第一話 王太子は薄桃色の髪の令嬢との夢を見始める
風もさわやかで、気持ちの良い昼下がりだった。白薔薇に覆われたガゼボでは王太子であるエルンストと、その婚約者であるザビーネが午後のお茶を楽しんでいた。
そんな時、ふと思い出したようにエルンストが言ったのだ。
「……夢を、見たんだ」
「夢でございますか?」
「うん。昨夜、寝ている時に見た夢がね。演劇というか……物語のような、ストーリーがある夢だったんだ」
「まあ……」
ザビーネのエメラルド色の瞳が興味深げに見開かれた。
「来年になれば、私たちも貴族学園に入学するだろう?」
「ええ」
「その学園でね、私は一人の令嬢と出会うんだ」
「あら……、どのような方なのですか?」
「うん、薄桃色のふんわりした髪の令嬢でね。木から下りられなくなった猫がいて、その猫を助けるためにその令嬢も木に登って、で、バランスを崩して木から落ちたところを、私が偶然助けるっていう、そんな、夢」
ザビーネはぱちぱちと目を瞬かせた。
「何かの物語のプロローグのようですわね」
「だろう?」
エルンストはザビーネの返答に満足そうに頷いた。
「普段は夢なんか見ないでぐっすりと眠っているから。それに木登りする令嬢なんてね、ちょっと面白かったんだよ」
他愛のない夢の話。それで終わるはずだった。
だが、エルンストは薄桃色の髪の令嬢との夢を、その後もたびたび見るようになったのだ。