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アデル

その都市に住む妹に会うために幾度か訪れた都市。数年前来た時と比べて、一見では何も変わっていない風景だが、その空気は全く違った。


都市の隅々から感じる魔物の魔力。正確には、ヴァンパイア、フェンリル、ゴースト、ゴーレム。後、微かだがニーズヘッグも。


何かがおかしい。妹は強い。それも、S級冒険者の誰より。しかし、この都市からは魔物の魔力がはっきりと感じられる。恐らくこの都市内に住んでいるのだろう。それを妹が、エフィが見逃しているというのか。


アデルは通常ではありえないその状況に混乱しつつも、一先ずは真っ直ぐエフィの家に向かう。


時間は昼。恐らくエフィは、依頼で都市を出ている時間だ。


その時間帯は特に多くの人が外に出ている。その様子に、その魔物たちによって何かこの都市に被害は出ていないのだと理解する。


――なるほどな。


恐らくはこの異常な状況を作り出しているのはエフィだろう。エフィの思考をよく理解している彼からすれば容易に想像できる結論。勿論それは当たっている。


チリンチリン。呼び鈴を鳴らしてみるが反応はない。やはりエフィは依頼に出ている。であればと、彼は現在この都市内で最も強い魔力を感じる場所に向かう。


そこは大通りである。恐らくは買い物に出ていたのであろうラルヴァの姿がそこにはある。


直後、お互いその強い魔力を感じ取ってか目が合う。


――ラルヴァ=テラス。エフィちゃん…俺達に噓の報告をしていたのか。


あの会議でラルヴァは討伐したと報告したエフィ。魔物を討伐することを当然だと考えるS級冒険者がいる中で、やむを得ない虚偽報告だ。


「フッ。」


想像もつかない何かを行おうとしているエフィに、思わず笑みがこぼれる。


――エフィちゃんの事だ。何か事情があるのだろう。


唐突に笑むアデルに怯えるラルヴァは、逃げる様にその場を後にする。そんなラルヴァをアデルは無理に追おうとせずに、彼女が去った方向とは逆方向に歩みを進める。


後で直接、エフィに聞けばいい。と。特にこの状況について驚いていない彼は、そのまま近場の店に入った。



ヴェロスが訪れた日から、エリスは今まで以上に熱心に訓練に取り組んでいる。


エフィとの手合わせに加え、A級の魔物の中でも強力な個体の討伐。そして、未熟なスキルの練習。


あの日彼女は警戒していた。それにも拘らず、彼女はもろにヴェロスの狙撃を受けてしまった。自分の未熟さを改めて理解したのだ。


その日は、未熟なスキルの練習をしていた。


彼女の眼前には、B級の中で上位に位置する魔狐族の魔物、クリュスペークスがいる。彼女にとっては容易に討伐できる魔物だ。しかし、その日の彼女はその魔狐に苦戦していた。


――遠い…


彼女の手には剣が握られていた。何の変哲もない。ただの鉄の剣だ。


彼女の身体能力を以てすれば、魔狐の攻撃を受けることは無い。しかし、クリュスペークスというこの魔物の特徴は、人間でも取得者の少ない〈氷魔法〉を扱うという点だ。


〈氷魔法〉は強力だ。〈火魔法〉に対して滅法弱いが、一度でも相手に当てることができれば相手の機動力を大幅に低下させることができる。


今回エリスは魔法の使用を封じて戦っている。その為、一度でも魔法を食らうことはできない。つまり、魔狐の攻撃は避けるしかないのだ。


魔狐の〈氷魔法〉がエリスに襲い掛かる、その攻撃をエリスは避けつつ、確実に魔狐との距離を詰めていく。


エリスの剣の間合いは約1.6メートル。現在の魔狐までの距離は約20メートルだ。それは、普通なら簡単に詰めれる距離。しかし、魔法を避けながら詰めるのは容易ではない。


エリスは体勢を低くして、なるべく魔法が当たる箇所を少なくする。魔狐から放たれる魔法の集中攻撃。それを軽やかに避け、通常に比べれば遅いが、しかし確実に距離を詰める。


魔狐との距離は後3メートル。ここでエリスは大きく踏み込み、その間合いを一気に詰め、剣を無造作に振り上げる。魔狐はそれを特に硬い皮で覆われた腕で受け取める。その一瞬、魔狐の魔法攻撃が止んだ。その一瞬を彼女は見逃さない。


ドンッ。そんな鈍い音共に魔狐の体が宙に浮かぶ。エリスが蹴り上げたのだ。


彼女の蹴りの衝撃で魔狐の意識が一瞬飛び、魔狐の体は無抵抗に落下し始める。その無防備なところを一閃、エリスの剣が魔狐の首を両断する。


「あっ。」


力任せに振るったせいか、剣が刃こぼれしている。


〈武具強化〉で剣が刃こぼれしない様に出来たら及第点。それがエフィが彼女に言った言葉だ。


武具強化。それは、武具に魔力を流し、その武具の性能、耐久力を上昇させるスキルだ。


この〈武具強化〉と言うスキルは中々に調整が難しい。魔力を込め過ぎれば、その魔力に耐えられずに武具が破損し、魔力が足りなければ、武具の性能や耐久力を十分に上昇させることはできない。


つまり、この戦いでは魔力が足りなかった。ということだ。


「難しいでしょ。〈武具強化〉。」


そうなることが分かっていたかの様に、エフィの手には新たな鉄の剣が握られている。


「はい。思ったより難しいですね。それに、〈剣術〉を十分に発揮することができませんでした。エフィさんに教えて貰った技。あの戦いの中では一度も使えませんでした。」


先日エフィから教わった剣術。それを見事に習得したエリスだったが、初の実戦において、その技が披露されることは無かった。


魔法を避けながらという状況。その状況下で、学んだどの技が有効かを判断する暇がなかったのだ。


「それに関しては実践で体に染み込ませるしかないね。どの状況下でどの技を使うか。イメージトレーニングをしてみると良いよ。」


その後も、エフィとアーネに見守られる中、エリスは様々な魔物に挑んだ。約13体の魔物と戦った中でエリスがまともに剣術を使えたのは、鋭い爪の攻撃に対して使った払い技。堅い防御に対して使ったかつぎ技。素早く連続した打撃に対して使った引き技。遅く重い打撃に対して使った撃ち落とし技。の4回だった。


「初めて魔物と剣で戦ったにしては上出来だね。〈武具強化〉の調整も既に完璧だし。」


「ありがとうございます。」


都市への帰り道。エフィはエリスの上達を褒める。アーネも「流石です!」と喜んでいる様子だ。


実際、エリスの上達は目覚ましい。剣術を覚えてまだ3日しか経っていないにも拘らず、彼女は魔物との戦いの中で既に覚えたての剣術を使えている。


元より〈剣術〉のスキルを持っている影響も大きいが、元からセンスが良かったのも事実だ。


――この調子なら、すぐに〈剣術〉を終えて〈体術〉に移れるだろう。


そう考えながら、今歩みを進めている都市の方向を見る。正確には、その都市にいる自分の兄の方向を。


――お兄様。何をしにこの都市に。


突然の兄の訪問を感じ取り、既に不安を抱いているエフィは、一応。と内心で呟きつつも、


「2人とも。もしかしたら、また面倒事になるかも知れない。」


そう、まだ何も知らないエリスとアーネに忠告する。


都市の門を潜り、一先ずは真っ直ぐと冒険者ギルドに向かう3人。エフィはその先にアデルがいないことを確信している。だからか、恐らくエフィが都市に戻ったことに気付いて移動を始めたアデルに警戒しつつ、少し歩みを速める。


依頼報酬を受け取り、普段より早く2人と別れたエフィは、アデルの方向へあえて歩みを進める。


「お兄様。オルニス都市にはどういったご用件で。」


エフィに一報も入れずにアデルがこの都市を訪れたことは今までに一度もない。その為彼女は、アデルと対峙するや否や彼にそう問いかける。


「エフィちゃん。どうやら、俺に隠してパーティを組んでいるらしいな。」


遂にバレたか。そう内心で本音を零しつつ、アデルの心情を理解している彼女は言葉を選んで話し始める。などと言うことは無く。


「遂にバレましたか。」


内心で呟いた言葉と同じ言葉を声に乗せる。


「なっ。もしかして俺が気付かなかったらずっと教えないつもりだったのか?」


「はい。だってお兄様。私がパーティを組んだって教えたら、嫉妬して2人追い出そうとするでしょう?」


「うっ。それは。」


時間は夕方。日が暮れ始めるこの時間では、外に出ている人間はごく僅か。2人が話す、元より人通りの少ない道には、2人以外に人はいない。


その為か。アデルは人目を気にせずに素の反応をする。


「お兄様。とりあえず、私の家に行きましょうか。」


そんなアデルを万が一にも一般人には見せたくないエフィは、一先ず彼にそう提案する。そしてアデルの承諾もあり、場所はエフィの家へと移る。


「どうぞ。」


「ありがとう。」


エフィから手渡されたカップを傾けて紅茶を啜るアデルは、はぁ。と一呼吸付き、目の前に座ったエフィの顔を見る。


「エフィちゃん。今はパーティメンバーの事は良い。それよりも、今のこの都市の状況について教えてくれないか。」


「ラルヴァに会ったようですね。」


アデルの言葉足らずの質問に対して、エフィはピンポイントにラルヴァの名前を挙げる。そんなエフィに、アデルは特に驚く様子もなく「ああ。」と頷いた。


「そうですね。ラルヴァのステータス…特にスキルですが、お兄様でしたら見ましたよね。」


「ああ。〈錬金術〉の事だな。あれは凄い。S級冒険者であるミアですら未だレベル9だ。」


アデルの言葉に満足したのか、エフィはニコリと笑みを浮かべる。


「お兄様。ラルヴァとミア。2人が手を組んだら、面白いことになりそうだと思いませんか。」


「…ほう。」


エフィから語られた言葉はアデルに衝撃を与えた。


現代最高の錬金術ミア=アールヒは確かに天才だ。しかし、彼女の錬金術では生み出せない物は数多く存在している。


例えば、かつて錬金術で栄えたパライ帝国で天才と呼ばれたラルヴァ=テラスによって錬金された魔法道具の1つ、魔銃だ。


「もし、テラスの魔銃と呼ばれるあの兵器を量産できるなら、確かに魅力的だな。」


魔銃は強力無比だ。パライ帝国が一度戦争に用いた際は、1発の砲撃で1部隊を壊滅させたという。


「そういう事です。ミアをこの都市に連れて来て貰うことはできますか?私はラルヴァと話を付けたいので。」


「いいだろう。アイツは錬金術バカだからな。きっと喜んで来るだろう。」


アデルは残りのお茶を飲み干し立ち上がる。


「今日はもう帰ることにする。エフィちゃんのパーティメンバーについては…仕方ない。後回しだ。」


アデルはそう言い残し、エフィの家を後にする。


彼を見送り、再び椅子に座ったエフィは、自分様に出した少し冷めてしまったコーヒーを啜る。


――準備に時間がかかったが、後はミアを呼ぶだけだな。


エフィの準備が整った丁度その時、家に呼び鈴が鳴り響く。


「どうぞ。」


訪問者はラルヴァとフランシュだ。


「エフィさんが私達を呼び出すなんて何かあったのですか?」


そう首を傾げるラルヴァにエフィは「まぁ座って。」と促す。


「ラルヴァ。現代の錬金術に興味はない?」


現代の錬金術。その言葉にラルヴァは息を呑む。


――現代の錬金術ですって?そんなの…


「興味あるに決まってます!」


ラルヴァは瞳を輝かせてそう叫んだ。

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