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「聞いてないな。吸血鬼が人間に紛れているなんて。」


「〈鑑定〉。」


名称:フィンリー

種族:亜人族

性別:男性

年齢:39歳

生命力:29100

魔力:27600

物理攻撃力:32100

魔法攻撃力:30400

物理防御力:28600

魔法防御力:26900

俊敏性:39600

精神力:32200


スキル:火耐性 レベル7

     水魔法 レベル7

     水耐性 レベル8

     風魔法 レベル8

     風耐性 レベル7

     土耐性 レベル6

     光魔法 レベル8

     毒魔法 レベル10

     俊敏性強化 レベル10

     隠密 レベル10

     分身 レベル10

     …


――聖魔法は持っていないようだな。できる限り、吸血鬼魔法は使いたくない。しかし、魔力が回復し切っていない以上、長期戦は不利だ。


エリスの現在の総魔力量は7492。サンドワームを相手に800。屋敷内で2300。1時間の魔力回復量は、感覚強化で消費した分を引けば、20。


よって、現在のエリスの魔力量は4552。


――さて、どうする。


エリスは残りの魔力を考慮しつつ、フィンリーとどのように戦うかを思案する。しかし、そんな隙を見逃さないフィンリーによって彼女の思考は邪魔される。


フィンリーは〈光魔法〉を発動し、眩い光を発生させ、エリスの目を封じる。


――吸血鬼は夜行性で、光魔法に弱い。


しかし、フィンリーの思惑は、最大レベルの光耐性を持つエリスには通じず、フィンリーの短剣による一突きは、エリスに軽々と避けられる。


――通じないか。


フィンリーはエリスと距離を置く。


――距離を置いたか。なら、今のうちに。


エリスはその一瞬の間を使って〈魔法倉庫〉から取り出した血液を飲み干す。


「〈全強化〉〈吸血強化〉。」


――これで私と暗殺者の俊敏性はほぼ互角。


直後、フィンリーは小細工なしで、その俊敏性を生かした最速の一突きを繰り出し、見事にエリスの右肩に命中させる。


――私より少し速いか。


フィンリーは、エリスからのカウンターを受けない様に、短剣から手を放し、元の位置まで跳躍し再び距離を取る。


――回復速度が早い。この程度の攻撃では致命傷にはならないか。何とか逃げる隙が欲しい。


フィンリーがエリスの回復力を目の当たりにし、攻める手を一旦止める。エリスはその隙を見ると、一瞬で合成魔法を発動させる。


「〈火魔法〉〈光魔法〉の〈合成魔法〉アストラプスティ。」


金色に輝く豪炎が、フィンリーに襲い掛かり、フィンリーを燃やし尽くす。


――手ごたえがない。あれは分身か。本体はどこだ。


エリスは感覚を研ぎます。


――相手は〈隠密〉を持っている。普段より更に集中しないと。


エリスは背後から気配を感じとり、振り返る。


「遅い。」


しかし、フィンリーの方が一瞬速く。彼が発動させた〈火魔法〉によってエリスの背中が爆発する。その隙に逃げ出そうとするフィンリーだったが、その動きはエリスが咄嗟に放った土魔法に阻まれる。


「無傷かよ。」


フィンリーは魔法攻撃に全くダメージを受けていないエフィの姿を見て驚愕する。


――良かった。私に普通の魔法は通用しない。ただの物理攻撃でも今受けていたらその隙に逃がしていたかも知れない。


エリスが安心しているとき、フィンリーは表情に出るほど焦っていた。


――吸血鬼に物理攻撃は意味がない。その上、この吸血鬼は魔法が効かないのか?無敵じゃないか。どうする。


フィンリーは腰に下げる魔法袋に手を入れる。


――何か無いか?


そんなフィンリーの隙をエリスは見逃さない。


「〈土魔法〉サンドチェーン。」


地面から延びる土の鎖が、フィンリーの四肢を縛る。しかしフィンリーは〈空蝉〉というスキルで焦ることなく土の鎖からすり抜ける。


――思い出した。確かあったはずだ。


フィンリーは魔法袋から、2本の短剣を取り出す。


――短剣?私に物理攻撃は効かない。今更何をする気だ?


フィンリーは再び、最速の一突きで、1本目をエリスの腹部に、その勢いで、2本目を左足に命中させ、少し距離を取る。


――この程度の傷ならすぐに治る。


エリスは刺さった短剣を引き抜き、フィンリーに攻撃を仕掛ける。


「〈火魔法〉ファイアアロー。」


エリスによって、10本の炎の矢が、フィンリーに向かって放たれるが、素早いフィンリーにその矢が命中することは無かった。


――流石にこの程度の魔法じゃ無理か。さて、どうする。


フィンリーは再び、魔法袋から先程と全く同じ外見の短剣を取り出す。


――またあの短剣。何かあるのか?


エリスは自分があの短剣に刺された部分を見る。


「!」


エリスの目に映るのは、赤に染まった防具。


――治ってない。


エリスが防具をずらし腹部を確認すると、受けた傷が治っていなかった。


――何故だ?魔力は勿体ないけど。確認しなきゃ。


「〈鑑定〉。」


エリスは短剣を〈鑑定〉する。


名称:銀の短剣(聖別済み)

物理攻撃力:1000

耐久力:50

状態:新品

概要:〈聖魔法〉ブレスによって聖別された銀の短剣。


――銀に聖別か。道理で。


吸血鬼に有効とされる2つ。銀と聖別。それが2つ重なることで、エリスの不死性と物理攻撃力を無効できなくとも、エリスの修復力を遅らせることはできる。


――また攻撃されると面倒だな。仕方がない。我儘は言ってられないな。


エリスは覚悟を決め、サンドワームとの戦いで見せた、本来の姿へと変化する。


――あれが本来の姿か。あの状態なら、銀と聖別の力を受けやすくなるはずだ。だが、外せば…死ぬ。


「ふぅ。」


フィンリーも覚悟を決め、2本の銀の短剣を構える。


次の瞬間、フィンリーの姿がその場から消える。


――あの吸血鬼は俺の〈隠密〉を破れない。10人の〈隠密〉を生み出し、それぞれに本物の銀の短剣を与える。一斉に攻撃すれば、確実に逃げる隙ができる。


10人のフィンリーが、次の瞬間、エリスの周囲に出現し、襲い掛かる。


「〈血液化〉。」


エリスの体が赤い血液となって霧散し、空気中にエリスの血液が広がる。


「〈血液毒〉。」


エリスの血液が毒に変化し、10人のフィンリーが苦しみだし、消滅する。その中に本体はいない。


――逃げられたか。


エリスは吸血鬼の姿に戻り、人間の姿に戻る。


――エフィさん。後はお願いします。


エリスは結界を破壊し、未だ眠っている貴族令嬢たちの所に戻りフェイに声をかける。



一方その頃。アーネを部屋に戻し、単独行動をしていたエフィは屋敷の外で、フィンリーと対峙していた。


「初めまして。S級暗殺者フィンリー君。」


「光栄だな。あのエフィに名前を知られているとは。」


――まずい。エフィの実力は未知数。〈隠密〉は通じるかどうか。試してみるしかないか。


フィンリーがエフィの目の前から消える。


――気づいてない…のか。


フィンリーはエフィの横を通過し、その場を去ろうとする。しかし、エフィには通じない。


「その程度の〈隠密〉で、私の目を欺けるとでも?」


――やはり、駄目か。


フィンリーは地面を蹴り、全速力でその場から逃げようとする。しかし、それは透明な壁によって阻まれる。


――なんてレベルの結界だ。これは終わったか。


フィンリーが振り返ると、風を纏ったレイピアを持つ〈風の大精霊〉シルフと、光を纏った斧を持つ〈番の大天使〉ギャラルホルンに包囲されていた。


「さて、依頼者は誰だ?」


エフィはフィンリーに、そう問いかける。



一方その頃。


「フェイ様。起きてください。」


「エリスさん?えっと。これは、どういう状況ですか?」


エリスによって起こされたフェイは、状況が理解できず、困惑する。


「不覚にも私も含め、この場の全員が何者かに眠らされていたようです。」


「そうですか。わかりました。とりあえず皆さんを起こしましょう。」


一先ず状況を理解したフェイは、エリスと協力して令嬢たちを起こす。


最初は大半の令嬢たちが取り乱していたものの、マギアス家の騎士団が到着すると同時に、全ての令嬢が冷静さを取り戻した。


――なんだ?今の。


エリスはその令嬢たちの不自然な情緒の変わりように違和感を覚える。


その違和感の正体を突き止めるため、数人の令嬢を〈鑑定〉する。


――特に状態異常はない…か。


エリスは違和感を感じつつも、その正体を解明することはできなかった。


そんな時だ。遂にエフィが部屋に到着した。


「騎士団の団長はいるか?」


「はい。私です。」


エフィの声に反応したのは、甲冑に身を包んだ、S級冒険者に匹敵する魔力量を有する男だ。


「今回の事件の犯人を捕らえた。だが、尋問を開始した途端、何らかの魔法で死んでしまった。死体は私の魔法袋に入っている。死体はそちらに譲る。後はマギアス家で調査をして欲しい。」


「かしこまりました。ご協力を感謝します。」


エフィはその後すぐに、団長を含める数人の騎士と共に、部屋から去っていった。


「フェイ様。この後はどうなるのでしょうか?」


「わかりません。ですので、セラス様の言葉を待ちましょう。」


その後、セラスの指示で全員が自分の部屋に戻ることとなった。


「お疲れさまでした。エリスさん。」


「ただいま。アーネ。それで、そっちは何かわかったのか?」


「いえ。部屋に残っていた魔力の残滓を頼りに、犯人を捜したのですが、その残滓は暗殺者の物でした。依頼者。つまり黒幕の正体は分からずじまいです。」


「そうか。」


――エフィさんに気付かれない様に偽装できるほどの実力者か…


エリスには、想像がつかなかった。エリスにとってエフィは〈目標〉だ。


最も近くにいて。最も底が知れない存在。


そんな彼女を欺く存在をエリスは想像できない。しかし、自分の実力を最も知る彼女本人は、寧ろ、黒幕の目星がついていた。


彼女がフィンリーを捕えた直後の事だ。


「貴女が黒幕だったとは思わなかったよ。」


エフィは闇に紛れる女性にそう問いかける。

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