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朝の風景

 私は地下鉄を使って登校する。だから外の天気は駅を出るまでわからない。

 駅を出ると水たまりがキラキラ光って眩しかった。約30分、地下鉄に揺られて爆睡してる間に雨が降ってたみたい。ちょうど避けれてよかったな。

 ポツポツと同じ学校の生徒がいるけど、そんなに沢山じゃない。地下鉄でも乗り合わせる人がちょっといる。毎日乗ってると馴染みの人がいるんだ。同じ学年の小柄な子、髪が鳥の巣みたいなお兄さん、たまに見かけるカラフルなおばさんはレアだから合うとラッキーな気がして楽しくなる。


 学校沿いに並んだ木から水滴が落ちてメガネを汚す。傍迷惑なコンビだと見上げると、空に虹がかかってた。起きた時は真っ暗だった空も学校に着く頃には明るくなってる。綺麗な空に虹が映えててなんだかちょっと嬉しくなった。


 校門の前にはお掃除のおじさん、湿った葉っぱと格闘してる。


「おはようございます。」

「……」


 虹で浮かんだ心が、元の位置に下がっていった。

 ちょっとしゅんとしながら校門を潜ると警備の人が立っている。


「おはようございます。」

「おはようございます。」


 やっぱり挨拶はいいね、卒業生が寄付したという謎の像(なんか筍に鼻と目が付いたみたいな形)に笑いかけた。……変人みたいだ、やめよう。口角がすっと位置を正す。



 下駄箱を見ると、学校にどれくらいの人がいるか分かる。今いるのは早く来てる人か部活がある人達。ラケットを持って急ぐ人に、劇の台本を熟読してる人、先輩に注意される人に、単語帳と格闘する人。


 キーンコーンカーンコーン


 鐘がなると空気が変わる。厳しい部活の人(ステージ系や運動部)はどんな作業をしていてもそれを中断、荷物を滑らかな動作で持つと階段を跳ぶ勢いで駆け上がる。部活の時間を可能な限り長く持つために先輩は急ぎ、後輩は遅れまいとついて行く。私はいつもこのラッシュが終わってからのんびりと教室に向かう。


 カラン


 ふと見ると靴が一足落ちていた、踵の少し高い真っ赤なハイヒール。これはステージ系の小道具かな。目線を横にずらすと中学2、3年生、要は先輩の圧力に耐えて生き抜く年代の子が、何かの箱、むやみに大きなタオル、学生鞄と特大サブバッグ、もう一足の靴を抱えている。どうやって拾うかという困惑、遅れるという焦りの入り混じった顔で立っていた。

 屈んでヒールを拾い、落ちないように抱えた荷物の絶妙な隙間に差し込んだ。


「気をつけてね」

「りゃぁとうざいます!」


 急いで階段を駆け上ったその子の後をのんびりと上がる。あの靴でダンスとかするのかな、私だったら足を挫いちゃう。

 正面階段は幅があって、右と左に登り、下りって区別するように手すりで分けてあるけれども、気にする人はほぼいない。……というより、はっはっは。私はある使い方を思い浮かべて苦笑いを浮かべた。


「おはようございます。」

「ご機嫌よう。」


 先生とすれ違って挨拶を交わす。ごきげんよう、かぁ……、ふとため息をついた。御機嫌ようなんて私の友達に言ってる人いないな。

 廊下には大きなポスターが並んでいる。先輩たちの努力の結晶、つまりは授業外の学習のまとめで、今年私達が作る予定のものをお手本として並べているわけだ。最近は急激にSDGsが増えてきて正直混乱してる。テレビでも学校でもどこに行ってもSDGsってしつこい位でうんざりする。そりぁSDGsは素晴らしいし、目指して行こうと思うけれども。なんて言うのかなSDGsって言っておけばOKっていう傾向が出てきたような気がして虚しくなる。


 そんなことを考えていたら教室の目の前。扉を開けると誰もいない教室が私を迎える。エアコンの音だけが響いて、階段を上がってきた私にはちょっと暑いくらい。荷物を机の上に置いてカーディガンを椅子の背にかける。机の中を確認すると、目的の物は案の定なかった。

 しょうがない、取りに行くか。


「うわっ、ごめん。」

「うぉぉ、おはよう。」

「ん、おはよ。」


 ああ、驚いた。扉を開けた向こう側にクラスメイトがいてぶつかりかけた。心臓がまだドキドキ言ってる。

 ロッカーを開けると汚くも整ってもいない及第点としか言いようの無いロッカーが私を迎える。倒れた教科書類を立ててあげて、目的のブツ、つまる所聖書と讃美歌を取り出した。断っておくけれども私はクリスチャンではない、だけど聖書は面白いと思う。


 席に戻って、軽く確認をする。ノートが何冊かと文房具、問題集教科書細々。ノートをパラパラと捲ると、プリントがぴらぴらと床に落ちていった。屈んで拾い上げると真っ新なプリント、ご丁寧に提出期限が書いてある……今日。


 私はいつも学校に早く来る、利点がいっぱいで、これに慣れるとなかなかゆっくりなんて来れない。

 まず、電車が混んでない。15分遅れて登校したこともあるけれども、いつもより混んでていい場所が取れなかった。

 いつもは教室について確認をしたら爆睡するんだ、最近は嬉しいことに近くの教室でハンドベル部が綺麗な音楽を奏でてる。それを聴きながら机に突っ伏してみんなが揃い朝礼が始まるまで夢の世界を楽しむのが私の日課。でもたまにハプニングがある、今日みたいに。重要テストがある、宿題忘れてたなんて時に役に立つのがこの時間。30分あれば宿題をしたり、先生に聞きにいったり、友達に助けを求めることもできる。


「おはよー」

「おはよぅ、ねえ数学3クラスだよね、数Ⅰのプリントって今日までだよね。」

「ちょっと待って、えっと……うん、そうだ。あー、もしかして忘れてたの?」

「正解、今から間に合わせる。」

「頑張って。」


 この時に見せてって言って丸写しすることもできるけれど、そんな事は頻繁にはしない。本当にぎりぎりとかプリント自体忘れた時とか。まず、そんな事たくさんしてたら信用されなくなるからねぇ。

 ひたすら問題と向き合っていると、ちょこちょこ人が増えてきた。


「おはよ、聞いて!ライブのチケット当たった!」

「うわ、おめでとう!」

「宿題見せてー」

「嘘、それ今日提出なの?やってない!」

「ゲームでSSR4つ当たった!」

「すげー!こっちは50連続で1個も出ないのに。」


 前、後ろ、右、左。声が増えていく。

 宿題もあと一問になった。と、プリントに影が差す。


「わぁ!」


 後ろからガバッと抱きつかれて線が歪む、あらら書き直しだ。


「おはよー、驚いたぁ?」

「おはよ、こんなんじゃ驚かないよ。」

「そっか、宿題頑張って」

「はーい」


 消しゴムを出して、ふと周りを見た。25分経ってる、部活の活動が終わると一気に人がなだれ込むな。


「あちー、」

「こんな季節に扇風機持ってるの!?」

「間に合ったー。」

「酷くない?中2のあの態度!」

「指導したいけど時間ないっしょ。」


 いつの間にか先生が来てる。空いた机もほとんど無い。


 キーンコーンカードタッ!


 チャイム途中に駆け込むのは顔を真っ赤にしたバスケ部。制服が乱れまくってて慌ててる感がすごい。


 笑い声が響く中、みんなが示し合わせたかのように立ち上がる。私もちょうど終わったプリントから目を離し、ペンを仕舞った。

 ちゃんと立ってる、寄りかかってる、髪を結んでる、屈んで作業をしてる。それでもみんな立ち上がって、1人の声が響いた。


「御機嫌よう!」

「「「「御機嫌よう」」」」


 これは私の日常、中高一貫校でもみくちゃになってる、1人の生徒による観察記録。

ラッシュって嫌ですよね……。

夏休みの部活の時は殺されかけた思い出があります。

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