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慰労会

「皆、お疲れ様。皆の尽力のおかげで予定よりも早く私の君臨の日を迎えた。かつて、黒の世界と緑の世界は対立し、1度の大戦争と幾度の小競り合いが起こった。これにより、多くの者が家族や友人を失った事だろう。しかし、もうその脅威は存在しない。我々は戦争に勝利し、今この地に立っている。2度とこの様な悲劇が起こらないと約束しよう。そして、この世界が豊かで平和な世界になる事も約束しよう!」


珍しく大きな声でそう宣言するメランに呼応する様に、その場に集まった全ての種族が雄たけび上げる。その中にはエフィ以外の人間の姿もあり、戦争以前のような魔物と人間の確執はないのだとわかる。


そして、メランの君臨式終了後に開かれた慰労会では、種族を超えた交流がなされた。しかし、仲良しこよしではない事も確かなようで。


「ミストルティン。休戦はこの戦争の間という話だったな。」


「ああ。だから、この慰労会が終われば私達は敵同士だ。私は王国で暗躍するし、お前は王国を救うために奔走するだろう。つまりだ。次会うときは本気の殺し合いだ。わかってるな。」


楽し気に笑みを浮かべてミストルティンは物騒な言葉を吐き捨てる。それに対して上等と言わんばかりにヴィーブも「わかっておる。」と笑みを浮かべて見せる。


お互いに笑みを浮かべながら、目は笑っていない様子に、周りで見ていた者達は恐怖を覚える。


「2人共。今は慰労会なんだから、そんなギラついてないで楽しみなさい。」


そんな2人に注意をしたのは、2人共に顔見知りであるレーヴァテインだ。


「レーヴァテイン…久しぶりね。人間の眷属に成り下がったと聞いたけれど、元気そうじゃない。」


レーヴァテインがとある人間に敗北し眷属なった話は有名で、数年前まで大して俗世に興味がなかったミストルティンの耳にも入っていた。


しかし彼女を倒したのが、エフィだと言う事はどうやら知らないようで、何処の誰とも知らない人間に敗北したと思い込んで、彼女を小馬鹿にする。


「おかげ様で。」


そんな挑発には慣れているのか、レーヴァテインはにこっりと笑みを浮かべて、何処かへ行ってしまう。


「なんだ…?」


「レーヴァテインはそう言った挑発には乗らない。彼女は今の主を誇りに思っているからな。」


困惑するミストルティンにそう語り掛けたのは、エリスづてに事情を聞いていたソワールだ。


「どういう事?」


「彼女の主はこの戦争の功労者の1人、エフィだ。お前もあのお方の伝説は聞いたことがあるだろう。」


「…彼女か。それなら、あのレーヴァテインの態度も納得がいく。」


大悪魔には大悪魔のプライドがある。特に、ミストルティンやレーヴァテインと言った、最古の大悪魔は他種族を見下し、それらに後れを取る事を極度に嫌う。


しかし、それはそれとして弱肉強食の世界だ。自分よりも優れた生物に付き従う。そう言った魔物の本能も備えている。エフィはプライドの高いミストルティンでさえ、一目で格上だと認識する程の存在。流石の彼女もそれ以上レーヴァテインを貶める様な発言はしない。


「後で謝罪をしておけ。お前の先程の発言は、彼女の主を馬鹿にしたような物だ。」


「わかってるわよ。」


自分の非を認める姿に、彼女にも心があるのだとヴィーブは感心する。彼女は人間の敵ではあるが悪ではないと言う事だろう。この人間と魔物の交流は、こう言ったことを学べる場だ。


そしてそんな交流は別の場所でも行われていた。そちらはミストルティン達とは違い、愉快そうな様子だ。


「まさか。エリス様とアーネ様が魔物だったなんて!」


エリスとアーネを前にして大号泣しているこの女性は、エリスやアーネより少し後にS級冒険者に昇格したラナ=マギアスという名前の魔法士だ。


その名前からわかる通り、ヴィーブを輩出したマギアス家の令嬢で、類まれなる魔法の実力と〈模倣〉という、あらゆるスキルをコピーするというとんでもないスキルを認められ、S級冒険者に昇格した。


そんな彼女は魔法の道で右に出る者はいないとまで言われるエリスを敬愛しており、自他ともに認めるエリス信者だ。


「見損なった?」


「いえ。寧ろ萌えます!」


「もえ…?」


泣きながら意味のわからない言葉を発する彼女だが、どうやら2人を嫌いになった訳ではない事だけは、2人にも理解できた。


「これからも冒険者を続けるつもりだからよろしくね。」


「はい!お2人を貶す人がいれば、私がぶん殴ります。」


「やめなさい。」


2人への愛が暴走している気もするが、魔物だからといった偏見が全くない所は彼女の良いところだ。


そんな愉快な3人とは正反対に、しんみりとした空気を漂わせる5人がいた。


「エフィさん。僕達が代わりに、ギルバートさんの仇を討ちました。」


「そうか。」


エフィはあの日からずっと、仇を討つことを目標に生きてきた。しかし、その目標は辿り着くことなく、同じ気持ちを持つキュアノ達の手によって達成された。


エフィのどことない虚しさを当事者の誰もが感じ取った。しかし彼女は強い。


「キュアノ、お姉様。他の誰でもない。私と同じ気持ちをあの日味わった貴方達の手で決着が着いて良かった。アリスも、手伝ってくれてありがとう。」


ギルバートの姿を思い出してか、寂しそうな笑顔を見せるエフィ。そんな彼女をステラは義姉(あね)として優しく抱き締める。


「そう言えば、あの日もこうしたわね。」


「…!」


思わず、エフィの瞳から涙が零れる。彼女の言うあの日とは、ギルバートの葬式の日のこと。


エフィは強い自制心で葬式の間、誰にも涙を見せなかった。愛する人の葬式で涙を流さなかった彼女を影で悪くいう声があったのを今でも覚えている。そんな陰口を言う人々にアヤメが怒鳴り散らしたのも覚えている。そして葬式の後、ステラの腕の中で初めて彼女がその日号泣したのも、今でも覚えている。


「今は2人にしてあげましょう。」


黙ってしまった2人を見て、キュアノとアリスに小声でそう提案したのはアヤメだ。


「そうですね。」


3人はその場を離れる。今は義姉妹の時間を大切にしてもらう為に。


「アデルさんは行かなくて良かったんですか?貴方もギルバートさんと少なくない関わりがあったんですよね。」


ギルバートについて話している5人を遠目に、アデルにそう問いかけるのはゼラニウムだ。彼の言う通り、アデルもギルバートとは深いかかわりがある。それも当然だろう。彼にとってはギルバートは義弟。しかも彼が唯一認めた男でもある。


「…彼は非の打ちどころのない男だった。エフィの婚約者として認める程にな。だからこそ、俺は復讐に躍起になっていないんだ。」


「どういう事ですか?」


「ギルバートならエフィを悲しませないと思って、俺は彼を婚約者として認めたんだ。しかし実際はどうだ。エフィは今も尚、心に傷を負っている。確かにその傷は今でこそ小さくなったが、消えた訳じゃない。」


口ではギルバートの恨み言を吐くが、言動の節々から彼が人としてギルバートを認めていたことは明白だった。


「なるほど。つまり、妹を傷つけた男を許さない。そういう事ですね。」


素直じゃないなぁと思いながら、ゼラニウムは笑みを零す。


「何笑ってんだ?」


「いえ。何でもないですよ。」


笑うなと睨みつけるアデルだったが、全く怯まずにニコニコと笑顔を見せるゼラニウムに根負けし、思わずアデルも「はっはっは。」と笑みを零す。


「君には嘘を吐けないな。君の思う通り、俺は彼の人間性を認めていた。そもそも、あの時代を生きた若い貴族で、彼を尊敬しない者はいなかっただろう。彼が死んだ日、誰もが悲しんだ。勿論俺もだ。だが、あの場に立つエフィ、ステラ、アヤメ、その3人以上に悲しんだ者はいない。」


「だから自分には、あそこに立つ資格がないと?」


「そうだ。それに、彼女らと違い、俺はあの日、あの場所にいなかったからな。」


アデルもあの日の後悔を忘れていない。だからこそ、復讐の余韻は彼女らに独占させてあげたいのだ。


「おや。アヤメ様達が離れていきますね。」


「その様だな。」


2人が5人の方に目を移したタイミングで、アヤメ、キュアノ、アリスの3人が、エフィとステラを慮って、その場を離れていた。


「あ。ゼラニウム!」


どうやらアヤメがゼラニウムの姿の気付いたようで、トコトコと小走りで近寄ってきた。


「アヤメ様どうなされました?」


「特に用事はないけれど、お姉様とステラ様には時間が必要だと思って。」


彼女の言葉に、2人はエフィ達の方を見る。すると2人は本当の姉妹の様に身を寄せ合って、懐かしむ様な顔で会話をしていた。


「アヤメは行かなくて良いのか?恐らくだがギルバートの話をしているはずだぞ。」


アデルの言葉にアヤメは「いえ。」と首を横に振る。


「あの2人の間でしか、話せないことがあると思うので…」


アヤメとアデルだけが気付いている事だが、ギルバートが死んだ直後の出来事について、あの2人はなにか秘密している。それが、エフィが自身を顧みずにギルバートを蘇生しようとした事だとは知らないが、何か誰にも知られたくない秘密があった事だけは確かだった。


「そんな寂しそうにするな。エフィにとって君は大切な義妹だ。いつか彼女から話してもらえるはずだ。」


寂しそうな表情をするアヤメを気遣って、アデルは彼女の頭を優しく撫でる。


「そうですね。」


アデルの大きい手は暖かくてなんだか、兄に撫でて貰えているかの様で。


「うう…」


かつてギルバートに撫でて貰ったことを思い出して、アヤメは思わず涙を流す。


「あっ。アデルさんがアヤメちゃんを泣かせた…」


「人聞きの悪い。」


突然泣き出したアヤメに驚く一同。そんな中でアリスだけは冷静に冗談を言って場を和ませる。


「すみません。なんだかお兄様を思い出しちゃって。」


聖女としての彼女は人前で自分の感情を出さないよう務めている。彼女に許された感情は慈愛のみ。自身の意思で喜ぶことも涙を流すこともあってはならない。


しかし、彼女は聖女である以前に1人の人間で妹だ。そんな彼女は、兄と義姉をこよなく愛している。


「もう大丈夫です。」


ギルバートが死んだあの日から、彼女の心にもエフィ同様大きな穴が開いている。それをエフィとゼラニウムが補ってくれたが、完全に塞がる事などなく。兄の事になると少し感情的になることが良くある。


それでも、今日の様に感情を抑えられずに溢れてしまった事は今までになく、彼の仇は死んだのだと、改めて実感する。


「ちょっと風に当たってきます。ゼラニウム。一緒に来て。」


「畏まりました。」


2人を見送ると、アデルはキュアノと向き合った。


「キュアノ、アリス。そういえば君達に言い忘れていたことがある。」


「なんですか?」


「ありがとう。」


それは戦争前にアデルがしたお願いを彼らが完遂したくれたことに対する感謝だった。


「あの後ステラから聞いた。無理しようとした自分を2人が必死に止めてくれたとな。」


「いえ。アデルさん。僕は貴方のお願いを…」


「ステラが大怪我をしたことか?」


あの邪神との戦闘でキュアノの一瞬の隙により戦況が一転したことは、既にキュアノからも、アリスからも、ステラからも聞いていた。確かに彼の油断は戦場ではあってはならないことだ。戦場では新兵さえ感情を殺さなければならない。これは戦争の鉄則だ。


「確かにお前の油断により戦況は一転し、お前達は一気に不利を背負う事になった。それにより、前衛を担ったステラは大怪我を負った。しかし、それはお前だけのせいではない。例えば、アリスの呪魔法が返されなければ、お前の油断はなかったはずだ。例えば、ステラが五体満足で邪神を抑えられれば更に状況を有利に進められたはずだ。お前の一撃に賭けるしかない状況で、お前に最善の場を用意できなかった周りにも問題があったはずだ。」


彼の言うことは正論だ。と言うより、今言った2つの例えは、アリスやステラの言葉をそのままキュアノに伝えただけ。


もしあの時、私の呪魔法でもっと邪神を止めれていたら。


もしあの時、感情的にならずに、もっと冷静に邪神を抑えていたら。


確かにあの時の流れではキュアノのミスが目立ったが、アリスやステラにも反省点があった。そもそも、あの作戦が最善だったとは思えない。最も勝率の高い作戦は、アリスのサポートを受けつつ、キュアノとステラで二対一の近接戦をし続ける事だったのではないだろうか。


ステラ1人でも1分間邪神を抑えられたのだから、2人がかりなら打ち勝つことさえできただろう。それでもあの作戦を決行したのは、仇を前にステラが感情的になってしまったから。


「お前だけじゃない。皆に反省点はあるんだ。勿論、お前に反省するなとは言わない。寧ろ反省するべきだ。しかし、全部が自分のせいだと思わない事だ。卑屈になっても良い事など無いからな。」


「わかりました。」


力はあるが戦闘に関しては未だ未熟な冒険者に、百戦錬磨の冒険者としてアデルは道を示す。彼はこれからも道に迷うだろうし、何度も行き止まりで立ち止まるだろう。それでもいつか、彼が最高の冒険者になると信じて。

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