事後処理
「!」
フランシュは驚いたように、エフィの顔を凝視する。
「私の顔に何かついてるかな?フランシュちゃん。」
「…」
フランシュはエフィの問いかけに、首を横に振る。
「さて、テラス。君の力を借りたい。その子の家を作るためにね。場所はこの地図に書いてある。」
「わかったわ。」
ラルヴァはエフィから材料の入った魔法袋を受け取り、その場を後にする。
「エリスちゃん。アーネちゃん。テラスを手伝ってあげて。」
「わかりました。」
エリスとアーネもその場を去り、部屋はエフィとフランシュだけとなった。
「フラン。久しぶり。」
「お…お久しぶり…です。」
「ずっと喋ってなかったから、喋り方を忘れたのかな?」
フランシュはエフィの問いかけに、無言のまま頷く。
「少しずつでいいから、喋れるようになろうね。」
エフィはフランシュを頭を撫でながら、そう声をかける。
「あ…ありがとう。」
フランシュは感謝を述べながら、俯いて顔を赤くする。
「そ…それで、リョ…リョクちゃんは…いまはなにを?」
「今はあの2人を育ててるんだ。私に匹敵するような子にね。」
「リョ…リョクちゃんにひってきする…それは…ムリなことを…よーきゅーする…ね。」
フランシュは同情したような顔で、そう呟く。
「さて、雑談は終わりだ。私は君の為に用意した家に結界を張ってくるよ。フラン。君はキュアノに会っておいで。」
「ア…アオくん…に?わ…わかった。」
フランシュはエフィと別れ、キュアノの部屋に向かった。
「やぁ、久しぶり。フラン。」
「うん。ひ…久しぶり。ア…アオくん。」
フランシュとキュアノはその後、他愛のない会話をして、時間をつぶした。
数時間後、キュアノの部屋の扉がノックされ、許可すると、エフィが扉を開けた。
「フラン。家の結界を張り終わったよ。」
「リョクちゃん。わかった。またねアオくん。」
「うん。またね。」
キュアノの部屋を後にし、2人は用意された家へと向かう。
「…」
フランシュは目を輝かせてエフィの顔を見る。
「気に入ったかな?」
「…」
フランシュはエフィの問いに、小さく頷く。
2階建ての小さな家。パライ帝国発祥の建築方法で建てられたその家は、強大な屋敷だった〈テラスの屋敷〉をそのまま小さくしたような家だった。
フランシュは家の扉を開く。
「!」
――壊れない。
フランシュの怪力に耐えられる物質は皆無だ。例外を除いて。
「アダマン製の上、結界を張っているからね。」
アダマンとは、この世界において最も固い物質である。それ故に、加工が困難であり、高位の錬金術でなければ加工は不可能だ。
フランシュが力まない限り、壊れることは無い。
「建築の効率を考えて、普段触れる所だけアダマン製だ。アダマン以外の場所でも私の結界を張ってあるから、フランシュちゃんでも壊せないよ。」
エフィが張った結界は以下の通りだ。
名称:鉄壁の結界
魔力:200000(フェニックスの宝玉)
効果:フランシュの無意識の破壊を防ぐ
状態:完全
この結界は、フランシュが自ら破壊を望まない限り、フランシュによるあらゆる破壊を防ぐというものだ。
「…」
フランシュは振り返り、エフィ、エリス、アーネ、そして、ラルヴァの顔を見た後に、深くお辞儀をする。
「さて、2人共。フランシュちゃんの件は終わった。今後の話をしようか。」
エリスとアーネは、フランシュ、ラルヴァと別れると、エフィに連れられ部屋に戻る。
「1週間後、今回の事件の報告ために、ギルド本部に向かう。2人は来なくていい。今回は全S級が集う。当然だけど、レベル10の鑑定を持つ者もいる。」
「なるほど。確かに私とアーネの正体がバレるかも知れませんね。」
「そういうこと。それから、今日から1週間、私はこの都市にいないから、2人はゆっくり休んでいて。」
「わかりました。」
2人はエフィの話を聞き終えると、彼女の部屋を後にした。
「さてと。突然休みと言われても、何をしようか。」
エリスはエフィとキュアノを見送ると、都市の街道を歩きながら、アーネにそう聞いた。
「そうですね。正直、私もエリスさんも元は魔物ですから、人間の習慣は分からないですよね。」
――前世は人間なのに良くわからないなんて言えない。
エリスはアーネの言葉にそう思いつつも、目の端にある人を見つけ、声をかける。
「こんにちは。ラルヴァ、フランシュ。」
それは、ラルヴァとフランシュだ。
「こんにちは、吸血鬼ちゃんと獣人ちゃん。」
「ああ。言ってなかったね。私の名前はエリス、この子はアーネだ。」
「わかったわ。今後はそう呼ばせてもらうわ。エリスちゃんとアーネちゃん。そういえば、エフィ様を見ませんでしたか?姿が見えないようですけど。」
ラルヴァは周囲を見渡しながら、エリスとアーネに質問する。
「あれ?聞いてないんだ。エフィさんはギルドの本部に今回の事件について報告しに行ったよ。」
「そうなの。頼みたいことがあったのですが。」
「頼みって?」
ラルヴァはエリスの問いに対して、少し悩んで末に語り始める。
「実は、今回の事件の間に記憶が所々ないのです。エリスちゃんに興味を持ったことと、エリスちゃんと戦ったこと。それは覚えているのですけど。例えば、昨日お会いした、S級冒険者のキュアノ様を襲った話。あれについては全く記憶がないのです。」
「そうなの?それじゃあ、〈念話〉でエフィさんの伝えるよ。少し待って。」
エリスは〈念話〉を発動し、今は馬車に乗って移動しているエフィに、問いかける。
〈念話〉。大気中の魔力を通じて、遠距離での会話を可能にする。
〈エフィさん。突然すみません。〉
〈良いよ。どうしたんだい?〉
〈実は、〉
エリスはエフィに、ラルヴァから聞いたことを伝える。
〈そう。やはりそうだったのね。ありがとう。良い情報が得られたわ。そうだね。テラスには原因は分かっている。気にするほどのことはないと伝えてくれ。〉
〈はい。わかりました。〉
エリスはラルヴァに、エフィの伝言を一言一句同じく伝える。
「そうですか。エフィ様がそう言うなら、そうしましょうか。所で、お2人は今暇ですの?」
「うん。」
「それなら、この都市を案内してくださらない?200年前に1度来た事があるのですが、街並みが全く変わていて。」
「わかった。望むものをできる範囲なら用意する約束だしね。」
エリスとアーネは、2人を連れて都市の案内を始める。
同時刻、馬車内。
「キュアノ。やはり、タナトスは洗脳系スキルを使用していたようだ。」
「洗脳系スキル…ですか。〈魅了〉…もしくは〈催眠〉でしょうか。」
「〈催眠〉だ。タナトスのスキルは既に確認済みだよ。というか、君は鑑定したときに気付かなかったのか?」
「すみません。」
「キュアノ。君はそういうところの爪がまだ甘いな。」
エフィの苦言にキュアノはショックを受けたようで、顔を俯けた。
「最後に、ここが冒険者ギルドだ。」
エリスとアーネは、ラルヴァとフランシュの案内を一通り終え、最後に、冒険者ギルドオルニス支部を紹介する。
「やはり、ここは変わりませんね。」
「ん?何か言った?」
ラルヴァが呟いた一言をエリスは聞き取れず、そう聞き返す。
「いえ。何も。」
ラルヴァは平然とした様子で、自然に冒険者ギルドの扉を開く。
「?」
ラルヴァはギルド内の異様な静かさに驚いき、エリスの顔を覗き込んだ。
「ああ。今、A級未満の冒険者は依頼を受けることを禁止されているんだ。」
「何故ですか?」
「ん?ああ。君に〈催眠〉を施した奴のせいだよ。」
ラルヴァが所有していたとされる、A級相当の魔物がまだ数体、魔人の森には残っている。しかし実際は、その全てが、腐竜〈タナトス〉の眷属であり、主であるタナトスが消失した今、制御が効かず、暴走状態となっている。
「そうでしたか。それは申し訳ないことをしました。」
説明を聞いたラルヴァは、頭を下げてエリスに謝罪を述べる。
「いや。謝る必要は無いんだけど…」
――急にキャラ変わったなこの人。状態異常にあった催眠が解けたからかな?
エリスは、タナトスの催眠が解け、本来の性格に戻りつつあるラルヴァに困惑する。
数分の間、ラルヴァはギルド内を見て回ると、満足したような顔でエリスとアーネに感謝を述べる。
「本日はありがとうございました。」
「気にしなくていいよ。約束だからね。」
「はい。そうでしたね。」
その場でエリスは2人と別れると、アーネとともに宿に戻る。
「あの…エリスさん。」
「なに?」
エリスはアーネの声に足を止め、振り返りアーネの顔を見る。
「あのラルヴァさんが、200年前に国民全員を犠牲にして、フランシュさんを生み出したラルヴァさんと、同一人物とは思えないんです。」
「…うん。私もそう思っていたよ。」
2人の疑問は自然だ。今日1日共に過ごして、彼女がどういう人間か、表面上ではあるものの理解した。彼女は、確かに錬金術に熱心だが、少なくとも今の彼女は、人を犠牲にするような性格とは思えなかった。
200年前、何があったか2人は知らない。ただ、何か理由がある。それは確かだった。その、理由についてラルヴァの口から語られるのは、また別の話である。
――場所は変わり
とある城の中
「腐竜を消したのは、どうやらエフィのようです。」
「そう、あの子が。」
メイド服を着たエルフが、2本の漆黒の角を生やした少女に腐竜について報告をしていた。
「エフィは今、吸血鬼の少女に執心しているようで、わざわざ自分の手で腐竜を消したのは、その少女関連のようですね。」
メイド服のエルフの報告を聞いている途中、2本の漆黒の角を生やした少女は紅茶を飲む手を止めた。
「吸血鬼の少女…?」
吸血鬼の少女。その存在に少女は心当たりがあった。
「なるほどね。」
少女は窓の外を眺めて、そう呟いた。




