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外出

大和国に来て1週間が経った。未だエフィからの連絡はなく、エリスとアーネは大和国での滞在を続けている。


「また来たよ。2人共。」


「吹雪。いらっしゃい。」


歳が近いからか。はたまたまだ幼いからか。アーネと吹雪はこの1週間で完全に打ち解けた。


「また橙華さんに怒られるよ、吹雪。」


そして、エリスもまた、彼女と完全に打ち解けている。


「大丈夫。今日は橙華にも兄上にも言ってあるから。」


「そう。」


どうやら、今日の彼女はいつもと違い、橙華や夜からの許可を得ているようだ。


「だからさ。今日は3人で遊びに行こう。」


吹雪のそんな提案に2人は承諾し、吹雪に案内されるまま城下町に向かった。


「吹雪様!ご友人を連れてるとは珍しいですね。」


城下の人々は吹雪を見れば誰もが彼女が将軍の娘だとわかる。将軍家と民衆の距離が近いのは、恐らくこの国の治安が良いからだろう。


人類共通の敵、魔物がいるこの世界で、極端に治安が悪くなる事はどの国でもまずありえない。しかしながら、大和国はそんな中でも極端に治安が良い。


大和国では年々犯罪発生率が低下しており、近年では大和国全体ですら犯罪発生が100件に満たないそうだ。島国という閉鎖的な環境が、そのような状況を生んだのだろうか。


「なんだか、皆さん幸せそうですね。」


「うん。」


人々の表情が明るい。武士の警備により街には魔物の被害は出ず、人々による犯罪もほとんど発生しない国。そんな国で育てば、誰もがこの様な表情になるだろう。


この国に、冒険者ギルドは存在しない。それは、国土が他国より狭く、人口も少ない為、武士だけで魔物の対処が可能であるから。その為、本当の意味で民衆の身に危険が及ぶことはない。それも、この国の治安の良さの理由だろう。


「今日はここに来るために許可を貰ったんだ。」


吹雪がそう言った場所は、極一般的な茶屋のようだった。


「いらっしゃいませ。吹雪様。お待ちしておりました。」


茶屋の奥から出てきたのは、30歳程であろう高身長の美しい女性。


(あん)。息災の様で。」


「はい。私はまだまだ元気ですよ。」


どうやら、吹雪と杏という女性の間には、なにやら深い関係があるようだ。


「2人に紹介するよ。彼女は白銀(はくぎん)杏。橙華の前に、私の護衛武士を務めていた人だよ。」


「初めまして。エリスさん。アーネさん。お2人の事は既に吹雪様から聞いております。今日は幾つかの和菓子を用意したので楽しんでくださいね。」


「はい。」


杏は早速和菓子を用意する為に、再び茶屋の奥の方に戻ってしまった。


何故、元武士が茶屋をやっているのかは不明だが、吹雪の外出が認められた理由は恐らく彼女だろう。


元武士が経営する茶屋を襲撃する者はいないだろうし、もし魔物が現れても彼女が対処すればいい。


しかし、たった1人でそれらに対処できると、夜からも橙華からも認められているのは、流石は元護衛武士と言ったところか。


「これ美味しいです!なんという名前なんですか?」


早速出された和菓子を頬張るアーネは、その見たことのない菓子の名前を杏に質問する。


「それは羊羹と言います。元々は大陸のとある国のお肉料理だったのですが、大和国に渡り形を変え、この様な甘い和菓子になったんですよ。」


「そうなんですか!これが元々お肉料理…興味深いです。」


目を輝かせて羊羹を頬張るアーネの姿にエリスと吹雪は2人して表情を綻ばせつつ、2人も羊羹を頂く。


「どうエリス。杏の和菓子は美味しいでしょう?」


「ああ。お城で出される和菓子も確かに美味しいけれど、これは格別だ。」


杏の和菓子を楽しみつつ、エリスは吹雪が何故この茶屋に自分たちを連れてきたのかを考える。


当然、和菓子を気に入ったアーネの為、というのもあるのだろうが、それでも、元護衛武士に彼女らを引き合わせたのは、何か理由があるはずだ。


エリスはこの1週間で、吹雪の優秀性を理解した。桜色の髪は伊達ではないと言う事だ。その為か、彼女の一挙手一投足に、何か裏があるのではと勘ぐってしまう。


「エリスさん。1つお尋ねしてもよろしいですか?」


「え?はい。大丈夫ですよ。」


お茶を入れ直すついでに、杏はエリスに問いかける。


「貴女は、剣をしているのですか?」


「え…はい。最近は剣の修練もしていますが。」


彼女の質問は、エリスにとって意外なものだった。何故なら、エリスは大和国に来て以来、魔法士として振る舞っていたし、そもそも、剣を握り始めたのは精々1か月前で、剣を待たずとも表に出るほど、剣を極めているわけではないからだ。


しかしながら、杏がエリスが剣を扱い始めたと気づいた理由は、至って単純な物だった。


「そうですか…最近ですか。」


「え?」


言葉を詰まらせる彼女に、エリスは困惑する。


「ああ。気を悪くさせてしまったらごめんなさいね。ただ、貴女が優れた剣士に見えたので。」


「優れた…剣士に?」


エリスの疑問に、杏はすぐさま頷く。


「ええ。貴女の足運びは、熟練の剣士に似ているので。」


彼女の足運びという言葉に、エリスは何故彼女が勘違いをしてしまったのかを理解する。


「なるほど。足運びですか。その様に杏さんが思った理由は、恐らく私がエフィさんのを真似をしているからです。」


エリスはエフィに直接教わらずとも、多くの事を彼女から学んでいる。魔力の扱い方や戦闘時の動き方、そして歩き方。エリスが彼女から模倣した物は数知れない。


「エフィさんのですか。なるほど。確かに彼女の歩き方に似ていますね。特に、隙の無さが。」


どうやら彼女もエフィを知っているようだ。


「エフィさんを知っているのですか?」


その質問に彼女は当然のことの様に「ええ。」と頷く。


「彼女を知らない人の方が珍しいと思いますけど、私の場合は何度か手合わせをしたことがありますから。」


「へぇ。手合わせを。」


エフィがいないと、様々な人が彼女の話を2人にしてくれる。


「はい。当時彼女はまだ12歳でしたが、既に完成された剣士でした。」


「12歳…」


今のエリスよりも5歳も若いころには、既に杏が認めるほどの剣士だったエフィ。その事実はエリスを驚愕させ、彼女とエフィの実力の差をまじまじと痛感させる。


「エリス。余り悲観しない方が良い。私が今日貴女達をここに連れてきたのは、杏に貴女達の師匠になって貰おうと思っているからだよ。」


「杏さんに?」


「うん。エフィさんが貴女達をここに送って来たのには、何か理由があると思ったの。そこで思いついた。エフィさんの剣の師匠である杏に、貴女達を任せようと思ったんじゃないかって。」


目の前にいる杏が、エフィの剣の師匠であると突然明かされ、エリスとアーネは唖然とする。


「私は彼女の師匠ではありませんよ。数週の間、彼女と毎日の様に手合わせをしただけです。」


「そうなの?でも、エフィさんは貴女の事、師匠だって言ってたよ?」


「本当ですか?それは嬉しいですね。」


彼女自身は師匠になったと思っていないが、エフィは彼女を師匠と慕っているようだ。その実力は、どれ程の物だろうか。


彼女らは食事を終え、早速町の小さな道場に向かった。


「ここは私の修練場です。武士を退職した後でも、腕が鈍らないようにと用意しました。」


木刀を一本手渡され、エリスは彼女と手合わせをすることになった。


「まずはエリスさんの剣の腕が知りたいです。その後には、アーネさんの体術も。」


まずはエリスから。木刀を剣と考え、峰も刃と想定して手合わせを行う。


「まず私が斬りかかります。貴女はどうにかそれを往なしてください。」


「わかりました。」


杏は刀を振り上げると、軽く唐竹に振り下ろす。それは普段のエリスなら避ける速度であったが、杏に言われた通り、剣でそれを往なして見せる。


「基本ができていますね。ですが…」


「あれ?」


何故か、往なしたはずの刀がエリスの脇腹に当たっている。


「初めに唐竹に斬りましたが、その後再び斬り上げました。初めの攻撃を往なしだけで油断してはいけません。次はそこに注意してみてください。」


「はい。」


幾度も、様々な角度から放たれる杏の斬撃を往なし往なし、徐々に速度を上げていったそれは、遂に、今のエリスでは往なしきれない程の速度になっていた。


「刀の動きを見てからではなく、先の動きから刀の動きを予測できていますね。素晴らしいです。ですが、その予測に体が追い付いていません。感覚や動体視力、身体能力は優れていますから、後は剣に慣れるだけです。」


「はぁ、はぁ。はい。ありがとうございます。」


息を切らすエリスに対して、杏は全く息切れしていない。


「少し休憩しましょう。アーネさん。来てください。次は貴女です。」


「わかりました!」


エリスが休憩している間、先程まで観戦していたアーネが彼女と手合わせをする。


「エリスさんと同じく、貴女の実力も知りたいです。同じことをしましょう。私が技を掛けます。それを往なしてください。」


「わかりました。」


杏は軽く右手の突きを放つ。アーネは突きを両手で左に往なし、その後放たれる左足の蹴り上げの初動を右足で抑える。


「エリスさんへのアドバイスをしっかりと聞いていたようですね。ですが、」


「はい…」


杏の左手から放たれた突きが、アーネの腹に当たっている。


「剣と違って、体勢さえ整っていれば、体は何度でも攻撃を放てます。右手、左手、右足、左足。次にどこから何が放たれるか予測しましょう。貴女はとてもセンスがあり伸びしろもある。少しずつ早くしていきますからしっかり対応してくださう。」


「はい!」


エリスの時とは異なり、アーネとは一度ずつ間を置かずに連続で攻防を続けた。


アーネの才能故か、杏の攻撃を何とか往なし続ける。しかし、彼女の身体能力では限界があったのか、遂には杏の攻撃速度に追いつけなくなってしまった。


「アーネさんには体術の才能がある。ですが、そもそもの身体能力がまだ未熟です。技術に体が追い付いてないのです。アーネさんは獣人ですから元の身体能力が高い。その為、人間に比べて肉体の成長速度が遅いです。ですが安心して下さい。貴女の才能なら、焦らず、着実に実力を付ければ、1年後にはほとんどのA級冒険者を凌ぐ程になるでしょう。」


「はぁ、はぁ。わかりました。頑張ります!」


息を切らしながらも、アーネは元気よく杏に返事をする。


「エフィさんが、いつ貴女達を連れ戻すかわかりませんが、それまで私が貴女達に剣術と体術を教えます。よろしくお願いします。」


「「はい。よろしくお願いします。」」


エリスとアーネは彼女を師事し、そして、2年が経過した。

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