後日
無事にダンジョンから脱出したガラジオスは、水魔法によって破壊された鎧を脱ぎ、負傷した腹部に魔法袋から取り出した回復薬を塗る。
その後、エフィ達を待っているとダロスが目を覚ました。そして、気絶する直前に目の前で倒されたサラマンダーを思い出し取り乱してしまう。
「落ち着けダロス。大丈夫だ。エフィ達がサラマンダー様を助けてくれる。」
「エフィ…様が?」
ダロスはエフィの名を聞いたからか幾分か落ち着いたようで大きく深呼吸をする。
――サラマンダーの魔力を感じる。大丈夫。きっとエフィ様なら助けてくれるはず。
深紅の髪飾りを握りしめ、ダロスはサラマンダーの無事を祈る。数分後、レーヴァテインに抱き抱えられているサラマンダーは、既に意識を取り戻しているようで恥ずかしそうにレーヴァテインと口論している。
「もう良いだろ!速く降ろせよ。」
〈怪我人なんだからあまり動かない方がいいよ。〉
「お前の魔力で回復してるからもう怪我なんてねぇよ。だから放せって。」
一生懸命レーヴァテインから降りようとしているサラマンダーは、どうやら十分に回復しているようだ。
「ふふ。」
そんな元気そうなサラマンダーを見て笑み零したダロスは、ゆっくりと立ち上がってサラマンダー達に歩み寄る。そんなダロスの姿を見たからか、レーヴァテインは彼女の目の前にゆっくりとサラマンダーを降ろし、そこから数歩下がった。
「サラマンダー。無事で良かった。」
サラマンダーの顔を見て安心したのか、ダロスはポロポロと涙を零す。
「泣くなよダロス様。強い淑女になるんだろ?」
サラマンダーは指でダロスの涙を軽く拭うと、優しく頭を撫でる。
「うん!」
そんな彼女に、元気よく返事をしたダロスは、ごしごしと服の袖で自分の涙をしっかりと拭った。
「私もう泣かないわ。それに、2度とサラマンダーがこんな酷い目に合わない様に、もっともっと強くなるから!」
「ああ。オレも応援するからな。頑張れよ。」
両拳を握って決意するダロスは、サラマンダーの鼓舞を聞いた後、何かを思い出したように「あっ。」と声を上げ、走ってレーヴァテインの下に向かった。
「レーヴァテインさん。サラマンダーを助けて下さってありがとうございました。」
〈ううん。私にとっても大切な友人だから。大したことはしてない。〉
「いえ。それでも、私の友達を助けて頂いたことに変わりはありませんから。」
ダロスの感謝を素直に受け取らないレーヴァテインは、その後「何かお礼を。」と言うダロスに少し困ったように〈大丈夫だから。〉と言って聞かせる。
「あれ?そういえば、エフィさんはどこに行ったのですか?」
唐突にエフィがいないことに気付いたダロスは、キョロキョロとあたりを見渡して、最終的にレーヴァテインの顔を見て首を傾げる。
〈あー。主は…〉
レーヴァテインは何か困ったように言葉を詰まらせる。
それは今から数分前に遡る。
ファークスを殺害し、急いでダンジョンから抜け出そうとしていた時のことだ。
「じゃあ。レーヴァテイン。地上に送るから後はよろしくね。」
〈え。面倒ごとを私に丸投げする気…〉
「今回は違法入国しちゃったからね。レーヴァテインは元々法国に住んでいたから問題ないだろう?」
〈空間魔法〉で移動したエフィだったが、本来正式に手順を踏まない越境はしてはならないと法で定められているため、法国が信仰する神を救ったとしても彼女は犯罪者だ。
ただ、神を救った英雄を罰することは法国の理念ではできない。かと言って大々的に英雄と掲げる事もできない。そんな法国に対してエフィができることは、早々に法国から去ることだ。
〈でも私、人前に出るのは苦手なんだけど…〉
「人前に出る必要は無いよ。サラマンダーはガラジオスが助けた事にすればいい。ガラジオスへの説得はレーヴァテインに任せたよ。アイツは私よりお前の言うことの方が聞くからね。」
〈…わかった。〉
ガラジオスが〈原初の種族〉に対して敬意を払っていることは周知の事実であり、それはレーヴァテインも知るところだ。その為、嫌々ではあるが彼女はエフィの提案を承諾した。
「じゃあよろしくね。」
エフィによって〈空間魔法〉が発動され、彼女の体は一瞬でダンジョンの出口へと転移する。そして、今に至る。
〈という訳で、主の為にもガラジオスとサラマンダーには口裏を合わせて貰いたい。〉
レーヴァテインに事の経緯を聞き、ガラジオスは渋い顔をする。
「私は良いが、兄さんはそれで良いのか?」
「…仕方がないだろう。特にエフィは、国境を渡るのに通常より多くの手順を踏む必要がある。アイツの違法入国を揉み消し、レーヴァテイン様、もしくはエフィに功績を与えるのは法国の印象を悪くする。この提案は、速やかに今回の件を解決できなかった俺にとっては、願ってもない申し出だ。」
「そうかい。」
冷静に事態を判断したガラジオスは、レーヴァテインの口から語られた提案を受け入れる。
「ダロス様も大丈夫か。」
「はい。ですが、本来与えられるべき功績に見合ったお礼を今度させて貰います。」
「はは。ダロス様らしいな。つー訳だ。レーヴァテイン、今度礼させろよ。」
サラマンダーの言葉に、レーヴァテインは小さく頷き、ある程度の筋書きを4人で決めると、早々にその場を後にした。
後日、サラマンダー教によって、聖女とサラマンダーが何者かに攫われた事実が公表され、それを無事、フラモー法国の騎士団長であるガラジオスが解決したとして彼に勲章が与えられ、幕は下ろされた。
かの様に思われた。
それは、ファークスの死後、シルフの魔法が解け崩落したダンジョンの、瓦礫の下で起こっていた。
「弱いのに挑むから死んじゃうんですよ。ファークス先輩。」
「うるせーよフィオナ。とっと俺の体を治してくれ。」
胴体と頭が離れたファークスは何故か絶命には至っておらず、鬼人の姿に戻っているだけに留まっている。
彼の周りは彼を見下ろしている赤い髪の少女が発動したと思われる土魔法により、小規模ではあるが空洞を生成している。
「はいはい。それなら、私の正式な眷属になって貰いますよ。」
「お前の下ってのは癪に障るが、アイツにリベンジできるなら眷属になってやるよ。」
「交渉成立ですね。」
少女は鋭い爪で手首を切ると、手首から滴る血液をファークスの口に垂らした。その血液を飲み込んだファークスの体は、目に見える程変化し、体長は一回り大きくなり、牙や爪は更に鋭利になる。
「あぁ。」
そして、目には見えないが、彼にとって最も変化した点は、
「あはは。流石に精神が崩壊しちゃいましたか?」
自我を失ったことだ。
「ファークス先輩の体には、お爺様の宝玉に加えて、いろんな魔物の宝玉が混ざってますからね。そこに、眷属化まで施したら流石に耐えられませんよ。」
こうなることが分かっていたのか、少女は思考力を失ったファークスを嘲笑する。
「まぁ。私にとっては自我がない方が操りやすいんで良いですけどね。あっ。ファークス先輩はデカくて目立つんで、後もう人間ぽく無いんで、私の影に入ってて下さいね。」
その命令に機械的に従うファークスは、もう〈英雄殺し〉としての威厳は無く。ただ機械的に命令に従う低級の魔物ようで。少女の言うように、そこに彼の人間らしさはもう存在していない。
「それじゃあ行きますか。ティア様。元気にしてるかなぁ。あっ。その前にどこかでお土産を買ってった方が良いか。」
彼女の名前はフィオナ。ファークスを先輩と呼び、紅炎竜をお爺様と呼ぶように、彼女もファークスと同じく紅炎竜の下でスキルを学んだ者の1人であり、ファークスより遥かに紅炎竜の宝玉との適合率が高く、紅炎竜に育てられた者の中で、正真正銘の最高傑作だ。
彼女は現在、彼女が言うティア様の配下であり、これと言ってこの世界に害を及ぼす気はなく、今回もティア様の命令で、ファークスを処理しにここまでやってきた。
しかし、ただ処理するのは勿体ないと考えた彼女は、ファークスを眷属化することで処理を完了させたのであった。
この時は楽し気にしている彼女だが、その後その勝手な行動によりティア様に叱られることをこの時はまだ知らない。




