表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/83

競売

今日は年に4度ある、政府公認競売の日。本来はエフィだけで良いのだが、今回はエリスとアーネもついて行くことになった。


「この競売には世界中の貴族や冒険者が集まる。もしかしたらS級冒険者にも遭遇するかも知れない。気を付けてね。」


「はい。」


政府公認競売は、4度に渡って場所変えて開かれる。今回はデンドロン王国の王都なので、基本的にはデンドロン王国が位置する東大陸の冒険者が集まる。


東大陸のS級冒険者達は既にエリス達の存在を認知しているため、本来は彼女達に注意する必要はないのだが、万が一と言う事もありエフィは2人に忠告する。


「S級冒険者と言えば…」


そう、エリスが思い出したかのように質問をする。


「グロスィヤさんは私達に何も言いませんでしたね。」


先日はあの魔物に動揺していてエリスは疑問に思わなかったが、グロスィヤは2人が魔物であることを言及しなかった。


彼女が今まで出会ったS級冒険者達は、悉く彼女達の存在に気付き、言及、もしくは敵対した。その為、同じS級冒険者であるグロスィヤが気付かなかったとは考えづらい。


エリスの考えでは、彼はあえて言及しなかったのだと思っているが、ただ、実際はどうだったのか。彼女はそれが知りたかった。


「そうだね。まぁ、1つはグロスィヤが優しいということ。多分私の事情を察したのだろうね。そしてもう1つは、彼も魔物を匿っているということだ。」


「えっ。エフィさんだけではなかったのですね。」


エリスは彼女の発言を意外に思った。当然だ。エフィは限度を超えた強さがある為、魔物を庇護するリスクを負っていても問題がないが、普通であれば、そのリスクはかなり重いものである。


もし、魔物を庇護しているのがバレれば、他の冒険者とトラブルになるのは必然で、そんなリスクを負ってまで、魔物を庇護する必要はない。


何か特別な理由がない限り。


「あの日はいなかったけど、彼の相棒が魔物なんだ。」


「…なるほど。私達が最初ではなかったんですね。」


「そうだよ。当然、知ってる人は、少ないけどね。」


エフィが言うには、彼の相棒が魔物だと知る人物はこの世で3人。エフィとヴィーブ。そして、巨人の里の長だけだそうだ。それを聞いて、アーネは驚いたのか、感嘆の声を漏らす。


「凄いですね。今まで自分から明かす以外はバレていないんですね。」


「そうだね。でも、それは単に、彼が強いだけだよ。」


「「えっ。」」


エリスとアーネは彼女の言葉に驚愕する。


「それはつまり、S級冒険者並み…もしくは、それ以上の実力と言う事ですか?」


「うん。そうだよ。でもまぁ、関わることはほとんどあり得ないから、あんまり彼の事は気にしなくていいよ。」


彼女のフラグの様な発言から数時間後――


競売の会場で、ある男性と出会う。


「おや。エフィ殿。お久しぶりです。」


「や、やぁ。アス。久しぶり。」


どこか都合が悪そうにするエフィに、アスと呼ばれる男性も含め、3人とも首を傾げる。


「どうし――」


アスと呼ばれる男性は、なにやら〈念話〉でエフィに何かを告げられ黙る。


「2人に紹介するよ。彼がさっき話したグロスィヤの相棒、アスだ。」


「初めまして。紹介の通り、私は名前はアスです。おや?どうやら2人も私と同じようだ。仲良くしましょう。」


五感の優れたアーネにもほとんど魔力を感じさせない彼は、知的な印象を受ける顔でニコリと笑みを浮かべる。


「はい。よろしくお願いします。」


ゼラニウムを遥かに超える人間への擬態を披露する彼に、悪印象を与えない様にエリスは彼と同じように笑みを浮かべて、彼の言葉を肯定する。そして、アーネもエリスを真似て、同じように彼と挨拶を交わした。


「エフィ殿。本日は私と同じ目的だろうか?あまり貴女と競いたくはないが…」


「安心して。今日は出品者としてきたから何かを買うつもりはないよ。」


「良かった。貴女が競売に参加しないのなら簡単に落札できますね。」


競争相手としてエフィを警戒するアスだったが、彼女の目的を知り安心したように安堵のため息を漏らす。


「何を落札するつもりなんだ?」


エフィの質問に、アスは少し思案した後、彼の目的を3人に明かす。


「本日。ある魔法道具が出品されるそうです。昔、私の友人が持っていた物なのですが、何者かに盗まれてからそのまま。遂に取り戻せそうで嬉しいです。唯一の形見なので。」


「…その出品者。私だ。」


彼の目的を聞き、エフィは気づいてしまう。その出品者が自分であることを。


「そうなのですか!何故それを早く。それより、貴女、私が探している物だと知っていて競売に出したのですか!」


「ごめん。普通に忘れていたよ。だって、あんな奴が持っていた物が、君が探していたものだとは思わなくて。」


何の話か分からないエリスとアーネだったが、その魔法道具について彼女達は既に知っている。


「ああ。何の話か分からないよね。君達も知っている魔法道具だよ。」


その魔法道具の名前は――


「星竜のペンダントだよ。」


それは、かつて星竜教の教祖が持っていた、星竜の加護が施されたペンダント。3人で話し合い、競売に出品することを決めたのだが、まさか本当の持ち主の友人が目の前にいるとは、流石のエリスとアーネも驚愕する。


「これは出品を取り消そう。そして、君に譲るとするよ。」


彼女の発言に、アスは嬉しそうに感謝を述べる、


「ありがとうございます。それにしても、それはどこで見つかったのですか?」


「ああ。〈星竜教〉が持っていたんだ。」


「…ああ。あの。」


星竜教。その名前を聞いた一瞬だけ、アスの雰囲気が変わった。何故だかはわからないが、彼も星竜教に並々ならぬ嫌悪感を抱いているようだ。アーネと同じように。


しかし、それも一瞬の事。星竜のペンダントを受け取ると、また最初の雰囲気に戻り、嬉しそうにしている。


「今度お礼をします。」


「じゃあ。そのお礼は取り返してくれたエリスちゃんとアーネちゃん。それともう1人、ラルヴァにしてあげてよ。」


「わかりました。いつかまたお会いしましょう。エリス殿、アーネ殿。」


目的を果たして去っていくアスを見送り、彼女達は手続きをしに向かう。


「私だけで行ってくるから、2人はここで待っていてね。」


エフィが手続きを終える間、少し離れた壁際でエリスとアーネは先程のアスについて話していた。


「アスさん、何者でしょうか?とてもじゃないですが、魔物には見えませんでした。」


アーネの言葉にエリスも同意する。彼女も彼が人間の様に見えたから。しかし、そう見えたからこそある程度の想像はつく。


「多分だけど、竜族だと思うよ。宝玉は無いけど、S級のゼラニウムですらどこか魔物の印象を残していたから、S級以上となると竜族くらいだろう?」


「確かに、ゼラニウムさんは竜族に最も近いとされるニーズヘッグです。そんなゼラニウムさん以上の存在なんて、竜族しかありませんね。」


エリスもアーネも、その事実である予想に辿り着く。


竜族の可能性。星竜のペンダント。アスと言う名前。


「もしかして…」


「ん?」


「いえ。何でもないです。」


アーネはまだ確証を得れていない為、その予想を口にするのを止める。


「お待たせ。」


そして彼女の考えが纏まる前に、エフィが手続きから戻ってきってしまった。アーネは一度、思考を停止させることにした。


「早速、競売を見に行こうか。」


エフィに連れら、彼女らは指定された席に座る。


まず初めに、幾つかの出品の取り消しが伝えられ、周囲からは残念がる声が聞こえる。しかし、その事実に対して不満を述べる者はいなかった。


「早速ですが、最初の商品です。」


競売は滞りなく進行された。彼女達が出品した品々は、それぞれ金貨数10枚の価値がついた。そして予想通りに、サンドワームの宝玉は金貨50枚程度の価値がついた。


競売も大詰めになり、出品される品の価値がどんどん上がっていく。


「本日最後の商品です。」


そして、最後に運ばれてきたその商品は、一目で会場の全員に特別なものだと理解させ、鑑定を持つ者達を驚愕させる。


「フォボスの指輪です!」


それはかつて、魔王として君臨した吸血鬼、フォボス=エマが身に着けていた指輪。


「へぇ。凄い効果だ。」


隣に座るエフィの呟きに、エリスは無意識に頷いて同意する。


「どの様な効果を持っているんですか?」


鑑定を持たないアーネは、エリスに彼女らが得た情報を尋ねる。その返答をエリスは怪しまれない様に〈念話〉で彼女に伝える。


〈吸血鬼魔法の発動により消費する魔力を半減させる。という効果だよ。〉


エリスの返答に、アーネは驚きの表情で彼女の顔を見る。


〈凄いですね!エリスさんが身につければ、吸血鬼魔法が使いやすくなりますね。〉


そうだね。と、同意したいところだが、エリスには懸念すべき点があった。それは、その商品の価値。


恐らくは莫大な値が付けられるその商品は、エリスでは到底得ることができない物になるだろう。


彼女の予想通り、金貨100枚単位で、物凄い速度で価値が上がっていく。


「金貨5000枚。」


そして、ある老紳士によって、金貨5000枚の価値が付けられた。流石の富豪達もそれ以上の値が付けられないのか、札を上げようとはしない。その様子に、誰もが彼によって落札されるのだと思った。しかし、


「金貨6000枚。」


「えっ。」


エリスの隣に座るエフィが札を上げた。その様子に、エリスもアーネも驚きの声をあげる。


「10番金貨6000枚!」


金貨6000枚が宣言され、どうやら老紳士も諦めた様子。正確には、金貨6000枚と宣言したのがエフィだと気づいて、だが。


「他にいらっしゃいますか!他にいらしゃっらないですね。それでは、こちらの商品は――」


フォボスの指輪が、エフィによって落札される直前、会場の入り口から今丁度入ってきた少女が、「はい!」と手を上げる。


「金剛貨1枚!」


無邪気な笑みを浮かべて、そう宣言する彼女が上げる右手には、2850番の札と、虹色に輝く紛れもない金剛貨が握られていた。


「金剛貨1枚!金剛貨1枚が出ました!」


どこからともなく歓声が上がる。当然だ。どんな富豪でも貴族でも、一生に一度見れるかどうかの幻の硬貨なのだから。しかし、会場の盛り上がりとは裏腹に、エフィだけは動揺した表情を浮かべていた。


「…ティア?」


彼女の姿を見て、エフィはそう呟いた。


「知ってる方ですか?」


少女の姿を見て、名前の様な単語を呟いたエフィにエリスは質問をする。


「うん。彼女はティア。鳥の獣人、いわゆる、鳥人だよ。」


鳥人。それを聞き、エリスとアーネは首を傾げる。


それなら何故、金剛貨を使ってまでフォボスの指輪を欲しがっているのだろうか、と。


「何でティアがここに…だってあの子は…」


いつになく動揺しているエフィをよそに、エリスは何故だか、そのティアと言う少女から目が離せなかった。


燃え盛る炎な様な赤々とした長髪に、太陽の様に光り輝く赤い瞳。


鳥人とエフィは言うが、エリスにはあのような赤い鳥に覚えが無かった。


しかしながら、もし彼女が本当は鳥人ではなく、アーネの様な獣人に化けた魔獣ならば、エリスにも覚えがある。


死んでも蘇ることで永遠の時を生きるといわれる伝説上の鳥。


フェニックスである。


「2850番金剛貨1枚!金剛貨1枚です!他にいらっしゃいますか!」


金剛貨1枚が宣言され、流石のエフィも溜め息をつく。


「ごめんねエリスちゃん。流石にあの子と競り合うには手持ちが心許ない。」


「いえ。大丈夫です。」


兵器を購入できる程の金額で買われた魔法道具を身に着けるのは流石に気が引けていたエリスは、エフィを諦めさせてくれたティアに心の中で感謝した。



「やぁティア。」


「あれ。エフィちゃんじゃん。久しぶり!」


フォボスの指輪を受け取り愉快そうに歩いているティアに、エフィは声を掛ける。


「それの為に今日はここに来たの?」


「そうだよ。部下のフィオナちゃんにあげようと思って。でも危なかったよ。もう少し誰かに落札されちゃうところだった!」


「その時は私が落札してたけどね。」


苦笑するエフィに、ティアは何かに気付いたのか、彼女の後ろに立っているエリスとアーネを一瞥する。


「あーなるほど!ごめんねエフィちゃん。」


「競売はそういう物でしょ。貴女が謝る必要はない。」


自然と鑑定されてしまいもう驚くことを辞めたエリスは、鑑定はできないので彼女を観察することにした。


彼女は間近で見ても、やはり見覚えのない姿をしている。


彼女はフェニックスなのだろうか。もし仮に、彼女が世界にたった1体しか存在しないフェニックスなのだとしたら、先程、エフィが動揺した様子も説明がつくだろう。


「あっ。な、何でしょうか。」


考え事をしていて気がつかなかったが、どうやらエリスはその思考の最中、ずっとティアと目を合わせたままだったようだ。


「私が何者か。気になる?」


先程までの無邪気な様子とは打って変わり、彼女は不敵な笑みを浮かべて、エリスにそう問いかける。エリスはその様子に驚いたのか恐怖したのか、一歩だけ後退りする。


「おい。エリスちゃんを怖がらせるな。」


「イテッ。」


エフィに注意され頭を軽く叩かれる様子は、まるで先程までの無邪気な子供の様で、


「ごめんねー。」


ヘラヘラと笑みを浮かべて謝る様子は、どこか、底知れなさをエリスに感じさせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ