表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/83

S級機密

「これは…オートマタですか。」


ヘレンと別れた後、ミアがラルヴァに見せられたのは、まだ命令を与えていない犬型のオートマタだ。


「はい。その通りです。」


ミアは「やはり。」と呟きながら、オートマタをまじまじと観察する。


「あれ?このオートマタもしかして、」


ミアはそのオートマタに何か違和感を覚えた。


「ラルヴァ様が設計したのですか。」


ミアのオートマタとは、その構造が全く違っていたのだ。それはつまり、ミアと違ってラルヴァは古代の設計図を見ずに、自作でオートマタを作成したと言う事。


「ええ。まだ試作品ですけどね。」


ラルヴァの返答にミアは「凄い。」と感嘆し、目を見開く。


――太古の設計図と比べて、遥かに簡略化されている。


ミアが試みているオートマタの量産。それに届き得る新たな可能性にミアは興奮を隠せない。


「素晴らしいです。ラルヴァ様。」


「ありがとうございます。」


瞳を輝かせ絶賛するミアに。ラルヴァは照れくさそうに感謝を述べる。そして、「それでなのだけど、」と、ある提案をする。


「このオートマタを完成させる為に力を貸してください。」


ラルヴァに提案に対するミアの答えは決まっている。


「はい!喜んで。」


ここに2人の天才が揃う。全て、エフィの思惑通りに。



――とりあえず、4人を引き合わせることには成功した。


エフィはヘレンとフランシュを合わせた後、程なくしてフランシュの家を去った。


自分の家への帰り道。エフィは今後についての計画を考えていた。


――あと5人。さて、次は誰にしようか。


残り5人のS級冒険者は、メイラ、ミュース、グロスィヤ、そしてジーンとジーミ。


――こうなったら、早めに他のS級冒険者達にも情報を共有しておこう。いつかは勇者達にも伝えなければならないけど。


今最も都合が良いのは、


「エフィ!」


私の目の前に立つ双子。ジーンとジーミだろう。


「久しぶり。ジーン、ジーミ。もう依頼は済んだの?」


彼らは長期の依頼を受けていて、会議にすら出席できなかった。半年程かかると聞いていたからまだ終わらないと思っていたけど。


「ええ。1か月早く終わったわ。それでエフィ。貴女、私達がいない間に随分と面白いことしてるじゃない。」


姉のジーミは悪戯っぽく笑みを浮かべて、私の顔を覗き込む。


「流石はジーミね。もう匂いを嗅ぎつけたの?」


「当たり前でしょう?私が面白いことに気付かない訳がないじゃない。」


ジーミは恐ろしいほど頭が切れる。少ない情報量で、事実に辿り着いてしまうほどに。


「えっ。何の話?」


だから不可解なのだ。何故弟のジーンは、これほど馬鹿なのか。


「「はぁ…」」


私とジーミは2人同時に、ため息をついた。



「ジーミ。何の話だよ。面白いこと?俺にも教えろ。」


双子であるが、理性的なジーミに対してジーンは野性的で、世界で最も息の合った二人組だが、正確は全く対照的だ。


「ジーン。あのね。エフィはこの都市で――」


「待て。」


何かに気付いたのか。ジーンがジーミをの言葉を遮る。彼のその行動の理由をエフィもジーミも気付いている。


「あっ。エフィさん。今お時間――」


エリスの登場だ。


「なるほどなるほど。面白いことってこれの事か。」


1人は直感で、1人は事実で理解した。


――この匂いは、


――この鑑定結果、


吸血鬼。


「エリスちゃん。丁度良かった。紹介するよ。」


エフィの言葉に、エリスはその双子の顔を見る。


「こっちが姉のジーミで、」


「初めまして。」


優しい笑顔でジーミは挨拶し、


「こっちが弟のジーン。」


「初めまして!」


力強くジーンは挨拶する。


「は、初めまして。」


双子にしては様子が違い過ぎる2人に、エリスは少し驚きつつも辛うじて出た声で挨拶を返す。


「2人は私の友人で、A()()()()()だ。」


「A級冒険者…?」


エリスはエフィの言葉に疑問を抱く。直感で理解していた。この2人は強いと。少なくとも、S級冒険者になれるほどに。


「疑問を持つのも無理はない。俺達は、特別S級冒険者だからな!」


「「えっ?」」


ジーンの言葉に、エフィとジーミが思わず驚きの声を上げる。


「貴方…何を言って。」


ジーミは呆れたように溜め息をつく。


「えっ。何?」


彼はエリスがただの吸血鬼だと思った。しかし、エリスはただの吸血鬼ではない。


「彼女は冒険者よ。」


「えっ。マジ?」


ジーミの言葉にジーンは動揺する。当然だろう。特別S級冒険者の存在は〈S級機密〉なのだから。


「もしかして俺、規約違反しちゃった?」


「ええ。そうよ。」


落ち込むジーンにジーミは少し強い声で、彼の言葉を肯定する。


その状況を唯一理解していないのはエリスである。彼女は全く聞き覚えのない言葉に首を傾げる。


「特別S級…?」


その言葉を何度か繰り返して、彼女はその言葉を理解しようと考えを巡らせる。しかし、全く知らない言葉を理解できるはずがなく。


「とりあえず。私の家に入ろうか。」


一先ず、エフィの提案に頷くことした。



「さて、ジーンを叱責するのは後回しだ。とりあえずは、エリスちゃんには情報を開示しておこうか。」


――アーネちゃんにはまだ言えないけど。エフィちゃんには言っておいても良いかな。


エフィの口から語られる事実に、この後エリスは驚愕することになる。


「まず、何から話そうか。」


まだ考えが纏まっていないのか、エフィは言葉を詰まらす。そんなエフィに、ジーミはアドバイスをする様に提案する。


「まずは自己紹介じゃない?この機密は、と言うより、この階級は貴女の為に作られたものだから。」


貴女の為に。その言葉にエリスは妙に納得してしまう。特別S級というのはエフィの為に…つまりは、エフィの様に実力を隠している人の為にという事だろう。とエリスは結論付ける。


「そうか。私の自己紹介。」


珍しく口籠るエフィに疑問を抱きつつも、エリスは彼女の言葉を静かに待つ。


「私の本当の名前はエフィ=リョクロス。リョクロス侯爵家の次女だ。」


「えっ。」


リョクロス侯爵家。その言葉にエリスは驚くが、やっと納得できた所があった。


リョクロス侯爵家はこの国の盾と呼ばれる家紋であり、〈結界〉を得意とする一族。エフィの異様に優れた〈結界〉の理由はそこにあったのだ。


「まぁ、正確には養子だけどね。」


――養子?つまりは、血がつながっていないということ?なら、あの〈結界〉は天性のものと言う事か。やっと納得がいったのに違ったのか。


驚愕し納得し驚愕し、エリスは今混乱している。目まぐるしく思考を巡らすエリスを更に驚愕させたのは、続くエフィの言葉であった。


「それと、もう1つ伝えておくと、私は緑の勇者なんだ。」


「みっ…緑の勇者…ですか?」


――エフィさんが勇者?それなら、全ての説明がつく。


エリスは全ての事が腑に落ちた。エフィが勇者であるなら、その底知れぬ魔力量や竜族を簡単に屠った事も説明がつく。


「エフィはね、最強なのよ。正真正銘、この世界で最も強い存在。それは、その存在を隠しておかなければならない程ね。」


「最強…」


――確かにエフィさんは強すぎる。シデロ鉱山にいた炎竜は本物の竜族だった。そんな炎竜でもエフィさんには傷1つ付けれていなかった。


竜族はこの世界で最も強い種族。それを知っているエリスは、ジーミの言葉を素直に理解できた。


「そうよ。エフィはあまり昔の話をしたがらないけど、この子が残した偉業や功績は数知れないわ。ねぇ、エフィ。この子に貴女の事をもっと教えたいのだけれど…どうかしら?」


どうやらエフィの過去を知っているような口ぶりのジーミが、エフィにそう提案する。


「…うん。そうだね。エリスちゃんには、話しておいた方が良いかもしれないね。」


やはり歯切れの悪いエフィだが、エリスにその過去を教えることをジーミに渋々許可をする。


「ふふ。じゃあ少しだけ、昔話をしようか。」


エフィのその存在を人々が認知したのは、彼女が4歳の時のことよ。


全国的に奴隷売買を行っている大規模犯罪集団を彼女がたった1人で壊滅させたの。


たった4歳の少女が国を挙げて捜索していた犯罪集団を壊滅させたのだから、その事実には緘口令が敷かれて、貴族を除けば、当時捜索に当たっていた騎士団以外にその事実を知る者はいないわ。


「あれ?では何で、ジーミさんはそれを知っているんですか?」


「それは、その事実が〈S級機密〉だからよ。S級機密って言うのは…まぁ簡単に言えば、S級冒険者以上の権力者にだけ開示される機密のことね。S級以上の権力者ってのは、S級冒険者や侯爵以上の家紋に属する貴族。そして、騎士団、魔法士団の団長のことよ。」


S級機密の意味を知り、エリスは先程の言葉を思い出す。


――冒険者で言えば、S級冒険者にしか開示されない機密。だから冒険者である私に明かしてはいけなかったのか。あれ?ならなんでジーミさんは私が冒険者だと知っていながら、私にS級機密を開示しているんだ?


「ふふ。なんでって顔してるわね。」


心を見透かされて少し驚くエリスだが、一瞬言葉を詰まらせた後に「はい。」と、ジーミの言葉を肯定する。


「まぁ、S級機密ってのは名ばかりでね。確かに本当に開示してはいけない機密もあるけど、一部は当事者の許可さえあれば開示しても良いんだ。つまり、エフィの許可さえあれば、今回のは問題ないってことね。」


なるほど。と、エリスは素直に納得して、その続きの話を静かに聞く。


エフィの存在を知った国王は彼女を王城に招待し、彼女が勇者であることを認めた。それから彼女は、リョクロス侯爵家の養子として過ごすことになったの。


まぁその後も、彼女は偉業を成すことになるわ。例えば、彼女が8歳の時、王国を揺るがす大事件が起こったの。


それは、紅炎竜の襲来。


「紅炎竜ですか?」


「ええ。紅炎竜よ。暗黒竜メランと同様に、遥か昔からその存在が確認されている竜族で、他の竜族とは一線を画す、正真正銘、最強の種族。」


その紅炎竜が、デンドロン王国に襲来したの。


紅炎竜は、少なくともS級冒険者以上の実力者が6人以上は必要な程の怪物で、当時のデンドロン王国ではどうしようもない様な厄災だったわ。


そうエフィがいなければ。


約200人の騎士と魔法士が犠牲になって、そこで到着したヴィーブが応戦してやっと互角に戦えた。


当時の最強はヴィーブだったわ。そのヴィーブでも、紅炎竜の相手は荷が重かった。だけどエフィが到着して、状況は一変した。


「一言でいえば瞬殺、だったらしいわ。まぁ殺したわけではないけれど。」


8歳の少女が、あのヴィーブですら手に負えない相手を一瞬で倒してしまったのだから、その事実を知った人達は皆驚愕したわ。当然、私もね。


とまぁ、当時から最強だったエフィだけど、その後からの彼女は大人しかったわ。その翌年に彼女が起こした事件が原因ね。


彼女が9歳の時に起こした事件。それは、彼女がずっと抑えてきた魔力が溢れだしてしまった事件。


「エフィさんの…魔力。」


「実感沸かないわよね。当然よ。今のエフィは、その膨大な魔力を封印しているから。そうでもしないと、体内からその魔力が溢れだして、あの時の二の舞になっちゃうから。」


魔力が溢れだしてどうなったかと言うと、リョクロス侯爵家が続く限り、つまりは1代目の時から脈々と魔力が注がれ続けた王都を守る結界を内側から破壊してしまったのよ。


「結界を…では、今王都を守っている結界はエフィさんが?」


「そうよ。まぁ面白いことに、前の結界より、今の結界の方が強力なんだけどね。」


リョクロス侯爵家が何代もかけてやっと作り上げた結界を破壊してしまい、更には、それよりも強力な結界を作り出してしまったエフィは、多少なりとも責任を感じしてしまった。


リョクロス侯爵家は善良よ。元々貧民街の孤児であったのに、エフィだけでなく、アデルまでもをその家紋に迎え入れ、2人共に実の子供の様に育たのだからその善良性が分かるわ。だから、恐らくリョクロス侯爵家の誰も、彼女を責めることはしなかったはず。だけど彼女は責任を感じた。誰も責めてくれなかったから。


「違う?エフィ。」


一部憶測を含めて語ったジーミはそこで一度エフィに、その憶測が正しいかどうか確認する。


「…そうだ。その通りだ。お義父様もお義母様も。お義兄様もお義姉様も。そして、お兄様までも、誰も私の事を責めなかった。仕方のない事だって。でも、」


そこでエフィは口籠る。しかし、それ以上聞かなくても、エリスとジーミは彼女が何を言おうとしているのかを理解する。


でも、自分の責任だ。


彼女が言いたいのは、恐らくそういう事だ。


魔力を抑えきれなかったのは自分の責任で、それで何百年もかけて作り上げた結界を壊してしまって申し訳なくて、更にはそれ以上に強力な結界をたった1人で作り上げてしまって更に申し訳なくて。


だから彼女は責めて欲しかった。


残念な事に彼女は、家族にも、友人にも、恵まれてしまった。


「でも1人だけ…1人だけ、私を責めてくれたがな。」


――1人?


それは誰も、エフィと彼女の言うその1人以外、誰も知らない話。


「忘れてくれ。そしてジーミ。続きを話してくれるか?」


「…わかったわ。」


その話はまだ、誰も知らない。いつの日かエフィの口から語られるまで。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ