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成長

「エフィちゃん。随分とあの子達に厳しいんじゃない?ほんとに大丈夫なの。いきなり邪神相手なんて。」


「今の彼女達なら問題ないはずだよ。まぁ、もし2年間も師匠の下で修業したのに、下位の邪神も倒せないようなら、2人とはここでお別れだ。」


「ふーん。なーんだ。思ったより甘いみたいだ。」


エフィの発言はつまり、もし2人が負けそうになっても助けるし、その後も彼女達の身の安全は保障すると言う事。


まさに、彼女らしい考え方であった。


しかし、ニンフとペトにとっては意外だった。彼女らの知るエフィは、絶対にその様な考えをする人物ではなかったから。


恐らく、今までのエフィならこう言っただろう。


下位の邪神も倒せないようなら、2人をここで見捨てる、と。


彼女達を助けないで、その場で見捨てて彼女達は邪神に殺させると。そうなれば彼女達はそれまでで、今後の中位、上位との戦いにはついてこれないから仕方がないと。


「随分と変わったようだね。エフィちゃん。まるで、ギル君が生きてた頃の君みたいだ。」


ニンフの言葉は的確で、確かに2人と出会って以降、彼女はまるで、ギルと呼ばれる人物が生きていた以前の様な性格に戻っていた。そしてそれは、エフィも認める所で。


「ああ。2人のおかげで私は変わった。私の心に空いた穴を2人が埋めてくれた。2人の…一生懸命に頑張る姿が、何故だかギルと重なったんだ。」


そう嬉しそうに語るエフィが満足して語り終えるのを、ニンフとペトは静かに微笑んで待ち続ける。


「もし今2人を失ったら、私はもう戦えない。だから、もし2人が負けそうになったら、助けた後、君達の所で保護して貰うよ。」


「箱庭で?貴女は安心できても、彼女達の気持ちはどうするのです?エフィ。」


「あの子達が気絶している間に、空間魔法で箱庭まで送る。私の指示だと言えばあの子達は素直に聞くだろう。」


ペトの質問に笑みを浮かべて返答するエフィの様子はどこか狂気を帯びていて、やはり彼女の心の穴は埋まりきっていないのだとニンフとペトに理解させた。


「まぁ安心してよ。そうはならないはずだから。」


エリス達が勝つと確信しているような言動に、ニンフもペトもどこか納得している。


何故なら、2人はエリス達を直に見て、彼女らが下位の邪神に敗れることはまずないと確信できるから。しかしながら、何が起こるかわかないのが戦闘と言うものだ。


再び、彼女達は空間魔法で邪神との戦闘を観測し始める。そして、その状況に動揺する。


「エリスさん、避けて!」


「ん?」


最後の一体となった邪神が初めて魔法を放ってきた。アーネの声と同時に回避したエリスに直撃することは無かったが、空中で爆散するその水魔法の威力は想像を絶する物だった。


「なんでいきなり魔法を撃ってきたのでしょう?」


「わからない。魔法が使えるのに使ってこなかったのか、まさに今使えるようになったのか。」


「でも、空間魔法を使ってきましたよね?」


2人は困惑していた。空間魔法が使えるのに他の魔法は使わず、残り一体のこの状況になって、やっと魔法を使い始めたことに。


それもそのはず、あの空間魔法を発動したのはエフィだ。エリスとアーネに試練を課すために、エフィが彼女らを閉じ込めたのだ。


であれば、魔物は今まで魔法を使えなかったのだろうか。


「何故下位の邪神が魔法を?」


そんな状況を観測する、エフィ達も困惑していた。そう、下位の邪神は魔法を使えないのだ。


下位と中位を別ける基準。それは、魔法の発動ができるかどうか。その為、下位と中位のステータスはほとんど同等。しかし、魔法が発動できるかどうかで別けなければならない程、邪神の魔法は強力。


「アーネ!」


邪神によって広範囲の水魔法が放たれる。その威力は尋常ではなく、一度でも直撃すれば体が消滅するだろうと想像できる程の威力だ。


必ず避けなければならない。しかし、アーネでは到底避けきれない速度で魔法は展開されていく。その状況にエリスは瞬時に判断し、アーネに直撃する直前には彼女の傍に移動し、彼女を抱きかかえ一瞬で空中に飛翔する。


「ありがとうございます!」


「気にしないで。それより、凄まじい威力…。」


邪神の全身から刃の様に無数に放たれた魔法の水は、金属の地面を簡単に抉り取り、平坦だった地面を簡単に荒地にしてしまう。


「直撃したら一溜りもありませんね。どうしますか?」


「そうだな。」


空中で飛び回り続ければ、邪神の攻撃を避けきることは可能だ。しかし、その間エリス達が邪神に攻撃する手段がない。


作戦を考えながらも、エリスは無数の魔法で邪神に攻撃するが、魔法は相性関係なく邪神に届く前に水魔法によって相殺されてしまう。完全に手詰まりだ。


魔法だけなら。


「そろそろ。あれを使おう。エフィさんに見せるまで取っておきたかったんだけど。」


「あれをですか。わかりました。では、魔法が届かないところから、援護しますね。」


エリスの〈魔法倉庫〉から取り出されたのは、何の変哲もない太刀。そして、アーネの腰に下げた〈魔法袋〉からは、弓とえびら()が取り出された。


真正面に邪神を据え、エリスは鞘に手を当てる。その様子に、アーネも箙から矢を5本も取り出して弓を構える。


直後、アーネによって同時に5本の矢が放たれる。その矢にはエリスの魔法が込められており、5本とも正確に邪神に命中すると同時に魔法が発動し爆散、邪神を炎上させる。通常の矢に油断していた邪神は、突然の爆発によろけてしまう。


その一瞬の隙をエリスは逃さない。


次の瞬間。邪神の体が横に真っ二つになる。


「流石は師匠直伝の〈居合術〉。強敵にもちゃんと通用する。」


白銀杏によって編み出された世界最速の剣術。橙の勇者、東雲橙華にも伝授されたその剣術をエリスは今使って見せた。


尋常ではない強度を誇る、邪神を斬っても刃こぼれなし。


刀が特別なのではない。エリスの〈武具強化〉がそのレベルに達しているのだ。


「想像以上だ。」


「だね!」


「ですね。」


邪神の消滅と同時にディメンションを解除しつつ、エフィは感嘆の声を漏らす。その様子に、ニンフとペトも同意するように頷く。


「中位の邪神は相性や状況によっては、S級冒険者ですら手こずる。あの邪神は中位に上がったばかりだったし、相性も状況も2人に有利だった。だけど、それを差し引いても中位の邪神を討伐した事実は変わらない。」


エフィは2人の成長に笑みを零す。


「強くなったね、2人共。私が想像する以上の速度で。」


部屋の扉が開かれる。


「あれ?ニンフさんにペトさん。どうしたんですか?」


少し疲れた様子のエリスとアーネが部屋に入ってくる。


「いやぁ。ちょっと用事があってね!それで、気を付けて帰ってこれたかな?」


「はい。先程未知の魔物に襲われたのですが、ニンフさんのおかげで、状況の整理が簡単にできました。ありがとうございます。」


「そっか!なら良かった。」


エリスとアーネに満面の笑みを見せつつ、一瞬だけエフィの方に振り返ると、彼女に悪戯っぽく笑って見せる。


エリス達がなるべく優位に立てるよう、忠告をしていたニンフに少し呆れた表情をするエフィだったが、忠告に従い、ニンフの思惑通りに動けたのはエリス達である。


少ない情報から最善の行動を成立させる。それも一つの能力であるなら、16体もの邪神に勝利したエリス達をエフィは認めざるを得ない。


「助けに行けなくてごめんね。何者かの襲撃を受けていることには気づいていたけど、君達なら大丈夫だろうと思ったから行かなかったんだ。強くなったね。2人共。」


「「はい!」」


尊敬するエフィに褒められて、2人共に嬉しそうに返事をする。


「気づいたかな?」


「はい?何をですか。」


「2人が倒した敵が邪神だったって。」


エフィの言葉に2人は驚きの声を上げる。


何故なら、以前遭遇した邪神に比べて、彼女らが応戦した魔物が弱かったから。


当然。あの魔物の強さは尋常ではなく、S級程度の強さはあっただろう。しかしながら、その程度の強さだ。彼女らが知っている邪神とは比較にならない。


「あれが邪神ですか?以前遭遇した邪神に比べれば…」


エリスの疑問にエフィは深く頷く。


「うん。弱かったよね。当然だよ。君達が戦った邪神は下位だからね。」


「下位?」


2人は思い出す。以前遭遇した邪神。あれをエフィは中位と言っていた。あの邪神と自分達が戦った邪神の強さが比較にならないのは当然のことだったのだ。


「なるほど。下位と中位にあれ程の実力差があるとは思いませんでした。そういえば、あの邪神は魔法を最後以外は魔法を使いませんでした。下位の邪神は魔法が使えない物なのですか?それとも、私達に油断していただけですか?」


エリスの質問の答えとしての正解は、下位の邪神は魔法を使えない。しかし、エフィはあえてこう回答する。


「2人に油断していたんだろうね。下位の邪神は知能が低いから、相手との力量差を測れないんだ。」


「そうですか。なら、私達は運が良かったですね。」


エフィの狙いはエリスの返答にあった。


下位と中位の差は、魔法使用の有無だけで語れる程小さくない。邪神の魔法はそれだけ特別。あれらが簡単に振るう魔法1つで、一瞬にして国家が滅んでしまう威力がある。


もし、彼女らに下位と中位の差は魔法使用の有無だと伝えてしまったら、今後の邪神との戦闘で彼女らに油断を与えてしまうかも知れない。


それは杞憂だとエフィも理解している。彼女らがその程度で油断するような人物ではないことを。しかし、エフィはなるべく彼女達に邪神と戦ってほしくない。少なくとも、もう一段階強くならなければ。だからエフィは、2人に嘘をつく。


下位も魔法が使えるのだと。


「もっと強くならないとね。」


「はい。」


2人は強くなった。A級には当然。もしかしたら、S級冒険者にすら届くかもしれない。


エリスの使った〈居合術〉。アーネの使った〈弓術〉。どちらも、〈武芸百般〉と呼ばれる白銀杏に匹敵する完成度であった。


「君達の武術。どちらも私に教えられる物はない程になったね。だから、オルニス都市に戻ったら魔法を鍛えよう。今の2人の魔力量ならどんな魔法だって使えるだろうからね。」


魔法。それは、エリスが最も得意とする力だ。しかし、恐らく今の彼女は〈居合術〉を扱うほうが強力なのだろう。何故なら、杏は魔法を不得手としているため、彼女では魔法を教えることができないから。


だからか、エリスの魔法の威力は彼女の魔法攻撃力に依存していた。つまり、彼女の魔法能力は2年前と比べて全く上昇していない。


「2人共。もっと強くなれるよ。」


エフィは嬉しそうに、ニヤリと笑みを浮かべる。


世界最高の武芸者に武芸を教わった2人に強力な魔法を教えれば、2人がどれ程強くなれるかは想像に難くないからだ。

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