最強vs最強
機先を制したのはアステルだ。先程リーダーが破壊した巨大隕石。それが砕けた事により生み出される礫を操り、全方位から彼にぶつけた。
リーダーはそれに反応できたものの対処をしなかった。その威力はS級の魔物さえ消滅させるほど。しかし彼は対処する価値無しと判断した。何故なら、その威力ですら彼の防御力を貫通できないから。
「この程度じゃないだろうな?」
リーダーは余裕そうに嘲り笑い、地面に落ちた破片を思い切り蹴り飛ばした。その威力はアステルの攻撃と同程度のもの。
「こんなもの簡単に再現できるぞ。さぁ。先程みたいな攻撃をしてみろ。俺を楽しませろ。」
「あ?やってやるよ。」
相棒を失い心に余裕がなかったアステルは、その挑発に思わず乗ってしまった。直後、地上から光が消える、見上げると、そこには空を埋め尽くすほどの巨大な隕石が飛来していた。
「マジかよ…」
その状況下でもリーダーの顔から笑みは消えない。寧ろその状況を楽しんでいるようにすら見える。
「この世界ごと俺を殺す気か!?面白れぇ!」
その隕石に対してリーダーがとった行動は、無数の魔法攻撃による迎撃。彼の魔法の威力は中位の邪神の数十倍に至る。つまり、何も対策されなければ、一国を一撃で滅ぼすことさえ可能。そんな魔法による攻撃であれば、その巨大隕石さえ一瞬で粉々にしてしまう。しかし彼にとって厄介なのは、アステルはその粉々になった隕石でさえ操作できること。
破壊されて尚通常の隕石と同程度に巨大な隕石がリーダー目掛けて降り注ぐ。先程の欠片の攻撃とは比較にならない程の衝撃。一瞬で地面は抉れ、巨大なクレーターを作ってしまう。それでも尚、リーダーは平然とそのど真ん中に無傷で立っている。
「今の冷っとしたぞ。やるなぁ星落とし。」
未だ底の見えぬ男。それを前にしてもアステルには動揺の兆候さえ見られない。彼にとってそこまでは想定の内。
冷静さを欠いている。そう思わせる為の攻撃が、今のそれだった。その思惑は見事にリーダーを惑わせた。リーダーが未だに余裕さを保っているのがその証拠。彼は、アステルの攻撃を単調化させ、その隙を狙うつもりであった。
――もっと怒れ。星落とし。
リーダーは事前にアステルの実力を推定し、真正面からは不利だと判断した。だから彼の相棒を殺害し、彼を煽り続けた。彼が冷静でなくなるまで。
しかし、彼に隙は生まれない。常にその位置から動くことはなく、何の動作も無しに隕石を操っている。その間もリーダーへの警戒は怠らず。いつでも応戦できる構え。
お互いがお互いを警戒する。そんな状況が続いた。それを打開すべく動いたのはリーダーだった。その痺れを切らした行動をアステルは狙っていた。
地面が突如肥大し、巨大な竜となってリーダーを襲う。岩の竜は油断していたリーダーを見事に捕え、その形状を変化させ岩に埋め込んだ。当然、その程度彼が止まるはずはなく、簡単に岩は砕かれてしまう。しかし、そこまでを想定していたアステルに、またも宇宙まで蹴り上げられてしまう。
猛スピードで打ち上げられる最中、リーダーは見積もりの甘さを悔やんでいた。彼の能力は星を司る事。その真意は隕石を降らせる事などではない。
彼は、宇宙に存在する岩石も含めた全ての星を司る。それは、この星さえ例外ではない。
この世界の全てが彼に味方する。正にこれは――
俺が求めていた戦いだ。
リーダーは迫りくる隕石を見ながら、狂気の笑みを浮かべる。そろそろ本気出そう。と。
直後、空が眩い光に包まれた。墜落する隕石はまるで花火の様で、そこに君臨するリーダーの姿はまさに神そのもの。禍禍しさなど一切ない、恐ろしいまでの神々しさを放っている。
「場所を変えよう。」
リーダーが指を鳴らすと、何処ともわからない宇宙空間へと場所が移動した。辺りを見渡すも、先程までいた星は見えず、遠目に太陽が見えるだけである。
「ここなら本気で戦えるだろう?星落としよ。」
リーダーの空間魔法は別次元の域に達している。これ程までの長距離移動をできるのは、ユース、あるいはメランくらいだろうか。こんなものを見せつけられては、流石のアステルも冷汗を流す。
しかし、先程より戦いやすくなったのは事実だ。焦らず冷静にアステルは状況を整理する。彼の行動理由、それから、周囲の星の重要度など。なるべく、この世界の負担にならない様思考を巡らせる。
ただ、相手は最強の邪神、考える暇など与えてくれるはずもなく、一発一発が国を亡ぼすに至る程の魔法攻撃を無数に放ってくる。一先ず、それを星の重力を膨大にすることで発生する高速移動で回避を図る。しかし魔法は追尾してくる。その場凌ぎとして、隕石をぶつけてそれに対処するが、それも長くは続かない。素で堅牢な防御力を更に魔力で強化し、魔法を真正面から受けることにする。
その判断は正しく、背後の星は粉々に砕け散ってしまったが、アステルは無傷で済んだ。その姿に動揺することもなく、リーダーは彼が体勢を整える前に肉弾戦を仕掛ける。
お互い星よりも強固な体を持つ故か、一撃拳を交えるだけで、空間を歪めてしまうほどの力が発生する。互角。かのように思えたが、
「良いぞ星落とし!もっとだ。もっと俺も楽しませろ。」
「クッ!」
肉弾戦での形勢は、徐々にリーダーに傾き始めた。殴り合いでは不利。そう判断したアステルは距離を――
「その判断は悪手だ。」
一瞬、ほんの一瞬だけ攻撃の手を止めたアステルをリーダーは見逃さなかった。彼の腕を掴み一閃。彼の体に全力の拳を加える。更に、腕を掴んでいることを良いことに、高らかに笑いながら好き勝手に殴り続ける。
リーダーの打撃を受け続けたアステルの意識が一瞬だけ刈り取られる。
「なんだ…もう終わりか。」
おもちゃを失った子供の様に悲しい表情をするリーダー。しかし、その憂いは一瞬のことだった。
「よくもまぁ、私をここまで痛めつけてくれましたね。」
「!?」
前触れもなく、アステルの雰囲気が一変する。そして纏う魔力も先程より強力になっている。警戒して、リーダーは一瞬で距離を取る。
「お前は誰だ?」
その問いに彼は「アステルですよ。」とはっきり答える。
そう彼は正真正銘アステルだ。寧ろ、先程までの荒々しい様子こそ彼らしくない。
彼は相棒の死というショックから、精神が青年期まで戻っていた。ただ、それでも彼は、相棒の死を完全には忘れきれず、その精神状態のまま復讐を果たそうとした。しかしそれも達成できずに気絶してしまった彼は、元の精神状態に戻ってしまったのだ。今の彼こそが緑の世界最強の生物、星竜アステルという訳だ。
「先程までの記憶が曖昧なのですが、貴方が相棒を殺した犯人ですか?」
落ち着いた様子に豹変した彼に動揺しつつ、リーダーは「そうだ。」と偽らずに答えた。内心ではワクワクしているのだ。先程よりも楽しい戦いになりそうだ。と。
「そうですか。では、死んでもらいますね。」
ニコッと笑みを浮かべて、アステルは容赦なくリーダーに隕石を投げつけた。その速度は決して早くなかった。しかし、彼は避けることができなかった。アステルの緻密な重力操作により、彼は動かない以外の選択肢を封じられたのだ。
その衝撃は、先程までの殴り合いとは比べ物にならない威力だ。流石のリーダーもその衝撃には耐えられない。しかし、彼は意識を保ったまま無数の魔法攻撃で反撃した。
「流石はエルを殺した邪神。と言った所でしょうか。」
彼は全ての魔法を隕石で墜落し、平然とリーダーを見据える。
「面白れぇなぁ!オイッ!」
リーダーは彼の姿に歓喜の笑みを浮かべて急接近、再び殴り合いを始める。先程と違い、それは完全に互角、間に小規模な魔法を挟んで手数を増やしているがその全てが、小型の隕石により落とされる。
互角の殴り合いが続く。拮抗は崩れることは無く。徐々に徐々に、時空にひずみがではじめる。次の瞬間、疑似的な空間転移が発生する。本来ならお互いに粉々になっても起こしくない歪み。しかし、彼らの強度がそれを許さず、空間転移になったのだ。
どうやらそこは、先程までより太陽が近い。アステルはより注意して星を操作する。
その頃、地上で空を見上げたある人々は、眩い光を観測する。それは数十分前の彼らの戦いで発生した光。何か違和感を感じていたメランは、そこで初めて彼らの争いに気が付く。
その数分後。彼らの争いは、メランが看過できない程に発展した。
「行くぞオラァ!」
リーダーによって、惑星を破壊できる威力の魔法が放たれる。アステルはその対処の為に、仕方なく惑星を操作し、それを打ち消した。しかし、その余波はアステルの住む星にまで影響を及ぼした。早々に事態に感づき、対策をとったメランのおかげで誰も気づくことは無かったが、そうでなければ甚大な被害が出ていた。
「まだまだ行くぞ!」
その規模はあまりにも広大で、その戦闘によって発生した光は地上を照らした。人々はその日、口々にこういった。夜空に光の川があったと。
――そうして、
「何か。言い残すことはありますか。」
壮絶な戦闘の末、アステルが勝利した。
2つの恒星をぶつけられ、その膨大なエネルギーを一身に受けたリーダーは、頭以外原型を留めていない。それでも尚意識を保っている彼への最後の慈悲として、アステルは彼に言葉を残すよう促す。しかし彼は、「ねぇよ。」そう言い残し、そのまま消滅していった。
「…エル。仇は倒したよ。」
リーダーの消滅を確認し、彼はやっと落ち着いたと涙を流す。相棒の弔う気持ちを胸に。その後、膨大なエネルギーによる被害をゼロに抑えたメランによって、数時間にも及ぶ説教を受けることになることを知らずに。
――世界を簡単に滅ぼせる力を持つ。それこそが彼の真の代償だ。
「君に本気を出してもらう為に作った空間生成装置だ。これに魔力注げば、仮想世界を周囲に展開できる。相手との距離感さえ間違えなければ、強制的に一対一の状況だって作れる。便利だろう?」
その真の代償をよく理解しているアステルは、ユースのこの言葉に笑み浮かべてこう返す。
「はい。ありがとうございます。」
彼の感謝の言葉を横目に見ていたメランは思わず笑みを零す。竜の長たる彼女にとって、彼は息子の様なものだから。




