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過去

「では、話を続けましょうか。」


それからエフィは旅に出たわ。ヴィーブ様と一緒にね。


只の旅ではないよ。彼女の魔力を…力を封印する為の旅。


「〈風の大精霊〉シルフ。貴女も知っているでしょう?」


「…はい。」


エフィの力を封印する為に、最初に彼女と契約を結んだのはシルフだったわ。


その封印は強力で、エフィの力を約5分の2にまで抑えていたわ。でも、それだけでは封印として足りないから、その後も4度の契約をして、現在ではそのステータスを約100分の1までに抑えているわ。


「100分の1…」


――つまり、本来のエフィさんのステータスは平均して約200万…凄い。


ジーミの話に目を輝かせるエリスに、ジーミは微笑んで見せる。


「ふふ。凄いでしょう?でもエフィの凄いところは、そこだけじゃないのよ。」


エフィはその封印によってステータスだけじゃなくて、ある5つのスキルも封印しているの。


永続にステータスの上昇状態を与えるスキル、勇者。魔力量の底上げと魔力の回復速度を早めるスキル、賢者。振るう拳に空間を裂く程の鋭さを与えるスキル、武神。あらゆる事象を見極めることができるスキル、天眼通。そして…


「そして?」


「そして、あと1つは私も知らないわ。エフィが教えてくれないからね。」


ジーミのその言葉に、エフィは思わず顔を反らす。その様子に、エリスもジーミも詮索をする気にはなれない。この場にジーンがいない事が喜ばしいことである。


「さて、スキルの話は置いといて、」


もうわかったと思うけど、エフィは完全にその力を抑えることができた。だから、その後からは彼女の身に何か事件が起こることは無くなったわ。


「あの日まではね…」


「あの日?」


あの日。エフィが恋人を失ったあの日。S級冒険者全員が後悔するあの日。エフィが再び起こると確信するあの日。


「あの日の事は…流石に貴女にも話せないわね。少なくとも、エフィから話さない限りは。」


私に、あの日の事を語る権利はないからね。と、ジーミは俯く。この話は聞いては駄目だと、エリスはその状況から理解した。


「わかりました。いつか話せる時が来るまで待ちます。」


エリスのその言葉にジーミは頷く。


「貴女良い子ね。エフィが気に入るわけだわ。」


羨ましわ。と、ジーミは数秒だけエフィに微笑みかけ、もう一度エリスに向き合う。


「貴女に話すべきことはとりあえず以上よ。あっ。今日の話は口外禁止ね。貴女の仲間…フェンリルの少女にも話しちゃ駄目だからね。」


「はい。」


当然の様にアーネの事も知っているジーミに驚きつつも、エリスはその動揺を表情には出さずに、2つ返事で彼女の要求を承諾する。


「では、今日の所はこれで帰ります。エフィさんに渡したい物がありましたが、また明日にしますね。」


「ああ。わかった。」


エリスは話を聞き終えると椅子から立ち上がる。本当はその日、エフィに渡したい物があったのだが、それは翌日に持ち越すことにした。今日のエフィは様子がおかしかったから。


「お邪魔しました。」


一礼して家を去ったエリスを見送り、エフィは再び先程までいた部屋に戻る。


「ねぇエフィ。貴女、まだトラウマを克服できていないようね。」


「…」


部屋に戻った途端に発したジーミの言葉に、エフィはすっかり黙り込む。


「本当に貴女、あの日の再来に立ち向かえるの?」


皮肉ではなく純粋な疑問。ジーミにとっては、ずっと抱いていた不安。


エフィはあれらと戦えるのか。


「仮名を邪神。体長は平均して70メートル。しかし、それも幼体のようで、成体ともなればその体長は最低でも500メートルを超えるというわ。そんな怪物、貴女やヴィーブ、イアン団長ならまだしも、私達では対処不可能よ。」


ヴィーブが仮として付けた怪物達の総称〈邪神〉。あれらの存在はこの世界にとって脅威だ。それは、S級冒険者達ですら手に余る程に。


その為、エフィがあれらとの戦闘に参加できないのであれば、それは直接、この世界の滅亡を示している。彼女の懸念は当然な物である。


しかし彼女の懸念は、杞憂に終わる。


「大丈夫。戦えるよ。今の私ならね。」


エフィの言葉にジーミは安心したように笑みを浮かべる。


「そう。貴女をここまで変えるなんて、エリスさんは凄いわね。いや、エリスさんだけではないわね。もう1人、貴女とパーティを組んでいる子がいるものね。」


「…ああ。エリスちゃんもアーネちゃんも。凄い子だよ。」


エフィはようやく自覚する。


現状に満足せず、直向きに強くなろうとする彼女達に自分は変えさせられたのだと。


表情を綻ばせるエフィに、ジーミは優しく微笑んで声をかける。


「…よかったわね。」


様々な意味が籠ったその言葉に、エフィは嬉しそうに答える。


「ああ。」


――こんな風に笑う彼女を見れたことを感謝しないとね。エリスさんとアーネさんに。


ジーミは心の底からそう思った。



エフィの家から帰宅する途中、エリスは色々なことを考えた。そして、その重大な事実を誰にも相談できないもどかしさを心の内に仕舞うために心の整理をする。


――エフィさんは侯爵家の令嬢で、勇者で、剣聖で、賢者で。それに、後4体のシルフさんと同等の存在と契約を交わしている。


到底、1人が保有してていい戦力でない。エフィが味方で良かったと、エリスは心の底から思う。


「ふぅ。」


この扉を開けば、アーネがいる。


ガチャ。心を落ち着かせている途中、唐突に扉が開く。


「エリスさん。おかえりなさい。」


中からアーネが顔を覗かせる。


――気配は消してたはずなんだけど…匂いか。いや、それにしても、


「ただいま。アーネ。」


アーネの成長に笑みを零して、エリスは彼女と挨拶を交わす。



翌日。エリスの心はすっかり晴れて、アーネと共にエフィの前に立っている。


「それじゃあ行こうか。」


今日初めて、彼女らは国境を超える。


「ディナート帝国。東大陸でデンドロン王国に次ぐ大国ですよね。」


「そうだよ。でも今日は、ディナート帝国じゃなくて、帝国内にある巨人の里に用があるんだ。」


今日の依頼はディナート帝国のある子爵からの調査依頼だ。


エグモント=ヒュミル。世界で唯一の巨人の貴族だ。


「ヒュミル子爵は元々巨人族の長の血筋だったんだけど、人間の女性と恋に落ちて、書類上は人間族になったんだ。今は〈小人化〉ってスキルでほぼ人間と同じ見た目なんだ。」


「凄いですね。巨人と人間の夫婦ですか。」


「凄いよね。でも、お似合いの夫婦だよ。」


巨人と人間。大きさも文化も、全く違う種族同士の結婚が成立する。その事実にエリスとアーネは、特に、アーネは意外に思った。


「巨人と人間…」


巨人は一応、魔物に分類されている。正確には、亜人と同様の分類だが。


――亜人の迫害は、この世界に少なからず残っている。デンドロン王国には迫害はないけど、ディナート帝国にもないのでしょうか。


アーネは疑問だった。ヴィーブ=マギアスの尽力により迫害が無くなった、デンドロン王国の様な国が、他にも存在しているのか。


「ディナート帝国も、デンドロン王国と同じで亜人への迫害は無いよ。」


アーネの小さな呟きに彼女の疑問を察したエフィは、それを解消する様に言葉を放つ。


「あ…そうなんですね。」


アーネは彼女の察しの良さに驚きつつも、その驚きが無意味であると知っている彼女は何とか相槌を打つ。


「ふふ。アーネは心配し過ぎだ。他国に行くのは私達にとっては確かに危険だけど、私達にはエフィさんがいる。」


「…はい。そうですね!」


期待の眼差しを向けるエリスとアーネに、エフィさんは「はいはい。」と軽口を叩き、


「君達に手出しはさせないよ。誰にもね。」


不敵な笑みを浮かべて、彼女はそう言い切った。


「そういえば、昨日言っていた、私に渡す物っていうのは何かな?」


「あっ。そうでした。昨日、メイド服を着た女性が訪ねて来て、これをエフィさんに渡してほしいと。」


それは一通の手紙だった。メイド服を着た女性…その言葉に嫌な予感がしたが、その予感は的中する。


手紙の差出人はメタン=フィエシスとなっている。


可愛い子達を間近で見たかったから、2人を通じて手紙を渡させて貰ったよ。


そんな緊張感のない書き出しから始まったその手紙は、エフィを震撼させる内容だった。


早速だけど本題。最近、邪神が確認されてるよ。明日行くと思うけど、巨人の里にも邪神が出た。既にグロスィヤが対処してるけど、あの人でも邪神相手は厳しいよ。急いだ方が良いと思うよ。


思わず手紙を強く握りしめる。これは急がなければならないと確信する。


本来なら3日かかる道のり、それを空間魔法を用いて1日で到着する。国境を通るために多少時間がかかってしまったが、最速で到着しただろう。


「お待ちしていました。」


彼女達を出迎えたのは、侍女を引き連れる人間の女性。


「お久しぶりです。ヒュミル子爵夫人。」


エフィの言葉にエリスとアーネも彼女が誰なのかを理解する。


「ええ。お久しぶりです。エフィさん。」


エフィは以前、ヒュミル子爵の依頼を3度受けたことがある。今回は4度目だ。


「エグモントは久々に貴女に会えることを喜んでいるわ。」


「そうですか。喜んで頂けているなら私も嬉しいです。」


子爵の書斎までの廊下で世間話をする彼女達はまるで友人のようだ。ヒュミル子爵夫人の年齢がまだ30にも満たなく然程エフィと年が離れていないのが、彼女達の親密度の理由だろうか。


「それにしても。貴女は仲間を作らないものだと思っていました。良い出会いがあったようですね。」


「はい。エリスちゃんもアーネちゃんも。私の自慢の仲間です。」


「ふふ。そう。それは良かったわね。」


まだ20代とは到底思えないその落ち着いた様子は、エリスとアーネを感心させた。彼女達に向けれる夫人の笑みは、優しい母のような。そんな笑みだ。


さて、子爵の書斎の前に着いた。室内から漂う魔力は力強くも落ち着いた流れをしている。


扉が侍女によって開かれる。


「待っていたよ。」


その姿にアーネは驚いた。エリスは知らない巨人の言い伝え。


強靭で、豪快で、偉大。それが一般的な巨人の様相で、巨人は怒らせてはならないと、ほとんどの生物が知っている。


しかしどうだ。ヒュミル子爵はその纏う魔力こそ偉大であるが、その様子は温厚で、その外見は身長こそ長身だが華奢だ。


〈小人化〉で人間の大きさに縮小していると言えど、体格まで変化することは無い。つまり、彼のその姿のまま巨人だったのだ。


――このような巨人もいるのですね。勉強不足です。


アーネは心の中で自分の知識の乏しさを悔やむ。しかしながら、彼女の反省はあまりにも見当違いだ。彼は巨人ながら文弱で魔法にこそ習得している物の、戦闘能力は皆無に等しいのだから。


「さて。早速だが依頼の話をしよう。掛けてくれ。」


子爵の指示に従い、エリス達はテーブルを経て子爵の対面に置かれた椅子に腰を掛ける。


「本日の依頼の概要は把握しているだろうが、詳しい内容を私から説明しよう。」


依頼内容は至って単純なものである。


巨人の里に近頃出没している魔物の対処。


「既にグロスィヤが里を守っているが、彼だけでは今回の魔物は手に負えない。」


グロスィヤ。その名前にはエリスですら聞き覚えがあった。


巨人のS級冒険者、グロスィヤ。彼でさえ手に負えないとは、今回の依頼は大分危険なものかも知れない。現にエフィの表情は暗い。


「グロスィヤが手に負えないと?」


「ああ。彼本人がそう語っている。そして、今回貴女に依頼したのは彼の指名だ。」


子爵の言葉に「なるほど。」とエフィは笑みを浮かべる。


「わかりました。急いで巨人の里に向かいましょう。」


エフィは急いで2人を連れて、そこから少し離れた場所にある巨人の里に向かう。


未だ姿は視認できないが、エリスはその異様な魔力を肌にヒシヒシと感じる。


――今までに感じた事のない魔力だ。千里眼でも姿が見えないけど何処にいるんだ。


巨人の里は目と鼻の先なのだが、魔物の姿もグロスィヤの姿も見当たらない。


「エリスちゃん。アーネちゃん。今日の敵はかなり手強い。2人とも気を引き締めてないと死ぬから注意してね。」


エフィの口から放たれた言葉に、普段の様な彼女の余裕はない。その様子にエリスとアーネに緊張が走る。


直後、遥か遠方から強大な岩石が飛来する。エフィの〈聖魔法〉バリアによって防がれ、その岩石は粉々に砕け散ったが、その速度、威力から、もし彼女がいなければエリスとアーネのどちらかの体は潰れていただろうとわかる。


「ごめん。エフィ。壊し損ねた。」


遥か遠方から男性の声が聞こえた。エリスとアーネは、その不思議な現象に驚くが、エフィだけはその声の主が誰なのかを知っているためか驚かない。


「危ないだろう。今日は私だけじゃないんだ。」


「だからごめんと言ったじゃないか。」


山の合間から男が顔を覗かせる。その姿にエリスとアーネは驚愕する。当然だろう。その男は比喩などではなく文字通り、山の様に大きいのだから。


「紹介しよう。エリスちゃん。アーネちゃん。彼がグロスィヤ。世界で一番巨大な男だ。」


巨大にも程があるだろうと、エリスとアーネは困惑する。

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