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告白

四肢が再生した憂は、充に支えられながら、何とか体を起き上がらせる。


未だ手にも足にも感覚がないが、それでも、現実では吸血鬼である彼女には慣れた物で、感覚がなくとも少しだけならその手を動かすことができる。


「凄い。治ったばかりで、もう手を動かせるんだね。」


冷え切った憂の手を温めようと自分の小さな手で優しく包みながら、聖は何とか手を動かそうとする憂を激励する。


「無理しないで、ゆっくりでいいからね。」


彼女の優しさに触れ、憂は先程には出なかった涙を少しずつ流す。


「大丈夫?怖かったよね。これからは痛い思いをしなくて大丈夫だからね。」


突然泣き出した憂を慰めながら、聖は彼女の年齢に対して明らかに小さ過ぎる体を抱きしめる。


――ごめんね。


死んじゃって。


憂は、今になって彼女に謝る。4年前。彼女に救ってもらった命を他の命を救うために無責任に捨ててしまった事に対して。


「ハッ。」


そこで、彼女は夢から覚める。


「大丈夫ですか?魘されていたみたいですが。」


彼女の手を握って傍らに座っていたアーネは、心配そうな顔で彼女の顔を覗き込んでいる。


「アーネ。大丈夫…だよ。」


鮮明に脳裏に残るあの夢に、エリスはいつになく弱っていたのか少しだけ手を震わせる。


「大丈夫では、なさそうですね。」


エリスの言葉とは裏腹に、彼女の体はその動揺をアーネに見せつける。そんな彼女に、アーネは優しく微笑み、彼女の体を優しく抱きしめた。


「私の前だけは無理しないでください。どんな夢をエリスさんが見たか、私にはわかりません。無理に話して貰わなくても良いです。ですが、私はここにいます。ですから、頼ってください。私を。」


彼女に抱かれながら聞いた彼女の言葉に、エリスは黙り込んでしまう。しかし、数秒の沈黙の後に小さく一度だけ「うん。」と、彼女に返事をする。


そんな彼女が微笑ましく、アーネは抱かれながら顔を埋めている彼女には見えない所で笑みを零す。


「少しだけ、このままでいさせて。」


「はい。」


エリスは心の整理がつくまで、心置きなくアーネの体に顔を埋めた。


それが数分だったのか、数十分だったのか、はたまた数時間だったのか彼女らにはわからなかったが、2人にとってその静寂が、この上なく心地よい物であったのは事実である。



「ごめんアーネ。落ち着いた。」


「大丈夫ですよ。エリスさんが弱っている所なんて珍しいですから、ちょっと楽しかったですし!」


「アーネってそんな加虐的だったっけ?」


少しだけ気まずい空気の2人だったが、アーネの気の利いた冗談によって、その場には長い静寂を破る笑いが生み出された。


「ねぇアーネ。」


少しだけ、先程の出来事を忘れて他愛のない話をしていた2人だったが、先延ばしにはできないと、エリスによってある話が切り出された。


「夢の話。アーネにも話す必要があると思うんだ。」


「…わかりました。聞きますよ。それが、どんな話であれ。」


今までエリスは、自分が転生者であるという事実をアーネにもエフィにも話さないでいた。それは、転生者という事実が2人に受け入れられない可能性が怖いとか、そもそも信じて貰えないかも知れないという不安があったのではなく、ただ単純に、その辛い過去を彼女でさえあまり、思い出したくはなかったから。その為彼女は、充や香、そして聖に受けた恩すら忘れ、誰にもその過去を離さず封印し続けてきたのだ。


しかし夢を見て、彼女は今一度過去を清算する必要があると思った。地球に戻って、親友の聖や育ての親である香に謝罪することはできない。しかし、アーネやエフィに過去を打ち明け、前に進むことはできる。


エリスは決心したのだ。もう、過去を隠すのは辞めようと。


「私は、この世界とは別の世界から来た、転生者という者なんだ。」


それからエリスは話した。


生まれたばかりに頃から、父親に暴力を受けていたこと。物心がついた頃に監禁され、それから数年、身動きすら取れない状況だったこと。充や香、聖に助けられたこと。学校に行けるようになったこと。子供を助けて交通事故で亡くなったこと。


「そして私は、女神に会った。私はどうやら、〈世界渡り〉というものに耐えられる精神力を持っていたらしい。その〈世界渡り〉で、私はこの世界に吸血鬼として生まれ変わった。これで話は終わり、後はアーネに出会ってそれからはずっと一緒に過ごしていたからわかるでしょう?」


エリスの話を聞き終え、アーネはすっかり黙ってしまう。そんな考え込んでいるアーネをエリスも黙って、彼女の考えが纏まるまで待つ。


「話してくれてありがとうございます。」


アーネはまず、感謝から述べた。それは、エリスを不安にさせない為という理由などでは無く、最初に彼女の頭に自然と浮かんだのが、感謝の言葉だったから。そしてそれから彼女は、ある1つの疑問をエリスに問いかけた。


「それで、1つ聞きたいことがあります。」


「何?」


「エリスさんが吸血鬼という種族を選んだのは、本当に最強になりたかったからなんですか?それが気になって…」


アーネは疑問に思った。


エリスは吸血鬼を選んだ理由をまた誰かに監禁されない為や、昔本で読んだ英雄に憧れた為と語ったが、アーネにはそれが腑に落ちなかった。


「どうしてそう思うの?」


首を傾げるエリスに、アーネはその理由を口にする。


「吸血鬼は、人間に恐れられる魔人です。エリスさんの話を聞いた限りでは、憂さんは大事な友人を持ち他者を思いやる我慢強い方です。そんな憂さんが、人間社会に溶け込めない可能性のある吸血鬼を選んだのが不思議で。」


アーネの理由にエリスも納得してしまう。


確かに、この世界を訪れて始めた出会った人間が、ウリック達だったから良かったものの。もし、別の人間と遭遇していたら、早々にS級冒険者などに討伐されていたかもしれない。


何故その可能性を当時のエリスは考えられなかったのだろうか。


憂が異世界の事情を知っていなかったのは理由の1つだろう。しかし、それだけでは彼女が吸血鬼を選んだ理由にはならない。何故なら、異世界の事情を知らなくとも、想像できる範囲内のことだから。


では、彼女が吸血鬼を選んだ理由は何だろうか。エリスは今一度考える。そして、当時の彼女のあろ心情に気付いた。


「…多分。聖ちゃんの力が忘れらなかったんだと思う。」


聖の〈治癒〉によって体が再生した光景。それは、憂にとって最初の幸せな思い出だ。


彼女はその思い出を無意識に思い出し、もう一度、その瞬間を見られるかも知れない力持つ吸血鬼を選んだのかもしれない。付け加えれば、吸血鬼を選べば少なくとも、再び体を永遠に欠損するようなことは起こりえないと思ったのだろう。


「なるほど。つまり、それだけエリスさんにとって、聖さんは大事な存在だったんですね。そういえば、その聖さんってどんな方だったんですか?」


何故だか嬉しそうなアーネは、聖がどの様な人物か気になっている様子だ。


「そうだね。聖ちゃんは、代々神職を受け継ぐ家の出身で、特殊な能力を無しにしても、不思議な力を使えたんだ。結界だったりとか、除霊だったりとか。」


「そうなんですか!では、そちらの世界でも魔法の様な力を使える人が何人かいるんですね。」


「うん。私がこの世界に来ていきなり魔法を使えたのも、もしかしたら以前に不思議な力を見たことがあったからかも。」


今思い返すと、こちらの世界にすぐ適応できたのも、吸血鬼の力を有効活用できたのも、そもそも吸血鬼を選べたのも聖のおかげだ。


今まで過去を思い出そうとしなかったのをエリスは今になってまたも後悔をする。どれだけ彼女に感謝しなければならないのかと。


「ありがとうアーネ。気づかせてくれて。」


「ん?何がですか。」


エリスは笑みを浮かべ、真っ直ぐアーネの顔を見て、無自覚な彼女に感謝する。


「あれ?」


そしてやっと気づく。


「もしかして、アーネってまだ一睡もしてない?」


彼女の少し疲れた表情に。


「えっと…はい。」


魘されるエリスが心配で、起きて彼女の手を握り、起きたばかりの彼女を慰める為に抱き締め、落ち着いた彼女の話を今聞いている。


今になって気づく、アーネに眠る時間はなかった。


「ごめん気付かなくって。もう寝よう。明日も早いし。」


「いえ。エリスさんが謝る必要はないですよ。私が心配で勝手に起きていただけですから。」


この状況でも気を遣うアーネに、エリスは彼女の言葉をそのまま返す。


「アーネ。私の前だけは無理しないで。2人の時は気を使わなくて良いからね。」


エリスに自分の言葉をそのまま返されてしまい、アーネはハッと気づく。


「はい!ごめんなさい。私が言った事なのに、私ができてませんでしたね。」


嬉しそうに笑うアーネを愛しく思いつつ、眠くはないがエリスは進んで横になり、彼女が眠りやすい様に振る舞う。


「えへへ。ありがとうございます。」


太陽の様な笑みを浮かべて、アーネはエリスの隣で同じく横になる。


すると、想像以上に疲れてしまっていた様で、横になるなり眠ってしまう。


「ごめん。そんなに疲れてたんだね。」


自分の身勝手さに嫌気がしつつ、アーネを起こさない様エリスもそのまま眠りにつく。


ぐっすり眠り眠くないはずなのに、何故だか重い瞼を閉じる。


「おやすみ。」


瞼を閉じながら、眠るアーネに小さく声を掛け、エリスも深い深い眠りにつく。


今度は夢を見ずに。

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