暗黒竜
200年前。ラルヴァは、フランシュを錬金するにあたり命を失った。しかし、彼女は他の生贄と違い、魂だけはこの世界に残った。
魂のだけの存在である彼女は不可視であり、会話は不可能である。その為、フランシュの近くで浮遊し、彼女を見続けた。
フランシュがS級冒険者達を何度か撃退し、遂に彼らが訪れなくなり始めたある日、とある漆黒の少女が彼女を訪れた。
「…」
人間と1度も会話をしたことがないフランシュは、言葉を話せず、漆黒の少女を凝視することしかできない。
「君は…フランシュさんというんだ。」
「…」
フランシュは一瞬困惑したが、自分を生み出した人が、自分が生まれる前につけた名前だと思い出し、頷く。
「私の名前はメラン。ねぇ。君、私のところに来ない?君は人間に恐れられているようだけど、君自身は何もしていないんだろう?だから、私のところで保護してあげるよ。どう?」
「…」
フランシュはその誘いの返答を数秒思案すると、首を横に振り、誘いを断る。
「そう。なら仕方ないわね。はぁ…無駄足だったか。」
メランは残念な様子で、フランシュに背を向け、その場を後にしようとする。
「あっ。そうだ、折角だし、私と戦わない?この時代は昔と比べて貧弱な子達しかいない。けど、どうやら君は他とは違うようだ。1分だけでいいんだ。どうかな?」
「…」
メランの提案に、フランシュは数秒思案するが、断る理由もないので承諾する。
「じゃあ、君から攻撃していいよ。そうだね、ハンデとして片――」
メランが説明する最中で、フランシュは地面蹴り大振りでメランの腹部に打撃を繰り出す。
「良いね。君。」
その打撃をメランは余裕そうな顔で左手で止めると、そのままフランシュの右手を掴み、上空に放り投げる。
「!」
フランシュは宙に浮かぶ中、驚愕した顔でメランを凝視する。
「驚いた?私にはこの程度通用しないよ。だからさ。本気で殺りなよ。」
フランシュはメランの気迫に驚き、一歩後ろに下がる。しかし、その後覚悟を決め、足に力を込める。
「へぇ。」
フランシュとメランの距離は、約10メートル。その距離をフランシュは1秒にも満たない一瞬で縮めると、全力で打撃をメランの顔面に繰り出す。しかし、メランはその打撃を軽々止め、不敵な笑みを浮かべる。
フランシュは止められると予想していたように、間髪入れずに蹴りを繰り出す。しかし、その蹴りは成立しない。何故なら、蹴りがメランにあたる寸前に、フランシュの体はメランの力によって吹き飛ばされたからだ。
「驚いたよ。まさかフェイントを使うとはね。」
「…」
「なんでフェイントに気付いたか気になるかい?」
「…」
メランの問いに、フランシュは肯定する様に首を縦に振る。
「君の打撃がさっきのに比べて軽かったからだよ。寸前で止めようと思ってたのかな?」
「…」
メランの疑問をフランシュは肯定する。
「そうか。ふふ。良いね君。面白いよ。もっと戦いたいところだけど、1分経ったからね。私は帰るとしよう。」
メランが再び帰ろうと振り返る。その姿を見て、フランシュは咄嗟に引き留める。
「ん?どうしたんだい?」
「…」
「うーん…もしかして、私の本気が見たいのかな?」
「…」
フランシュは、メランの言葉を肯定する。
「そうか。申し訳ないけど本気は見せられない。でも、仕方がない。力の一端を披露するよ。それでも良いかな?」
「…」
メランの言葉に、フランシュは頷くと、メランはフランシュに離れているように指示をした。
直後、メランは力の一端を見せる。
〈竜魔法〉シューティングスター
青空が一瞬にして黒く染まりあがり、星空に変わり、美しい流星群が空に流れる。
フランシュは震撼する。目の前のメランが起こした事象に。
「そろそろ良いかな?」
メランはそう呟くと、手を叩く。次の瞬間、一瞬にして星空は青空へと戻り、何事もなかったように、太陽は地上を照らしている。
「どうだった。あれ?怖がらせてしまったかな。」
メランが振り返ると、そこには小刻みに小さな体を震わせるフランシュが地面にへたり込んでいた。
「…」
「大丈――」
メランがフランシュに声をかけようとしたとき、フランシュの怯えたような目と目が合う。
「うん。大丈夫ではなさそうだね。今はそっとしておきましょう。それで…ラルヴァさん。」
――え?
〈竜魔法〉ブレッシング
メランが発動した魔法によって、ラルヴァの存在は幽霊族に進化し、生前の姿に形作られる。
「君がその子を生み出したんだろう?申し訳ないが、後のことは頼むよ。」
「は…はい。」
ラルヴァはあまりの急展開に呆気にとられつつも、小さく蹲っているフランシュに歩み寄る。
「だ…大丈夫かしら?」
ラルヴァはフランシュを宥めようと声をかけるが、その後の言葉が思いつかず、困窮する。
先程までメランがいた方向を見るが、そこには既にメランはいない。
結局あの少女は何だったのだろうか。ラルヴァはそんなことを考えながらも、フランシュの震えが止まっていることに気付く。
「…」
フランシュは不思議そうな顔で、ラルヴァの顔をのぞき込む。
「どうしたのかな?」
「…」
ラルヴァが恥ずかしそうに照れ隠しすると、フランシュは何故か嬉しそうな顔でラルヴァに抱き着く。
「え?」
ラルヴァは、幽霊族のはずの自分に魔力を持たないフランシュが触れれること、唐突に抱き着いてきたことに困惑する。
「…」
フランシュはそんなラルヴァを気にも留めず、引き続き嬉しそうにラルヴァに抱き着いている。
――な…なんなのこの生物!可愛い過ぎる!
ラルヴァはフランシュの行動に理性が吹き飛び、我慢できずにフランシュの頭を撫でる。
数分後。ラルヴァは、いつの間にか眠ってしまったフランシュをパライ帝国に唯一残っているテラスの屋敷まで連れて行くと、夜も更けたため、ラルヴァ自身も眠りについた。
回想を終え、ラルヴァはエリスとアーネに一言忠告する。
「現代の魔王が仮に暗黒竜〈メラン〉なのでしたら、七色の勇者であっても厳しいでしょうね。何故なら、彼女は力の一部だけで、星を操れるのですから。」
〈星魔法〉という魔法がある。それは、魔法士の最高峰〈ヴィーブ=マギアス〉によってフランシュが復活した際に対抗する為に生み出された魔法だ。
〈星魔法〉は、史上最高の魔法士と称されるヴィーブの魔力量を以てして、全魔力量の約3分の1を消費して発動する魔法だ。そんな魔法をいとも容易く発動する。正真正銘、怪物だ。
「エフィさんがいくら強いからと言って、未だにA級冒険者です。少なくともS級冒険者よりも強いと考えられる魔王に、敵うわけがないでしょう。」
「私もそう思うよ。でも…」
――でも、何か引っかかる。あの人には、キュアノさんやフランシュの様な、何か得体の知れない力がある様な感じがする。
場所は変わり、世界政府本部。
現在ここには、各国の王。S級冒険者。七色の勇者が集まっている。
紫の勇者は彼らに、魔王軍第六軍将軍。堕天使の動向について説明する。
「単独で行動しているのだろう。ならば今すぐに、確実に捕えるべきだ。」
どこかの国の王がそう意見する。
「その通りだ。」
その意見に数多くの国王が賛同する。
「わかりました。それではそのようにいたしましょう。」
赤の勇者がその意見を承諾すると、他の6人の勇者は黙って立ち上がる。
数日後、七色の勇者によって堕天使は捕縛される。しかし、それから1日も待たずして、何者かの手助けによってペトは脱走したのであった。




