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何やら騒々しい音に驚き、エリスとアーネは飛び起きる。


襖を開きを廊下を覗くと、慌ただしく女性の武士達が駆け回っていた。すると偶然、1人の武士が彼女達に気付き近づいてきた。


彼女は斉藤苗(さいとうなえ)と名乗った。


「私、斉藤苗と申します。エリス様とアーネ様ですね。橙華様から貴女方のことは聞いています。朝から騒々しく申し訳ございません。」


苗の謝罪に、エリスはすぐさま頭を上げる様に言う。そして事情を聞いてみることにした。


「実は姫君が今朝から行方不明でして、橙華様も今意識不明の重体なのです。」


「え!橙華さんが…」


その事実は2人に衝撃を与える。あれ程の実力者が意識不明なのだから当然だ。


「橙華さんは今どこに?良かったら私が〈聖魔法〉を使います。」


「本当ですか!ついてきてください。」


苗に連れられ、2人は橙華の下に駆け付ける。


意識のない彼女を心配しつつ、エリスは早速〈聖魔法〉パーフェクトヒールを発動する。


見る見る内に顔色が良くなる橙華に、苗は安堵の声を上げる。


「ありがとうございます。今いる魔法士ではどうにもならなかったのですが、エリス様のおかげで橙華様が助かりました。本当にありがとうございます!」


「いえ。大したことでは…」


真剣に感謝をされ少し歯痒い気分になりながらも、エリスは次に吹雪の事を心配する。


「それより、吹雪さ…姫様は大丈夫でしょうか?」


「わかりません。現在も捜索が続けられていますが未だ見つけられず、私は城の警備を命じられているので探しに行けなく悔しいです。」


歯を食いしばる彼女の姿にエリスもアーネも心を痛める。それに、未だ発見されない吹雪も心配だ。2人はどうにか協力できないか考える。


そんな時、閃いた様にアーネが声を上げる。


「エリスさん!私は鼻が良いので、それで捜索の協力ができないでしょうか!」


「そうか。そうだね。捜索隊の人にお願いしてみよう。」


苗に再び案内を任せ、2人は捜索隊の隊長に会わせて貰う。そして早速、捜索に協力できないかと彼に申し出た。


「本来お客を巻き込むわけにはいかねぇが、姫さんの危機、それに橙華を傷つけられて、俺も形振り構っちゃあいられねぇ。その申し出、お受けさせていただきます。」


隊長は快く2人の申し出を承諾した。どうやら彼は近衛隊の隊長もしてるらしく、簡単に姫の匂いが残っている物を用意してくれた。


「どうかよろしく頼んます。」


隊長に任せられ、アーネは気合を入れて匂いの追跡に集中する。


吸血鬼の時とは異なり、追跡は簡単に行かない。しかし、数十分を掛けてようやく道標を見つける。


「ここから濃い匂いがする。それにこの血の跡…恐らく犯人のものです。」


夜明け前の薄暗い路地、そこに、吹雪の濃い匂いが続いているようだ。そしてそこには、血の跡も続いている。


「ほんじゃあ。この血を辿れば姫さんが見つかるってことだな。」


「恐らく。」


彼女らは全速力で血の跡を辿る。道中目くらましの為か、分かれ道どちらにも血が続いていたが、アーネがいる為捜索隊はそれに騙されることなく、


「おや。お早いご到着だな。」


片腕を失ったスーツ姿の男に追いついた。


彼の周囲に吹雪の姿は無い。


「姫さんはどこだ!」


隊長は彼の姿を見るや否や刀を抜き、その切っ先を彼に向ける。


「おお怖い。お前らの言う姫さんなら、お前らの後ろで眠って貰ってるぜ。」


全員が一瞬振り返る。確かにそこには、無傷のまま眠った吹雪が横たわっていた。しかしそこは先程彼らが来た道。何故彼女はそんなところで寝ているのだろうか。


その奇妙さに、そして、男の気味の悪さにエリスとアーネは戦慄し、気を引き締める。


「一つ言っておこう。俺の目的は、そこのガキを誘拐することじゃあねぇ。」


彼は鋭い眼光で隊長を睨みつけると、挨拶代わりか、隊長に向けて何か魔力の塊を放った。


それは尋常ではない速度で隊長に襲い掛かる。しかし、隊長はそれを簡単に刀で切り伏せ、彼との間合いを慎重に図る。


そんな彼に、男は言い放つ。


「お前らをここで足止めすることだ。」


直後、爆音と共に背後の建物が崩壊する。幸い、一部の武士が守った為吹雪は無事だったが、退路が完全に塞がれた。


「今頃、俺の仲間があの城を襲っている頃だろう。この国で俺らに対抗できるのは、お前と東雲橙華の2人だけ。東雲橙華はそこのガキを人質に始末した。この腕は予想外だがな。まぁつまりだ。」


男は、気味の悪い笑みを浮かべる。


「お前さえ足止めできれば、この国はもう終わりだ。」


男の言葉に隊長は刀を強く握り、怒鳴りつける。


「橙華を舐めるな。主の危機に呑気に眠っている程、アイツは弱くねぇ。」


彼の啖呵に男は鼻で笑う。


「そりゃあ無理だ。俺の魔法を受けて生きてるだけでもすげぇんだ。パーフェクトヒールを使ったとしても、後10日は目を覚まさねぇだろうよ。」


男の言葉は確かだ。治したエリスがそれを一番理解している。しかし、前に立つ隊長が嘘をついているようには見えない。それだけの信頼があるのだろうか。


「お前ら、この男を俺に任せちゃあくれねぇか。大事なモンを傷つけられたんだ。けじめをつけたら後を追う。お前らは殿さん守ってこい。」


「はい!」


捜索隊の全員が防がれた退路を駆け上がる。その空気を読んで、エリスもアーネも城に戻ることにする。


安心して任せられると吹雪はエリスに任せられ、捜索隊は全速力で城まで戻っていく。彼女らも後を追い、眠る吹雪に気を使いながら、できる限り早く城に戻った。


城に着いた時、2人は唖然とした。何故なら、城内に戦火の跡はなく。あるのは、城門の前で撃退された敵襲の姿だった。


「姫!」


心配した顔で駆け寄ってきたのは橙華だった。


「橙華さん!なんでもう起きてるんですか?」


「貴方のおかげです。貴女がパーフェクトヒールを施してくれたので、こんなに早く起きることができました。ありがとうございます。」


橙華の生命力に驚愕しつつも、エリスの意識は彼女の腰に下げられている刀に向けられていた。


「その刀は…」


それは、エリスの精霊剣やキュアノの聖剣と同じ様な気配を放つ刀。


「気づきましたか。これは、〈妖刀〉ムラサメ。キュアノのエクスカリバーと同じ、聖剣です。」


()()…」


南総里見八犬伝に登場するその妖刀は、刀身に水を纏っており、刃を血に曇らすことも、錆びることもなく、そして研がずともその鋭利さを失わない。そんな名刀だ。


「普段の刀では全力を出せないので不覚を取ってしまいましたが、この刀さえあればもう大丈夫です。それで、あの男は今どこに?」


「実は、今捜索隊の隊長が対峙しています。」


景忠(かげただ)が?そうですか。では大丈夫ですね。さて、一先ず姫を布団に寝かせてあげましょう。」


どうやら彼女も、彼の事を信頼しているようだ。その様子に2人も彼女に何か問うことはしない。ただ信じて、彼の帰りを待とうと決める。



「クソッ!なんだよお前、強すぎだろ。」


男は追い詰められていた。隊長、景忠の猛攻に防戦一方。彼の得意な魔法を放つ隙が無い。


「その再生速度。悪魔か。」


「そうだ。大悪魔には一歩劣るが、それでもS級程度の実力がある。お前でも一筋縄じゃいかねぇ。それに、俺と同じレベルの奴が後3人こっちにはいるんだ。つまり、この国の破滅は確実。お前が城に送った仲間は犬死にだろうよ。ハッハッハ!」


男の煽りに景忠は少しも動揺しない。彼は信頼しているのだ。東雲橙華という。1人の武士を。


だから彼は迷わない。目の前の敵に集中すると。


「久々の戦闘で鈍ってたが、そろそろ感覚も戻って来た。全力で行かせてもらうぞ。」


景忠の刀が突如禍禍しい魔力を纏う。その様子に、男は表情に出るほどの焦りを見せる。


「おいおい。気づかなかったぞ。なんで国を守る兵士がそんなもん持ってんだよ!」


「俺一人の命で国を守れるってんなら安いもんだ。殿さんには返しきれねぇ恩義もあるしなぁ。」


男が焦りを見せた理由は、景忠の刀にある。


〈おい。俺の国に手ぇ出したんだ。わかってるだろうな?〉


男の脳に何者かが直接語り掛ける。


「何であんた程の悪魔が人間なんかに…」


〈俺にも事情があるんだ。でも、お前にはどうでもいいだろ?死んでくれ。〉


景忠の振るう斬撃によって、男は一刀両断にされる。


彼の刀は〈妖刀〉ムラマサ。かつては名匠村正によって作刀された刀の総称だったが、現在ではそのほとんどが失われ、彼の持つ一振りだけとなってしまった。複数の刀の名を一つの刀に与えている為か、その1太刀は幾度の斬撃を相手に与えることができる。


それ故、男はその幾度の斬撃を受けることになる。しかし彼は悪魔だ。そんな幾度の斬撃を受けても簡単に死ぬことは出来ない。その痛みは筆舌しがたく、男は数秒後には絶命するであろうと思われる。


そんな彼の死を見届けていると、妖刀に宿っている〈千の大悪魔〉ムラマサが姿を現した。


「そういや主さんよー。お前さっき俺一人の命で、とか抜かしてたが、俺はお前の命は取らんと言ったはずだが。」


「ありゃあカッコつけだ。啖呵ぁ切った方が敵もビビるってもんだ。」


「なるほどなぁ。確かにあいつ、お前の言葉聞いて動揺してたな。」


訳あって景忠を気に入ったムラサメは、ほとんど無条件で彼と契約し、この国を守護する手伝いをしている。


「そういや、お前は早く帰った方が良いんじゃないか?」


彼に時間を持て余している時間はないそれ故に、


「そうだな。」


刀を鞘に仕舞い、彼はさっさと城への帰路についた。死にゆく男に花を手向けた後の事だが。

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