星竜教
世界政府、魔王配下を逃がす。
「勇者に関しての情報は無しか。」
エリスは朝刊を見ながら呟く。
「どうかしました?」
「ほら。見てごらん」
アーネはエリスから朝刊を受け取る。
世界政府、魔王配下を逃がす。という見出しの記事。内容は、魔王対策本部に対する疑惑の数々を述べたものだが、勇者の氏名が規制されたかのように全く載っていない。全て、色による呼称だ。国王達やS級冒険者の氏名は載っているのにだ。
「確かに。なんででしょうか。」
現在エリスが知っている勇者は1人、キュアノだ。エリスは彼の強さを知ったが故、他の勇者の実力も気になっていた。その為、書籍や新聞で様々な情報を入手した。しかし、1度も勇者の名前が書かれることはなかった。
「それについては、私が説明しよう。」
「エ…エフィさん!いつからいたんですか?」
エリスの部屋の椅子にいつの間にかエフィが座っている。
「アーネちゃんが新聞を受け取った頃からだね。」
――全然気づけなかった。〈感覚強化〉は常に発動してるんだけどなぁ…
エフィはエリスがショックを受けているとは露知らず、説明を始める。
「勇者の名前が載らない理由。それは秘匿事項だからだ。」
「秘匿事項?」
「うん。そもそも、勇者は魔王に存在をバレてはいけない。新聞に名前を載せれば、魔王は簡単に勇者を暗殺できてしまうからね。」
「なるほど。」
エリスは図書館で読んだ歴史書を思い出す。
幾度となく行われた勇者暗殺の歴史を。今思い返せば、それの対策だったのだろう。エリスはそう確信する。
「それにしても、ペトは脱出に成功したか。世界政府もお粗末なものだな。」
「七色の勇者の努力は水の泡ですね。」
「そうだね。」
3人は、小1時間、他愛のない話を続けると、エフィが帰ってきたことで、久しぶりに3人で依頼を受けに、冒険者ギルドに向かう。
「おや?どうかしたのか。」
エフィはギルド内の慌ただしい様子を見て、そう問いかける。
「あ!エフィさん!」
受付の女性がエフィの姿を見た瞬間、そう声を上げた。
「待っていたんですよ。エフィさん。早速で申し訳ないのですが支部長からの指名依頼があります。お願いできますか?」
「それはいいのだが、何かあったのか?」
「はい。実は、星竜教の本拠地が見つかったんです。」
その言葉の直後、ギルド内にいたエフィとエリス以外の人の動きが止まる。
「アーネ。殺気を抑えろ。」
そう。それはアーネの異常なまでの殺気によるものだった。
「すみません。エリスさん。ですが…」
「私達3人で、〈星竜教〉の本拠地を落とす。残党狩りはそちらに任せる。」
アーネが何か言おうとした直後、エフィが遮るように、受付の女性に告げる。
「わかりました。指名依頼も星竜教に関することですので、支部長にはそのように伝えておきます。」
受付の女性はエフィに一礼し、ギルドの奥に向かった。数分後、受付の女性は1枚の地図を持って戻ってきた。
「こちらに、本拠地の場所が書かれています。それでは、よろしくお願いします。」
「わかった。」
3人は地図で〈星竜教〉の本拠地を確認すると、先にフランシュの家に向かう。
「ラルヴァ。少し手伝ってくれないか?」
「良いですが、私はいるのでしょうか?貴女方3人で十分だと思うのですが。」
「ううん。必要だよ。何故なら、私は〈星竜教〉討伐に参加しない。」
エフィの発言に、一同驚愕する。
「何を驚いているんだい?これはアーネちゃんの復讐で、それに協力すると約束したのはエリスちゃんだ。」
「それでしたら、私とアーネだけで攻めるべきでは?」
「私もそう思ったけどね。流石に2人だけじゃ、まだA級危険団体は厳しい。だけど、私が参加すれば、1人で解決できる。だから、ラルヴァに協力させようと思ってね。」
エフィの説明に一同は納得すると、5人は〈星竜教〉の本拠地に向かった。
本拠地は、オルニス都市の西方にある魔人の森より、更に西方に存在する、幽冥の谷に存在した。
「私とフランシュちゃんはここで待ってるよ。頑張ってね。」
「はい!」
アーネは、エフィの激励に元気よく返事すると、幽冥の谷に足を踏み入れた。
「ここが本拠地か、それじゃあ私が魔法で道を開くよ。アーネは存分に暴れると良い。」
「わかりました!」
直後、エリスの〈合成魔法〉エクスプロージョンによって、本拠地の約4分の1を消し飛ばし、道を作り出す。
「な…なんだ!?」
星竜教の教徒は、突然の強襲に混乱している。しかし、彼らに状況を整理する時間は与えられない。何故なら、エリスのスキルによって強化されたアーネの最高速度によって、1秒間に1人以上が殺害され、そんなアーネから自分の身を守るだけで精一杯だからだ。
「おやおや。これはどの様な状況ですか?」
そんな問いかけと共に、神父姿の糸目の男が現れる。
「現在、何者かによる襲撃を受けています!」
「わかった。私が、対処しましょう。」
糸目の男はアーネを分析する様に、少し離れた位置でアーネの動きを見ている。
「エリスちゃん。あの男どうしましょうか?」
「ん?ああ、放っておいて大丈夫でしょう。それよりも、ラルヴァはあの男の後ろの扉の奥にいる男を頼む。私は、この本拠地にある一番強力な魔力を放つ男を殺してくるよ。」
「はい。」
エリスは〈飛翔〉を発動すると、その場から去っていく。
「さて、言われた通りにしましょうかね。」
ラルヴァはエリスの指示通り、幽霊族の〈透明化〉、〈透過〉というスキルを用いて、糸目の男を無視して、壁を通り抜ける。
「は?なんでここに来れるの?」
「貴方がエリスちゃんの言ってた人かしら?」
「誰だよ。そいつ。まぁなんでも良いや。お前殺すわ。」
鋼鉄の扉のみが出入り口として存在するだけの部屋の中心で、木箱に座る、神父服を着たスキンヘッドの男は、宙に浮遊するラルヴァを睨みつける。
――何でしょう?この男からは何も感じない。何か隠しているのでしょうか?
ラルヴァは疑問を抱きながらも、男に対して、魔法を発動する。
「手始めに、火魔法〈ファイアボール〉。」
ラルヴァから放たれた火の玉は、男に当たる寸前に消滅する。
「その程度か。我々を襲ったのだからどれ程の実力者かと思えば。期待外れだな。」
男は立ち上がると、首にかけた星型の宝石がついた首飾りを握り、魔力を込める。すると首飾りは男を守る鎧へと変化する。
「へぇ。面白い魔道具ですね。」
「これは我らが主、星竜様に賜った神具だ。魔道具などという下賤な物と一緒にするな。」
男はラルヴァに怒りをあらわにすると、拳に魔力を込め、ラルヴァに打撃を放った。
一方その頃。エリスは目的を既に果たしていた。
「こ…殺せ。殺してくれ。」
神父服を着た女性のような顔立ちの男は、死なない程度にエリスに痛めつけられた後に、エリスによって自死ができないようにされている。
「私が殺そうと思ったんだけどね。やっぱり、止めはアーネに譲ることにしたんだ。君は殺さないよ。」
エリスは男を引き摺りながら、まずはラルヴァの所に向かう。
エリスは、鋼鉄の扉を蹴り飛ばすと、部屋の中に入る。
「あら?エリスちゃん。早かったですね。」
エリスは部屋の中心で倒れる、右腕と右足を焼失したスキンヘッドの男を見下ろす。
「殺そうと思いましたが、これはアーネちゃんの復讐ですから譲ろうと思ったのですが、どうでしょうか。」
「私も同じ考えだよ。アーネの所に行こう。」
2人がアーネの所に向かうと、丁度アーネが糸目の男に止めを刺すところだった。
「私が死んでも、神父は後2人いる。あの方たちがきっと貴女を殺すでしょう。」
「それはあれの事を言っているの?」
「は?」
男の視界に、瀕死の状態の神父2人が映る。
「残念ですが。貴方達では私達を殺せないようです。」
アーネは直後、狼の腕で糸目の男の顔を潰す。
「アーネ。君に止めを譲ることにした。この2人の殺し方は任せるよ。」
「ありがとうございます。」
その後、アーネがどの様に2人の男を殺したかエリスは知らない。ただ、この戦いでエリスはアーネに1つ秘密ができた。
エリスが、神父服を着た女性のような顔立ちの男と対峙した時のことだ。
「フェンリルの村を襲ったのはお前らか?」
「はい、そうです。あれは今でも鮮明に覚えています。家族を守る為に最後まで私達に抵抗した族長。家族愛に溢れていてとても素晴らしかったです。そして、目の前で息子を殺された時の絶望に満ちた顔は更に、素晴らしかったです。1体逃がしてしまいましたが、村の住人を1人ずつ殺し、族長の目の前に並べる。とても、楽しかったです。」
「星竜の供物なんだろ?何故そんなことをしたんだ?」
「星竜様への供物は、負の感情に満ちたものが望ましいとされています。あのフェンリルはその点、素晴らしい個体でした。」
エリスはその説明を聞きながら、アーネの事を考えていた。
――自分の家族が絶望する過程。これはアーネが知るべきではない。一撃で殺そう。
「貴女は侮れません。最初から全力で行きましょう。」
男は、星型の宝石がついた腕輪に魔力を込める。すると腕輪は黄金の剣へと変わる。
「〈鑑定〉。」
エリスは黄金の剣を鑑定する。
名称:隕石剣〈ラーリス〉
物理攻撃力:7500
耐久力:10000/10000
状態:新品
概要:魔人の隕石を加工して作られた剣。
「魔法を使うまでもないか。」
エリスは、男が振り下ろした剣を片手で受け止めると、そのまま握力で先端を砕く。
「何!?隕石剣が。」
「もうお前は死ね。火魔法〈ファイアボール〉。」
エリスは男に対して至近距離で、火の玉を放つ。
「…死んだか?ん?」
エリスは殺すつもりで魔法を放った。しかし、どうやら男は息をしているようだ。
「なんでだ?」
エリスは鑑定を発動し、男が生き残った理由を調べる。
「星竜の加護?」
彼の持つ星竜のペンダント、どうやらそれに付与された効果によって男は生き残ったようだ。その効果とは星竜の加護。装備者の死を一度だけ保護できるらしい。
――なるほど。これは好都合。今考えれば、これは復讐の横取りになってしまうか。よし。
「聖魔法〈ヒール〉。」
エリスは男が動けない程度に回復させる。
「呪魔法〈ペイン〉。」
男にかけた魔法は、生命力ではなく精神力を減少させる魔法だ。10秒間に1度、全身に激痛が走る。
魔法を発動して、10秒が経過したところで、男は激痛に驚き、飛び起きる。
「なんだ!」
その10秒後、再び激痛が走る。
男は床に倒れ込み、10秒おきに激痛に叫び、体を痙攣させている。
その後、エリスはラルヴァに合流したのだった。
――しかし、A級指定がこの程度とはな。
「エリスちゃん。何故〈星竜教〉がA級だったかわかるかな?」
「いえ。」
――心が読まれてる?そんな訳はないか。
「冒険者ギルドはアステルンを恐れているんだ。仮にアステルンが関わっているなら、S級が対処すべき案件だからね。」
「なるほど。」
エフィの説明で、エリスは〈星竜教〉の実力の理由に納得する。
「それじゃあ。報告しに行こうか。報酬は3人で山分けしてね。」
結局、受け取った報酬、金貨3枚は、エリスとラルヴァの判断で、全てアーネに渡すことにした。アーネはその報酬を過去フェンリルの村があった場所に墓を作る為の代金の一部に使用した。
後に、神狼の神殿と呼ばれる墓である。




