとするフェルカドの前に小柄な影が飛び込んできた。

「アウフタクト!!」

ゴウッ

風魔法の詠唱と共に風が巻き起こる。

その風に私は抱き込まれてゆったりと下され落下死せずに済んだ。 



「ふぅ…死ぬかと思った」

「ミラ!何やってんの!」

さっきまでいた塔をみあげて呆然とする私に駆け寄って来たのは幼なじみのタレス・グロリオーサだった。

肩で息をしているところを見るとさっきの魔法はタレスが撃ったらしい。

その後ろから来たフェルカドは顔面蒼白だった。

「こんのクソ阿呆ガキっっっ!あー心臓いくつあってもたりねぇ…」

「いやぁーいつもすみませんねフェルカド」

「申し訳なく思う心があるなら少しは自制しろっ!」

フェルカドの両拳が伸びてきてぐりぐりと私のこめかみを拳骨で押してくる

「いた、痛い痛い!!ちょ!執事としてあるまじき行為!」

「あはは、とりあえずミラが無事でよかった」

私とフェルカドのやりとりを見てタレスはころころと笑う。笑うと暗めの紅色の瞳がきゅっと細まって、少し癖っ毛の赤髪がふわりと揺れる。本当にこの幼なじみはまるで天使のように可愛い。

「あれ、そういえばタレスはどうしてここに?」

「お父さんの仕事見に来たんだ」

「そっか、もう行った?」

「ううん、まだ。ミラも行く?」

「うん!」

タレスの父親のアークは私の父、アルタ国王の補佐をしている宰相だ。父の乳兄弟として昔から仲良くやっているらしい。 

タレスも次期宰相になるために執務を見学しにくることがあるのだ。

「お兄ちゃんとスピカには会った?」

「スピカには会ったよ、ギウスにいちゃんはお父さんたちと執務室だって。」

「ミラ様、スピカ様は厨房で夕食のデザートを作られているところかと」

スピカは私の4つ下の妹だ。金髪ストレートな私と対照的にふわふわとした天然パーマで母にそっくりなピンクブロンド。そして私より少し淡い青眼を持っている。

デザートが好きで最近は厨房に遊びに行っておやつをねだったり簡単なおやつの作り方を教えてもらっているらしい。  

ギウスは私の兄で5つ上。金とピンクの美しいグラデーションの髪である。父の跡を継ぐために日々執務室で仕事を手伝っている。あとは…両親の顔面をきれいに受け継いでるため女の子にモテまくっている。

「夕食が楽しみね」

「この前はゼリーを作ったって聞いたよ、すごいねスピカ」

「でしょでしょ!自慢の妹なの」

「では、ミラ様も自慢の姉になれるように勉強に励まなくては」

ここぞとばかりにフェルカドは口を挟んでくる。私は一歩後ろを歩くフェルカドを睨み上げるが当人はどこ吹く風といった表情だ。



塔を離れ庭を抜け、王城の中に入り螺旋階段を登って、長く広い廊下を歩く。

しばらく歩くと廊下の終点に両開きの重厚な扉が現れる。深いた焦げ茶の扉には私の手のひらほどの魔石が鎮座していて、その存在感を示している。

その扉の両側では揃いの詰襟に軽鎧と長槍を身につけた騎士団員が警備していた。

憧れの眼差しを向けるタレスに確かにこれはかっこいいなと同感する。この国を守る騎士団は皆の憧れの職業なのだ。

「ついた!執務室!」

コンコンコン。 

「誰だ。」 

扉越しに父の声が聞こえる。

「陛下。第一王女ミラ様とご友人のタレス様、執事フェルカドが参りました。入室してもよろしいでしょうか。」

フェルカドが扉越しに答えると「入れ」と言われる。両側にいた騎士団が槍を避けると魔石が光り、魔法が発動した。重い扉がゆっくりと開く。

「「「失礼します」」」

「あ!ミラぁ〜♡お兄ちゃんに会いに来てくれたのかい?」

父と兄、そして宰相のアークに礼をして顔を上げた途端、兄が手に持っていた書類を放り投げこっちに走ってくる。放り投げられた書類はきちんと兄付きの執事が拾い上げている。

「うわわっ!」

あまりの勢いに恐怖を覚え反射的に横にずれるとビタっと痛そうな音を立てて扉に激突する。

「ゔぅ〜ミラ何で避けちゃうの?お兄ちゃんの事嫌い?嫌いなの???」

鼻を赤くしながら早口で詰め寄ってくるのがあまりにもホラーだ。スピカなら泣き出してただろう。

「違いますがお兄ちゃんちょっと…怖い…」

「怖っ!?可愛い可愛い妹に怖いって言われた………」

「ふっ………」

シスコンを拗らせに拗らせた兄はズーンと効果音でも聞こえてきそうなくらいショックを受け落ち込んでその場にしゃがみ込んでしまった。

フェルカドは静かに兄の奇行を鼻で笑った。相変わらず仲が悪いみたいだ。

一連の様子を見ていた父とアークはまたかと言った顔で笑っている。  

「お父さん!今日は何のお仕事?」

「今日はなぁスラム街に暮らす人々への支援策を考えてたよ」

私は父の元に駆け寄ってつま先立ちで書類を覗き込もうとしたが、機密文書だからとそっと取り上げられてしまった。残念。

「スラム街?本で読んだことあるけどこの国にもあるの?お父さん」

タレスは近場の椅子に座って首を傾げた。

「うーん、本当はない方がいいんだが、どうしても出来てしまうんだ」

「そっかぁ」

「お腹空かせた子がたくさんいるんでしょ?じゃあ、スピカのおやつあげたらいいんじゃない?」

「ミラ様、ミラ様の想像以上にお腹を空かせた人はいますし、お腹を空かせているのは子供だけではありません。良い案ですが継続的支援が必要ですよ」 

名案を思い付いた私は早速提案してみる。しかし名案ではなかったようだ。  

「むぅ…」

「2人にはまだ難しいさ、考えてくれてありがとうなミラ」

父は大きなその手で私の頭を撫でてくれた。が諦められない私は名案を思い付いたらまた執務室にこようと心に決めたのだった。

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