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「お2人を部屋までお連れしました。」


「ありがとう。アフティ。それで、貴女から見て、彼女達はどうだった?」


メランは帰ってきたアフティを労うと、早速2人の印象について問う。彼女は数秒の思考の後、考えを纏めてから返答をした。


「まず、第一印象は良い立ち姿だと思いました。お2人共隙が無い。360度どこから攻撃されようと対処できるでしょう。例え相手が、彼女らよりも格上だったしても。流石は杏様、延いてはエフィの弟子と言った所でしょうか。」


武術においてはS級に匹敵する、あるいはそれを凌駕する技術を持つ彼女らの立ち姿を、アフティは高く評価させた。


「対して、魔力量は然程多くない様に感じました。エリス様に関しては、自ら能力を制限している様なので、2倍程度にはなるのでしょうか。しかしそれでも、フィオナにすら未だ遠く及ばない。完全に吸血鬼魔法を使いこなすのもかなり先になるでしょう。」


アフティは冷静に彼女らの力量を正確に見定める。


「また、アーネ様はそもそも魔法を得手としていないのでしょう。時間操作という強力な能力の影響で、脳の容量を圧迫してしまっているのが原因です。」


特殊能力には利点も欠点も存在する。利点は当然、あらゆる魔法よりも強力である事。


エフィの不可視の刃であれ、メランやアフティが伏せている能力であれ、それらは魔法で実現可能な範疇を容易に超越する。


対して欠点は2つあり、1つはアーネの目下の課題であり代償だ。


今、メランが把握している代償は、生命力、身体の一部、記憶、寿命、そして体力だ。アフティは生命力、メランは体の一部がそれぞれ代償だ。また、憂の未来予知の代償も体の一部であった。正確には、爪や指と言った、手、あるいは足の一部なのだが、それを知っていた村民達は、恐ろしい事に彼女の四肢を奪う事によってその代償を克服させた。


それとは別のもう1つの欠点は、アフティの言った脳の容量を圧迫すること。魔法を司るのは当然、思考能力のある脳であり、特殊能力を司るのも当然脳である。


そのため、より強力な力を保とうとする脳は、本来魔法を司る部分でさえ、特殊能力を司る為に使用する。そうでもしなければ、特殊能力を発動できないからである。メランやアフティ、エフィの様に、脳の容量が膨大であればさて置き、アーネの様な常人と比べれば脳の容量は多い方、程度では無視できないほど、特殊能力は深刻に脳の容量を圧迫してしまう。


「ですが、然程問題はありません。」


それでも尚、彼女が最低限度の魔法を使用できるのは、偏に彼女が天才だからである。


「アーネ様は特殊能力がなくとも、後3年…いえ後2年で、1人でも真正面から中位の邪神を討伐できるようになるでしょう。なので、」


アフティが珍しく目を輝かせ、歓喜の笑みを浮かべる。


「私に彼女の指導をさせて下さい!」


それが懐かしくメランも嬉しそうに笑みを浮かべる。まるで彼女が、


「良いよ。彼女の特殊能力は私に任せれば良い。貴女は彼女の身体能力を伸ばしてあげなさい。かつて、エフィを私達の領域まで育て上げた時の様に。」


まるで彼女が、初めてエフィを見た時の様だったから。



「さて、エリスちゃん。君と私はどっちも吸血鬼。つまり、どんだけ無理しても死なない。てなわけで、早速殺しあおっか。」


笑顔で殺し合おうというフィオナにドン引きしつつも、エリスも彼女の考えには同意する。どんなに無理をしても死なないから、あえて死に近い戦いを繰り返し、能力の上昇を限りなく早めるという考えに。


「わかりました。やりましょう。」


エリスとフィオナが死闘を繰り広げる裏で、アーネもアフティの指導の下、死に物狂いで特訓をしていた。


「貴女の基礎や技は一流と言って良いでしょう。よって、基礎練習は貴女に全く無意味。ですので、これからは実践あるのみ。私との手合わせと、魔物との戦闘の繰り返しです。気合を入れて取り組まないと死ぬので、そのつもりで。」


「は、はい。」


表情を変えずに淡々と訓練内容を伝え、平然と「死ぬ」と語るアフティに恐怖しつつも、アーネは強くなるために首を縦に振る。その訓練がどれ程の地獄かも知らずに。


そうして、1か月が経過した。


「うはぁ。」


「うぅ。」


エリスもアーネもベッドに倒れ込んで覇気のない声を漏らす。


この1か月という短期間で飛躍的に実力が付いたと実感する反面。2人共に、手合わせでまだ相手に触れさえできないという現状に不甲斐なさを感じていた。


「アーネ。私、全くフィオナさんに勝てる気がしないよ…。」


全ての能力においてエリスを上回るフィオナは、エリスにとって初めての存在だった。今までは、格上相手にも所見の自爆技で勝ってきたが、同じ性質を持つ彼女にとって、エリスの考えなど手に取る様にわかるようで、あらゆる攻撃を塞がれてしまっている。


「私もです。」


アフティは魔力量を除けば、全てのステータスの封印を解除したエフィに匹敵する。それ程の化け物にどれだけハンデを貰おうとアーネが勝てるわけもなく。順調に凶悪な魔物を倒せるようになっているが、アフティとの差が埋まっているとは到底思えない。


即ち、杏の訓練によって形成された2人の自信は完全に砕かれたという訳だ。


「師匠も強かった。強かったけど…」


杏は人類の頂点に立つ程の実力と技術を持っている。しかし、アフティやフィオナはあるゆる生物において頂点に立つ存在。かつて杏が接戦の末勝利納めた竜でさえ、彼女らは赤子の手を捻るように処理できる。


「これがこれからの戦争のレベルと考えるとゾッとするよ。」


エフィが言っていた。フィオナは上位の邪神にさえ対抗できる実力を持つ、と。しかし、それは裏を返せば、邪神にはフィオナレベルがゴロゴロいるということ。


「まずは一撃。お互い頑張りましょう。エリスさん。」


「うん。じゃあまずは。」


寝よう。と、2人は声を合わせる。


今最も重要なのは睡眠。つまりしっかり疲れを取ることだ。翌日の訓練に耐えることができる様に。


そうして、2年の訓練を経て――


「わぁ。やるね。」


首を宙に飛ばされながら、フィオナは嬉しそうに笑みを浮かべる。


「私の魔法への抵抗力を低下させてから、インジュリシェアで止めを刺す。巧いねぇ。」


呪魔法における最上位の魔法、インジュリシェア。損傷を共有する魔法で、例えば、術者の腕が切断されれば、被術者の腕も切断される。吸血鬼のエリスが使えば、無傷で被術者の体を自由に切断することができる。


ただ、そんな強力な魔法が無条件で使えるはずがなく。被術者が術者よりも、あらゆるステータスが劣っていなければならない魔法を発動することはできない。しかし、被術者の体力をある段階まで消耗させることができれば、魔法を発動することも可能だ。


「フィオナが教えてくれたんでしょう?この魔法は。」


インジュリシェアはフィオナの得意技だ。というより、彼女が編み出した魔法なのだから、彼女よりその魔法について理解している人はいないだろう。


そんな彼女でも、今では世界で2番目の呪魔法の使い手と自称する程、エリスの呪魔法の運用方法は巧みだ。そしてそれは、吸血鬼魔法に関しても同じことが言える。


「2年前は私の方が強かった。でも、たった2年で追い越されちゃった。流石だね。エリス。」


「いえ。フィオナの教え方が上手だったからですよ。貴女程、吸血鬼魔法と呪魔法に精通している人はいない。」


エリスの褒め言葉にフィオナは嬉しそうに照れる。


「あはは。エリスにそう言って貰えるなんて嬉しいよ。これから一緒に頑張ろ。最強の魔法士。」


「その呼び名には一生慣れませんね。最強の魔法士はヴィーブさんだろうに。」


「そのヴィーブが、君を最強の魔法士と呼んでるんだ。そろそろ認めなよ。」


この2年間色々あった。例えば、ヴィーブが歳を理由に冒険者を辞め、アデルとエフィは自らをリョクロス侯爵家の人間だと明かし、アデルは騎士団長になる為に冒険者を辞め、エフィは正式にS級冒険者になった。そして、エリスとアーネはS級冒険者に昇級した。


ヴィーブも認める最強の魔法士であるエリスと、回避不可能の最速の矢を射るアーネは、誰もが認めるS級冒険者だ。


「そういえば、アーネの実戦訓練、今日が最後らしいけど見に行かない?」


「行って大丈夫なんですか?」


「大丈夫でしょ。なんたって、今日アーネが戦う相手は私が生け捕りにしたんだし。」


アーネの実戦訓練。その最終日。どうやらその相手は、かつてフィオナが生け捕りにした魔物。


「確かアレですよね、相手って。私、昔遭遇したことはあるんですけど、戦ったことは無いんですよ。手強いですか?」


「うーん。ちょっと手こずったけど、生け捕りにできたからね。最初から殺す気なら、アーネの相手じゃないでしょ。」


相手はフィオナさえ手こずる怪物。しかしながら、今のアーネは――


「流石ですね。アーネ様。代償が発生しない一瞬の時間操作を打撃の直前に入れることで、私でも避けることができない攻撃を放つとは。」


「いえ!これもアフティさんとメランさんのおかげです。」


1日に2回という制限付きだが、5秒間の時間停止と、5分間の昼夜反転が可能になった。更に、代償が発生しない1秒にも満たない時間停止なら、無制限に使用することができる。今のアーネの実力ならその1秒にも満たない一瞬の内に、弓を射ることも打撃を放つこともできる。


「もちろん、私やメラン様のおかげでもありますが、ここまでこれたのは貴女の努力と才能あってこそですよ。」


アーネの肩に手を乗せて微笑むアフティは、いつになく嬉しそうに見える。


「これなら。最後の相手にも勝てそうですね。」


「やっぱり今日でしたか…。」


最後の相手について、アーネは既にアフティから教えられていた。


「はい。これが貴女にとっての最後の試験と言って良いでしょう。」


相手は中位の邪神の中では最上位とされる、黒山羊の頭を持つ人型の邪神。多彩で強力な魔法を操る、かつてエリス達が巨人の里で対峙したものと同一の邪神だ。


魔王城に存在する、防御結界で囲われた訓練場にて、邪神は拘束を外され解き放たれる。


その邪神を見定めて、アーネは籠手を嵌める。鉄よりも軽く、鉄よりも硬い。オリハルコンでできたその籠手こそは、伝説の鍛冶師スティーヴの最高傑作。


「行きます!」


最高速度で走り出したアーネは、邪神の魔法による猛攻をいとも容易く避けつつ、踏み切って跳躍する。そして挨拶代わりに邪神の土手っ腹をぶん殴った。山をも崩壊させるアーネの打撃に、流石の邪神も大きく吹き飛び痛がる様子を示す。


しかし中位の邪神しかもその最上位ともなるとただでは攻撃させてくれない。吹き飛ばされつつも宙に浮くアーネを狙って無尽蔵に魔法を放つ。だがアーネには宙を自由に動く〈浮遊〉がある。正確に狙った魔法であっても容易く避けてしまう。


邪神が体勢を整えている内に、アーネも着地して準備を整える。つい先日、杏から送られた特別な弓を手にし構える。


その弓は、世界に1張しか存在しない大和国の秘宝。その名を〈魔弓(まきゅう)〉ライ。構えれば雷の矢を生成する特殊な弓だが、魔剣や魔弓と言った武器の中で唯一主を持たない。


さて、生成された雷の矢には実体がある。即ち、限りなく光速に近い速度を出せるが光速には成れない。しかし、矢を射る直前に一瞬だけ時間を停止さえることで、不可避の矢を放つことが可能になった。


アーネが構えた矢を射る。当然、邪神もそれを待ち構える。しかし、アーネの矢を避けれるはずがなく、訳が分からぬまま、邪神は体を矢に貫かれた。


一瞬の混乱。その隙に魔法袋に弓を仕舞い、即座に走り出す。その頃には邪神も平静を取り戻し、先程もより更に多い魔法を砲火が始まった。その物量はまさに異常。流石のアーネも避けるので精一杯になり始める。


確実に邪神へのダメージは入っている。しかし、未だ致命傷には程遠い。


単純な火力不足はアーネの最大の課題。エリスの様な邪神すら一撃で葬る強力な魔法も、エフィの様な理不尽なパワーも彼女にはない。


ならば、手数で攻めれば良い。その為にアーネは自分の速度を限界まで極めた。彼女には魔法の才も天賦のパワーも無かったが、フェンリルである彼女は足には自信があった。そこに時間操作と言う強力な能力を手に入れたのだから、速度を極める他なかった。


そんな彼女の速度はまさに神速。避けの一手しか選択できない魔法の集中砲火の現場から、一瞬で脱出してしまう。


邪神もすぐに照準を合わせるが、そのほんの一瞬の隙さえ、今のアーネは攻撃のタイミングに変換できる。隙ができれば、すぐに打撃が飛んでくる状況は、邪神に少しずつストレスを与える。


ストレスが溜まるたび、邪神の隙は多くなり、徐々に徐々にダメージは蓄積されていく。動きが悪くなる一方の邪神に対し、アーネに疲れの様子は見られない。その優勢の状況は覆ることがない程広がっていた。


そんな頃。エリスとフィオナもその戦闘が目に見える場所に到着した。


「あらら。邪神ぼこぼこじゃん。強いねアーネ。」


「舐めないで下さい。私の相棒ですよ。」


「貴女、アーネの事になるとすぐ素に戻るよねぇ。」


他愛のない会話を交わす2人だが、お互い視界の中にはアーネの戦闘を入れている。見逃せる筈がない。この戦闘はアーネの実力を証明する戦いなのだから。


「これで決まるね。アーネが、上位の邪神と殺り合えるかどうか。」


「…そうですね。」


アーネの相手に中位の邪神における最上位の存在、黒山羊の邪神が選ばれた理由はそれだ。あれに危な気なく勝てれば、アーネが上位の邪神とも戦えると証明される。


「正念場です。」


そして、邪神との戦争に向けての最終審査でもある。彼女が、エリスと組むに足るかどうかの。

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