第六話 ザビーネは決意した
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そんなエルンストの様子を、遠くからザビーネは見ていた。無感動に。無表情に。
そして、入学式には参加することなく、くるりと背を向けた。
「これで大丈夫かしら……ね」
人の流れに逆らい、学園の通用門の方へと足早に向かう。待たせていた馬車に乗る。
「帰るわ。馬車を出して頂戴」
もともと、ザビーネはこの学園に通うつもりはなかった。今日この場にやってきたのは、レナとエルンストの出会いがどうなるか、自分の目で見て確かめるのが目的だった。
エルンストが見ていた『悪夢』。
それはザビーネが見せていたものだった。正確に言うのならば、ザビーネの依頼を受けた魔族が、であるが。
「ふふ……。わたくしの一回目と二回目と三回目の人生は……今のエルンスト様にはどのように感じられたのでしょうね……」
一度目の人生では、エルンストから婚約を破棄され国外追放された。そして森を彷徨っている時に魔物に食われ死んだ。
二度目の人生では、エルンストに娼館に売られた。辱めを受けるのが嫌で、隙を見て逃げたが、結局捕まった。
三度目の人生では、レナとエルンストの真実の愛のために、断頭台で首を切られた。
そう、ザビーネは同じ人生を三度繰り返し、三度とも死んだ。四度目の人生は、もうエルンストの愛など求めようとは思わなかった。
「同じことを三度も繰り返せばもう十分だわ。四度目の今こそ、わたくしは幸せな人生を掴んでみせる」
自分を幸福にするために、他者を不幸にすること。
それが許されるかどうかなど、ザビーネにはわからない。
だけど、迷うザビーネに、とある魔族の男が言ったのだ。
「真面目な人間に多いのだが。負のループに捕まって、そこから出られなくなるのだよ。何故こんなことになったのだろう……とな。悩み、悪いのは自分なのだから、自分が頑張ればいつか相手が自分を認めてくれるはずだ……と自分を責める。だが、方向性の違う努力などしても無駄だろう。相手は、どう頑張ろうとも変えられない。自分が変えられるのは自分だけ。相手など自分の思うように変わってくれるはずはない」と。
一度目の人生も、二度目の人生も、そして三度目の人生も。エルンストがレナとの真実の愛を貫くために、何もしていないザビーネは『悪役令嬢』として断罪されてきたのだ。
魔族の男の言う通り、どんなにザビーネが努力をしても、エルンストが変わらないというのならば、ザビーネがこれまでの三度の人生と同じように、エルンストに愛を求めてもそれは無駄ということなのだ。
ザビーネが変えられるのは相手ではなく自分のみ。自分が変わらなければ、四度目の人生もエルンストによって虐げられた後に、死ぬのだろう。
そんな人生はごめんだった。ザビーネは決意した。
「一度くらい、わたくしがわたくしのためにエルンスト様を陥れたところで……神様は許してくださるのではないかしら……ね?まあ、仮に神という存在が実在して、その神がわたくしをお許しにならなくとも……別に構いませんけれど、ね……」
もはやザビーネは神には縋らない。祈らない。
一度目の人生も、二度目の人生も、そして三度目の人生においてもザビーネは神に祈った。
どうかどうかどうか、わたくしはレナという男爵令嬢を虐げなどしていない。全てエルンスト様の誤解なのに。どうしてどうしてどうして、わたくしがエルンスト様に嫌悪の目を向けられ、エルンスト様に殺されねばならないの……?神様、もしあなた様がいらっしゃるのであれば、わたくしは何の罪をも犯してはいないと、エルンスト様にお伝えください。
繰り返し、血を吐くような思いで願った祈りは、神には通じなかった。
一度目も二度目も三度目も、ザビーネは絶望のまま死んだ。
「もう二度とあんなふうに死にたくない。だから……」
神ではないが、人ではない、魔族。
ザビーネは、その魔族の手を取ることに決めたのだ。