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思惑

「それじゃ、お昼ご飯を食べに行こうか。」


冒険者カードをA級に更新し会場を後にした2人は、早速昼食を摂ることにした。


食事場所は既に決めていた。A級昇格の祝いにアーネの好物が有名なお店に行こうと。


「美味しいです!」


満面の笑みでケーキを頬張るアーネを微笑ましく思いつつ、エリスも自分に提供されたケーキを食べる。


そう、アーネの好物とはずばりケーキだ。特にショートケーキを好む彼女だが、今はチョコレートケーキをその口に頬張っている。


昼食というにはケーキは不適当かも知れないが、アーネへのご褒美というエリスの言い分に、真面目な彼女も目を瞑っている。単に彼女がケーキをたくさん食べたいだけかも知れないが。


「アーネ。次は何が食べたい?」


「そうですね。」


チョコレートケーキを食べ終え、同時に頼んでいたショートケーキを食べ始めているアーネは、次の注文を真剣に考えている様子だ。


口に含んでいたショートケーキを飲み込み、アーネは真剣に考えた末、チーズケーキが食べたいと言った。


「わかった。」


店員を呼び、アーネの要望であるチーズケーキと、自分が食べたいモンブランを頼み、エリスは小休憩として紅茶を口に含む。


2人はその後にも幾つかのケーキを堪能すると、そのままの足でオルニス都市に向かう馬車に乗った。


「今になって疲れが出てきました。」


馬車に乗って一息ついたからか、アーネはエリスとの手合わせによる疲労がやっと現れた様だ。


「関所に着くまで寝ていていいよ。着いたら起こすから。」


王都から関所までの道は舗装されている為、馬車の揺れが少なく乗り心地は悪くない。関所を超えてからは嫌でも眠れない為、それまでは体を休める様にアーネに勧める。


「ありがとうございます。それでは少しだけ休ませてもらいます。」


目の前で眠りにつくアーネを見守って、エリスはA級試験について考えていた。


――サンドワームの襲撃。あれは偶然だったのだろうか?スキルが使えないとはいえ、アーネ程ではないけど私も気配を探れるようになっていた。それなのにサンドワームが姿を現すまで存在にすら気付かなかった。それに、試験前に丁度スキルが使えなくった。これも偶然か?何か、不自然だ。


エリスはその偶然に違和感を感じていた。都合が良すぎる。まるで、エリスとアーネに試練を与える様に、全てが仕組まれているよ様に感じる。


――もし何らかの毒の影響なら、毒を盛られるタイミングは…食事の時。ヴィーブさんと一緒に食べた昼食か。宿で食べた夕食か。最も可能性があるのは、私とアーネを殺したい人が宿の従業員に紛れていたか、刺客を送っていたか。


早々にエリスは、ヴィーブとの食事で毒を盛られた可能性を捨てる。当然だ、ヴィーブは世界最高の魔法士なのだから、もし料理に毒が盛られていたのなら気付くだろうと思っているから。


しかしそれは的外れだ。何故ならヴィーブが首謀者の1人であるから。


エリスがその結論に至る事は出来ない。彼女の第一印象が、優しいお婆さんだったから。見た目こそ少女だが、口調も性格も老婆そのものだったから。


――考えても仕方がないか。結局、私達に被害が及んだ訳じゃないし、スキルも再び使えるようになったし。


馬車の小さな窓から外を見ながら、エリスは思考を停止させる。違和感は違和感のまま。何も知らずにいた方が良いこともあると、彼女は知っているから。



「お帰り。2人共。」


馬車を降りると、2人の帰りを気付いていたのか、エフィがそこに立っていた。


「A級試験での事件については耳に入っているよ。先に言っておくけど、今世界は2人に注目している。次期S級冒険者候補に名前が挙がったエリスちゃん。それに、歴代最速の討伐速度を誇るアーネちゃんとしてね。」


更には、魔法を一度も使用しなかったことが彼女らの評価を上げている。あの映像は、望めば誰でも視聴できる物。彼女らの活躍を聞きつけた者達が、挙ってあの映像を見ている。


「指名依頼もたくさん来るだろう。だから、これから忙しくなるよ。頑張ってね。」


彼女の忠告に緊張しつつ、2人は覚悟を決める。まずは、冒険者ギルドに向かおう。と。


「2人共派手に暴れたにゃあ。今このギルドは、2人の指名依頼で溢れかえってるにゃ。」


「そうですか…」


未だに実感が湧かないエリスとアーネだったが、ニアの少し疲れた顔に嫌でも実感が湧き始めた。


「ひとまず、優先すべき依頼を纏めておいたから目を通しておくにゃ。」


「はい。」


それぞれ纏まれられた依頼書を受け取り、ギルドの椅子に座って一度目を通す。


中には、A級の域を逸脱した依頼もあるが、ほとんどが討伐依頼であるのは言うまでもない。


「この依頼…」


それはS級の魔物の討伐だ。それもサンドワームより遥かに強い。


「ケルピーですか。」


「うん。」


ケルピーは湖に住む魔馬(まば)族の魔物で、水辺であればあのニーズヘッグをも上回る力を有している。つまり、ケルピーは今明らかになっているエリスの実力では、到底かなわない相手。


「この依頼主はどうやら、エリスちゃんの実力を確かめたいか…もしくはエリスちゃんの実力を見抜いているんだろうね。」


エリスはエフィの言葉に反応して、依頼主の欄に目を向ける。


そこには、イデオ=ヴィアと書かれている。


「イデオ=ヴィア…確か、有名な商人の名前ですよね?」


「良く知ってるね。そうだよ。」


イデオ=ヴィア。数年前にピスティニ王国という魔法道具大国の爵位を得た、平民出身の商人だ。


魔法道具の流通に大きく関わっており、子爵ながら、ピスティニ王国内では強い権力を有している。


「私はその依頼、受けることを勧めるよ。彼との繋がりは、得ようと思って得れるものではないからね。」


「そうですね。受けてみます。」


受けると決めたからには、今の内の準備を終えておこうと決めたエリスは、ニアに依頼の受注を伝えると、アーネを連れてピスティニ王国行の馬車を予約しに向かった。


彼女らを見送り、エフィは1人ギルドに残った。ニアに引き留められたのだ。


「エフィ。あの依頼人って、魔王軍の奴だよにゃ?」


「そうだけど?」


「という事は、魔王も本格的にエリスちゃん達が戦力になるか見定め始めたってことよにゃ。良いのかにゃ?」


ニアの疑問にエフィは何を今更と、迷うことなく「ああ。」と頷く。ニアは彼女の変化に驚きつつも、成長したエリスとアーネの実力を考えれば、彼女の判断も納得できると思った。


「そっか。なら良いにゃ。」


それ以上聞くともないニアは、納得したとエフィに伝え、彼女がギルドを去るのを見送る。


――エリスちゃんとアーネちゃんは予想以上に強くなっているようにゃ。期待に押しつぶされにゃいか心配だけど…そっか。だから、エフィは初めての依頼をあれにさせたのかにゃ?


エリスとアーネに過度の期待を抱かないであろう、魔王軍参謀兼第三軍将軍、イデオ=フィーアの依頼を。



「ここがピスティニ王国の王都、レイオン都市ですか!」


翌日の夕方に到着したレイオン都市は、明かりに包まれていた。


思わずエリスも凄いと言葉を零すほどに、レイオン都市は前世と比較しても遜色ない程の生活水準を誇っていた。


道沿いはどこも街灯に照らされ、目に入った家々からは光が漏れていた。そこには夜の闇がない様に思えた。


「今日は宿に泊まって、明日ヴィア子爵に会いに行こうか。」


「はい。」


日はもう暮れてしまったので、ギルドが提供する宿に泊まることを決める。


翌日。食事を済ませると、早速宿を発ち、ヴィア子爵の屋敷に向かう。


「あらかじめ、言っておきたい事がある。」


エフィが切り出したのは、当然、今日の依頼について。


「今日の戦闘は2人だけのものだ。でも、ケルピーは結構強い。気を付けてね。」


「はい。」


エフィには、ある思惑があった。


ケルピーは水の馬だ。吸血鬼と同じように物理攻撃に完全な耐性がある。その為、エリスとアーネがが2年間で極めた、剣術や弓術は通用しない。当然、魔法を纏わせた剣や、魔法が込められた矢を用いれば通用するが、その様な戦いをエフィが求めていないことを2人は気づいている。


魔法。それだけを使って、S級の魔物を倒す。アーネにとっては初めての、エリスにとっては力を封印したままでは初めての挑戦になる。



「ようこそ。エリス殿、アーネ殿。それに、エフィ殿も来てくれましたか。」


「はい。お久しぶりです。ヴィア子爵。」


到着すると、そのまま子爵の書斎に通され、早速彼と顔を合わせる。


メガネを掛けた糸目の彼は、いかにも曲者と言った様相で、裏のない笑みは、寧ろ彼の得体の知れなさを際立たせる。


極めつけは、妙な威圧感。ある一定の実力を得たエリスとアーネは、彼に違和感を覚える。漂う魔力は魔物の様に上質で、しかし気配は人間そのもの。


「早速、依頼についてお話ししましょう。」


魔道具に用いる幾つかの鉱石は湖の底から採取できるようで、ヴィア子爵が所有するそんな湖の1つに突然ケルピーが現れたそうだ。


「被害が拡大しない様、結界を張っていますがどれ程続くかわかりません。早急な討伐をお願いいします。」


「お任せください。直ちに向かい、討伐を完了させます。」


湖の位置を示した地図を受け取り早速、討伐に向かう。ただ、エフィは何やら用事があるようで、2人を見送り彼女だけ屋敷に残った。


「どうやらそちらも私の考えを理解した様だ。」


「はい。ペトと彼女らが接触した時点で、我々は貴女の思惑を理解しました。」


約4年前。エリスが誕生し、アーネと出会ったのが全ての始まりだった。


「エリスちゃんは、〈君主の大悪魔〉ディアボロスの1人娘、ラミアの肉体を用いて〈女神〉ユースがこちらの世界に転生させた対邪神における切り札だ。ここまでは貴方達も理解しているだろう。」


「はい。あのステータスはまさに、貴女に等しく神に愛された者のみに与えられる物でしょう。ですが、まさかそれ以外にも何か女神には思惑が?」


「アーネちゃんの存在もユースによるものだ。」


アーネとエリスが出会ったのは偶然ではない。エリスを〈神代の領域〉を超越した存在にする為の、女神による計画の一旦だったのだ。


「かつて。フェンリルという大天使がいた。」


フェンリル族が誕生した歴史が、今、語られる。

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