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お嬢様の仕組

 真っ赤な顔で着替えをしてると、やっと1人帰ってきた。水筒片手に帰ってきたけど、水筒の蓋は空きっぱなし。空になっちゃったのかしら?それは辛かろうなぁ。


「お疲れ、早いねえ。」

「いやそっちの方が早いでしょ、お疲れ様。」


 そう言ってその子は席にどかっと座ると、着替えるより先に突っ伏してしまった。そしてゾロゾロとまた帰ってくる、最後の子がドアを開けっぱなしにしあまま。ちょっと待った。


「お疲れ、でもさすがにドアくらい閉めて。」


 私はそう言ってドアを閉めた、が、また新しく人が入ってきて開けっぱなしにしたまま去っていく。もうヤダ。


「ちょっとあなた達、っ気をつけなさい。」

「すんません!」


 通りかかった女性教諭が開けっぱなしの扉に呆れたようにコメントを残し扉を閉める。他の正常な認識の持ち主は返事をしたようだけれども、私はため息をつくことしかできなかった。



 さて、気を取り直して6時限めは聖書の時間。教室の惨状を見ると、ついつい聖書の先生がかわいそうになった。先生は男性である、そして教室では着替えが途中、と言うよりまだ体操着のままの子もいる。授業開始まで残り2分もない。ふと気になった私は、スカーフを結びつつ廊下に出てみることにした。

 案の定先生は、廊下のベンチで困ったような顔をしていた。私を見つけると口を開く。


「あのー、中の様子はどうですか?」

「着替え真っ最中です、鐘が鳴ってからもちょっとかかるかもしれません。」

「そっかー、体育は何をしたの?」

「最近は20分完走です、みんなヘトヘト。」

「それはお疲れ様。でも、悪いのだけど少し急かしてもらってもいですか?」

「はぁい。」


 先生から離れ、教室に戻ると息を大きく吸う。


「先生もう来てる!早く着替えて!!」

「OK。」「え、早くない!?」「ちょっと、起きて、着替えて。」


 十分な反応が得られたので、安心して席に戻った。体育から帰るときにもう聖書は取ってきてあるから適当なページを開いて読む。動物たちがノアの方舟に乗り込んだシーンで鐘が鳴った。


 キーンコーンカーンコーン

「やばっもう鐘鳴った。」「着替えてる人ー。」「待って待って。」

 こんこん

「すみません、あとどのくらいですか?」

「残り2人です、1分だけお願いします!」


 流石に鐘がなると先生も無視は出来ない。外から声がけが入るのに迅速に対応するのは慣れっこだ、一応これで毎回やってる。


「大丈夫でーす。お願いします。」


 そうすると先生が入ってきて授業が始まる。聖書の先生は、上品な感じのロマンスグレー一歩手前の、なんて言うかな、オジサマ先生だ。


「ご機嫌よう。」

「「「「ごきげんよう。」」」」


 まずこの先生は人気がある、めちゃくちゃ生徒に好かれてもはや引っ張りだこの先生。その理由はこの風貌、優しさ、話しやすさ、性格。なんていうか聖人君子すぎて好きにならずにはいられない先生で、みんなから愛されてる。


「20分間走お疲れ様です、好きな時間に水飲んでいいからね。」


 授業開始一言目がこれ。正直にもう言っちゃう、私も先生大好き。


「今日の授業なんだけど、最後にビデオを見る時間を取りたいからプリントを早めに終わらせないといけないんです。疲れてると思うけど、頑張って。」

「「ビデオ!やったぁ!」」

「ところで先生、今日この子誕生日なんです!」


 急に窓際の子が前の子の腕をあげさせてそう言った、腕をもたれた子は困ってるけれども嬉しそうな顔は隠せていない。

 急なふりに先生はちょっと驚いたかををしながらも、小さく手をたたきながら嬉しそうに言った。


「おぉ、それはおめでとうございます。」

「りゃあとうございまーす。」

「それではお誕生日のお祈りをしましょうか。お祈りの姿勢をとってくださーい。お祈りします、天にいらっしゃいます私たちの父なる神様……。」


 お祈りってこの先生がすると特別な感じがする、もちろんいい意味で。

 ところでここまでで、お嬢様学校にはお嬢様は数少ないってことがわかると思う。じゃあなんでお嬢様ってなるよね。でも、キリスト教系の女子校にはクリスチャンの先生がわりかし多くって、ちょっと白髪が目立つあたりになってくると一種の上品さが人によっては生まれる。男性の先生でそれが顕著な先生は、私の見解だと世の中の女性を魅了してしまう。その年代の先生は割と重要な役職にいることが多くて、外部の人に見られる機会が多くなる。釣られたお母様方が、もちろん生徒の猫被りの影響もあってだけど、わたしたちをお嬢様と認定する。

 私の個人的な考えだと、これこそがお嬢様学校がそう思われる所以なんじゃないかな。


「……アーメン。」

「「「「アーメン。」」」」

「お誕生日おめでとうございます、そういえばこの前娘の誕生日に遊園地に行ったのですけれど……。」


 急ぐって言うながらも雑談を交えてくれて、しかもほのぼのストーリー。私は2次元に詳しくないけど、萌えって感覚は理解できるよ。めちゃくちゃ尊い、この先生。

 そう思ってる間にも話は進んで、先生の話と雰囲気でみんな和気藹々。さっきまでの疲れが吹き飛ぶってわけじゃないけど、聖書の授業はまさしく精神の癒したる場所だと思う。


「それじゃあ、授業に入りましょう。まず出エジプト記の3章を読んでいきましょうか。さっきお誕生日を教えてくれた方は……。」


 聖書の授業はもちろん聖書の勉強もするけれど、勉強内容としては自分の心と向き合う、道徳を学ぶって言うのに似ている。ついでに聖書は大学入試で倫理として成績をつけられるらしい、誰が言ってたかは忘れたけど。


 一通り今日の課題をこなしたのでビデオに移る。聖書関連の映画は多くて、今回見るのは出エジプト、つまりモーセが海を真っ二つにわる箇所のアニメーション映画。

 聖書っていうのは分厚くて文字ばっかりで若がわかんないって人も多いと思う。確かに箇所によってはひたすら嘆いてたり、わけわからんことばっかり言ってたりしてつまんない。実際私も読書は好きなはずなのに、詩編では寝た。でも旧約聖書の歴史書とかは物語的で面白いし、新約聖書も伝記って感じ。いくつかの福音書(キリストの生涯が書かれる)ごとに内容にずれがあるから比較するのも楽しい。

 個人的に面白いのは黙示録、めちゃくちゃ壮大でおっそろしいことばっかり書いてるから一周回って笑っちゃう。獣の数字、巷で言う悪魔の数字666はここからきたって知ってる人は一体いくらいるかしら?


「御機嫌よう。」

「「「「御機嫌よう。」」」」


「ったー!」


 授業終了後、瞬時に響く声。ふと振り向くと思いっきり伸びをしてる姿が見えた。そんなに伸びたらトップスの裾が持ち上がって、吊りスカートのつなぎ目が見えちゃう。一瞬心配になったけど、その心配は本当に一瞬のものだった。その子はスカート丈を短くしていたのだ。

 なんでスカート丈が短いとトップスが持ち上がっても平気なのか、それはその方法にある。ポイントは吊るす位置、確かにスカート自体を切ってしまう方法があるけれども、それだとスカート丈チェックの時に困ったりする。そこで、ボタンを上の位置につけることでスカート自体の位置が上にずれて、結果的に短くなるのだ。チェックの時にはスカートのボタンを下の位置で止めればいいだけ。

 人によっては胸の辺りからスカートがある子もいる。

 とはいえ、「セーラー服に短すぎるスカートは合わない。」という意見が結構多くって、スカートの短さも下品さが全くない程度に止まってるのが現状だけど。少なくとも、ミニスカ版の制服は未だかつてみたこと無い。


 残るは終礼だけ。

なお、そう言う先生に対する生徒の評価は「かわいい!!」です。

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