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無明の悪魔

「貴女が黒幕だったとは思わなかったよ。」


「想定より早かったのう。」


「〈空間魔法〉を用いた認識阻害を使える人間なんて、貴女かポールくらいだろう?」


エフィと対面している女性は、幼い少女の姿をしている。


「オミクレーという名を聞いた時から、何かが起こることは予感していたけど、まさかエリスちゃん達の暗殺を企んでいたとはね。」


その少女はそんなエフィの言葉を嘲笑うかのように口角を上げて笑みを浮かべる。


「あの子達を暗殺しようとしたのは儂じゃないぞ。」


幼い声で老人の様な話し方をする少女は、エフィの考えをきっぱりと否定する。


「じゃあ、犯人は誰なんだ?」


疑問を述べるエフィに、少女は簡潔に答える。


「悪魔ティポトス。」


「…なるほど。彼女が関わっていたのか。それなら、フィンリーが私の問いにオミクレーの名を答えたのにも納得がいく。」


〈無明の悪魔〉ティポトス。それは完全な暗所において、実力以上の力を発揮する悪魔であり、その少女とは少し因縁がある。


「あの部屋は、わざわざ〈光魔法〉と〈闇魔法〉を使ってまで、完全な闇を生み出していた。そこで気付くべきだったな。」


「ティポトスは大した悪魔じゃない。だが、力を封印している時のお主くらいなら欺けるようじゃな。」


珍しく完全に欺かれたエフィを少女は嘲笑する。


「そうだな。今回は完全に欺かれてしまった。」


その事実を素直に認めるエフィに、少女は意外そうな顔で彼女を凝視する。


「なんだ?」


エフィが不機嫌そうに少女を睨むと、少女は「すまない。」と笑って見せる。


「あまりにお主が素直に認めるのでな。」


「事実だからな。」


少女の言葉に、きっぱりとそう答えるエフィ。そんなをエフィに一瞬で真面目な表情を作る少女は「ところで。」と話を切り出す。


「フィンリーの身柄は引き渡してくれないか?彼奴には、ティポトスの呪いがかけられていたようじゃが、お主が彼奴ごときの呪いに気付かないわけがないじゃろう?」


「ああ。フィンリーなら、ギャラルホルンに拘束させてるよ。」


少女の問いに、エフィは軽くそう答える。


「そうか。それなら、儂に引き渡してくれんかのう?」


「良いよ。犯人がティポトスだと教えてくれたお礼だ。」


「感謝する。しかし、あの程度の情報じゃ釣り合わないのう。そうじゃ、死体を作ってやろう。」


少女の提案を承諾したエフィは、〈空間魔法〉でこの場に召喚したフィンリーと、少女が〈魔法倉庫〉から取り出した魔物の死体を偽装し作り出したフィンリーの死体を交換する。


「じゃあ私は行くよ。」


〈空間魔法〉を展開するエフィは、その歪みに入る直前に少女の方へ振り返る。


「そうだ。後で連絡するからよろしくね。()()()()。」


「ああ。待っておるぞ。」


エフィが去った部屋の中で1人、少女は地に伏せるフィンリーを見下ろす。


「お主。何故あの娘らに手を出したんじゃ。あのエフィと敵対することぐらいわかっていたじゃろうに。」


「ハッ。よく言うよ。あんたみたいな大物に狙われたんだったら、俺がどんな判断をしようが俺の死は確定している。そもそも、俺にあの依頼を断ることはできやしないさ。俺ごときじゃ悪魔に勝てない。それくらいわかっているつもりだ。」


暗殺者らしからぬ弱気な発言に、少女は声を出して笑う。


「最初から失敗するとわかっていて依頼を受ける暗殺者がいるとは知らなかった。お主には暗殺者としてのプライドは無いのか?」


「はっきり言って無いね。俺はより長く生きれる選択をするだけだ。」


少女の問いに、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるフィンリーを見下ろして、少女は一言「そうか。」と憐れむ様に呟く。


次の瞬間。何らかの魔法でフィンリーの首を切断する。


「さて、」


少女の名前はヴィーブ=マギアス。S級冒険者の1人だ。現在は分け合って少女の姿をしているが、会議時に見せたあの姿ではなく、こちらの少女の姿が現在の本来の姿だ。


「依頼完了の報告をしに行くとするかのう。」


そう呟いてヴィーブはフィンリーの死体を〈魔法倉庫〉に収納すると、〈空間魔法〉による移動を始める。



「ただいま。2人共。」


「お疲れさまでした。ところで、何かわかりましたか?」


「いや。エリスちゃんは聞いてたと思うけど、あの暗殺者は死んだ。依頼者の名前を口にする直前に即死する様に〈(のろい)魔法〉を施していたようだ。完全に欺かれたよ。」


欺かれたと騙るエフィの言葉は何か説得力があるようで、何故かエリスとアーネは疑うことなくそれを信じる。


「エフィさん。1つ聞きたいことがあるのですが。」


エリスのその質問に、少し嬉しそうに「なんだい?」と答えるエフィ。彼女はそのままエリスに向き直り、彼女の質問の続きを静かに聞く。


「明らかに混乱していた令嬢たちが、騎士団の到着と同時に冷静さを取り戻しました。あれは何だったのでしょうか?」


エリスのその疑問に、うんうんと嬉しそうに頷き、エフィは「良い質問だね。」と前振りをし、回答を始める。


「あれは〈偽装〉だよ。」


「〈偽装〉ですか?」


エフィの言葉を理解できない様子で、エリスは少し首を傾げる。


「ああ。〈偽装〉っていうのはそもそも、事実を改変するスキルなんだ。レベル10にもなれば、人の記憶を偽装するくらい造作もないさ。」


「〈偽装〉にそこまでの能力があったとは。」


エリスは、自分が普段から多用する〈偽装〉について、よく理解していたつもりであったが、彼女は〈偽装〉の表面上の能力しか把握していなかったようだ。


「スキルと言うのは奥が深い。1つのスキルに様々な能力がある。エリスちゃんとアーネちゃんにはステータスの上昇に集中して貰ってたけど、今度からはスキルの上達にも力を入れようか。」


「はい。わかりました。」


返事をするエリスとアーネをそれぞれ見て、エフィはニコリと笑みを浮かべる。


――エリスちゃんは魔法系スキルへの。アーネちゃんは武術系スキルへの適正が高い。彼女たちがスキルを極めれば、更なる実力の上達が見込める。楽しみだ。


そう思いを馳せつつ、エフィは1つ2人に話して置かなければならないと、「そうそう。」と切り出す。


「エリスちゃんを襲った暗殺者。フィンリーについて話しておこうと思う。」


その言葉に、エリスはあの異様に戦闘慣れした男を思い出す。


「暗殺者ギルド。と言う、非合法の組織がある。」


「暗殺者ギルド…ですか?」


エリスはその名前に聞き覚えが無かった、横で同じくエフィの話を聞いているアーネもその表情から知らないようだ。


「ああ。普通に生きていれば絶対に関わらない組織だ。ただ、A級以上になると、暗殺者の捕縛、もしくは殺害を依頼される事もあるから、今の内に知っておいても損は無いだろう。」


暗殺者ギルド。それは、冒険者ギルドの対となる、裏社会最大の組織であり、約400万人の暗殺者が所属している。その組織体系は冒険者ギルドと同じく、所属する暗殺者をそのステータスに合わせE~S級に分類している。


「その暗殺者ギルドの頂点、つまりはS級暗殺者には3人の暗殺者が分類されている。その内の1人がエリスちゃんを襲った暗殺者フィンリーだ。」


――S級か。通りで強かったわけだ。


エリスはそんな事を考えつつ、彼が暗殺者だという点に自分の実力を疑ってしまう。


「暗殺者…と言う事は、彼は暗殺が得意という訳ですよね。」


そう。彼は暗殺者。つまりは、本来正面での戦闘を得意としていない。


「ああ。」


その事実をエフィは肯定しつつも、「ただ」と言葉を付け足す。


「S級暗殺者はその他の暗殺者とは一線を画す。3人の内1人を除き、彼らは白兵戦でもS級冒険者と対抗し得る実力を有している。」


「S級冒険者と…ですか?」


エフィの言葉をエリスは疑わずにはいられなかった。何故なら、


「あの暗殺者がキュアノさんに及ぶとは思えませんが…」


彼女の知る唯一のS級冒険者キュアノ=アオディスと比較した時、フィンリーではキュアノに遠く及ばないと思ったからだ。


「キュアノか。あいつは、S級冒険者の中でも白兵戦が得意な方だからな。それに、エリスちゃん達は知らないけど、あいつには剣があるから。」


「剣ですか?」


キュアノが剣士であることは、エリス達は当然知っている。ならば、エフィが言っている〈剣〉とは、剣術の事ではないだろう。それでは、彼女の言う〈剣〉とは、彼が所持する剣の事だろうか。


「そうだよ。」


エフィの口から語られたその剣の名前は、恐らくは地球で最も有名な〈聖剣〉だ。


「〈聖剣〉エクスカリバー。現在判明している聖剣の中で最も強力とされている剣だ。」


〈聖剣〉エクスカリバー。地球ではかの有名なアーサー王が所持していたとされる聖剣。当然、エリスもその名前は聞いたことがあった。しかし、それをキュアノが持っていた事には、珍しくエリスも驚いた。


「凄いですね。」


無表情ではあるがその目は輝かせて、エリスは一言、そう呟いた。そんなエリスに、「フフッ。」とエフィとアーネは顔を見合わせて微笑む。


「凄いだろう。私も最初は驚いたよ。エクスカリバーと言えば、誰もが知る伝説の聖剣だからね。」


「私の村でもその名前は有名でしたので、相当ですよ。」


どうやらエクスカリバーは世界を越えてなお、最も有名であるようだ。


「まぁそういう訳だから。キュアノをS級冒険者の基準として考えるのは難しいかな。」


「そうですか。」


エリスはエフィの言葉に少し気が楽になったが、それでも自分の実力がS級冒険者に及んでいない事実は変わらないと自覚する。


そんな時だ。部屋のドアがノックされる。


「どうぞ。」


その正体は、フェイ様だった。


「この後11時にお茶会の際に使用した会場へ向かうようにと連絡がありました。護衛をお願いできますか。」


どうやら、マギアス家から何か発表があるようで、その護衛を頼みに来たようだ。


「わかりました。私が参ります。それじゃあ、私は行ってくるから2人は先に休んでて。」


エフィが護衛に向かうと、2人は彼女の言いつけ通り休むことにした。


一先ずシャワーを浴びた2人だったが、そこで1つの問題に気づいた。


「ベッド2つしかありませんね。」


そう、この部屋にはベッドが2つしかないのだ。


「じゃあ、私は椅子で寝るからアーネはベッドで寝て。」


「いえ、今日エリスさんはいつも以上に力を使っているので、しっかりベッドで寝てください。」


いつもならエリスの言う事を聞くアーネだが、こういう事に関してはかなり頑固だ。


「私は吸血鬼だから、少し寝れば体力は回復する。私は椅子で問題ない。」


「駄目です。1日に2度力を使ったのですから、いつも以上にしっかり寝て貰わないと私の気が収まらないです。」


やはり頑固だ。こうなったアーネは絶対に意見を変えない。仕方がない。


「わかった。じゃあ一緒に寝ようか。」


同じベッドで眠りについた2人。エリスは何故だか、いつも以上に眠れた。それに対応するかの様に、


「…」


アーネは良く眠ることができなかった。その夜は何故だか心臓の音が煩かったのを彼女は覚えている。



〈ヴィーブ。頼みがある。〉


エフィはフェイの後ろ歩きながら、念話でヴィーブに問いかける。


〈なんじゃ?〉


〈マギアス侯爵について調査を頼みたい。いやな予感がする。〉


エフィの嫌な予感がする。という発言に少し反応しつつ、ヴィーブは〈良いじゃろう。〉とその依頼を承諾する。


〈ところで、ティポトスの居場所は分かったのか?〉


〈当然だ。〉


唐突に質問を投げかけるヴィーブに、エフィは即答する。


〈そうか。〉


ヴィーブはその即答に満足したのか、ニヤリと笑みを浮かべた。


そんなヴィーブとの〈念話〉を終え、エフィはセラスとマギアス家の騎士団が待つ部屋へと入室する。


部屋に入ると、既にほとんどの令嬢たちが集まっており、数分後には全ての令嬢が集まった。


「この度、我々がいながらこのような事態になってしまったことを深く謝罪します。」


騎士団長は謝罪を始めた。


以下はその内容だ。


犯罪者の襲撃によって、令嬢たちの身を危険に晒したことに対する謝罪。そして、今回の事件を受けて、社交界を中止とすること。


その内容にフェイを含め、全ての令嬢があっさり納得し、その場はすぐさま解散となった。


エフィは部屋を出る直前、騎士団長を一瞥する。


――確信した。この〈偽装〉は、間違いなく彼のものだな。だが、ティポトスの〈魅了〉を受けている様子はない。


エフィはフェイを部屋まで送り届けると、その部屋に結界を張り、一度自分の部屋に戻る。


――私は椅子でも良かったんだけどなぁ。気を遣わせちゃったか。


2つあるベッドの1つに2人で眠るエリスとアーネに微笑みつつ、エフィは〈空間魔法〉を発動する。


次の瞬間、移動した先は屋敷から少し離れた一軒家の一室だ。


「まさか。そのレベルの〈空間魔法〉が使えるとはね。」


その部屋は、〈光魔法〉と〈闇魔法〉で、完全な暗所となっている。完全なるティポトスの領域だ。


――この子、相当強いようね。S級相手を想定して戦うべきね。


〈鑑定ができません。〉


鑑定弾かれ、一瞬動揺するティポトス。しかし、次の瞬間には気持ちを切り替え、エフィの姿をしっかりと見据える。


直後、彼女の放った魔法は、簡単にエフィの四肢を土の鎖で縛り上げる。


――あら?あっさり捕まえられたわね。まだこの空間に目が慣れていないのかしら。


ティポトスは、簡単にエフィを捕えられたことに油断したのか、一瞬の隙を見せる。しかし、彼女と対峙した瞬間から、そんな隙は見せてはならない。


「終わりだ。」


耳元で囁かれたその言葉は、ティポトスを恐怖させるには十分だった。


いつの間にか、彼女の隣に立つエフィは、何かしらの力で彼女の体を吹き飛ばす。


「なん…だ?その…力は…」


右手は潰れ、左手は折れ、右足は千切れ、左足は捻じれ。何故、自分がそんな姿になったのか、ティポトスは途切れ途切れの言葉でエフィに問う。


「最期に教えてあげるよ。」


エフィは彼女の耳元まで顔を近づけ、小さく囁く。


「私は――だよ。」


その言葉に驚愕するティポトスは、エフィが抜剣した〈精霊剣〉シルフによって、その長い人生を終えた。

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