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壮大な復讐劇

ギャラルホルンとアスフィは、アフティからの指示通りにあの後も残党の捜索を続けた。しかし、見つかるのは無残に殺された死体だけ。どうやら、ここら一帯は既に決着が着いた後の様だ。


「この殺し方…」


「ディアボロス様だ。」


邪神達の死体はまるでプレス機で圧された様にぺちゃんこになっている。それこそが、ディアボロスが先程までここにいた証拠だ。


ディアボロスは誰よりも邪神を憎んでいる。最愛の娘と、2人の親友を殺されたのだから当然だ。そして、それ故のこの殺し方だ。


彼の権能は、その瞳に捉えた対象に任意の呪いを付与できるという物。呪いの種類は多種多様で、軽いものでは、単に体が重くなるだけという呪いがあり、重いものでは、全身から血を吹き出した死ぬという呪いがある。


その強力さは誰もが知るところで、その代償の重さも誰もが知るところだ。


「100回の使用で確実なる死に至る、という代償。その代償を以てしても、ディアボロス様の恨みを止めることはできなかったという訳か。」


「その様ね。どうやら、彼の恨みは衰えることを知らないみたい。例え、邪神王が死んだ後だとしても。」


「…邪神王が死んだから、かも知れないよ。」


邪神王を討伐したとついさっき報告が入った。それは全くもって予定通りの結果だ。しかし、その予定通りとは、ディアボロスはその決戦に参戦できなかったことも意味する。彼には邪神王に復讐する権利があった。ユースがそれでも彼をその戦場に連れて行かなかったのは、彼が戦場で冷静さを欠く可能性が少しでもあったから。


「結局彼は復讐できなかった。なら、その怒りの矛先はどこへ行くのだろうか。」


「ふふ。貴女は知らないのね。確かにあの日、ラミアの魂を消滅させたのは邪神王だけれど、その最期に行きついたのは、とある邪神のせいなのよ。だから、多分彼は、その邪神の下に向かったんだわ。」


邪神王には4体の直属の配下がいる。その内の1体をディアボロスは狙っている。それについてはユースも知るところであり、彼女もある思惑を抱いて彼に、その邪神を討伐する様命令した。


そして、邪神王が討伐されてから1分が経った頃、その邪神とディアボロスは遭遇した。


「貴様はあの時の――」


「その雰囲気。なるほど、邪神王か。」


邪神王とユースにしか知らない事実があった。邪神王は自分が死んだ際の保険として、なんと4体の配下の魂に自分の魂を混ぜていたのだ。その為、彼はエリス達と対峙していた邪神に乗り移ることができたという訳だ。そして、そんな邪神の体すら失い、彼は最後に残ったこの邪神に移った。


「しかし、あの邪神王と言えど、その身体では大したことはできないだろう。かつて、ラミアに体内を破壊され、未だその後遺症を引きずるその身体ではな。」


その邪神はかつての戦争で、ラミアと対峙した邪神で、その戦いで彼はラミアの強烈な吸血鬼魔法を受け、まともに魔力を運用できない体にされてしまった。重傷を負い身動きの取れない彼に止めを刺そうとラミアは使づいた。しかしその際、彼は醜く命乞いをした。その命乞いに心優しいラミアはたった一瞬だけ動揺した。その一瞬の隙をついて、彼はラミアの足を掴んだ。


直後降り注いだのは、無差別に放たれた邪神王の魔法。普通なら簡単に避けられる程無造作な軌道の魔法だった。しかし、邪神に足を掴まれて一瞬だけ身動きが取れなくなった彼女には避けることができなかった。


当然、邪神もその魔法に巻き込まれた。しかし、邪神王の魂が混ざった彼の魂は、邪神王の魔法では消滅しなかった。だから今もこうして、彼は生き延びている。


「なんだ。逆恨みか?これは戦争だ。どんなに汚い手段を取ろうが、最後に生き残っていた者が正義だ。そして、余はその手段選ばない姿勢を買って、こいつを直属の配下にした。そう、まさにこの様な状況から逃げ出せるようにな。」


権能を持つ2つの魂が混在するとき、より割合の多い魂の権能がその肉体に発現する。徐々にその魂は邪神王の物と同一になるが、今はまだその体の持ち主であった邪神の魂の割合が大きい。その為、邪神王は彼の権能を使うことができる。


「パパ…私を攻撃するの?」


直後、ディアボロスの目の前に現れたのはラミアだった。その姿に彼は思わず攻撃の手を止める。


「な…」


なんと卑劣な権能だろうか。その権能は、自身を相手の最も大切な存在に見える様にするという物だったのだ。そんな権能を使われてしまえば、どんな人物だろうが攻撃できなくなってしまう。しかし――


「ラミアを汚すな。下種が。」


それは却ってディアボロスを激怒させた。彼は容赦なく自身の娘の姿をした邪神王を呪い、ぺしゃんこにしてしまう。


「俺の娘は既に死んだ。それを俺は、とうの昔に知っている。」


ディアボロスは肉塊になった邪神王が、本当に絶命しているか確かめる。そして確認できた。間違いなくその肉塊は邪神王その物であると。


「終わったな。」


何百万年も続く因縁はこうして呆気なく幕を閉じた。


「お疲れ。」


その幕引きにいつの間にか立ち会っていたユースが、復讐を終えたディアボロスに声を掛ける。


「ユース。この結末まで、お前は視えていたのか?」


「…だから、ディアボロスを決戦に参加させなかった。」


噛み合っていない様に見える会話。しかし、そのユースの言葉でディアボロスは質問の答えを理解する。


「ありがとうユース。俺に復讐をさせてくれて。」


素直に感謝するディアボロスを見て、ユースは咄嗟に背伸びをして彼の頭を撫でた。


「な、何をする。ユース。」


「いやあ。ちっちゃい頃は良く撫でてあげたなぁと思ってね。」


満更でもなさそうなディアボロスに、ユースは優しく微笑む。


「帰るぞ。まだやることがあるんだろ。」


「そうだね。でもここでやることがあるから、ディアボロスだけ先に戻っといて。」


「…わかった。」


ディアボロスを見送った後、ユースは抜け殻となった死体に歩み寄る。


「お前が青の世界の住人を唆してプルトを殺させたあの日から、私はこの日を待ちわびていた。これで、この壮大な復讐劇は閉幕だ。」


ユースは自らの手で、彼の死体を焼却する。彼の惨めな最期が誰の目にも触れる前に。


「さようなら。私の…唯一の兄妹。」


灰を見下ろして少し寂し気に別れを告げる。しかし振り返る頃にはちっとも気にしていない様で、平然とした足取りでその場を去った。



「ただいまー。」


何故かスキップしながら、ルンルンで戻ってきたユース。そんな彼女に対する反応はそれぞれで、彼女の直前の行動を察しているメランとディアボロスは訝しみ、その他は首を傾げる。


「ユース。貴女はさっきまで…」


ある程度事情を知っていたメランは、先程兄妹を葬ってきたはずのユースが楽し気にしている様子に動揺する。ユースはそんな彼女にだけ見える様に人差し指を立て、「その話はまた後でね。」と囁いた。


「わかった。」


ユースがまた後でと言ったのだから、メランはそれ以上詮索する道理はないと簡単に引き下がる。彼女らの間に強い信頼があるからこそ物だろう。


それに、彼女らにはこの後、しなければ重大な事柄が1つ残っている。


「さっ。始めよう。この世界をメランの物にする為の慣らしを。」


彼女がコウカを葬るまでの間に、残党狩りは終了した。つまり、もうこの世界に邪神は存在していない。実はこの時点で、今すぐにでもメランをこの世界の神にすることができる。


しかし、それでは本末転倒だ。彼女らの目的は黒の世界を支配し、緑の世界の様に正常に魔力が循環し、誰も神の支配を受けない平和で純粋な世界にすることが目的である。


もし仮に今の状態でメランを神にすれば、たちまち彼女はこの世界に充満するコウカの魔力に侵され、彼と同じように緑や青の世界への侵略を試みるだろう。それを防止する為にも、今この世界を満たしている邪悪な魔力を浄化する必要がある。


「手順は簡単。片っ端から聖魔法で魔力を浄化する。これだけだよ。」


彼女が言った手順は至って簡単で、その場にいる誰もがすぐに終わるだろうと予想した。しかし、それが地獄の始まりだった。



「こっちまだ4割しか終わってない!」


「こっちは8割終わったから他の所に行ってくれ。」


聖魔法を扱える者を総動員して、既に5日が経過した。しかし皆が尽力していても、未だ全体の3割しか浄化できておらず、浄化の完了は今から10日後と予想されていた。


「そこは私に任せて!」


2日間の浄化を経て、一際尊敬される者がいた。それは、あらゆるものを洗い流す力を持っているニンフだ。彼女は通常の何倍もの速度で浄化を行っており、現在完了している浄化の内の1割は彼女が行った物である。


彼女の権能の代償は寿命。不老不死の彼女にとっては無意味な代償で、無制限に権能を行使できる。


「こっちも任せてー。」


「こっちも。」


「こっちも――」


こっちもこっちもと、彼女はアトラクションを練り回る子供の様に、気軽に現れては現場を浄化して去って行く。


「俺達も負けてられないな。」


そんな彼女の姿に皆が奮起する。作業効率が今までの倍近くになったのだから、彼女の頑張りがどれだけ皆を元気づけたか想像に難くないだろう。


「ニンフさん凄いですね。」


「そうだね。」


エリスとアーネ。この2人も彼女に元気づけられた者の1人である。彼女らはあの激戦での消耗が激しかった為、翌日から作業に参加した。しかし、それでも全快には程遠く、重い体を何とか動かしながら作業を進めている。


「一番疲れているはずなのに、誰よりも元気だ。」


ニンフが戦場を駆け巡り、たった1人で戦闘の後始末をしていたのは誰もが知るところだ。そして、彼女が誰よりも疲れていることも皆、理解しているだろう。


「無尽蔵でも疲れない訳ではないですからね。」


確かに彼女の権能は無尽蔵だ。しかし寿命が減るというのは、彼女の脅威にならないが、寿命が減る瞬間の感覚は少しずつ蓄積され、連続で使用すればそれが疲れとなって体に現れる。動き回っているのなら、尚更、彼女の疲れは計り知れない。


「私達も頑張ろう。魔力が続く限り。」


「はい!」


彼女の苦労を今一度理解して、2人は作業を進める。他の者達と同じように、彼女らも以前より浄化の速度が早くなっている。


そんなこんなで、それから8日後、無事に浄化は完了し、メランがこの世界の神として君臨する日を迎えた。

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