到着
力を開放したエリスのステータスは普段の約2倍に上昇している。
「〈吸血強化〉〈全強化〉。」
更に2つの強化スキルの発動によって、エリスのステータスを36倍に上昇する。
――この姿にならないと使えないからあまり使いたくなかったけど、今回ばかりは仕方がない。
「〈吸血鬼魔法〉ドラキュラ。」
魔法を発動した直後、エリスの体の一部が無数の蝙蝠へと変化し、サンドワームに襲い掛かり、最終的に全身を覆いつくす。当然サンドワームは、魔法を発動したり、地面に潜るなどして抵抗するが、無数の蝙蝠によって、為すすべなく、全身の血液を吸いつくされる。
「美味しくない…」
エリスのそんな呟きと同時に、サンドワームはその場に倒れる。エリスの身体は異常な回復力で既に修繕されており、無数の蝙蝠はエリスの影へと入っていく。
「エリスちゃんお疲れ様。初めてのS級はどうだった?」
「そうですね。〈吸血鬼魔法〉を使わなければならないとは思いませんでした。」
吸血鬼魔法は魔力消費が激しく、力を開放しないと魔力量が足りなく発動できない。エリスの奥の手だ。
「そうか。それにしても強力な魔法だね。そこらのS級の魔物では対処できないだろう。」
「ありがとうございます。」
エリスはエフィの称賛に感謝しつつ、サンドワームの心臓部に存在している琥珀の様な球体を手に取る。
「これは?」
「そういえば見るのは初めてだったね。それは宝玉だよ。」
「宝玉…?」
宝玉を不思議そうに見るエリスにエフィは説明をする。
「宝玉はS級の魔物が自身の力を蓄えるために存在している臓器の様なものだ。宝玉が存在するか否かで、その魔物がS級であるかA級であるかを比較している。その宝玉なら、金貨50枚はくだらないだろう。」
――金貨50枚…流石はS級の魔物だな。
宝玉の価値に驚きつつも、先を急ぐために早急にサンドワームの死体を〈魔法倉庫〉に回収すると、馬車へと戻る。
馬車に戻るとエフィは宝玉の詳しい説明を始めた。
「宝玉には主に2つの用途がある。触媒と、鑑賞だ。触媒というのは、結界や武器のコアや錬金術の材料の事だ。フランシュちゃんの家に張った結界にも宝玉を使っている。鑑賞というのは、まぁそのままの意味だ。」
「フランシュの家の結界に使った宝玉は何の宝玉なんですか?」
「フェニックスの宝玉だよ。不壊の効果を与える結界と相性が良いんだ。」
エリスとアーネは、ラルヴァやエフィを手伝っていたものの、エフィが実際に結界を張った所は見ていなかった。その為、エリスは宝玉を見たことが無かったのだ。
「ところで、サンドワームの宝玉の使い道だけど、基本的に武器のコアとして使われている。けど、大して強力な武器にはならないから、サンドワームの宝玉は競売に出すことをお勧めするよ。」
「競売?」
「政府公認競売と言ってね。ギルドや世界政府が連携して運営している世界最大の市場だよ。1年に4回開催されるんだけど、次は9月1日だね。競売品は2か月前から申請ができるから、もし売るつもりがあるなら、依頼が終わった後ギルドに申請するといい。」
「わかりました。」
エリスは宝玉を競売に出すことを決めると、〈魔法倉庫〉に宝玉をしまう。そんな中、アーネはとあることを思い出す。
「そういえば、エフィさんの言っていた珍しい魔物ってどう意味だったんですか?」
「ああ。それはね、サンドワームは普通、砂漠にしか現れないからだよ。」
「なるほど。ここは草原ですから、普通はあり得ないということですね。」
サンドワームは乾燥した土を好む習性があるため、降水量の多いこの地域に現れた理由は不明である。しかし、予想はできるだろう。
「そう。あり得ないんだ。だから、私はあのサンドワーム。誰かが私達、もしくは、フェイ様を狙って仕向けたものだと思うよ。根拠はある。」
「根拠ですか?」
「ああ。それは視線だ。」
エフィの言葉に、エリスは意識を研ぎ澄ませることで、遂にその不審な視線と魔力に気付く。
「!ほんとですね。」
「見ようと試みているようだけど、実際に馬車内は見えていないみたいだね。もちろんエリスちゃんの戦闘もね。正体は分からないがもはや警戒する必要もない。だけど、どうやってサンドワームを使役したのかが気になるね。」
「どういうことですか?」
エフィはエリスの質問に答える前に、前置きをする。
「ここでの話は口外無用だ。わかったね。」
「わかりました。」
2人の頷きを見た後、エフィは静かに語りだす。
「〈使役〉というスキルがある。」
〈使役〉とは、術者よりステータスの低い魔物を、条件付きで術者の支配下に置くというスキルだ。
「あのサンドワームを上回るステータスを持つ人間は限られている。S級冒険者や一部の団長くらいだろう。」
「それなら、ある程度犯人も絞れますね。」
「ああ。」
エリスの言葉にエフィは頷くものの、その顔は怪訝そうな表情をしていた。
そんなこんなで、その後は1体の魔物も現れず、首都の関所に着く。
「2人は初めてだよね。ここが、デンドロン王国の首都、フィーシ都市だ。」
関所を通ると、王都の街並みが目に入る、遠くに見えるのは、山のように巨大な樹木だ。その樹木を中心に、円形にドイツの様な町が広がっている。
「王都の中心にある木は中が魔法機関になっていてね。王都全体に電気の魔力が長れているんだ。この街灯に用いる魔力は、あそこから来ている。」
王都では、車道の両側に等間隔で街灯が設置されている。〈千里眼〉で道路の地下を覗いてみると、かなり複雑な魔力の通り道が存在している。
エリスは無感動であったが、アーネはその素晴らしい街並みに見惚れていた。何故なら、彼女は初めて、オルニス都市では見ることのできなかった規模の建築物の数々を見たのだから。
「凄いですね。」
アーネは目を輝かせて感嘆する。
それから数分後、とある門の前で馬車が止まる。その門の先には巨大な屋敷が存在している。
「着いたようだね。」
エフィが最初に降り、続いて2人も馬車から降りる。数分後、フェイとその従者も、馬車から降りてくる。
「皆さん。お怪我はありませんか?」
「私たちは大丈夫です。」
「良かったです。」
開口一番にフェイは、魔物襲撃にて怪我をしなかったかを問いかける。それに対して、エフィは簡潔に回答する。フェイはその回答に安堵した表情をすると、門番に招待状を提示し、門を開門させる。
馬車に戻り、門から道なりに屋敷まで進むと、巨大な屋敷の扉の前で馬車は停車した。
馬車を降り屋敷に入ると、エリス達を迎え入れたのは今回の社交界の主催者セラス=マギアスだ。
「ようこそお越しくださいました。ロクメー子爵令嬢。本日は親睦を含めるために、お茶会と夕食会を準備しております。この後すぐにお茶会を始めますので、ロクメー子爵令嬢とその従者、そして護衛の1人は会場へと向かってください。残る護衛のお2人は用意した部屋へと向かってください。」
「わかりました。マギアス侯爵令嬢。」
その場でエフィさんたちとは別れ、エリス達はメイドによって部屋に案内される。
「護衛の方はこちらが、本日より3日間の部屋となります。屋敷内は、他の方々の部屋や社交界の会場を除き、出入り自由です。15時まで食堂が解放されているので、昼食がまだでしたら食堂をお使いください。食堂は、1階の正面階段の両側の扉から入退室可能です。それでは失礼します。」
メイドが去ったのを確認し、エリスとアーネは部屋に入った。
室内は、一般的なホテルと同じような造りとなっている。違う点は、1つ1つの装飾品や家具、素人目にも高級品だとわかるくらいだろうか。
「今は1時半くらいか。まだ昼食をとっていないから、食堂に行ってみようか。」
「はい。」
2人が食堂に向かている途中、複数の従者や護衛とすれ違った。その間数人を〈鑑定〉したが、大した実力を持つ人物とは遭遇しなかった。
当然だが、そんな人物は全員、主人の下にいるのだろう。
しかし食堂に入る直前、室内から不自然な存在感を放つ気配を感じとる。
――あの人…
その正体は1人のメイドだ。手には食器を持ち忙しなく働いている。
「エリスさん。」
「うん。〈鑑定〉。」
エリスは〈鑑定〉を発動する。
名称:オミクレー=マギアス
種族:人間族
性別:女性
年齢:23歳
生命力:5600
魔力:34500
物理攻撃力:2100
魔法攻撃力:19800
物理防御力:3300
魔法防御力:2900
俊敏性:1900
精神力:1500
スキル:火耐性 レベル3
水魔法 レベル6
水耐性 レベル4
風魔法 レベル6
風耐性 レベル2
土耐性 レベル2
魔法攻撃力強化 レベル3
物理防御力強化 レベル2
魔法防御力強化 レベル2
――マギアス・・・なんで貴族がメイドの格好をしているんだ?それにしても。なるほど、これが魔法師の名門、マギアス家の方ですか。
オミクレーを横目にエリスとアーネは椅子に座る。するとほどなくして、メイドが2人分の料理を持ってきた。
「どうぞ。本日の昼食です。」
「どうも。ありがとうございます。」
そのメイドはオミクレーだ。彼女を見ると、何やら不思議そうな顔をしている。
「どうかしましたか?」
「いえ。お2人共に相当の実力者であるとお見受けしました。ですので、主人と共にいないことを不思議に思ったのです。」
エリスの問いにオミクレーは本当に不思議そうに回答する。
「お褒め頂きありがとうございます。貴女も、護衛は1人までというのはご存じですよね?」
「はい。その様に聞いています。」
「ですので、私達より実力のある方が護衛しているのです。」
オミクレーはエリスの返答に驚いた表情をする。
「貴方達よりもお強い方いらっしゃるのですか。それは凄いですね。ぜひともお会いしてみたいです。」
「お昼の茶会は、14時から15時までと聞いています。会う時間は十分にあるのではないでしょうか。」
「確かにそうですね。」
オミクレーは納得したように頷く。
「ところで、その方の名前を教えていたけますか。」
「はい。名前はエフィです。」
「エフィ・・・?なるほど。彼女ですか。」
オミクレーの言葉にエリスは疑問を抱く。
「ご存知なのですか?」
「はい。彼女はこの国では有名な冒険者ですから。」
――エフィさんってそんな有名なんだ。
エリスはエフィの知名度に驚きつつも、オミクレーに言葉をかける。
「ところで、こんな所で話をしていても大丈夫なんですか?」
「あっ。そうでした。それでは失礼します。」
「はい。頑張ってください。オミクレー様。」
オミクレーは2人に一礼して、仕事に戻っていった。




