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最強

エフィの葬式から数日が経ち、エリスが悲しみから立ち直った頃だった。突然エリスがアーネに神になると宣言した。


「アーネ。私、青の世界の神になるよ。」


「急ですね。どうしたのですか?」


当然のいきなりすぎる発言に、流石のアーネもどうしたのかと聞き返す。


「この世界から危険が無くなって久しい。そろそろ私達は不要だろう。そもそも、ただ1人の抑止力で成り立っている世界なんて不安定だ。だから、魔王の座を信頼できる者に明け渡し、私は青の世界に行こうと思う。」


彼女の言葉を聞いて、なるほどと納得したように頷くアーネ。しかし、次のアーネの一言は納得とは真逆の物だった。


「エリス。私達の間では隠し事はなし。そう約束しましたよね。」


どうやら彼女は何かを感じ取ったようで、嘘を吐いている様子のエリスに詰め寄る。


「ごめん…」


「謝罪を聞きたい訳ではありません。本当の事を教えてください。」


怒る彼女の仕草は初めて出会った日から変わっていない。しかし、その姿はあの日に比べて見違えるほど成長した。背はとうにエリスを越して180はあるし、耳や尻尾も立派に育った。しかし、エリスの姿はあの日と変わっていない。勿論、背は伸びているが、それはかつて意識的に制限していた物を開放しただけで、成長したわけではない。


「私は怖くて仕方がない。今までは、その恐怖を押し殺せていた。でも、エフィさんが亡くなってそれが溢れだしてしまった。」


「何が怖いのですか?」


「アーネの死が、私はとてもとても怖いんだ。」


アーネの成長は、エリスに彼女の寿命を感じさせた。そしてそれに対して、エリスはずっと不安を感じていた。その上で先日のエフィの死を目の当たりにし、彼女は死への恐怖を明確に覚えるようになった。それは自分の死ではなく、大切な人の死。即ち、アーネの死に対する物だ。彼女はもう限界だった。


しかし、憔悴し切った彼女にアーネが向けたのは、優しい笑みだった。


「やっと、言ってくれましたね。」


「気づいてたの?」


「当然です。何年一緒にいると思っているんですか?貴女がどれだけ私の事を愛しているかなんて、お見通しですよ。」


ニコニコとした笑みで抱き締めてくれる彼女に、エリスは身を委ねる。


「良いの。神になるという事は、これから永久の時を私と過ごすという事だよ。多分、青の世界終わるその日まで、私達は死なないよ。」


「それがどうしたというのです。貴女と一生の時を過ごせる。これ以上の幸せは私にはありません。」


「そっか…そっか…!」


嬉しそうに涙を流す彼女の背中を擦りながら、アーネは少しだけ彼女に文句を言った。


「そんなに喜ばなくても…私の事を信用していなかったのですか?」


アーネはエリスに無限の愛を伝えていたつもりだった。彼女が寿命の差を恐れていることは知っていたから、自分がどれだけ貴女を愛しているのかを伝え続けて、彼女の口から永久の時を一緒に過ごそうと言って欲しかった。


しかし、彼女は最も尊敬する人の死を目の当たりにして、やっと決心がついたようで、エフィには悪いが、少しだけ焼き餅を焼いていた。


「そんな事ないけど…流石に重いかなと思って…」


「そんな訳ありません!私は貴女と出会った時から、死ぬときは一緒だって決めてましたから。」


自信なさげに語るエリスとは正反対に、アーネは自信満々にそんなことを豪語する。そんな彼女にエリスは楽しそうに笑う。


「そっか。それは悪い事をしたね。ごめんよ。言うのが遅くなって。」


「そうです。遅いですよ。反省してください。」


2人してアハハと笑い合う。エリスは今日ほど安心した日はないと、後に振り返る。


「そういえば、いつユース様に報告するつもりですか?」


「そうだね。神になる前に、まだやり残したことがあるから、それを終えてからかな。」


「やり残したこと?」


かつてエリスはこの世界に転生することに際して、とある目標を立てた。それは最強になることだ。その目標をアーネ以外に語ったことは無いが、もしそれを伝えたら、誰もが彼女は目標を達成した言うだろう。


しかし、エリスとしてはまだ超えていない壁があった。そして、それを超えるまでは神になれないとさえ思っている。


「なるほど。確かに、彼を超えてこそ、神の座に相応しいですね。」


エリスから超えるべき物を聞いて、アーネも納得する。何故なら、彼女が語った壁とは、数多の強者が最強と認め、この世界の神さえ凌駕する力を持つ、星竜アステルのことなのだから。



「お久しぶりです。エリス殿。お願いの通りに力を開放してきましたが、話と言うのは?」


早速エリスに呼び出されたアステルは、訳も分からないまま、エリスの指定したとある荒野に現れた。


「ご足労感謝します。今日出向いて頂いたのは他でもない。私と戦って欲しいのです。」


「エリス殿と?申し訳ありませんが、ハッキリ言って相手になりませんよ。」


「それでも構いません。これは儀式の様なものですから。」


儀式の様なもの。それを聞いてアステルは渋々、彼女の願いを了承する。しかし、条件があるという。


「わかりました。ですが3つだけ条件があります。1つは、お互いが全力を出せる場所で戦闘を行うこと。もう1つはお互いに手加減はしないこと。最期の1つは、勝敗はどちらかの攻撃が先に相手の身体に届くかで判断すると言うこと。です。よろしいですか?」


「問題ありません。では、行きましょうか。」


彼女らが向かった先は、正しくお互いが全力を出せる場所だった。彼女らの住む星からはかけ離れ、彼女らの戦闘による宇宙全体への負担が最も小さい地点の宇宙空間である。


「始めましょう。」


エリスの言葉を合図に戦闘が始まる。


機先を制したのはアステルだ。容赦のない星の雨がエリスを襲う。開幕早々、全力のアステルにエリスは笑みを浮かべて、その全てを高々魔力の放出で粉々に破壊する。


それを見て、小さな星では脅威にさえならないと感じ取ったアステルは、最も近い星の重力を操作してエリスの動きを封じ、巨大な惑星を彼女にぶつけた。それはとてつもない質量の攻撃だったが、その全ての惑星がエリスが生み出した超巨大な鉄の杭に貫く。そのままの勢いで、エリスは重力の拘束は力技で突破すると、その直後には一瞬でアステルに接近し、近接戦を挑む。


アステルは圧倒的な戦闘センスと、全生物を遥かに凌駕する強靭な肉体を持っている。その為、エリスでさえ、スキルで速度と力を強化してやっと彼と同じ土俵に立てる。


その殴り合いにより発生する衝撃波は、近くに存在していたあらゆる星を破棄し、宇宙の遥か遠くまで影響を及ぼした。そんなとんでもない衝撃波を間近で受けても、2人の身体は微動だにしない。


お互いの肉体が、この世界のあらゆる物質を凌駕する硬度を誇っている証拠だ。


そんな、圧倒的な力が繰り広げられる肉弾戦だが、実力は全くもって互角だ。そして空間は、その均衡に耐えられなくなっていた。直後、圧倒的な力の衝突により空間の歪みが発生した。そして、空間転移が発動――


かつて、親友を殺害した邪神と戦った時は、その邪神とアステルにより、空間が歪み空間転移が発動した。しかし、その位置のずれは当時、アステルの不利に働いた。


それを知ってか知らずか、エリスは発動しかけた空間転移を自身の魔力で無理矢理に捻じ曲げ、空間の歪みを元通りにする。それが、アステルとの肉弾戦の片手間に行われているのだから、エリスが現在、どれ程の魔法の境地にいるかは想像に難くない。


そんなエリスがそのままの勢いで、その膨大な魔力量を活かした魔法による飽和攻撃を放つ。アステルは一瞬にして、防戦一方に追いやられた。


その打開策として、アステルは無数の星による物量攻撃を返す。それにより、再び戦況は互角となる。ただしそれも時間の問題で、魔力を消費するエリスと無制限のアステルでは、若干アステルが優勢だと言える。そんなことはわかっているエリスは、その状況を打開しようと大技を発動する。


それは重力魔法ブラックホールだ。その超重力には、流石のアステルも耐えられず、少しずつアステルの体が引き寄せられる。しかしながら、ブラックホールも天体であり、当然、アステルの支配下にある。その為、その直後にはブラックホールの主導権はアステルにあり、寧ろ、その超重力はエリスに牙を向いた。しかし、その頃にはエリスは致命の一撃を終えていた。


それは、アステルの意識がブラックホールに割かれたタイミングでの、隙を突いた単純な打撃だった。しかし、その一撃は正確にアステルの鳩尾を捉えており、彼の意識を刈り取るには充分な威力を持っていた。


「参りました。」


そんな致命の一撃を寸止めされたのだから、アステルは潔く負けを認める。尤も彼は最初から自身が負けることはわかっていた。だから、事前に「相手にならない。」とエリスに伝えていたのだ。しかしながら、実際には薄氷の勝利だ。


アステルの権能が星の質量に左右され、質量が重いほど操作が難しいと知っていたから、その隙を突けたのであって、仮に情報が全くない状況で戦えば、エリスが負けていてもおかしくはなかった。


「流石にお強いですね。アステルさん。」


「お世辞はよしてください。仮にこれが殺し合いなら、私は一秒と経たずして殺されていたでしょう。」


エリスが持つ、最強最悪の魔法インジュリシェアは、ステータスが劣る者に強制的に自身の損傷を共有する魔法。例えば、エリスが自身の首を切り落としてしまえば、対象の首も斬り落とせてしまう。そんな彼女のステータスは、現在この世の頂点に君臨している。つまり、彼女はこの世界のあらゆる生物を一瞬で殺害できてしまうという訳だ。


「確かにその通りですが、これは殺し合いではありませんから。」


ニコリと笑みを浮かべて発した言葉は、アステルの強さを肯定するとともに、殺し合いであれば、本当に1秒で倒せてしまえることを認める言葉でもあった。そんな彼女に、アステルは楽しそうに笑った。


「やはり。私では相手になりませんね。」


あえてアステルは、再びその言葉を口にする。エリスはそれを否定するだろうが、それは紛う事なき事実だし、彼女が最強であることを証明する言葉でもあるからだ。

次回、最終話とさせていただきます。

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