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第三話 愛しておりませんので、嫉妬心など起こりようがございません

タイトル少々変更

『断罪』の文字を追加しました。


「ザビーネっ!何故レナを苛めるんだっ!!」

「……何のことでございましょうエルンスト様」


王宮にある図書室で、調べものをしていたザビーネは、突然エルンストに怒鳴りつけられて目を白黒させた。

エルンストはそんなザビーネに対し、汚いものでも見るかのように眉間に皴を寄せる。


「レナの制服を破いたり、教科書を隠したり……。身分の低い相手を虐げるとは……お前は悪魔のような女だなっ!」

「待ってくださいませ。それはエルンスト様の夢のお話でございましょう?わたくしがレナという令嬢に会うことなど不可能ですわ。ましてや虐めなど……。そのご令嬢はエルンスト様の夢の中の登場人物に過ぎないのですから」


ザビーネの冷静な反論に、エルンストははっとした。


王太子としての執務の途中で、うっかりと執務机に突っ伏して昼寝をしてしまったのだ。その昼寝の最中に、ザビーネがレナを虐げる夢を見た。目が覚めた時、余りの怒りにそのまま王宮にいるはずのザビーネを探しまわり、図書室にいたザビーネを見るなり、そのまま怒鳴りつけてしまったのだが……。


「あ……」


ザビーネに言われて、ようやく気がついた。

ザビーネがレナを苛めたのは、エルンストが見ていた夢の話で、現実ではないということに。


エルンストは慌ててザビーネに謝罪した。


「す、すまん……」


ザビーネは、一見穏やかに見えるような笑顔を浮かべた。


「……いいえ。きっとお疲れなのでございましょう」


声音は、優しげだった。けれど、エルンストはザビーネの瞳が冷たい色を浮かべているのに気がついた。


ザビーネは、広げていた本をパタンと閉じて、それを片付けるよう侍女に告げた後、ゆっくりと立ち上がった。


「そ、その……ザビーネ……」

「王太子殿下に申し上げます」


エルンスト様、ではなく、ザビーネは王太子殿下とエルンストを呼んだ。


「仮に……仮にですが、もしも王太子殿下がわたくしという婚約者以外の女性を愛そうとも、わたくしは嫉妬に駆られることはございません。殿下の愛する女性を虐げることもございません。何故ならば……」


一旦言葉を切り、ザビーネは真っすぐにエルンストを見た。


「嫉妬というものは、自分が好意を持っている相手の愛情が、自分以外の誰かに向いたときに起こるねたみの感情のことでございましょう?わたくしは王太子殿下の婚約者ではありますが、王太子殿下のことは愛しておりませんので、嫉妬心など起こりようがございません。王太子殿下がどのような方をご寵愛なさろうと、わたくしには一切関係のないことでございます」


エルンストは、ザビーネの言葉がすぐには理解できなかった。何度かザビーネの言葉を咀嚼し、それからようやく、喘ぐような声を出した。


「私のことは……好きではないと、ザビーネはそう言ったのかい?」

「ええ」


ザビーネの肯定は即座に行われた。

エルンストは何も言えずに、ただ呆然とザビーネを見る。


「わたくしと王太子殿下の婚約は恐れ多くも国王陛下のご命令によるもの。わたくしの父はそのご命令に従っただけでございます。そして、わたくしも同様です」

「そ、そんな……」

「ですので、夢であろうと現実であろうと、恋人でも愛人でもお好きにご寵愛の方をお選びくださいませ。わたくし、それに対して何とも思いませんし、また文句なども言いません。ああ、何でしたらわたくしと殿下の婚約を白紙として頂いても構いませんわ。ましてやご寵愛の方を虐げるなど……、そんな無駄な感情、わたくしにはございませんし、行う労力すら惜しいです。馬鹿々々しい」


淡々と、紡がれるザビーネの言葉を、エルンストは信じられない思いで聞いた。


「そ、そんな馬鹿な。今までザビーネは私の話を熱心に聞いてくれていたし、関係も良好だったではないか……」


こくん、と。ザビーネは首を縦に振った。


「ええ、もちろん。婚約者との関係を良好に結ぼうと努力することは義務でございますから」

「義務……」

「こちらからは断れない婚約です。険悪になっても仕方がないでしょう。ですから、わたくし、努力はいたしました。貴方様を愛する努力ではなく、関係を良好にするための努力ですが……」


ふう、と。ザビーネはため息をこぼした。


「夢とはいえ、殿下はわたくしのことを『他者を虐げる人間』として認識していたのですね……。大変不愉快です。それと、夢と現実の区別もつかなくなった王太子殿下にわたくしが歩み寄る必要性は感じません。申し訳ございませんが、しばらくの間、王太子殿下とわたくしの交流は遠慮させて頂きたいと思います。こちらの王宮に、わたくしの……、王太子殿下の婚約者としてお部屋を頂戴していますが、わたくし、しばらく実家の……メルヴァーイング侯爵家の屋敷にて過ごさせていただきます」


軽く頭を下げて、ザビーネはエルンストに背を向けた。

エルンストは、去って行くザビーネを止めることも出来ずに、ただ、その場に立ち尽くした。





お読みいただきましてありがとうございます!


第四話は本日20時投稿予定です。よろしくお願いいたします。

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