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対面

――さっきのエフィさん。ちょっと怖かったな。


フランシュの家からの帰り道。エリスは夜道を歩きながらそんなことを思う。


「そういえば。」


「ん?」


エリスの隣を歩くアーネが、思い出したようにエリスの顔を見る。


「結局、エフィさんはどこへ行っていたのでしょうか?」


エフィが帰還して10分も経たない内に、あの場は解散となった。その為、フランシュからもエフィからもエフィの向かった場所を聞き出せなかった。


「実は、どこへ行っていたかは心当たりがあるんだ。」


「そうだったんですか!」


エリスの言葉にアーネは驚いたように声を上げる。


「静かに。」


「あっ。すみません。」


時間は丁度19時を過ぎたころだ。魔道具は高級品であるため、光魔法を利用した電灯は広くを普及していない。その為か、この世界の人間の就寝時間は著しく早く、ギルド職員や貴族を除くほとんどの人間は既に睡眠についている。


「まぁいいよ。それで、エフィさんの行っていたとこだけど、多分グラニティス伯爵領だろうね。伯爵家の地下にダンジョンがあったんだ。もしあれを攻略しに行ったなら、エフィさんが受け取っていた手紙の意味が分かるしね。」


「なるほど。あの音はそれだったんですね。」


神狼族や魔狼族などの狼型の魔物は、生まれつき聴覚と嗅覚が良く、アーネには地下に吹く風の音が聞こえていた。最初は下水道の音かと思ったようだが、明らかに水の音より遠い位置から聞こえてくる風の音を疑問に思っていたようだ。


「凄いね。ダンジョンの位置まで500メートルはあったと思うんだけど。」


「ありがとうございます。私達フェンリルは、遮蔽物があったとしても、1キロメートルまでなら物の匂いや音を感じ取ることができるんです。」


エリスがアーネを頭を撫でながら褒めると、アーネは嬉しそうにエリスの疑問に答える。


「さて、そろそろ部屋に戻ろう。」


「はい。」


エリスは部屋に戻るとアーネを寝かしつけ、再び部屋を出る。


エリス達が借りているギルドが経営する共同住宅。その屋根の上に座り、エリスは月を眺める。


――下弦の月か。私が最後に見た月も下弦の月だったな。


「貴女も、月が好きなんですか?」


エリスが前世を思い出しながら感傷に浸っていると、いつの間にか隣に座っていた男性が、優しい声で問いかけてきた。


――いつの間に…それと、この花はどこから?


エリスは隣に座る男性に気を取られて気づいていなかったが、彼の周りにはどこからともなく現れた花吹雪が舞っていた。


「ああ。すみません。驚かしてしまいましたね。私の名前は、ポール=ピュラー。人々は私を紫の勇者と。そう呼びます。」


――この人が、紫の勇者?


「は…初めまして。私はエリスという名です。」


突如として現れた紫の勇者に対して驚きを隠せない様子のエリスに、更に追い打ちをかけるようにポールは口を開く。


「エリス…もしかして、エフィの知合いですか?」


「はい。え?ピュラーさんはエフィさんを知っているんですか?」


「ええ。彼女は…いえ何でもありません。彼女とはキュアノを通して知り合ったんですよ。彼女は、中々見どころのある人です。知り合っていて損はないですからね。」


ポールは何かを言いかけ、繕ったようにエフィとの出会いを騙る。エリスはそれを怪しみつつも、とりあえずはその話を信じる。


「それでは、エフィさんに会いにこの都市に来たのですか?」


「いえ。私は旅人ですから。この都市に来たのは唯の気まぐれです。ですがそうですね。折角ですからエフィに会いに行きますか。」


ポールは立ち上がると、月明かりに照らされるエリスの顔を見る。


「それでは。私は宿に向かわなければいけないので。」


「はい。またお会いしましょう。」


次の瞬間、ポールは花吹雪に包まれその場から消失する。


――不思議な人だ。あんな近距離にいたのに全然魔力を感じなかった。まるで今日のエフィさんみたいな…


エリスはそんなことを考えながら部屋に戻ると、ベッドに横になり仮眠に入った。



「おはようございます。エフィさん。」


「おはよう。早速だけど、依頼に向かうよ。今日はこれだ。」


依頼制限:指名

依頼者:テレンス=ロクメー

依頼内容:ロクメー子爵の息女の護衛

依頼報酬:金貨6枚

依頼期間:7月4日から7月6日まで

依頼失敗時:銀貨60枚


「ロクメー子爵から詳しい依頼内容を受け取っている。ロクメー家の屋敷に8時に来いとの事だ。今のうちに朝食をとっておこう。」


今は6時ちょうど。ロクメー子爵家の屋敷はギルドから30分程度の所にあるため、彼女たちには1時間弱の時間がある。


3人はとある食事処で食事をとりながら、今回の依頼内容を確認する。


今回の依頼は、マギアス侯爵家が主催する社交界に参加する、ロクメー子爵家の息女の護衛だ。


「基本的に私が依頼を遂行するが、何か起これば2人にも協力してもらうからそのつもりでね。」


3人は食事と依頼内容の確認を終え、そのままロクメー家の屋敷に向かう。


着いたのは7:40頃だった。


「お早いご到着ですね。」


門の前で老執事がエリス達を出迎え、依頼書を確認した後、門を開き屋敷まで案内をする。


屋敷の中に入ると、凡そ30代ほどの見た目の男が立っていた。


「本日は依頼を受けてくださり、ありがとうございます。」


その男こそ、ロクメー子爵家現当主テレンス=ロクメーだ。


「いえ。それで、ご息女はどこですか?護衛対象を確認しておきたいのですが。」


「はい。娘は今、自室にて身なりを整えています。」


「そうでしたか。それでは、身支度が終わるまで待たせていただきます。」


「それでは、応接室でお待ちください。パーカー。彼女たちを客室に案内しなさい。私は娘の所に行ってくる。」


「かしこまりました。」


応接室で待つのは物の数分だった。応接室に案内されて、すぐに子爵の息女が現れたのだ。


「お初にお目にかかります。(わたくし)、フェイ=ロクメーと申します。」


「フェイ様。よろしくお願いします。」


テレンスの娘フェイはカーテシーして挨拶を述べる。それに対してエフィは一礼をして挨拶を返した。


「よろしくお願いします。ところで、後ろのお2人はエフィさんと一緒に私を護衛してくださる方ですか?」


「はい。」


エリスとアーネはエフィの合図を受けて自己紹介をする。


「エリスと申します。」


「アーネと申します。」


「エリスさん、アーネさん。本日からよろしくお願いします。」


エリスとアーネが一礼すると、フェイは微笑んで2人に挨拶を返した。


「お嬢様。定刻となりました。」


「わかったわパーカー。それでは皆さん、馬車に行きましょう。」


馬車まで向かうとそこにはメイドが立っていた。


「馬車の準備はできています。お嬢様はこちら、冒険者様たちはこちらにお乗りください。」


同じ3台の馬車がそこにはある。


「わかりました。」


馬車に乗り込むと、まず最初に動き出したのはエリス達が乗る馬車だ。その後、フェイ、従者と馬車が動き始める。


「エフィさん。普通貴族は、冒険者に護衛を依頼するんですか?」


「子爵以下は冒険者に依頼するのが普通だよ。伯爵以上は騎士団を持っているから、依頼することは少ないね。」


「なるほど。」


エフィの答えを聞き、エリスはグラニティス伯爵家の事を思い出す。


――確かに。今思えばあそこには騎士がいたな。


「先に言っておくけど、私たちの仕事は基本ないよ。この地域は魔人の森に魔物が集中している。だから、魔物の数が少ないんだ。私の知る限り山賊もいないしね。」


「そうでしたね。ですが、魔人の森があるせいで、この地域で冒険するのは危険だと思っている人も多いですよね。」


「良く知ってるね。」


「私がこの地域に逃げたのは、魔人の森に隠れるのが目当てですから。結局死にかけたんですけどね。エリスさんに助けて貰わなかったら、私はあの時死んでました。」


思いがけずアーネの過去を知ったエリスは、あの時助けてよかったと改めて思う。


「まぁでも、魔人の森から離れれば関係ないからね。用心するに越したことは無いよ。」


そんなこんなで、何も起こらず馬車は進み、出発から3時間程でオルニス都市が存在するダーロス侯爵領と、王都が存在するハイペリオン王族領の国境に存在する関所を通る。


「関所から王都までは2時間くらいだ。ここからは道も整備されているから。更に魔物の数は減ると思うよ。」


「そういえば、今のところ一度も魔物に遭遇していませんね。」


「当然だよ。」


「?」


エリスの疑問に対するエフィの回答に、エリスは更に疑問を抱く。


「魔物は人間よりも魔力を感知する能力が高いからね。魔物の中でも危険度の高い吸血鬼やフェンリルに、襲い掛かろうとする魔物はこの辺りにはいないだろうね。」


自分より強い魔物は襲わないというのは、有名な魔物の習性の1つだ。知能の高い魔物にはこの習性は無いが、知能が高ければ自分で判断する。


知能の低い魔物はエリスとアーネに。知能高い魔物はエフィに恐れるため、馬車が魔物に襲われることは、万に一つない。


しかし関所から1時間経った頃だ。その万に一つを引いてしまう。


「へぇ。珍しい魔物が現れたな。」


「はい。そうですね。」


最初にエリスが馬車から飛び降りると、馬車の御者を制止し、馬車の中でエフィは馬車を守る大きな結界を張る。


「アーネはフェイ様に状況を伝えてきて。私が魔物を倒す。」


「はい!」


「うん。良い判断だね。私の出る幕は無いかな。」


エリスは千里眼で魔物を見ながら、臨戦態勢に入る。


――まだ〈鑑定〉はできなけど、エフィさんを恐れずに向かってくるってことは、強力な魔物なんだろう。


その魔物は地中からこちらに迫ってきている。魔物の見た目は巨大なミミズだ。


土を食い進み、結界にぶつかる直前で地上に姿を現す。


「〈鑑定〉。」


名称:なし

種族:魔蛇族 (サンドワーム)

性別:オス

生命力:45639/45639

魔力:42183/42183

物理攻撃力:53395/53395

魔法攻撃力:43418/43418

物理防御力:41769/41769

魔法防御力:42382/42382

俊敏性:48757/48757

精神力:41993/41993


スキル:火耐性 レベル10

     風魔法 レベル8

     風耐性 レベル8

     土魔法 レベル10

     土耐性 レベル10  

     …


――このステータス…恐らく弱点は水魔法。なら、


「〈水魔法〉カタラクティス。」


エリスと対峙するサンドワームに、上空から大量の水が滝のように降り注ぐ。


直後、サンドワームの金切声の様な鳴き声が響き渡り、サンドワームの体から砂塵が噴き出し、水が全て消滅する。


「凄い。」


エリスは理解する。サンドワームは〈土魔法〉サンドダストで〈水魔法〉カタラクティスをかき消したのだ。


――低レベルの土魔法で高レベルの水魔法を相殺した?私の水を全て土に吸わせたのか。知能がかなり高い。


エリスはサンドワームの攻略法を導き出すために思考を巡らす。その間もサンドワームはエリスに攻撃するべく、土魔法や突進を繰り返すが、エフィの結界によって阻まれその攻撃がエリスに当たることは無い。


――思いつかない…


エリスが決め兼ねている理由は魔力量の差だ。知能の低い魔物に対してなら火力で攻めるのも手なのだが、知能の高い魔物に対してただ魔力を減らすのは悪手だ。


――仕方がない。


エリスは、背後でエリスの戦闘を観戦していたエフィに頼みを言う。


「エフィさん。認識阻害の結界を張って貰えますか?」


「良いよ。」


エフィはその言葉と共に、サンドワームとエフィが乗る馬車を囲む様に、認識阻害の結界を張る。


「これで外部からは、この空間を認識できない。存分に吸血鬼の力を使うと良いよ。」


「ありがとうございます。」


魔法倉庫にあるエフィの血液はエリスは無造作に吸血する。

エリスは普段、無意識に力を制限し、限りなく吸血鬼の要素を削いだ姿にしている。


背中からは深紅の翼。瞳は猫の様に鋭く赤く。血液を吸血するための牙は、獣の様に鋭く長く。長く尖った爪は血の様な赤に染まっている。


エリスという吸血鬼の、本来の姿が顕現する。

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