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冒険者

昼頃、ウリック達が洞窟まで服を持ってきてくれた。


「ありがとう。少し待っててください。着てみます。」


洞窟の奥の方で、持ってきてくれた服を幾つか確認すると、気に入ったとある服を着てみる事にした。


――黒のワンピース…。生前では来たことがなかったな。


「ピッタリです。ありがとうございます。」


「やっぱり似合いますね!可愛い。」


愛らしいエリスの姿を見て、思わずフェイスが叫ぶ。


「フェイスが選んでくれたんです。女性の服は俺らには分からないんで。」


「そうでしたか。ありがとうございます。」


エリスはフェイスの顔を見て笑顔で感謝を述べる。


「グッ。なんという可愛さ。」


その天使の様な笑顔に、フェイスはそう言葉を残して気絶した。


「大丈夫か?フェイス。すみませんね。こいつ可愛い物には目が無くて。」


「そうなんですか?」


鼻血を流して気絶したフェイスをエリスは心底心配する。そんなエリスにウリックは穏やかな笑顔で、「いつものことなので。」と語った。


数分後、フェイスが起きたので、エリスは彼らへの信頼の証として、彼女の秘密を告白する。


「まず、私は吸血鬼です。」


エリスの一言に3人は驚きの表情を浮かべる。


「…本当ですか?」


当然疑う3人。しかし、エリスが迷うことなく「はい。」と即答したことで、一先ず信じることにした。だが、未だに半信半疑。何故なら彼らにとって吸血鬼とは――


「あの…ですね。吸血鬼は希少な魔人でで、強く、冷徹で、長寿です。かつて、魔王として君臨した吸血鬼は、己の快楽のために吸血をする怪物でした。ですから、貴女のような心優しい方が吸血鬼だとは思いませんでした。」


そう、吸血鬼とは彼らにとってはこの上なく恐ろしい存在。


特に、1000年前〈七色の勇者〉によって滅ぼされた、吸血鬼の魔王であり、女性の血を好き好んで吸血したという、〈血染めの魔王〉フォボス=エマは、今に至るまで最大級の恐怖の対象だ。


〈夜更かしするとフォボスが血を吸いに来る〉という諺があるほどだ。


そんなこの世界の常識さえ知らないエリスに、ウリックがアドバイスをする。


「そうですね。吸血鬼とバレるのはまずいですから、亜人を騙ってください。亜人は古来から友好関係にある魔人を指す言葉です。人間と対立しないためにはそれが一番です。」


「ありがとうございます。これから亜人を名乗ろうと思います。ですが困りましたね。その知恵があっても、私は吸血鬼ですから昼間は動けません。ですから人と関わるのは…」


難しい。そう言いかけた所で、フェイスが言葉を遮った。


「あれ?知らないのですか?吸血鬼は確かに日光が弱点です。ですが、高位の吸血鬼は最大レベルの火耐性を持つので、日光による火炎すら耐えると聞いています。」


「え?」


エリスは自分を鑑定してみる。


〈火耐性〉。火に対する耐性を得る。派生として〈日照耐性〉がある。


〈日照耐性〉。日光に対する耐性を得る。本来は、日焼けしない程度の耐性だが、吸血鬼の場合、日光の弱点を克服できる。〈火耐性〉を最大レベルにすることで、獲得制限が解除される。


――ホントに。じゃあ私、太陽を見れるの?


恐る恐る、エリスは火の下に足を踏み入れる。


「…綺麗。」


太陽は力強く空に浮かび、全てを照らしている。そして月の光に照らされた時とは全く異なった輝きを放つ木々はこの上なく美しい。


「日光が大丈夫なら、次は都市に行ってみたいです。お願いできますか?」


普通なら無理なお願い。しかしウリックは当然と言いたげに快諾してくれた。


「わかりました。じゃあ、早速行きましょう。」


都市に向かっている途中で分かった事なのだが、無口なアサシンのザックは、どうやら都市の大商人の息子だそうだ。無口だったのは彼がアサシンだからではなく、本当は大商人の息子だとバレない様にするためだったのだ。


「ザックが親父さんと話をつけてくれます。親父さんは聡明な方なので、すぐに都市に入れますよ。」


その言葉から1時間足らず、エリスの身元はあっさりと保証された。


「君がエリス殿か。息子を助けてくれたこと、感謝します。」


絢爛豪華という言葉が相応しい部屋で、エリスはザックの父親と対面する。彼は、エリスの顔を見るや頭を下げ、感謝を述べた。その様子にエリスが申し訳なさそうにしていると、それを気遣ってか、すぐに切り替えて、エリスに椅子に座るよう勧め、自信も椅子に座った。


「して、エリス殿。貴女は亜人と聞きました。でしたら、冒険者になることをお勧めします。亜人は、人間とは比べ物にならない身体能力を持ちます。冒険者では重宝される存在です。ですから、冒険者になれば少なくとも、生きていけますよ。」


椅子に座って彼が最初に語ったのは職の勧めだった。確かに今後活きる為には手に職が必要だ。彼の気の利きようにエリスは感服する。


「なるほど。それでは、そうしてみます。」


ザックの父親の勧めにエリスは深く頷いた。その様子を気に入ったらしい彼は、楽し気な様子のまま、この世界における貨幣を説明してくれた。


「こちらが、この大陸の貨幣です。右から金貨、銀貨、銅貨、青銅貨です。」


日本の貨幣と比較すると、それぞれ、青銅貨1枚は10円、銅貨は1000円、銀貨は10万、金貨は1000万の価値がある。


「そしてもう一つあります。それは金貨の100倍の価値を持つ、金剛貨と呼ばれるものです。これに関しては、流石の大商人と謳われる私共も入手できない希少な硬貨でして。」


「つまり、私には関係のない硬貨ですね?」


「はは。そうですね。あっと、そうだ。忘れていました。冒険者になるには身分が必要です。なので、私が保証人となり身分を確約して、冒険者になって貰います。一か月分の活動資金と、装備に関してはこちらが用意します。息子を助けてくれたお礼です。」


「何から何まで、ありがとうございます。」


エリスは感謝を述べると、ザックの父親から貰った装備品を身に着けて、早速、冒険者ギルドに向かった。


「ポリティス商会社長キャメロン氏の紹介ですね。わかりました。彼を保証人に冒険者登録を許可します。それでは適性検査を行います。」


案外すんなりと冒険者登録が進み呆気にとられる。そんなことは露知らず、受付の女性は水晶を取り出した。


「これはステータスを写し出す魔道具です。水晶に触れると貴女のステータスが、こちらの紙に転写されます。それでは、どうぞ。」


――ステータスはさて置き、スキルのレベルを見られるのはまずい。確かスキルに偽装というのがあったはず。


エリスが水晶に触れるとステータスが紙に写し出される。


名称:エリス

種族:亜人族 (デミヒューマン)

性別:女性

年齢:16歳

生命力:3000/3000

魔力:4000/4000

物理攻撃力:2000/2000

魔法攻撃力:4000/4000

物理防御力:2500/2500

魔法防御力:3600/3600

俊敏性:3000/3000

精神力:2000/2000


スキル:火魔法 レベル5

     火耐性 レベル3

     千里眼 レベル4

     魔法倉庫 レベル1


「お若いのに強いですね。これでしたら、C級冒険者として登録できます。」


いきなりC級冒険者になれると言われて、心の中で喜ぶエリス。上から4番目の階級だが、普通E級からのスタートがほとんどの冒険者で、飛び級で来たのだから嬉しかった。


「それでは、C級冒険者エリスとしてカード発行をさせていただきます。こちらのカードは魔力を込めることで、現在のステータス、依頼完了数、魔物の討伐数を表示します。失くした場合は再発行はできますが、銅貨2枚の罰金が科せられます。大丈夫ですか?」


「はい。大丈夫です。」


冒険者カードを受け取り、早速クエストボードに貼られた依頼を見てみる。すると、丁度良い依頼を発見し、それを取り外す。


依頼制限:C級

依頼者:オルニス都市市長

依頼内容:魔人の森に大量発生したアグリオの討伐

依頼報酬:アグリオ1体に銅貨1枚

依頼期間:依頼主による取り下げまで

依頼失敗時:違約金銅貨1枚


充分に依頼内容を確認し、それを受注すると決めた。


「これを受注したいです。」


「この依頼ですね。はい、わかりました。それでは、この依頼の注意事項を1つお伝えします。アグリオは1個体であれば、エリスさんなら問題ありませんが、群れを成していた場合、その危険度はB級に上がりますので、無理をせず、速やかに帰還して報告してください。」


「わかりました。」


その注意事項を心にとめて、エリスは楽し気な足取りで魔人の森に向かった。


魔人の森とは、エリスが最初に降り立った森だ。竜人族の王として名を馳せる、〈ファラガ=ドラーコ〉の加護を受ける森で、魔人の一種である竜人族の加護を受けているから魔人の森と呼ばれている。


そんな森の中を歩いていると、何かに監視されている事に気が付いた。


――監視されている。吸血鬼のスキルは使えないな。


人に見られている時は先程登録した火魔法しか使えない。しかし、その縛りはこの程度の魔物相手ならば、問題なかった。


「さて、〈火魔法〉ファイアアロー。」


エリスの頭上に無数の火の矢が顕現する。火の矢は凄まじい速度で木の間を飛翔し、エリスが千里眼で確認した、数体のアグリオを貫き燃やし尽くした。


「確か、死体は回収するんだっけ。」


あっさりとアグリオを討伐して見せたエリスは、その死体を魔法倉庫で回収して、再びアグリオ討伐に向かった。


その頃、エリスを監視していた人物達は、依頼人への報告に向かっていた。


「あのエリスという亜人。我々の監視に気付いていました。」


「レベル7の〈隠密〉を持つ君もか。」


「はい。アサシン職5人中全員が、です。」


依頼制限:指名

依頼者:冒険者ギルドオルニス支部支部長

依頼内容:C級冒険者エリスの監視

依頼報酬:銅貨20枚

依頼期間:受注より5日間

依頼失敗時:なし


この依頼を受けた5人は、全員がB級冒険者であり、ステータスだけ見ればエリスより格上だ。しかし、そんな彼らがあっさりと監視に失敗してしまった。依頼人である、冒険者ギルドの支部長は、エリスには何か特別な秘密があると確信し、事前に召喚していたA級冒険者に、そのまま依頼をお願いした。


「B級の君たちが失敗したんだ。A級に依頼するしかないな。」


「私の助けが必要?」


「話は聞いていたな?これより君に依頼する。頼んだぞ。」


A級冒険者である、鮮やかな緑の髪と、エメラルドの様な美しい瞳を持つ女性は、笑顔で依頼を受けると霞の様に一瞬にして消えた。


「彼女であれば大丈夫だろう。」


支部長がこう語る理由。それは、A級冒険者になる権利があるのは、ステータス平均が10000以上という人間でも限られた者達だけであるから。つまり、彼女は特別であり、彼女が失敗をすることは一切ないとわかり切っているという訳だ。


――気配がなくなった?しかし、用心しないに越したことはないか。


現に、エリスは彼女の気配に全く気付いていない。それ程にエリスとA級には差があった。しかし気配が無くなっただけで油断するエリスではなく、その後も尻尾を出すことは無かった。


夕方になり、エリスは討伐の報告をする為に冒険者ギルドに帰還した。


「アグリオ23体の討伐。確認しました。銅貨23枚をお渡しします。この依頼はまだ取り下げられていないので、討伐次第報告してください。また、他の依頼も受注することをお勧めしますよ。」


「わかりました。他の依頼も見てみようと思います。」


エリスは受付のお勧め通り、他の依頼を見てみる。すると、またもや良さそうな依頼を発見した。


依頼制限:C級

依頼者:ポリティス商会

依頼内容:ルプスの討伐、素材の回収

依頼報酬:ルプス1体分の素材に銅貨50枚

依頼期間:受注より5日

依頼失敗時:銅貨1枚


ルプスは魔狼族であり、その毛皮は新人冒険者の装備として多く流通している。


――ルプスか。リュコスより少し弱いが、素材の価値はルプスの方が圧倒的に高い。つまり稼げる!


まずは何をするにも金が必要だ。エリスは迷うことなくその依頼を受けることにした。


「これを受注したいです。」


それから、エリスの冒険者としての日々が始まった。

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