会議
6日後、エフィとキュアノは冒険所ギルド本部を訪れる。
「お待ちしておりました。S級冒険者キュアノ=アオディス様。A級冒険者エフィ=リョクロス様。大会議室へご案内します。」
2人を連れた案内人の女性は、大会議室に通じる巨大な扉を開く。
「ねぇ。君は入らないの?メタン。」
「なんだ。バレてたんだ。流石はエフィちゃん。」
案内人の変装していたの、人間のS級冒険者である男性。メタン=フィエシスである。
「どうだ。可愛いだろ?」
メタンはその場で一回転し、カーテシーする。
「メタンはまた女装しているのか。」
「これは女装ではなく変装だよ、メイラ。」
「そうか。」
自分の質問の返答に対して、興味なさそうに反応したのは、人間のS級冒険者である男性。メイラ=キスコスである。
「自分で聞いといて…」
そう呟くメタンを気にも留めず、メイラは大会議室の机を囲うように配置された12個の椅子の1つに座り、ポケットに入っていた手鏡を見ながら髪を整える。
「メイラは相変わらず他人に興味がないね。」
「…」
メイラに話しかけたが、完全に無視され、蹲って落ち込んでいるのは、巨人のS級冒険者である男性。グロスィヤである。
「どんまい。グロスィヤ。メイラは完全に自分の世界に入っているようだ。」
メタンはグロスィヤの足を叩いて、慰めの言葉をかける。
「ありがとう。メタン。」
グロスィヤは感謝を述べた後に立ち上がると、ゆっくりと歩いて巨大な椅子に座る。
「やっぱデカいなぁ…」
メタンはグロスィヤを見上げて呟く。
大会議室が大会議室と呼ばれる所以。それは、巨人族に合わせて作られているからだ。出入口は、縦16メートル、横16メートル。室内の天井高は20メートルだ。
「さて、キュアノ。私達も立ってないで席につこう。」
エフィが席に座ろうとした直前、扉の方から誰かの足音が聞こえてくる。
「エフィちゃーん!」
足音の正体は、エフィと同じ緑色の髪を持つ男性だ。その男性はエフィに抱き着くと、頭を撫で始める。
「エフィちゃん、長旅で疲れてない?大丈夫?」
「あの。お兄様。公の場でそのような姿を見せないでと言ったはずでは?」
「はっ!すまないエフィ。取り乱した。」
正気を取り戻したように立ち上がり、真顔でエフィの隣の席に着く。
「いや。今から取り繕っても遅いから。」
「黙れメタン。殺すぞ?」
「相変わらず口が悪いね、アデル。」
メタンを睨みつけるのは、人間のS級冒険者であり、エフィの実の兄。アデルだ。
「チッ!相変わらず騒がしいな。」
静かに大会議室に入室したエルフの男性は、メタンとアデルを一瞥してそう呟く。
「いつもの事でしょ?ヴェロス。」
「エフィ。久しぶりだな。君とキュアノはやはりまともだ。他のS級も見習ってほしいものだな。」
椅子と机、及びその周辺を徹底的に消毒した上で着席するのは、エルフのS級冒険者である男性。ヴェロス=トークソーだ。
「やぁ。皆ぁ。久しぶりぃ…」
伝い歩きで大会議室に入ってきた女性は、壁から手を離した瞬間、前のめりに倒れ込む。
「大丈夫?ミア。」
「ありがとぉ…エフィ。」
エフィに肩を貸されて歩くのは、亜人のS級冒険者である女性。ミア=アールヒだ。
「ふぅ。あっ。そうそう。ヴィーブはミュースを連れてくるから少し遅れるってぇ。」
ミアが眠そうな顔と声でそう告げるた直後、空間が歪み、空間魔法が発動される。
「ふむ。間に合った様じゃな。」
空間魔法を使って現れれた女性は、大男を引き摺って大会議室に入室する。
「あれ?遅れるんじゃ無かったの?」
「いや。こやつが寝てたのでな、予想より時間がかからなかったわ。おい、起きろ。」
地面で寝ている大男を蹴るのは、人間のS級冒険者である女性。ヴィーブ=マギアスだ。
「あ?」
「起きたか?ミュース。」
「何処だ?ここ。」
ヴィーブによって起こされ、周囲を見回しているのは、獣人のS級冒険者である男性。ミュースだ。
「全員揃ったね。」
「おや?ジーンとジーミがいないようじゃが。」
「彼らは欠席だ。理由を聞いた上で私が承認した。」
「そうか。すまない、説明を始めてくれ。」
ヴィーブはエフィの返答を聞くと、その返答に満足したように、椅子に座った。
「それでは、説明を始める。」
エフィは今回の事件について、エリスとアーネの存在を誤魔化して報告する。
「む。彼奴が関わっておるのか…」
ヴィーブは約300年前に、人間にして〈不老長寿〉のスキル獲得し、約280年前からS級の座に君臨してきた冒険者だ。つまり、約200年前にフランシュとも戦っている。50年かけて彼女を封じる結界を構築したのも彼女だ。
「それにしても腐竜か。奴が現れたということは、他の竜族も行動を起こすかもな。」
「そうですね。お兄様。ですが、1番の懸念点は魔王の動向です。どうやら腐竜は数年前まで魔王に飼われていたらしい。もし、魔王が動くなら他の勇者も招集しなければならない。」
アデルの懸念をエフィは肯定しつつ、別の懸念点を上げ、キュアノを一瞥する。
「わかりました。エーリュさんには伝えてみます。」
「ありがとう。他の勇者達には私から伝えておくよ。」
エフィはその後、「竜族と魔王の動向に注意」と結論を出し、会議を終了させた。
「ミュース。待ってくれないか?」
「あ?なんだエフィか。どうした。」
「いや、去年の決闘の時、必要以上の煽り過ぎてしまったなと。すまない。」
「別に気にしてない。ただ、俺が弱かっただけだ。」
エフィの謝罪にミュースは少し考え込むと、平気な顔でそう返した。
「そうか。それならよかった。また勝負をしよう。」
エフィはミュースと握手を交わすと、馬車に向かった。
ミュースはそんなエフィを見届けると、拳を強く固めた。
――次は負けん。
「キュアノ。君はこのままディナート帝国に向かうのか?」
「はい。ですから、道中ピユール王国でキトリさんに会ってみます。」
「じゃあ後2人か。」
「あれ3人ではないのですか?」
「え?それは、」
エフィがキュアノに何かを伝えようとした瞬間、2人の周囲に花吹雪が舞う。
「僕がいるからだよ。キュアノ。」
「!?ポールさん。いつからいたんですか?」
キュアノは馬車の上に座る青年に目を向けて、問いかける。
「ん?ずっといたさ。君達が戻ってくる前からね。」
エフィとキュアノに笑いかけるのは、紫の勇者であり旅人である青年。ポール=ピュラーだ。
「ポール。私が頼んでいたことは終わったのか?」
「うん。」
エフィの問いをポールは肯定し、報告を始める。
「魔王軍第六軍将軍。〈堕天使〉ペト=アゲロスの動向について。」
現在より5日前のこと。アギオン聖国にて、ポールは人間に扮したペトを発見し、それより2日間、ペトを尾行したが、特に不自然な行動は確認できず、ただ買い物をしていた。しかし、魔王が何かを企んでいることは確かであり、不自然ではないものの、何かを調べているようだ。
以上が、ポールによる報告である。
「何かを調べていた…」
――このタイミングということは、可能性があるとすれば…私か。
エフィの予想は的中している。ペトは魔王の命令で、タナトスを消滅させた人物について調べていたのだ。
「わかった。ありがとう、ポール。」
エフィはポールに感謝を述べると、そこでキュアノと別れ馬車に乗る。そして早急にオルニス都市へと向かった。
「おかえりなさい。エフィさん。」
馬車を降りると、エリス、アーネ、ラルヴァ、フランシュが出迎えた。
「丁度いい。フランシュの家に行こう。伝えたいことがある。」
その後、フランシュの家でエフィの口から語られたのは、以下の2つだ。
オルニス都市には当分戻れないこと。そして、エフィのいない間、オルニス都市を守ってほしいこと。
「私のいない間、君達はこの都市における最高戦力だ。A級達には君達を邪魔しない様に言っておく。」
「わかりました。所で、今回の会議で何かあったのですか。」
「うん。」
エフィは会議内容を大まかに説明する。
「つまり。魔王の動きに警戒する為に、都市を離れなければいけないということですね。」
「そういうことだ。よろしく頼むよ。」
3日後。エフィはこの都市を離れる。その時に、エリスは彼女に魔王の名前を尋ねた。
「魔王の名前はメランだよ。」
エリスはエフィを見送った後、彼女が発したメランという名について考えていた。
「メラン…どこかで聞いたことあるような。」
「暗黒竜ではないでしょうか?」
エリスの呟きを聞いたアーネは、そう問いかける。
「そうか。暗黒竜〈メラン〉。」
「メ…ラ…ン…?」
エリスの言葉に、フランシュは突如小刻みに震えだす。
「どうしましたの?」
フランシュの異変に気付いたラルヴァは、急いでフランシュを抱きしめる。
「すみません。エリスちゃん。この子を連れいていくのを手伝ってもらっても良いですか?」
「うん。わかった。」
フランシュの怯えように驚きながらも、エリスは急いで彼女を彼女に家に連れてゆく。
「眠ったようです。」
「そうか。それでラルヴァ。君はフランシュが何故メランに怯えたのか分かるのか?」
「はい。200年前のことです。」
ラルヴァは、まだ幽霊族になる前の魂だけだったころを回想する。




