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船上

2年が経過し、杏の指導のおかげで、エリスもアーネも物理攻撃力が大幅に上昇した。当然、他のステータスも順当に上昇している。


更には、新しい戦い方を学んだためか、彼女らの基礎的な戦闘能力も確実に成長した。


「ごめん。随分と遅れちゃったね。」


彼女達は今、港でエフィを出迎えた所であった。


「いえ。エフィさんですら手こずる何かが、大陸で起こったのですよね。」


「…そうだね。」


デンドロン王国がある東大陸の状況は、島国である大和国にも届いていた。


あの邪神と呼ばれる怪物が、東西問わず、大陸の至る所で現れたそうだ。S級冒険者や各国の騎士団、そして、誰も知らないという謎の集団によって、現れた邪神は全て討伐されたが、討伐が完了すまでに幾つもの国が滅亡した。


「たった2年で随分と成長したね。やっぱり師匠に任せてよかった。」


笑顔を見せる彼女だが、拳を硬く握りしめている所を見るに、彼女が無理をしているのだとわかってしまう。


「エフィさん。お久しぶりです。」


「吹雪様。お久しぶりです。」


「…」


吹雪の挨拶に返事をするエフィに何を感じたのか、吹雪は少し悲し気な表情をする。


「早速ですが、少し師匠に会いたい。吹雪様、彼女の下まで案内して貰っても?」


「はい。そういうと思いました。あちらにいますよ。」


城内のベンチで優雅に茶を飲んでいる杏がそこにはいる。


「相変わらずですね。師匠は…」


エフィが苦笑いをする所を意外に思いつつ、エリスも杏のいるベンチに目を向ける。


「エフィさん。お久しぶりです。大陸には邪神が現れているようですが大丈夫でしたか。」


「上位の邪神は現れなかったので大丈夫でした。S級冒険者、各国の騎士団、そして、彼女らのおかげで無事に処理できました。」


エフィの「彼女ら」という発言に、杏は一瞬だけ目を見開く。


「噂の謎の集団とは彼女らでしたか。なるほど、今回ばかりは早々に手伝ってくれたのですね。ところで、私は何もしなくてよかったのですか?」


「したじゃないですか、あの子達の師匠を。」


「ええ。確かにしましたよ。ですが、あの子達は私などいなくても、恐らく今ほどの実力を得たでしょう。」


杏の謙遜の言葉にエフィは苦笑する。


「何を言っているのですか。エリスちゃんとアーネちゃんのステータス。あの日からたった2年で、平均で2万以上になっている。流石としか言いようがないです。」


「…不得意を得意に。得意を当然に。才能を伸ばせば、あの程度のこと、2人には造作もございません。それに、貴女という目標が2人にはあります。明確な目標は人を成長させる。つまり、貴女のおかげです。2人が成長したのは。」


「そうですか?貴女にそう言っていただける嬉しいですね。」


杏の言葉に喜んで、無邪気に笑うエフィはまるで幼い少女の様で、それ以降彼女は暗い表情をしなかった。



杏との談笑を終え、エフィは帰る支度を始める。


「もう行ってしまうのですね。もう少し貴女と話していたかったのですが。」


「すみません。ですが、私は彼女達としなければならないことがあるので。」


杏と一言挨拶を交わし、エフィは一足先に客船に足を踏み入れる。


「また会いに来てね。2人共。」


「うん。きっと会いに行くよ!」


随分と成長したアーネと吹雪は、お互い抱き合ってその別れを惜しんだ。


「吹雪。」


吸血鬼である為か、エリスの姿はほとんど変わっていない。しかし、その存在感は以前にも増して凄まじい物になっている。


「1週間に1度手紙を出す。毎週必ず出すから、ちゃんと受け取ってよ。」


「わかった。それなら、私も必ず返信を送るよ。」


「ありがとう。」


涙はない。笑顔の別れ。彼女らに相応しい別れであった。


船内に移動すると、エフィと共にシルフが待っていた。


「久しぶり。」


「シルフさん。どうかしたんですか?」


「この船に知り合いが乗っていてね。さっき会ってきたんだ。」


彼女の言葉にエリスは疑問を抱く。精霊であるシルフの知り合い。何故そんな人がこの船に乗っているのだろうか、と。


「どんな人だろう。って思ってるよね。安心してよ。多分だけど、すぐに会うと思うから。」


彼女の言う通り、エリスとアーネはその人物に早速、遭遇することになる。


「おや。貴女達は…」


「はい?」


「エフィから聞いていませんか?この船に知り合いが乗っていると。」


漆黒の美しい長髪を持つ女性がエリスとアーネに話しかける。どうやら彼女がシルフに言っていた人物の様だ。


「エフィさんは特に…ですが、シルフさんが知り合いがいると言っていました。」


「シルフが?そうですか。それなら、それは私ではありませんね。」


女性が少し横にずれると、少女の姿を見ることができた。どうやら、女性の背後に立っていたその小さな少女が、シルフの知り合いの様だ。


「ん?ペトちゃん何か言った…あら?貴女達はシルフの言ってた2人ね。」


透き通った青色の髪に瞳。水を彷彿とさせるその少女は、一目で彼女が水の大精霊だと2人に理解させた。


「初めまして、私はニンフ。一応水の大精霊って言われてる。よろしくね。それと、この子はペトちゃん!私の契約者だよ。」


「ニンフさんにペトさんですか。よろしくお願いします。」


ペト。エリスはその名前にどこか聞き覚えがある様な気がした。しかし、そんなことを考える暇もなく、ニンフの話は進んでいく。


「ねぇねぇ。ここじゃ君達の話できないからさ。ちょっと移動しようよ。」


移動した先は彼女らの客室。エフィ達が使っている客室から少し離れた位置だが、同質の客室だ。


「ここは防音対策もしかっりしている。それにペトちゃんの結界も張ってある。存分に君達の話ができるね。」


「はい…?」


訳が分からないまま、2人はそこまで来てしまった。


「まぁそう緊張しないで。2人が魔物だってことは知ってるよ。シルフから聞いてる。それで本題。2人はどこまで知ってるのかな?この世界のこと。」


「この世界…ですか?」


ニンフの言葉にアーネは理解できない様子で声を漏らす。


「うんうん。この世界。2人共さ。見たことあるでしょ?邪神って言う怪物。」


「はい。」


「あれはさ。この世の物じゃないんだよ。正確にはこの世界の物じゃない。別世界の物だ。」


別世界。その単語にエリスは動揺し、アーネは首を傾げた。


「この世界とは別に、後2つの世界がある。私達は仮に、この世界を緑、邪神が住む世界を黒、もう1つの世界を青と呼んでいる。青の世界より緑の世界が、緑の世界より黒の世界が魔力の濃度が濃いんだ。」


青の世界。恐らくそれが、エリスの前世。つまり地球がある世界のことだろう。


「邪神。強かったでしょう?当然だよ。だって、この世界より魔力が濃い世界で生きているからね。」


地球では誰もが魔法を使えなかった。青と緑の差を考えれば、緑と黒の差もエリスには容易に想像できる。


「現在、この世界は黒の世界に侵略されている。君達も知っている邪神の大量発生だ。それを防ぐために、女神様とペトちゃんの主は長い間向こうからの扉が開かない様に対応していた。」


女神と同等と目される人物。そんな人物、彼女らは1人しか知らない。


〈暗黒竜〉メラン。歴史上最も強いとされる魔王であり、遥か昔から生きる魔物。時に、神とも呼ばれる魔物。


そして結びつく。メランに仕える、ペトと言う人物。知っている。エリスはその名前にやはり聞き覚えがあった。


魔王の配下。普通彼らは異名で呼ばれている。


エリスが知っている配下の異名は、2年前新聞で見た〈堕天使〉。


そして、エリスはその堕天使の名前を知っている。新聞を一瞥し、エフィが小さく呟いた名前。


ペト。


どうやら、エフィとペトは知り合いだったようだ。そういえば、ペトの脱走には誰かが手助けがあったようだ。つまりは、


――ペトさんを脱走させたのは…エフィさん?


何のために。エリスはそれだけを考える。しかし、そんな思考に耽っている暇はない。今はニンフの話を聞くのが先決だろう。


「扉と言っても、ドアノブがついてるような普通の扉じゃあないよ。近い物で言えば、空間魔法の空間の歪みだね。あれよりもっと大きいけど。」


世界と世界を繋ぐ扉、空間の歪み。それはどんなもので、どの様にして発生するのだろうか。そんなエリスの疑問は、口にする前にニンフによって解消される。


「何でそんな扉が開くのか。気になるでしょう?」


黙って頷くエリスとアーネに笑みを浮かべて、ニンフは話を続ける。


「無理矢理開けてるんだよ。空間魔法よりさらに上位の力でね。私達はそれを〈世界渡り〉って呼んでる。」


〈世界渡り〉。エリスをこの世界に転生させる為に神が使用した力だ。それを使用して邪神もこの世界に渡ってきているようだ。しかし、1つ違うところがある。それは、魂だけの移動では無いということ。


あれらは、そのままの姿でこちらに移動してきている。


「世界渡りってさ。結構精神力を消費するんだ。精神力が無くなると精神が崩壊する。だから強いは邪神はリスクを考えて、こちらの世界には稀にしか渡ってこないんだ。つまりさ、君達が1度見た邪神。あれでも捨て駒なんだよ。」


捨て駒。その言葉にエリスもアーネも動揺する。あの強さで捨て駒。S級冒険者ですら防戦一方になってしまうほどの強さで。


「上位の邪神が最後に確認されたのは今から5年前。ペトちゃんも覚えてるよね。」


「はい。覚えていますよ。当然です。」


ペトの表情が暗くなる。5年前に何が起こったのだろうか。それを2人も少しだけ知ることになる。


「あの日起こったことを少しだけ話そうか。」


ニンフの口から、5年前起こった事件の一旦が明かされる。


「その日は、世界を繋ぐ境界が脆くなっていた。本来は女神様かペトちゃんの主が対処するんだけど、狙っていたのか、脆くなったその瞬間、扉が開いた。そしてあれらは、百を超える邪神を連れて現れた。」


ニンフの表情も少し暗くなる。


「私はそこにいなかった。当時の状況は、全てその場に居合わせたシルフに聞いたことだよ。」


ニンフの言葉に、エリスはあることに気づく。シルフは5年目には既にエフィと契約していたことを。


「犠牲者はたった1人。デンドロン王国の公爵の長男だった。」


たった1人。その事実にエリスとアーネは疑問を抱く。中位ですら一国をも容易く滅ぼす実力。今回の大量出現で、複数の国が滅亡したのがその証明。そんな怪物よりも、遥かに強い上位の邪神が現れて、犠牲者が何故、たった1人で済んだのだろうか。


「本来なら出るはずのない犠牲だった。だって、シルフと同格の存在が後4人もいたし、ヴィーブちゃんもいたから。でも止められず、1人の犠牲者が出てしまった。」


シルフと同格の存在が後4人。その言葉にエリスは聞き覚えがあった。


2年前。ジーミから聞いた事実。エフィはシルフを含めて5度の契約をしていると。そしてその場には、シルフと同格の存在が後4人いた。つまりそこには、


――エフィさんもいた?


エリスはその事実に気付き思い出す。


ジーミの言った、「あの日」という言葉を。

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