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邪神

「エフィが仲間を連れているとは珍しいね。」


グロスィヤは落ち着いた口調で会話を続けるが、その間も魔物の攻撃は続いている。


魔物の正体は未だ不明だが、大量の岩石が彼を襲っていることだけがエリスにも視認できた。


「あの規模の攻撃ができるなんて、どんな魔物なんだ…」


「あんな攻撃できる魔物、聞いたことがありません。」


エリスとアーネは困惑し畏怖する。生物は本能的に、目に見えない物を、巨大な物を恐れるから。


「行くよ。私の傍から離れないでね。」


「はい!」


エフィが走り出し、それにエリスもアーネも遅れない様について行く。数キロばかしあるであろう山道を物の数分で走りきった彼女達は、遂にグロスィヤが対峙する相手を視認する。


アーネが呟いた。


「なんですか?あれは。」


エリスとアーネが目撃した光景は、まるで邪悪な神が降臨したかのような。そんな光景だった。


禍禍しい魔力を纏い、浮遊する巨大な生物。体こそ痩せた人型だが、黒山羊の頭を持ちその背中からは漆黒の翼が生えている。その生物の周りには、山の様に巨大な岩石がいくつも浮遊し、地面には未だ同様の岩石がいくつも転がっている。そして、その生物の濃密な魔力により歪む空間からは、無数の目がこちらを覗き込んでいる。


「あれは…」


エリスには見覚えがあった。前世、とある本に載っていた悪魔とその姿は酷似している。


バフォメット。恐らくはほとんどの人々が悪魔と言えばその姿を想像するであろう、遥か昔、魔女たちに崇拝された悪魔だ。


その悪魔の姿と酷似した生物は、その壮大なる力をエリス達に向けて振るう。


直後、その姿に動揺したエリスとアーネを目掛けて岩石が飛来する。


先程までとは比べ物にならない程の速度で飛来する岩石に、2人は全く反応できない。エフィとグロスィヤによって全ての岩石は撃ち落とされ、辛うじて2人は生きながらえているが、彼女達はその戦闘にまるで参加できないことを理解し、己の無力さを悔やむ。


「2人とも。ここから動いちゃ駄目だよ。それと、グロスィヤは2人をちゃんと守ってね。」


エフィは結界を展開すると、目にも止まらぬ速さで駆け出した。その速度はかつてシデロ鉱山で見たエフィの速度を遥かに超えている。もはや、エリスとアーネでは視認できない。


エフィが走っている最中もエリス達に向けた岩石による攻撃は絶えないが、彼女の片手間の魔法によってその全てが撃ち落とされる。その様子に魔物は標的をエフィに変更する。近づかれては駄目だと本能的に理解したのだろう。


先程までとは比較にならない量の岩石がエフィを襲う。しかし、その岩石の全てが彼女に触れる直前に粉々に砕け散る。


その現象に魔物は警戒を強める。当然だ。今エフィは傍から見れば何もしていないのだから。


今までのは様子見だったのだろう。魔物は岩石での攻撃を止める。一瞬、辺りが静まり返る。それはほんの一瞬だった。直後、地面から大量の鉄の杭が出現する。〈吸血鬼魔法〉ツェペシュに酷似した大量の杭。その威力は言うまでもない。


エフィの結界に守られたエリスとアーネ。そして、いつの間にか普通の巨人と同程度の大きさになり、エフィの結界内に逃げ込んでいたグロスィヤも無事であった。


しかしエフィは、逃げ場がない程の密度でその攻撃を浴びてしまった。


「エフィさん。大丈夫でしょうか?」


心配そうな表情で呟くアーネの言葉に、エリスも心の中で同意してしまう。


いくらエフィが強くとも無事では済まないだろう。と。


しかし、彼女達の心配はまるで見当違いであった。そもそも、エフィという存在は普通でないのだから。


鉄の杭が全て消失する。しかし、どこにも彼女の姿はない。鉄の杭によって木々が倒され、見晴らしがよくなったのに、だ。


エリスとアーネは疑問に思っただろう。しかし、彼女達の疑問は魔物の頭上に乗っているエフィの姿によって解消される。そして唯々、彼女が規格外であると2人は痛感した。


今までに見たことがない大規模な魔法を発動する魔物は、エフィのレイピアによる雷の様な一閃によって絶命する。


「凄い…」


アーネの感嘆の声にエリスも小さく頷く。そして、前日ジーミから聞いたエフィの過去が事実であると確信した。


「2人は…」


「はい?」


グロスィヤは、2人が魔物であると気づいていながら彼女達に声をかける。


「いや。何でもないよ。ただ、エフィはずっと1人だったから、君達はいなくならないであげてね。」


「…はい!」


グロスィヤの言葉の意味はわからないけれど、彼女達は彼の問いに対して2つ返事で答える。


「どうした?グロスィヤ。」


いつの間にか結界内に入っていたエフィが、しゃがんでいるグロスィヤに声をかける。


「エフィ。こんな良い仲間に出会えてよかったね。」


エフィの問いに対してグロスィヤは笑顔で答える。そんなグロスィヤにエフィも笑みを浮かべて「ああ。」と答えた。



グロスィヤは巨人の里に向かうらしく、途中で別れエフィ達は帰路につく。


「エフィさん。」


「なんだい?」


その道中、アーネがエフィに質問をした。


「グロスィヤさんとはお知り合いなんですね。」


アーネの疑問は当然の事だった。エリスは彼女の過去について知っていたが、アーネはそれを知らないのだから。


「ああ。何度か依頼を共にしたことがあるんだ。」


「そうなんですね。流石エフィさんです。」


アーネは疑わない。彼女の実力をよく理解しているから。エリスも、もしエフィの過去を聞いていなかったとしたら、彼女と同じ反応をしたいただろう。


「…それにしても、あの魔物は何ですか?S級冒険者ですら防戦一方になる程の強さです。アーネも知らないと言う事は、かなり数が少ない種族なのですか?それとも――」


エリスはそこまで質問をして言葉を止める。彼女は今、「それとも他の世界から来た生物ですか?」と聞こうとしてしまった。


エリスは未だ、彼女の魂が異世界から来たものだと彼女達に打ち明かしていない。そんな中で、彼女が他の世界を知っているかのように質問をするのは、彼女達なら違和感を覚えるだろうと容易に想像がつく。


2人は彼女が意図的に言葉を留めたことに気付いただろう。しかし、彼女達は言及しない。何故なら、彼女達にもまだまだ秘密があるから。


「そうだね。詳しくは言えないけど、」


エフィはエリスの質問に答える様に切り出す。


「あれは、数年前にヴィーブ=マギアスによって発見された新種の魔物だ。仮称として〈邪神〉と名付けられたあの魔物は、巨人族を超える巨大な体を持ち、小さな街を一撃で更地にする程の大規模な魔法を簡単に発動する力を持っている。邪神は上位、中位、下位に分別されていて、さっきの邪神は中位に分類される。」


エフィの返答に2人は震撼する。エリスですら数回発動するのが精一杯のツェペシュを遥かに超える魔法を簡単に発動する魔物が中位である。上位ともなればどれ程になるのか想像がつかない。精々、少なくとも竜族に匹敵するだろうと予想できるくらいだろうか。


「あれで…」


2人は同時に呟く。未だ、実感が湧いていない。あの魔物の力も、それを簡単に屠ったエフィの力も。


「ふふ。」


深刻な表情をする2人にエフィは思わず笑みを零す。


「あまり心配をするな。大丈夫だから。」


エフィの「大丈夫」は、あまりの安心感があり過ぎ、2人が張らせていた緊張感を緩める。しかし、彼女の「大丈夫」の意味をエリスもアーネが理解するのは随分と未来の事であった。



「魔物の消滅をこちらでも確認済みだ。お疲れ様。」


テーブルの上に用意された大量の金貨と共に子爵は彼女達を迎えた。


何故子爵がこのような大金を用意できるのかは不明だが、依頼の報酬は依頼の難易度に沿った金額である。


「ヒュミル子爵。この報酬は少々高額なのではないでしょうか。」


しかし、報酬を受け取ったエフィはその金額を過分に感じたようだ。


その言葉を内心では否定するエリスとアーネであったが、彼女の発言を口に出して否定したりは彼女達はしない。


「何故だ?」


その金額を妥当に思っている子爵は、彼女の発言を疑問に思う。隣で優しく微笑んでいる子爵夫人は、ひょっとしたら何か見当がついているのかもしれない。


「グロスィヤの協力があったのであの魔物を倒すことができました。ですから、私達にはこの報酬の3分の2以下で十分です。」


エフィの主張に、彼女の過去を知るエリスは納得する。


今、子爵が提示した報酬は通常S級冒険者に支払われるような、寧ろ、それ以上の金額であった。彼女の実力を公にしていない状況で、彼女にS級冒険者以上の報酬が支払われるのは違和感が出てしまう。最悪の場合、悪評を流される可能性だってある。


最初、依頼書には報酬が明示されていなかった。単に、依頼の難易度に応じた報酬とだけ書かれていた。


そう考えると、グロスィヤの指名と言われた為見落としていたが、既に子爵は彼女がS級冒険者と同等以上の実力を持っていることを知っていたのだろう。


「…わかった。エフィさんの言う通り、報酬は3分の2にしよう。」


何かを察したのか、ある程度彼女の過去を知っていたのか。子爵は彼女の主張を簡単に受け入れた。


報酬を受け取り、3人は馬車に乗る。馬車の中でもアーネはエフィに質問はしなかった。既に彼女も、エリス程ではなくとも、エフィの事情を理解したのだろう。


「それじゃあ報酬を――」


「そうでした。エフィさん。」


「なんだい?」


エフィの言葉を遮るようにエリスが切り出す。とある提案する為に。それは、アーネと話し合って決めた提案だ。


「今日の依頼。私達は何もできませんでした。ですので、今回こそはその報酬はエフィさんだけが貰ってください。」


いつもエフィは、何かと理由を付けて2人に報酬を渡す。ほとんど何もしていなくとも、少しでも何かをしたら、それに見合わない報酬を渡すのだ。


彼女への説得を半ば諦めていた2人だったが、今回は本当に2人は何もしていない。今までの相手は、ある程度彼女達も通用する相手だった。しかし、今回彼女達は完全に蚊帳の外であった。足手纏いと言っても良いだろう。そんな彼女達は断固として報酬を受け取りたくない様だ。


彼女達に提案に、エフィは考える様に少し黙り込む。そして彼女は、「わかった。」と提案を承諾した。


「ありがとうございます!」


2人は彼女の返答に感謝する。そんな2人を見て、エフィは優しく微笑むのだった。

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