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そして

「遂に決心がついたの?エリス、アーネ。」


「はい。私達が青の世界の神になります。」


「そう。じゃあ早速だけど――」


エリス達がこの日、神になると報告しに来るのが分かっていたのか、ユースは幾つかの儀式の用意を済ませていた。


1つ目の儀式は、神になる資格を与える儀式だ。その儀式の内容は至って簡単で、ユースが差し出した酒を飲むという物だった。


「これは私の魔力で生み出したお酒だよ。これを飲むことで、神の力が馴染みやすい体に変化させる。2人は元々、存在が神に近いから、これを飲めば全体の儀式の4割は終わりかな。」


それを聞き終えると、2人は彼女が差し出した酒を躊躇なく飲み干した。それは水のような味で、仄かにアルコールを感じ取れる、そんな酒だった。しかし、そんな無味乾燥な味を不思議に思う暇もなく、2人を襲ったのは凄まじい魔力の奔流。体内の魔力が変質する兆しであった。


「このまま次の儀式に行こう。」


2人が先程の儀式を行った場所の足元には、大きな魔法陣が描かれている。それは、ユースの神聖な血液で描かれたもので、対象の魔力を神が持つ特殊な魔力に変化させる効果を持っている。


「それじゃあ1人ずつね。アーネは少しだけ離れてて、エリスは足元の魔法陣に魔力を流し込んで。」


アーネが魔法陣から離れたのを確認して、エリスは足元の魔法陣に魔力を流し込む。すると、流し込んだ魔力がどんどんとエリスの体内に戻って来た。その循環を数秒繰り返すと、エリスの魔力は完全に神のそれへと変化した。


「うん。もう大丈夫だよ。次にアーネもやってみて。」


エリスと同様の手順をアーネも行う。そして彼女も無事に、魔力を変化させることに成功する。


「2人共、成功だね。これで儀式の9割は終わり。後は、神威を与えるだけだけど、それを終えると2人は完全な神になるから、やり残したことがあったら、その前にやっておいた方が良い。2人共、大丈夫かな?」


彼女の質問に2人は迷うことなく「はい。」と答える。2人が事前に、やるべきことは済ませてきたからだろう。


「じゃあ、始めるよ――」


2人に神威が授けられる数日前の事だった。


「集まって貰って悪いね。」


その日、魔王軍に所属する全ての生物が、魔王軍が保有する大広場に集められた。その前の壇上に立つのは、エリスとアーネだ。


「昨日。私はある決心をした。それを皆に伝えようと思ってね。」


その言葉であの戦争を経た一部の者は、彼女がその後に続ける言葉の凡その予想ができた。そして、それは的中することになる。


「私達は青の世界の神となり、かの世界の理を修復すると決めた。つまりだ。私は魔王の座を降りようと思う。」


その言葉に集まった全員が一斉にざわつく。しかし、将軍を務める面々や大悪魔のような、彼女と深いかかわりを持つ者達は、ある程度の覚悟をしていたのか、すぐに気を取り直して静かに彼女の次の言葉を待った。特に、ソワールはやけに落ち着いていた。


「ついては、ソワールに次期魔王を任せたいと思っている。」


かつてはプライドが高く、人間に限らず同じ種族さえ見下していた彼だったが、エリスと出会い少しずつ変化していき、今では誰もが尊敬する魔王軍のNo.3。彼に魔王を任せるという事に反対する者は、1人としていなかった。


「さぁ。ソワール。壇上に上がり、皆に挨拶を。」


「はい。」


エリスを最も敬愛し、崇拝しているのは誰の目から見てもソワールだ。そして、エリスの退位に最も悲しんでいるのも彼だろう。そんな彼が毅然と振る舞っている。それを見て、その場の全員が気を引き締める。


「第二軍将軍、ソワールだ。主君が先程おしゃったように、俺が次期魔王を務める。不慣れな点もあるが、皆に協力して貰えれば幸いだ。さて、早速だが、皆に協力して欲しい事がある。」


そんな事聞いていないと、エリスとアーネが目を丸くする。当然だ。ソワールは初めて、彼女らに許可を取らず独断である計画を進めていたのだから。


「主君と姉君を送る会を開くからそれに協力してくれ!これは次期魔王の命令だ。全員で盛り上げ、お2人の門出を祝うのだ!」


拳を振り上げ彼に呼応する様に、全員が雄たけびを上げる。実に彼ららしく、主である2人の為に一致団結しようというのだ。先程まで暗い空気に包まれていた広場が、一気に大歓声に包まれる。


「はは。」


そんな様子にエリスは楽しそうに笑う。


「やっぱり、ソワールは私以上に魔王に向いている。」


敬愛され、畏怖され、崇拝され。そんなエリスとは異なり、彼はありのままを皆に愛されている。彼が自身を隠さないからこそ成り立っている信頼関係。それは、これから先の時代を作る魔王に必要な物だ。


「彼の様に皆と仲良く何かをするって私にはできない事だからね。」


エリスを目の前にして、誰しもが恐れ多いと一歩引いてしまう。そんな魔王はエリスの考えではもう不要だった。これからは、大勢が隣を歩く魔王が必要だと考えたのだ。


「そうですね。ですが、そんな彼に変えたのは貴女です。だから、彼も他の皆も、魔王に相応しいのはやはり貴女だ。と、言うと思いますよ。」


アーネの言葉は正しく、ソワールの心の内を代弁した物だった。そして、そんなことをエリスが分かっていないはずもなく、


「そうだろうね。皆私が大好きだからね。」


恥ずかしげもなく、そんなことを自信満々に言ってのけた。


「ふふ。そうですね。」


そんな彼女にアーネも思わず笑みを零す。そして2人は笑顔のまま、ソワールの演説を見守る。彼は想像以上に上手く自身の思い描く未来を語った。2人が去った後の不安を誰一人にも感じさせない様に、敬愛する2人の期待に応える様に。そして、そのまま力強く彼は語り切った。


「以上が俺から皆に伝えたい言葉の全てだ。」


そう言い終えると、彼は清々しい程の笑顔を見せる。その姿はかつての彼では想像できない。しかしその直後、前代未聞の事態が起こった。


「最後に改めて、これからよろしく頼む。」


その時、彼が頭を下げたのだ。そんな姿、今までに誰も見たことがなく、その場で最も付き合いの長いロウでさえ、彼が頭を下げる姿は見たことが無かった。そんな今までではあり得なかった事なので、誰もが驚愕した。そんな中でただ2人、エリスとアーネだけは驚かずに、彼を激励する。


「その調子でこれからも頑張ってね。ソワール!」


「エリスの言う通り。その調子ですよ。ソワール。」


2人の激励の言葉に、今まで我慢していたソワールの涙腺が遂に崩壊する。そして、泣きながら2人の言葉に答える。


「はい!これからも精進させていただきます。主君。姉君。」


その姿に驚きに包まれていた他の者達も、ソワールを称える言葉をかけ始める。そしてそのまま楽し気な雰囲気に包まれたまま、集会は幕を閉じた。


「へぇ。ソワールが次の魔王にね。昔の彼じゃ考えられないな。」


儀式を全て終え、完全な神に成った2人から事の顛末を聞いたユースは、あのソワールに魔王になる素質を見出した2人に感心する。そして、それから少しだけ談笑した頃、アーネが思い出したように声を上げた。


「あ。そういえば、数日後私達の送別会が開かれるのですが、ユース様もいらっしゃいますか?」


「ああ。勿論行くよ。」


実は、2人が神に成る決心をしたことも、送別会が開かれることも、全てディアボロスから聞いていたユースだったが、そんなことは一切言わずに、今初めて聞いたかのように反応するユース。それは、楽し気に語る2人に水を差したくないユースの小さな嘘だった。


そうして数日後、エリスとアーネの為の送別会が予定通りに開かれた。そこには、魔王軍だけでなく、エリスとアーネに縁のある者全員が招待され、最終的に想像以上に大規模な者となり、会場も世にも珍しい無限に広がる亜空間での開催となった。


そこでは全員とは行かなかったが、特にエリスと親しかった者は皆、彼女と別れの挨拶をした。そんな中に懐かしい顔があった。


「久しぶり。エリス、アーネ。神になるんだって?」


「フィオナ…!」


それは、何十年も前にメラン達と共にこの世界を去ったフィオナだった。最後に彼女と会ったのは、20年前に開かれた彼女とティアの結婚式に招待された時。それ以来、一度も会っていなかったが、まさか今日会えるとはエリスもアーネも思っていたなかった。


「久しぶり。あれ以来、ティアさんとはどう?」


「一緒に暮らして毎日楽しいよ。ティアの能力って向こうじゃ重宝されるし、毎日忙しいからお家にはあんまいられないけど、夜遅く帰って来ると決まって私に甘えてくれて、それが可愛くて仕方がないんだ!」


かつて魔王軍第四軍の将軍として活躍したティアは、今では黒の世界に命を芽吹かせる研究の最前線に立つ研究者だ。その理由は彼女の能力にある。不死鳥である彼女の能力は自身の生命力をあらゆる物に与える力。その力は不毛な大地にも有効で、一部地域は既に緑に包まれているという。しかし、1人の力では限度があり、その力をどれだけ別の方法で再現できるか。それが彼女の研究である。


彼女の伴侶であるフィオナも、彼女と共にその研究に人生を捧げる覚悟だ。いつか、荒廃した黒の世界が緑に包まれ、普通に動物が暮らせる世界になる事を夢見て、邁進しているという。その為、毎日休みなく、2人は研究をしている。時には、帰宅が0時を過ぎるを日もあった。そのせいで、何度メランに起こられたことか。しかし、そんな大変に疲れた日は、ティアが甘えてくれるという。それが嬉しくて仕方がないと彼女は語る。


「いつか緑で溢れた世界を2人にも見せるよ。」


「わかった。じゃあそれまでに私達も、青の世界を魔力に富んだ世界にするよ。」


「お。私達、負けないよ。」


あはは。と気兼ねなく笑い合う3人。周りからすれば、その光景は何十年ぶりか。一部の悪魔の涙腺も緩む。


かくして、エリスとアーネの為に開かれた最後で最大の送別会は、笑いと涙に包まれ、何事もなく平和に閉幕した。そして――


たったの100年が経過した。


「今日どこ行く?」


「秋葉の魔法ショップに行こうぜ。俺の杖、昨日壊れちゃってさぁ…」


「オッケー!じゃあさっさと行って、その後、魔法の練習しようぜ。確か、上野に有名な練習場あったよな?」


青の世界での魔法は既にありふれた物となり、一介の高校生でさえ、簡単に扱えるようになっている。魔力は、かつてはほとんどの無かったとは思えない程、溢れかえっており、底に綻びは一切見えない。それは、この世界の抜けていた栓が、エリス達によってしっかりと閉められた証拠だった。


「エリス。青の世界の総魔力量は、当初の予定を遥かに上回る数値に達しました。これも貴女の努力のおかげですね。」


「お世辞はよしてよ。アーネがいなかったら、この世界をここまで魔力に溢れた世界にできなかった。だから、私の努力じゃなくて、私達の努力だよ。」


「ふふ。そうですね。それで、次は何をするんですか?まさか、これだけで満足する貴女ではないでしょう?」


たった十数年で青の世界を正常に戻し、それから数十年でより良い世界へと作り替えたエリス。そんな彼女にアーネはまだ満足していないだろうと煽り立てる。それに、当然のように「当たり前だ。」と彼女は応えた。


「次は――」


彼女の大きすぎる野望にアーネは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「流石エリス。貴女はそうでないと。」


「はは。これからもよろしく頼むよ。アーネ。」


「勿論です!」


エリスとアーネ。2人の姿は100年前より変わっていない。そしてこれからも、何万年何億年とその姿でこの世界を守り続ける。


彼女達は新たな青の世界の神。彼女達の手によってこの世界は少しずつ変えられていく。それが良い方向に進むのか悪い方向に進むのか。それは誰も知らない事である。


しかし、これだけは言える。今、エリスを縛る物は存在しない。そして、そんな彼女が創る世界は、きっと誰もが笑顔で過ごせる世界だろうと。


―完―

これにて、『次の人生は最強を目指すので吸血鬼に転生します』は完結とさせていただきます。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

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