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防衛線

「エフィ。準備できたよ。」


それは結界展開の合図だった。エフィは自身を中心に強力な結界を展開する。エフィの超技術とユグドラシルの支援があってやっと発動できる、ブラックホールの被害から外界を守る為の結界。


その結界の展開と同時に、ブラックホールが生成される。結界を削る物凄い音を立てながら、それは空間を歪ませる。今、彼女らが被害を受けていないのは、メランの権能のおかげだ。


しかし復活した邪神王には、抵抗する間もなくブラックホールが襲い掛かる。


飲み込まれた邪神王の叫び声が、結界内に鳴り響く。叫び声は大気を震わせるほどだが、それが結界外に届くことはない。そして邪神王はそのまま、ブラックホールに削られ続け――


パリンというガラスが割れたような音と共に、ブラックホールが崩壊した。


「はぁ…はぁ…やってくれたな。ユースッ!」


邪神王は血だらけの体を起こして、ユースを睨みつける。


「やぁ。コウカ。久しぶり。」


見る見るうちに傷が塞がっていく邪神王、またの名をコウカを見据えて、ユースはブラックホールが壊れされたことによる動揺を隠したまま毅然と振る舞う。


「もう、魂は君本人の物1つだけだ。さっさと殺してあげるよ。」


「死ぬのは貴様らだ。木っ端がどれだけ集まろうと、余と対等になる事などあり得ん。」


怒りを露わにするコウカを前に、ユースは笑みを浮かべて軽口で返す。


「なるほど。じゃあ君は、木っ端に負ける神って訳ね。」


その場の全員の魔力が高まり、遂に結界が崩壊する。それと同時に、今生きる全ての者が、最高峰の戦闘が始まろうとしている事実に気付く。


「王ッ!今行きます。」


いち早く気付いたコウカ直属の邪神の1人は、そう叫んで全速力で玉の間に向かう。しかし、それを阻んだのはエリスだった。


「エフィさん達の邪魔はさせないよ。」


「小娘が…邪魔をするなッ!」


各地で邪神の足止めが行われる中、とある場所では戦況が覆りつつあった。その場所とは、防衛線。


「おい。上位の邪神は多くても10人程度。そう言っていなかったか?」


「儂もそう聞いている。しかし…」


防衛線では何が起こっていたのか。時は、ユース達が突入する直前まで遡る。


「はーい注目。」


簡易的な壇上の上で、冒険者達の注目を集めたのはミアだった。隣にはラルヴァ、そしてその後ろには、ヘレンとフランシュも立っている。


「さっき皆に配った箱を開けてみてぇ。」


箱を開けるとそこには、一丁の銃が入っていた。


「それはラルヴァの魔銃って呼ばれてる魔法道具だよぉ。魔力が少ない人でも扱えるようになっててぇ、一撃で邪神を吹き飛ばせる威力があるんだぁ。」


この日に合わせて、ミアとラルヴァはA級冒険者の人数と同じ数のラルヴァの魔銃を生産した。その数なんと1万。全ての冒険者が邪神と対抗できるだけの力を手に入れた。


「ミアー。僕たちには?」


その時、珍しく女装をしていないメタンがミアにそう問いかけた。


「無いよぉ。S級の皆は魔銃なんてなくても良いからねぇ。」


S級にはそれぞれ、邪神に劣らない強みがある。グロスィヤで言えば、圧倒的な耐久力。メイラで言えば、圧倒的な手数。ミュースで言えば、圧倒的な爆発力。それを知っているメタンがそれでも尚、ミアにそう聞いたのは、自分にはその様な強みがないと自覚しているから。


「ヴェロスには事前に、狙撃銃をあげたんでしょ?じゃあ今S級で唯一、邪神への対抗策を持たないのは僕だ。」


メタンがS級冒険者に慣れた理由は、純粋な戦闘力ではなく、唯一無二の潜入能力を買われたからだ。


ミアを含めてメタンはS級で最も弱く、戦闘能力では特別S級を除いたとしても、一部のA級には劣る。そんな彼が邪神との戦闘に不安を感じるのは当然で、ミアもそれは理解していた。では何故、彼女は彼の魔銃を用意しなかったのか。その理由は――


「そんな事ないよぉ。メタンにはやって欲しいことがあるんだ。」


そう言って、ミアは彼にある物を渡した。


「これは…」


それが人類の命運を分ける物になると、メタンは思いもしなかったが、自分の役割が重要であるという事はこの時点でも理解していた。


「なるほど。確かに僕にしかできない事だ。」


条件を満たしたとき、たった一度だけだが、対象を必ず殺せるダガー。条件はその刃を対象の首に突き立てること。隠密を得意とするメタンに、最も適した最強の武器だ。


「頼んだよ。」


かくして、戦いの火ぶたが切って落とされた。ユース達が突入してから1分にも満たない間に、邪神も侵攻を開始した。


「無事、結界を張る事に成功しましたね。」


「うん。後は維持に専念するだけ。だから私の護衛は任せたよ。ゼラニウム。それと――」


大規模結界またの名を聖域は1か月の準備の末、無事展開に成功する。聖域は東大陸上にアヤメを中心とした五芒星の陣を描くことで成り立っている。五芒星の頂点にはそれぞれ祭壇が位置し、そこに5人以上の聖女が集まり、結界の維持に尽力している。


その護衛として、各地には勇者が派遣されている。


極北の祭壇。護衛は黄の勇者、キトリ=ノース。極東の祭壇。護衛は橙の勇者、東雲橙華。極西の祭壇。護衛は青の勇者、キュアノ=アオディス。最南西の祭壇。護衛は藍の勇者、ガラジオス。最南東の祭壇。護衛は赤の勇者、エーリュ=トロス。


「ポールさんも。」


そして、ここ中央の護衛を任されたのは、紫の勇者ポール=ピュラーだ。


勇者の中で、最も護衛に長けているのは彼だと、勇者を知る誰もが口々に言う。単純な実力では最強のエーリュも、人を守りながらの戦闘に長けているガラジオスでさえ、中央の護衛を彼に任せることに異論を唱えない。その理由は、神をも騙す圧倒的な幻影魔法の腕。


彼が横笛を吹くと、それと同時にどこからともなく花弁が舞い上がり、それはアヤメ、ゼラニウム、ポールを包み、溶ける様に彼ら諸共消え去った。


実際に消えたわけではなく、実体は確かにそこに存在する。誰にも、神にさえ見ることはできないだけで。


しかし疑問に思うだろう。戦場で味方にさえ見えない状況は危険ではないのかと。答えは否だ。その理由は、ポールの魔法の特性にある。彼の魔法は姿を消すとともに、その存在の次元を1つ上に押し上げることが可能なのだ。つまり、今彼女らは4次元の存在になっている。その為彼女らはこちらに干渉できるが、こちらは彼女に干渉できない。これが彼が護衛に選ばれたもう1つの理由でもある。


当然、魔法による魔力の消耗は激しい。しかし、その魔力の消耗を戦場の魔法士に肩代わりして貰う事で一時的に帳消しにしている。後にポールに反動が来ることになるが、そんなことを言えるほど状況は甘くない。


「すまないポール殿。貴方には無理をさせる。」


「気にしなくて良いよ。この程度、昔エフィに頼まれた無茶と比べれば大したことのないことさ。」


これ以上の無茶をさせたというエフィに引きしつつ、ゼラニウムは気を引き締める。彼の幻影魔法は本来、無理しても1分しか発動できない魔法だ。彼自身が言っていたことだが、魔法士に肩代わりして貰ったとしても、この魔法は30分程度しか持たないらしい。


魔法解除後、ポールは戦闘不能になるため、ゼラニウムは部下含め10人のみでアヤメを守らなければならない。当然、彼の部下は実力者揃いだが、それでも全く動けないアヤメを守りながらの戦闘は厳しいものになる。


この30分間で、どれだけの敵戦力を削れるかが重要になってくる。しかし、邪神の出方は彼らの想像とは全く異なる物だった。


侵攻開始から10分。こちらの死者は0という状況で、侵攻を完全に食い止める事に成功する。魔銃の威力、使いやすさ共に凄まじく、戦況は終始優勢のまま続いていた。しかし、戦況の変化が見られ始めたのは、それからたった1分後の事だった。


痺れを切らした上位の邪神5体が、同時に戦場に出現した。


扉とは無関係の場所に突如現れた彼らに皆動揺を隠せない。しかし、ただ2人はその状況においても動揺を見せなかった。


その場の機先を制したのはヴィーブだった。いつでも魔法が放てるよう準備をしていた彼女は、最速で魔法を放ち彼らを迎撃する。しかし、いくら弱体化していようとも上位の邪神の強さは揺らがない。あっさり魔法攻撃を防ぎきると、冷静に結界の起点がどこにあるか判断する。


5か所の祭壇。そこまでを一瞬で突き止めた、リーダー格の男は、全員に命令を下す。祭壇を破壊せよと。しかし、それを見逃すほどヴィーブは甘くない。その様な事態の為に、事前に邪神が出れない様にする結界を降ろしていた。


結界に阻まれた邪神達は、それを破ろうと攻撃を開始する。その隙をイアンはつき、不意打ちで早速1体を撃破する。


本来なら厳しい相手を一撃で葬ったことで、イアンは結界の効果が上手く作用していると再確認する。これなら勝てる。そう思いつつ、各国の騎士団長に足止めするよう指示を出す。それが最善の選択であることは明白。しかし1つの懸念が頭に浮かぶ。それは、どうして邪神が扉以外の場所から現れたのかといこと。


これの正体に気付けないままでは、みすみす邪神を見逃す可能性さえある。


幸い、天眼通を持つヴィーブは、その事象の一部始終を捉えていた。それでも尚、情報伝達が送れたのは――


「ヴィーブ!」


その事象について脳が処理できず、パンクしてしまったからだ。


彼女の鼻血を最初に気付いたのは、この戦争にあたって彼女と一時の休戦を結んだ、茨の大悪魔ミストルティン。


「これは…」


鼻血を自覚して、やっと彼女は自分が思考停止に陥っていると気づく。


「ミストルティン。1分だけ守りを任せる。」


「妾に命令するな。いや…まぁ良い。それはディアボロス(主様)の命令の一部だからな。」


優れた魔法を扱う魔法士が見せる最大の隙に気付かない邪神達ではない。気づくや否や、1体はイアンの足止めに残り、残る3体の邪神は一斉にヴィーブに襲い掛かる。それを眼前にミストルティンは、


「三対一か!」


紅の槍を構えて咆哮する。


「燃えるなぁ!」


狂気の笑みを浮かべながら。

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