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暗殺者

「お疲れ様でした。エフィさん。」


「ありがとう。ところで、私がいない間は何もなかったかな?」


「はい。特にはありませんでした。」


エフィの問いに答えたエリスは、何かを忘れているような感覚に襲われる。しかし、その感覚は数秒後に彼女の事を思い出し霧散する。


「あっ。1つだけありました。オミクレー=マギアスという人物に出会いました。」


オミクレーという名前を聞いた途端、エフィは何か考える様に顎に手を当て「オミクレー様か…」と呟く。


「知っているんですか?」


エリスはそんなエフィの反応を見て首を傾げる。


「ああ。オミクレー様は…本来こんな場所にいて良い方では無いんだけどね。」


エリスの疑問に、エフィは何か訳知り顔でそう答える。そんな彼女にエリスは、オミクレーからの伝言を伝える。


「彼女がエフィさんに会いたいと言っていました。」


その伝言を聞いたエフィは「わかった。」と了承すると、


「時間があるし、今のうちに挨拶してくるよ。」


と付け足し、部屋から去っていった。


その頃、とある光が存在しない空間に佇む女性は不敵な笑みを浮かべる。


「エフィが部屋から離れましたか。今が仕掛け時でしょうかね。」


彼女の合図に、陰に潜む暗殺者が動き出す。



「フェイ様。護衛の為に参りました。」


エリスがドアをノックすると、フェイが「どうぞ。」と返答する。


「エフィさんが席を外しているので、すぐに対応できるようにおそばで護衛させて頂きます。」


「わかりました。よろしくお願いします。」


フェイは従者の部屋で夜食会が始まるまで過ごす予定になっている。エフィが戻ってくるまでの間は、エリス達も従者の部屋で護衛に徹するつもりだ。


――エフィさん程ではないけど、気休め程度にはなるかな。


エリスは部屋を守る結界を張り、千里眼を発動し、屋敷中を見渡す。


すると、1つの部屋だけ、認識阻害によってか視認できない空間がある。


――なんだ?


エリスがその部屋に気を取られている隙に、何者かによって一撃で結界が破壊される。


「ッ!」


エリスはフェイの周囲に〈土魔法〉サンドウォールを詠唱無しで発動する。


「油断したな?」


部屋を襲撃した暗殺者は、部屋の壁を破壊し、短剣でエリスの腕を斬り飛ばす。


――私目掛けて攻撃してきた?フェイ様が目的では無いみたいだ。


丁度、フェイの周囲にいた従者とアーネもサンドウォールに守られ、エリス達を視認できない。つまり、エリスの腕が切れたことも、既に治っていることも知らない。


「何者だ?」


「俺はお前を殺せと依頼を受けた殺し屋だ。」


「殺し屋…依頼者は誰だ?」


「それは教えられないな。」


殺し屋の返答に、エリスはため息をつく。


「そうか。じゃあ。跪け。」


エリスは〈威圧〉を発動する。


「ッ!なんだこの力。逆らえない。」


「もう一度問う。依頼者は誰だ?」


「し、知らないんだ!仲介屋が教えてくれなかったんだ。」


「そうか。」


エリスはその殺し屋が何も知らないことを知ると、殺し屋を気絶させると、サンドウォールを解除する。


「エフィ様。お怪我はありませんか。」


「はい。エリスさんのおかげで、擦り傷1つもありません。」


「良かったです。」


フェイは床に倒れる男を見る。


「その男は何者ですか?」


「どうやら、フェイ様を殺すように依頼された殺し屋のようです。」


フェイの問いに、エリスは嘘を交えて返答する。


「そうですか。それにしても、この殺し屋はここまで入ってこれたのですね。相当な実力者だったのでしょうね。」


殺し屋は、エリスの〈威圧〉に屈したものの、レベル1ではあるが、エリスの〈結界〉を一撃で破壊しており、更には、油断していたエリスの腕も斬り飛ばしている。最低でもA級以上の実力者だ。


「そうですね。」


「エリスさん凄いですね。そんな実力者を無傷で制するなんて。」


「ありがとうございます。」


エリスを称賛するフェイに、エリスは一礼する。


「とりあえず、マギアス家の騎士団に報告しましょう。エリスさんお願いできますか?」


「はい。わかりました。」


エリスは部屋から出ると、廊下に立っているメイドに騎士を呼んでもらった。



「やはり。あの程度の暗殺者でも相手なりませんか。」


闇に紛れる女性は、紅茶を啜る。


「彼は暗殺者ギルドのA級暗殺者だったのですけどね。」


暗殺者ギルドの階級と、冒険者ギルドの等級は同等だ。


「S級暗殺者は世界に3人。その内の1人である君をここに呼んだのは他でもない。A級冒険者エフィと、その仲間であるB級冒険者エリスとアーネの暗殺です。」


「エフィ…ですか?申し訳ありませんが、エリスとアーネという冒険者は良いですが、エフィ…彼女は無理です。S級暗殺者である私でも手に負えません。」


「何故ですか?貴方はS級で、彼女はA級でしょう?」


S級暗殺者である男は女性の疑問に答える。


「彼女がA級?ご冗談を。彼女はS級…正確には特別S級なんですよ。」


「特別S級?」


「はい。特別な条件下においてS級と認定される冒険者。それが特別S級冒険者です。」


S級以上の冒険者、及び、侯爵以上の家紋に属する貴族、各国の騎士団、魔法士団の団長にのみ開示されている〈S級機密〉。その一つが特別S級冒険者だ。


「何故君がそれを知っているんですか?」


「14年前。シーネホ王国とネロンポンディ連邦の戦争の時、王国の国王の暗殺を依頼されまして。その時に特別S級の存在を知りました。エフィの階級を知ったのは、去年、とある国の機密文書を拝見しましてね。そこに書かれていました。」


「なるほど。流石はS級暗殺者ですね。それではとりあえず、エリスとアーネの暗殺をお願いします。」


直後、S級暗殺者である男はその部屋から姿を消す。


「さて、彼はどうなるかな。」


女性は紅茶を啜り、不敵な笑みを浮かべた。



「エフィさん。どうかなさいました?」


「ああ。オミクレー様とセラス様。どちらともサンドワームについて知らなかった。後、エリスちゃんも気付いていると思うけど、認識阻害の結界が張られた部屋がある。今日の夜食会の護衛はエリスちゃんに任せる。アーネちゃんは私と一緒に認識阻害の結界を破壊しに行く。」


「私がですか?相手の戦力が未知数な以上、エリスさんをお連れした方が良いのでは?」


エフィの指示に、アーネは異議を唱える。しかし、エフィはそれを否定する。


〈S級相当の実力を持つ暗殺者が潜んでいる。〉


――念話…


〈なるほど。そういうことですか。〉


エリスなら単独でもS級相当の実力者に殺される可能性は限りなく低い。


〈アーネちゃんは私が守るから、もし暗殺者が現れたら、心置きなく戦って大丈夫だよ。そうだ。これをあげるよ。〉


エフィは水晶をエリスに渡す。


〈それは魔道具だ。それを破壊すれば、周囲に認識阻害と人避けの結界が張られる。〉


〈ありがとうございます。〉


夕食会の時刻となり、エリスはフェイとフェイのメイドと共に会場に向かった。


夕食会の会場に入場すると、巨大な円卓を15人の貴族令嬢が囲っていた。その中でも一際強い魔力を放つ令嬢にエリスは驚愕する。


――あの歳でこの魔力量、凄いな。


エリスは顔は無表情であるが、内心では驚いていた。


「さて、夕食会を始めましょうか。」


セラスの宣言と共に夕食会が始まった。


同時刻。エフィとアーネは、既に認識阻害の結界を破壊していた。


「もぬけの殻…ですね。」


「そうだね。でも。うん。残ってるね。」


「何がですか?」


「魔力の残滓だよ。生物にはそれぞれ、魔力に特徴があるんだ。アーネちゃんなら魔力の匂いを嗅げるんじゃないかな?」


エフィの言葉を聞くと、アーネは人化を解除して匂いを嗅ぐ。


「これは…」


「わかった?それが神狼の力だよ。」


アーネは驚きを隠せない様子だ。そんなアーネに、エフィは問いかける。


「ここにいたのが誰かわかるかな?」


「いえ。ですが、覚えました。」


「良いね。それじゃあ犯人探しと行こうか。」


一方その頃。


――睡眠薬か。気が付かなかった。


エリスを除く15人の貴族の令嬢、従者、護衛、全員が、突然眠ってしまった。どうやら紅茶に睡眠薬が盛られており、少量ずつ睡眠ガスが流されていたようだ。


「貴女がB級冒険者エリスですか。睡眠ガスは効きませんでしたか。まぁ良いでしょう。」


――この男がエリスさんの言っていた暗殺者か。〈鑑定〉するまでもなく強そうだ。


「貴女にはS級冒険者の様な気配を感じない。私には勝てないだろう。だから、私に命を捧げろ。そうすれば、楽に殺してやる。」


「随分な自信だな。」


――まずい。ここじゃ魔道具が使えな…


一瞬にして移動した暗殺者は、その手に持つ小さな短剣でエリスの頭部を貫き、その短剣に魔力を込め、エリスの頭部を破裂させる。


「何?」


しかし、脳を潰した程度でエリスは殺せない。


「お前まさか!」


エリスは暗殺者の身体を掴み、壁を破壊し外に飛び出す。それと同時にエリスは魔道具を砕き、結界を展開した。

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