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戦い方

「今日はA級の討伐依頼を受けようか。討伐はアーネちゃんに任せるよ。」


「わかりました!」


今日はアスプロティグリスの討伐だ。


アスプロティグリスはA級の魔虎で、攻撃力と俊敏性に優れている。


そんな魔虎を探すために、彼女らが魔人の森まで移動すると、早速、その魔虎を見つけることができた。。


「あれがアスプロティグリスか。」


巨体の白い虎が、倒れた木々の上でぐっすりと眠っている。


「食事を終えて眠っているのでしょうか?」


「そうらしいね。」


アーネの呟きに、エリスは木の下敷きになっている魔物の骨を見て同意する。


「寝ている間に仕留めます。」


今アーネは籠手を持っていない。その為、彼女にとっては久々の素手での戦闘だ。


「アーネちゃんはね。」


アーネの後ろ姿を見ていると、隣に立っているエフィが突然語り始める。


「ほんとは籠手がない方が強いんだ。だから、いつもは籠手を着けさせて修行させている。久々の素手での戦闘。どれくらい成長しているのか楽しみだね。」


エフィの言葉にエリスは、アーネが振り上げた鋭い爪の先を見る。


恐ろしく鋭い、簡単に命を刈り取れるであろう爪。そんな鋭い爪が、魔虎に容赦なく襲いかかる。もし、魔虎が起きていれば、その皮膚や筋肉を貫くことは難しいだろう。しかし、無防備な魔虎はあまりに無力で、簡単に爪は皮膚を貫き、致命傷を与える。


グルルルルッ!と、攻撃を受ける直前に、首への直撃を避けたアスプロティグリスが唸る。


――流石はA級の魔物ですね。首への直撃を避けましたか。


本来なら、首を切断できていたはずの攻撃。それを魔虎は辛うじて避けたが、それでも致命傷には変わりない。


対峙さえしているが、現状不利なのは魔虎だ。既に大量の血を流しているのだから、その俊敏性を生かすだけの体力は残っていないだろう。


「〈物理攻撃力強化〉〈魔法攻撃力強化〉〈俊敏性強化〉。」


状況を理解しているアーネが先に動いた。


なんと地面に転がっている木を魔虎に目掛け蹴り飛ばしたのだ。そんな突然の攻撃を魔虎は大量の血を流しながらも、華麗に跳躍し避け、再びその場に着地――


「〈風魔法〉ウィンドブレイド。」


魔虎が着地したと同時に、風の刃が魔虎の足元を破壊する。その巨体の体勢が崩れた。


足元が確かなアーネは、軽やかに跳躍し空中で回転し、そして未だ空中に浮いている魔虎の胴体を蹴り地面に叩きつけた。その衝撃で魔虎は身動きが取れず、無防備に首への攻撃を受けてしまい、絶命する。


「アーネちゃんは戦闘センスも高い。条件さえ満たせば、今にでもA級冒険者になれるだろうね。」


エリスは、そう語りつつ笑みを零すエフィを一瞥し、こちらに歩み寄るアーネを再び見る。


A級の魔物を討伐したことを喜ぶアーネを見て、エリスは再び、彼女に思う。


天才だ。と


――アーネは、私とは違う。


私の様な神から与えられた膨大なスキルも、何度も死ねるというアドバンテージもない。しかし、彼女はその小さな体と豊富な知識で強敵と渡り合っている。私にはできない戦い方だ。


「後4体の討伐を依頼されているからよろしくね。」


「はい!」


2人の会話に、エリスは我に返り、移動を初めて2人について行く。


数分後、2体目の魔虎を発見する。次は眠っていないので苦戦を強いられそうだ。


まだ強化は解けていないので、アーネはそのまま戦闘に向かった。しかし、真正面から戦うようなことは彼女はしない。


ある程度開けた場所に佇む魔虎だが、森に隠れるアーネにはまだ気づいていない様子だ。それを理解しているアーネは奇襲をしかけることにした。


木の上に上り、油断している魔虎の背後に回る。そして一気に跳躍すると、魔虎の背を爪で貫いた。魔虎は突然の衝撃に驚いているが、その一瞬の隙にそのまま足も破壊され、身動きを完全に封じられる。地面に這いつくばる魔虎の首の肉を抉り、たった1分足らずで討伐してしまう。


「次に行きましょう。」


フェンリルの爪は並大抵の武器よりも強靭で、まだ未熟なアーネでさえその鋭さはB級冒険者が使用する武器を凌駕している。


その為、警戒心を高めている魔虎でさえ、為すすべなく体を切り刻まれてしまう。


3体目も4体目も。何の問題もなく無傷で討伐して見せたあーねは、エリスの水魔法で返り血を洗い流されながら、こう呟いた。


「肉は経ち切れても骨は難しいですね。」


どうやら十分な殺傷能力のある爪だが、満足していないようだ。魔虎はA級でも物理防御力が低い方だ。そんな魔虎の骨すら断ち切れないようでは、物理攻撃力の高い魔物には通用しないと理解しているのだろう。


「確実に強くなっているんだ。焦る必要は無いよ。」


アーネは放っておくと頑張り過ぎてしまう。ゼラニウムと対峙した時、彼女は毅然とした態度で振る舞っていたが、実際は彼の攻撃に対応すらできず悔しかっただろう。あの日からより熱心に、彼女が朝早くから特訓していることをエリスは知っている。しかし、焦って無理をする必要は彼女にはない。


「わかりました。無理をせずに頑張ります!」


「…」


彼女は瞳を輝かせてエリスの瞳を直視する。その輝く瞳に映っているのは恐らくエリスなのだろう。


――私の当たり前の様な言葉を素直に受け入れて、私の後ろを…いや、私の隣を歩いてくれようとしている。しかし、エフィさんではなく私を慕ってくれるのは何故なのだろうか。


助けた、と言えば聞こえはいいが、私が彼女を助けたのは、ほんの好奇心だ。それも〈人化〉というスキルに対してだ。その後も彼女を助けたのは、前世の私と彼女の境遇が似ていたからで、いわゆる同情心からだ。


彼女自身に私が執着に似た何かを覚えるようになったのはごく最近のことで、察しの良い彼女なら、初めて出会ったときの私が彼女自身に何の興味も持っていなったことに気付いていただろう。


「?」


無表情で顔をのぞき込むエリスに、アーネは首を傾げる。そんな彼女にエリスは優しく微笑む。


「何でもないよ。」


――理由なんて何でもいい。この子が私を慕ってくれる。その事実だけで嬉しい。


「さて、最後の1体を倒しに行こう。」


「はい!」


エフィは、横並びで歩くエリスとアーネを見て微笑む。


――いつの日か、あの日の様な惨劇が起きる。だから、この子達の幸せは私が守ろう。


「エフィさん!」


少し前を歩き始めていたアーネが振り返り、エフィに声をかける。


「これからも偶に、私にA級の依頼をさせて貰えませんか?無理のない範囲でいいんです!私、もっと強くなりたいです。」


「…」


エリスも言っていたように、アーネは確実に強くなっている。しかし、彼女は満足していない。冒険者として、十分な実力を得てなお、更に成長しようとしている。


そんな彼女に、エフィは心に誓った。


――私がこの子達の幸せを守るというのは、撤回しよう。この子達を守るのはこの子達自身だ。


「良いよ。君の力に合わせて、どんどん強い魔物と戦わせてあげるよ。」


「ありがとうございます!」


アーネは嬉しそうにして、魔虎の臭いを嗅ぎ分けて走り出す。


――エリスちゃんは気づいているだろうけど、最後のアスプロティグリスは少々手ごわい。アーネちゃんは苦戦するだろう。でも、あの子は必ず勝つ。


アーネの後ろを走るエリスの明るい表情を見て、エフィは笑みを浮かべる。


――アーネちゃんを信じているんだね。その信頼はとても大切だ。大事にして欲しいな。


数秒後に接敵する魔虎は物理防御力が高く、アーネの攻撃がまともに通用しない。


アーネに〈鑑定〉はない。その為、攻撃するまでその事実に気付けない。エリスとエフィはその事実を伝えることは無い。この戦いはアーネ1人のものだから。


エリスとエフィに見守られる中、戦闘が始まる。


アーネは〈物理攻撃力強化〉〈魔法攻撃力強化〉〈俊敏性強化〉を発動し、今まで通り、背後から奇襲を仕掛ける。しかし、彼女の爪は魔虎の硬い皮膚によって阻まれ、かすり傷程度しか与えることができない。


――このアスプロティグリス、物理防御力が高いようですね。


アーネは距離を取り、魔虎が動くのを待つ。


――まずは慎重に、相手の力を測る事を優先するのが定石。だったら、相手の出方を伺い、カウンターを狙う。


早速、魔虎の足に力が籠められる。直後、アーネの眼前に魔虎が跳躍し、鋭いを爪による攻撃がアーネに襲い掛かる。アーネはその振り上げれた前足を腕で弾き、魔虎の下に滑り込み、足で腹部を蹴り上げ、浮かび上がったその体を更に蹴り飛ばす。


もろに直撃した蹴りだったが、致命傷にならず。魔虎は蹴り飛ばされた先で足から着地している。


そして、アーネが体勢を整える前に走り出し、体勢を整えたアーネの周りを不規則に走り回り出す。


動きを悟らせないよう数秒間走り回り、遂にアーネ目掛けて跳躍し攻撃を繰り出す。アーネはその攻撃を辛うじて避け、後方に飛び上がり再び体勢を整える。


――今のは危なかったですね。攻撃がまともに当たれば確実に致命傷。いや、あの爪にあの速度。かすりでもしたら体が吹き飛ぶかも知れない。


魔虎は次は真正面から走り出す準備をする。その一瞬の油断をアーネは見逃さない。


「〈風魔法〉ウィンドアロー。」


魔虎の初動に合わせて、風の矢が魔虎の足を貫く。


――よしっ!


アーネの魔法では平凡な威力しか出せない。しかし、正確に関節を狙った攻撃は、流石の魔虎でも防ぎきれなかった。


動揺する魔虎を前にアーネは走り出す。魔虎は足を貫かれた衝撃に動きが鈍っている。その隙を狙い、彼女は魔虎の左目を素手で貫き、魔虎の視界を半分封じる。その激痛に魔虎は咆哮する。


――凄まじい叫び声ですね。ゼラニウムさんに一度やられていなかったら、この距離なら鼓膜が破れていたかも知れませんね。


至近距離での凄まじい咆哮にも、今のアーネは怯まない。


「〈風魔法〉ウィンドブレイド。」


アーネによって放たれた無数の風が魔虎を襲う。しかしその猛風の中で、魔虎は足に力を入れる。


――動く!


アーネは魔虎が跳躍する直前にその場を離れる。直後、先程までアーネが立っていた場所に、無数の岩石が降り注ぐ。


――危なかった。〈土魔法〉を発動させる余力が残っていたのですね。しかし、なぜ今まで魔法を発動させなかったでしょう。


アーネはその状況に困惑する。当然だ。魔虎が魔法を使わなかった理由は、アーネに一生芽生えることのない、慢心なのだから。


――今は考えている暇はないですね。


魔虎は既に大量の血を流している。今の今まで油断していたのが原因だ。格下だと判断したその幼い神狼に足を貫かれ、その一瞬の動揺で左目を失った。


魔虎は本能で、その幼い神狼が己を脅かす存在であると理解した。もうそこに油断は無い。


――目の色が変わった?ですがあの出血量。もうまともに動けないはず。でも油断はできないですね。


アーネは体勢を整える。彼女には最初から最後まで油断は無い。


直後、魔虎は今出せる最高速度でアーネに襲い掛かる。しかしその攻撃はアーネに防がれ、


「〈風魔法〉ウィンドランス。」


風の槍は、この戦いでできた傷口の1つに正確に放たれ、直接臓器を貫く。


致命傷を負い、魔虎はその場に倒れ込む。


「〈風魔法〉ウィンドランス。」


アーネは確実に絶命させるために風の槍で右目を貫き、その槍先で脳を破壊する。


――エリスさんと毎日手合わせをしていたからあの速さに対応できましたが、正直危なかったですね。それに、もし最初から〈土魔法〉を使われていたら、負けていたのは私だった。


アーネは膝を地面につけ、激しく息を切らす。彼女の足には小さな傷口があり、そこから少しずつ地面に血が滴っている。


――〈土魔法〉によって飛び散った岩の1つが当たったんですね。まだまだ未熟です。


アーネは呼吸を整え立ち上がり、戦闘中には気づかなかったその小さな足の傷を眺めて反省をする。


「お疲れ。治そうか?」


「いえ。この程度の傷に、エリスさんの魔法は勿体ないです。」


「そっか。じゃあ返り血だけ流すね。」


エリスは〈水魔法〉でアーネに着いた返り血だけ洗い流し、何も言わずに〈魔法倉庫〉に死体を回収する。そして、「帰るよ。」と足早に帰路についた。


「はい。」


アーネはそんなエリスの横に並び、同じく帰路につく。


――どうしたのでしょうか。


アーネは、いつもより遅い速度で歩くエリスに疑問を抱きながらも、その速さに合わせて歩いた。彼女らの前を同じくゆっくり歩くエフィは、何か察したような表情で微笑んでいるし。


そんな困惑する状況に、もう慣れてしまったアーネは、不思議と心地よい気分になり表情を綻ばせる。


こんな日常が続くことを願って。



――場所は変わり。


とある路地裏をルビーを薔薇の形に加工した深紅の髪飾りを付けた赤毛の少女が歩いていた。


「あ!」


すると、前から歩いてきた巨漢の足に彼女の肩が当たってしまい、手に持っていたパンの入った袋を落としてしまった。


「なんだぁガキィ。殺されてぇのか?」


「ヒッ!す、すみません。」


「謝って済むなら――」


赤毛の少女が気に入らないのか、巨漢は赤毛の少女に手を出そうとした。その瞬間、突然出現した業火によって、巨漢は灰も残さず焼失してしまった。


「子供に手を出すなよな。愚か者が。」


巨漢の背後に立っていたのは、火を具現化したような少女だ。彼女は、赤毛の少女に手を差し伸べ、


「大丈夫か?ダロス様。」


と赤毛の少女を心配する。


「ありがとうサラマンダーさん。」


「何度も言ってるが、オレのことは呼び捨てで呼べよ。」


「ふふ。そうだったね。サラマンダー。」


赤毛の少女、ダロスにサラマンダーと呼ばれている少女だが、彼女はその名の通り、火の大精霊だ。


サラマンダーは人間に無関心なシルフとは違い、人間に懐疑的だ。信じる者は主と一部の認めた者のみであり、主のためであれば、躊躇なく人を殺す。そしてダロスも、彼女の殺人に目を瞑っている。


「それより、早くお前の母さんに食い物を持って行ってあげな。」


「うん。そうだね。」


ダロスはサラマンダーの言葉に従い走って家に向かった。


ダロスが見えなくなると、サラマンダーは振り返り、声を上げる。


「おい!おまえら、精霊槍を盗みに来たのか?」


「よくわかってるじゃねぇか。お前はあの女の知り合いなんだろ?俺たちに協力しろ。そうすれば命だけは助けてやるよ。」


「そうか。なら、」


赤毛の少女を狙う男たち。彼らは哀れにも、絶対に触れてはならない火の大精霊に触れてしまった。


「死ね。」


男たちは次の瞬間、灰も残さず焼失する。


「ふん!」


サラマンダーは地面に残る業火の跡を睨みつけ、不機嫌そうにその場を後にする。そんな彼女を遠くから見つめる影があった。


「見つけたぜ。サラマンダー。」


都市の時計塔の屋根に座り、男は不敵な笑みを浮かべた。

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