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残党狩り

邪神王コウカとの決着がついた後も、各地では未だ戦闘が続いていた。


場所はユースが帰還の時の為に残すよう命令した扉の前。


「ここが現在開いている唯一の扉。貴様を殺して、向こう者共を皆殺しにするとしよう。」


4つの目を持つ邪神は、4体の邪神を引き連れて、扉を守る〈番の大天使〉ギャラルホルンと〈純白竜〉アスフィと対峙する。


「私達に勝てる。そう思っているの?興味深い思考回路ね。」


アスフィは5人の邪神を前にしても余裕の表情で軽口を叩く。


「勝てない前提で挑む奴が――」


邪神が言い終わる前、先手必勝とばかりにギャラルホルンが笛を吹く。ピーッという美しい音色が響いたと思うと、次の瞬間には4つ目を除く4体の邪神が消失する。


「なるほど。そういう権能か。」


ギャラルホルンは神の住処に繋がる扉を守る為だけに生まれた。その為、彼女は扉と1対の存在として緑の世界に定義されている。その為、彼女に与えられた権能は絶対的な扉の守護能力。笛の音色を聞いた任意の対象を限りなく遠い場所に転送するというものだ。その代償は扉の前でなければならないということ。


黒の世界にはユースの住む場所は存在しない。その為扉も存在しない。にも拘らず、彼女が権能を発動できた理由は、この緑の世界への扉を彼女が守護すべき扉と定義したから。彼女は黒の世界において、その扉と1対の存在であると定義された。故に、今彼女の立つ場所は絶対不可侵の領域。


「面白いじゃないか。」


そんな事実を理解して尚、4つ目の邪神は笑みを浮かべて前進する。そして、降り注ぐアスフィの魔法攻撃を平然と受けながら、ギャラルホルンの眼前まで近づいた。


「力比べと行こう。」


邪神は徐に腕を振り上げると、勢いよくギャラルホルンに殴りかかる。それを斧で受けたギャラルホルンは、その重さに衝撃を受ける。


しかし、それも一瞬だけのこと。彼女が幾度となく受けてきたエフィの打撃には遠く及ばないその拳は、簡単に弾き返されてしまう。のけ反る邪神に一閃、ギャラルホルンは全体重をかけて彼を胴体に斬りかかる。


金属同士がぶつかり合うような音が響く。なんと、ギャラルホルンの一撃は、その硬い胴体に防がれてしまう。


「そんな見た目なのに存外器用なのだな。」


彼女の一撃は地割れを起こすほどの威力。それを防いだ邪神の胴体がそれ程までに硬かった、などという事はなく。邪神は器用にも、攻撃を食らう箇所だけに魔力を集中させて、一瞬だけそれに耐えるだけの防御力を得たのだ。


先程アスフィの魔法攻撃に耐えたのもその方法だったのだろう。種が分かれば、後は攻略するだけ。


念話でアスフィに「合わせて」とだけ伝え、そこからギャラルホルンは斧を短く持って速度重視の連撃に出る。速度重視と言えども彼女の攻撃は一発一発が邪神に大ダメージを与える威力を持っている。


その為邪神は魔力の強化を続けなければならなく、その間無防備になった背後から、アスフィが容赦なく魔法攻撃を放つ。どちらかは受けなければならない状況に陥り邪神は両方を強化するという選択に出る。それにより、アスフィの魔法を防ぐことに成功するが、そのタイミングに合わせて放たれた全体重をかけたギャラルホルンの一撃により、邪神は上下に両断される。


邪神を確実に殺すために焼却したアスフィは、邪神の血を浴びて不機嫌そうなギャラルホルンに「ギャルちゃん大丈夫?」と問いかける。


「気持ち悪い…ムリ。洗い流して。」


「仕方ないわね。」


不機嫌になると口調が幼くなる彼女に苦笑しながら、アスフィは水魔法で彼女の汚れを洗い流してあげる。


「それにしても懲りない連中ね。」


一息つく間もなく、彼女らの前には次の邪神が現れる。


「お前らを殺せば、向こうの世界に行けるんだ。当然だろう。」


現れた大勢の邪神を前に、ため息を吐く2人。しかし、その直後に目に入ったとある人物の姿に、思わず笑ってしまう。


「アハハ。」


「何がおかしい?2対10だ。絶望的な状況だろう。」


「貴方達の様な有象無象が何人集まろうと私達には勝てないわ。でもそんなこと、今となってはどうでもいい。貴方達は絶対に会ってはならない子に、会ってしまったのだから。」


直後、邪神達が彼女達の目の前から消失する。そして数秒も経たない内に、とある人物だけが再び現れる。


「相変わらずとんでもない強さね。アステル。任務は済んだの?」


「はい。一際強力な魔力を持つ邪神は全員殺害しました。ですので、今からはここ守る様にと、アフティ殿から承り参じました。」


強敵との戦いの連続だっただろうに、彼は無傷で現れた。再び言おう。彼はその権能の強力さ故、スキルは使えない。つまり、彼は文字通り無傷でその戦いを乗り越えたと言う事だ。


「貴方がここを守るのなら、私達は遊撃に出るよ。アフティの考えも多分そうでしょ?」


「流石ですね。ギャラルホルン殿。その通りです。」


彼に扉の防衛を任せ、彼女らも残党狩りに参加する。しかしそこで奇妙な事に気が付いた。


「少なすぎる。」


邪神の姿が全く見当たらない。しかも、死体の数も余りにも少なすぎる。


「何かおかしい。」


そこでアスフィは、アフティに連絡を取る。すると衝撃の事実が発覚した。


〈敵が無茶をした様です。安全性を度返しにして、向こうの世界に移動しました。つまり、貴女達を襲った数名は囮だったようです。〉


〈なんですって!向こうは大丈夫なの?〉


〈数名を既に緊急用の扉で返しました。向こうの戦況はこちらが有利と言って良いでしょう。ですので、貴女達はアステル様が伝えた通り、残党の捜索を続けてください。〉


アスフィは向こうの戦況を心配しつつも、アフティの采配を信頼してとりあえずは了解する。しかし、その表情は言葉と裏腹に不安そうだ。


「心配?」


「当然でしょ。貴女は心配じゃないの?」


「うん。だって、向こうにはミストルティンもシルフもいるでしょ?」


場所は防衛線に移る。


「17体でも苦労したが、次は50体か。」


上位の邪神総勢50体。祭壇へのフォローの為、数個の騎士団を送り防衛線が手薄になった直後の出来事であった。


「恐らく祭壇にも邪神が現れているはずだ。早く処理する為に、ここで彼女に出て貰おう。」


イアンの言う彼女とはシルフのことだ。今彼女は、戦場から少し離れた所で権能の準備をしている。彼女の権能は風を操るという、一見すれば強力ではない物だが、それでもこの様な開けた場所では無類の強さを発揮する。


「ミストルティンも準備しておけ。」


「わかってるよ。」


「総員、足止めだ!1分間足止めするんだ。」


アヤメの護衛にゼラニウムとその部下に加えて精鋭5名を任命し、残る全員で50体の邪神の足止めを開始した。


しかし、足止めは厳しいものとなる。邪神はこの強行に出るにあたり、司令塔を据えて現れた。その司令塔は的確に強力な邪神に指示を出し、防衛のラインを大きく崩すことに成功する。


それに対応するのは、防衛側の最高戦力たち。


「好き勝手に暴れやがって。俺が相手だ。デカブツ。」


「力比べか?良いだろう獅子よッ!」


S級冒険者でも剛腕を誇るミュースは、大剣を構えて、己の2倍はあろうかと言う邪神と対峙する。


S級冒険者はそれぞれ、一般には会得できないスキルを備えている。かつてヴェロスがエリスに弓を射る際に用いたスキルもその一つだ。その名も「軌跡」。


対象に着弾するまで、あらゆる物質が干渉しないという効果を持つスキルだ。その効果は絶大で、特製の魔銃を以て、既に5体の邪神を消し炭にしている。


そんな、戦況を変える様なスキルをミュースも持っている。その名も「野性」。


一時的に言語能力が低下する代わりに、獣人の用いる通常の獣化とは比べようがない程、力強さと俊敏性が上昇する。そのスキルを以て、ミュースは巨大な邪神を物の10秒で、縦に真っ二つにしてしまう。それを見た邪神は恐れおののいた。何故なら彼らは、今真っ二つにされた邪神以上の力持ちを知らなかったから。


「この戦場でよそ見は厳禁だ。」


ミュースを見て動揺した邪神が一瞬にして切り刻まれる。それは宙に浮く無数の剣によるものだ。その担い手はメイラだ。彼もまた「操剣」という特別なスキルを持っている。


彼は自分の魔力が持つ限り、無限に剣を操ることができる。現在は、38本の刃が戦場を飛び交っており、彼自身も自らのロングソードで戦いつつ、38本の刃で全体のサポート及び、隙のある邪神の殲滅に努めている。


「私達も負けてられないわね。」


「おうよ。」


ジーン・ジーミ姉弟は、遊撃の様な役回りで、戦場で駆け巡っていた、彼女らの素早さは邪神達にも厄介で、上手く魔法を外されてしまい、一方的に不利な状況を押し付けらていた。


「すばしっこい奴らだ。お前ら協力してまずはアイツらを殺るぞ。」


その状況を打開するべく、3体の邪神が協力して彼女らの排除にかかる。彼らは既に、2人の戦闘的特徴を把握していた。ジーンは接近戦が得意で、ジーミは魔法線が得意であると。更には彼女らの外見的特徴も捉えていた。ジーンは短髪で、ジーミは長髪。それだけでも捉えられれば、彼らにとっては十分である。


「詰めるぞ。」


1人がジーンを抑えている間に、2人は最速でジーミを叩き潰す。それが彼らの考えた作戦であった。それは、彼女らが最も嫌がる作戦であった。彼女らの弱点が確かにそこにあったから。しかしそれは、彼らの狙ったジーンがジーンで、ジーミがジーミである場合だ。


「残念。今はこっちがジーミでした。」


ジーンを抑えたはずの邪神は驚愕する。距離感を保ちさえすれば簡単に抑えらると踏んだにも拘らず、彼が今までに使ってこなかった強力な魔法を放ってきたから。


「何故…!」


魔法が直撃した邪神は、直後に放たれた魔法によって絶命する。その頃になると、ジーミを襲撃したはずの2体の邪神も、近接戦に集中するあまり、メイラの剣の襲撃に気付けずに切り刻まれてしまう。


「初めて私達を見る人は必ず騙される。」


彼女らはいつの間にかすり替わっていた。それは彼女らの「阿吽」というスキルを用いたもの。それは、彼女らに完全な思考の共有を与えるという単純なスキル。思考を共有しているから、ノータイムで作戦を実行でき、しかも相方の動きを完璧に模倣できる。それ故の、入れ替わりが現状だ。今、邪神側には目障りな要素がもう一つ与えられた、戦闘的特徴が正反対な2人の入れ替わりという要素が。


そして1分が経過した。


それと同時に1つの魔法と、2つの権能が発動された。1つの魔法は、ヴィーブが発動した空間魔法。それは正確に防衛側だけを権能の範囲外に移動させた。2つの権能は、ミストルティンとシルフが発動したものだ。1つ目はミストルティンの、茨で敵を拘束する権能。両腕を代償に残る28体の邪神を拘束する。2つ目はシルフの、気体を操る権能。それは時間を代償に邪神の周囲の空気を圧縮し、1つの塊にしてしまう。それは絶命するには充分過ぎる一撃であった。


「凌ぎきったな。」


ヴィーブが安堵したのも束の間、何者かが扉から現れた。


それは、岩の大精霊グノームだった。彼女だけではない、突入部隊の中でも、防御に特化したメンバーが、防衛部隊のサポートの為に現れたのだ。


「ヴィーブ。状況は?」


「50体の邪神による襲撃じゃったが、何とか凌ぎ切った。今報告を受けたが、祭壇に現れた邪神も被害ゼロで撃退できたそうじゃ。」


「そう。良かった。」


ヴィーブの報告にグノームは安心した様子で微笑む。


「ここから私達が防衛線を築く。その間皆を休ませてあげて。特にエフィの妹。相当魔力消耗してるみたいだよ。」


「わかっておる。じゃが、次の襲撃がいつになるかわからない今、この結界を解除することはできぬ。」


「ふふ。ヴィーブ。貴女は、アフティをわかっていないようだ。」


グノームのその口ぶりにヴィーブは首を傾げる。しかしその直後、大陸各地に突然現れた気配から、彼女の言葉の意味が分かった。


「既に祭壇に繋がる扉を作り、数人の護衛を帰している。今頃は各地で強固な防衛線が気付きあげられているはずだ。」


「流石じゃな。」


緑の世界の勝利。それが確実な物となった瞬間である。

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