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第9話 驚く使用人達

「え…?私達の給料は奥様の財産から支払われていたのですか…?」


先程質問したメイドとは別のメイドが質問してきた。


「ええ、そうです。けれど…クレメンス家に嫁いできた以上、私はこの屋敷の人間なので、私の財産はクレメンス家の物となりますね?」


ここで余裕の笑みを浮かべて答える。すると再び、ざわめきが起きるが…彼らは申し訳なさ気の目で私を見ている。明らかに今迄見下していた態度とは異なることを私は肌で感じ取っていた。…実に良い気分だった。しかし、良い気分だけではこの屋敷を守っていくことは出来ない。


「その上で、皆さんに提案致します。お給料は全額保証する代わりに、今後は経費を削減していきます。削れるところは削り、無駄を省いていきます。例えば食事の内容ですが、今後一切は高級食材は使用しないこと。予算をこれから見直し、新たに一月の予算を決めていきます。高級茶葉の使用も禁じます。そしてアルコールについてですが、もうジルベールはいないのです。彼の為に用意していたワインは全て売り払って下さい」


「ええっ!本気で言ってるのですかっ!あのワインの中にはそれこそ馬1頭買えるだけの価値があるワインまであるのですよっ?!」


ワインを管理している使用人男性が悲痛な声を上げる。…余程ジルベールの為に苦労して手に入れたのかもしれない。


「ええ、売ればきっと良いお金になるでしょうね?奪われた財産も穴埋めすることが出来るわ」


「…!」


財産の穴埋め…その言葉に彼は口を閉ざす。


「破けてしまったシーツやあなた方が着用する使用人服…今までは新しく購入してきたと思いますが、今度からは繕って使用して下さい。とにかく出費を出来るだけ抑えるのです」


「しかし!そんな事をしてもたかがしれているのではないですかっ?!」


大柄の男性が声を荒げる。彼は馬番の男性だ。


「ええ、そうかもしれません。ですから私は皆さんに協力をお願いしているのです。多少の不便や生活の質は落ちてしまうかもしれませんが、給料は全額保証致します。それでも納得が出来ない…ここで働くのをやめたいと言う人がいれば、今ここで申し出て下さい。退職金も支払いますし、紹介状も書きます。さぁ、どなたかいませんか?遠慮せずに申し出て下さい」


『…』


しかし、彼らは互いに深刻そうな顔で見つめ合ったものの…誰一人、やめたいと申し出て来る者はいなかった。そこで私は肩をすくめる演技をした。


「そうですね…確かに皆の前では申し出てくるのは難しいかもしれませんね…いいでしょう。辞めたいと思う人達は本日22時までにジルベールの執務室に来て下さい。私は今日1日そこで仕事をしておりますから」


ここでも敢えて私は『22時まで』『1日仕事』と言う言葉を強調した。

ジルベールは殆ど仕事らしい仕事をしていないことは使用人たちは知っていた。

しかし、本来彼がするべき仕事を私が代理で務めていた事も彼らは知らない。今や、完全に使用人たちが私を見る目は違っている。馬鹿にしていたり、蔑んだような眼差しで私を見る者はそこにはいなかった。


「話は以上です。忙しい中、集まってくれてありがとう。では皆さん、持ち場へ戻って下さい」


私の言葉に使用人たちはぞろぞろと持ち場へ戻っていく。時折、チラチラと私を見ながら…。


 

 やがてホールに残されたのは私とフレデリック、そしてセイラの3人のみとなった。



「…なんか納得いきません」


セイラが少しふてくされたように言う。


「あら?何故なの?」


「何故って、当然じゃないですか!何故リディア様が使用人達にあんな低姿勢な態度を取る必要があるんですかっ?!」


「そうですね、私もそのあたりは同感です。もっと堂々と話せば良いのではなかったのでしょうか?」


フレデリックもセイラの意見に賛同する。


「いいのよ、だって私は皆にお願いする立場なのだから…でも見た?彼らの私を見る目…」


「そうですね。今までとは明らかに違っていました」


「私もそう感じました」


フレデリックとセイラが頷く。


「さて…邪魔者は消えたことだし…これから仕事に入りましょうか?」


私はフレデリックを振り返ると言った。2人には黙っていたが、私はまだこの屋敷では完全に信用されるには至っていない。きっと何人かは私に文句を言って来るに違いないだろう。


そして、私の予感は的中する―。




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