パライ帝国跡
「〈鑑定〉。」
エリスは、ラルヴァを鑑定する。
名称:ラルヴァ=テラス
種族:幽霊族 (ゴースト)
性別:女性
年齢:193歳
生命力:0/0(死亡)
魔力:36245/36245
物理攻撃力:0(不可)
魔法攻撃力:29873/29873
物理防御力:0/0(無効)
魔法防御力:31364/31364
俊敏性:28641/28641
精神力:47759/47759
スキル:火魔法 レベル8
火耐性 レベル7
水耐性 レベル7
土魔法 レベル6
土耐性 レベル6
風耐性 レベル7
魔法攻撃耐性 レベル8
錬金術 レベル10
…
状態異常:催眠
――さて。他の幽霊は鑑定するまでもなく。
「〈聖魔法〉ヘブンフィールド。」
次の瞬間、ラルヴァを除く幽霊は浄化される。
「…魔人の癖に、聖魔法を使えるのですか。これは分が悪いですね。ですが、〈火魔法〉〈土魔法〉の〈合成魔法〉サンフラワー。」
エリスを囲む様に、荒廃した大地に向日葵が咲き誇り、次の瞬間向日葵が爆弾のごとく破裂する。
「この程度の魔法では、私にかすり傷すら与えられないよ?」
「ふーん。なかなかやるようね。じゃあ、〈火魔法〉と〈光魔法〉の〈合成魔法〉アンチヴァンパイア。」
火魔法と光魔法によって、吸血鬼の弱点である日光を生み出す、対吸血鬼用の魔法。しかし、
「残念ながら、私に日光は効かないよ。」
エリスは日照耐性を持つため、魔法は意味をなさない。
「まさか日照耐性を持ってるの!?あれって伝説上のスキルじゃなかったの!」
「君はちょっと。やり過ぎだ。〈氷魔法〉と〈聖魔法〉の〈合成魔法〉ニヴルヘイム。」
光り輝く氷はラルヴァの魂を捕える。
「さてさて、それじゃあ尋問しよっか。」
氷に捕えらえたラルヴァを話せる状態にする。
「クソ!」
悔しそうなラルヴァを横目に、エリスは考える。
――この子は確かに強いけど、キュアノさんの調査にあったような芸当はできないだろう。
「君の裏に誰かいるでしょ?」
「いませんよ。そんな人。」
「…命令だ。嘘をつくな。」
エリスは〈威圧〉を発動し、尋問を再開する。
「もう一度聞く。裏に誰かいるの?」
「え…ええ。」
「それは誰だ?」
「…フランシュ。フランシュ=テラスです。」
エリスはその名前を聞き、最悪の想像を思いつく。
「まさか、そのフランシュがこの地に眠っていた。」
「そう。テラスが生み出した怪物。そして私こそ、あの子を生み出した張本人。〈ラルヴァ=テラス〉よ。あっ。あの今の忘れてもらってもいいですか?」
「なるほどね。君があの。」
ラルヴァが口走った情報について、エリスは少し思案し、尋問を再開する。
「フランシュの種族は僵尸?」
「ええ。そうよ。僵尸族のゴーレムですわ。」
「随分と素直に話すように…」
――白々しい、威圧で強制してるくせに…それに、この子の裏にもフランシュの様な化け物がいる。この子自身でも、十分にあの子の遊び相手になれる。無駄に繕う必要もない。
「フランシュは、パライ帝国民を生贄にして錬金しましたから、約6000万人のステータスを足し算で有しているの。生み出す代償として、彼女は魔法攻撃力とスキルを持たない。つまり、単純な物理攻撃力で、当時のS級を撃退し、最強の怪物に成ったのよ。」
「なるどね。随分と歴史は歪曲しているんだな。」
歴史ではフランシュが滅ぼしたことになっているパライ帝国だが、実際は、パライ帝国を滅ぼしたのはラルヴァであった。そこで、エリスは疑問を抱く。
「フランシュが滅ぼしたわけではないのなら、人間は何故フランシュを封印したんだ?何かしたわけではないのだろう?」
「じゃあ君は、6000万人分のステ-タスを持つ怪物を野放しできるかしら?」
「ああ。確かに。」
実際に鑑定してはないが、本当に6000万人分の物理攻撃力があるとしたら、約100億。神に匹敵する怪物だ。
「あのね。君の顔を見ればわかるけど、あの子のステータスは君が考えているような、荒唐無稽な数値ではないわ。」
「え?」
「どうせ、100億あるかもとか考えているのかもしれないけれど、一部の怪物を除く生物の基礎ステータスには、限界があるのよ。99999。それが生物の最大値よ。100000以上は神代の領域と言われているわ。だけど、あの子は100億とまではいかないけど、限界値を超えているわ。」
――限界値を超えている?どういう意味だ?
そんな思考を巡らしていたエリスだが、彼女は次の瞬間、自分の死を直感し、その場を半蝙蝠化で離れる。
「こ…これが、フランシュ。」
その小柄な少女はボロボロの布1枚を纏い、全身に赤く「封印」と書かれたお札を張っている。その少女から放たれた打撃は、荒廃したパライ帝国跡に、巨大なクレーターを生み出す。
「〈鑑定〉。」
名称:フランシュ=テラス
種族:僵尸族 (ゴーレム)
性別:女性
年齢:203歳
生命力:500000/500000
魔力:500000/500000
物理攻撃力:500000/500000
魔法攻撃力:0/0
物理防御力:500000/500000
魔法防御力:500000/500000
俊敏性:500000/500000
精神力:23731/23731
スキル:なし
状態異常:封印
「〈鑑定〉。」
封印:テラスが生み出した怪物のステータスを御札1枚につき1万制限する。
――50万か…私の実質ステータスは精々20万程度。無理だな。逃げるか。
エリスは羽を大きく広げ、雲よりも高い上空に飛翔する。
――ここまで来れば、流石のフランシュも来れないだ…
「ろ?」
エリスの眼前に睨むフランシュが現れる。
「噓でしょ?」
エリスはフランシュの打撃によって吹き飛ばされ、上空にエリスの血肉が飛び散る。
「化け物かよ。」
エリスは体を修復しながら、落下するフランシュを見て、そう呟く。
――今のうちに離れよう。
エリスは飛翔し、パライ帝国跡から離れる。
数分後、前方に1人の女性が現れた。
「あれ?エフィさん。」
「そろそろ来る頃かと思ったよ。あの子に会ったんだろう?」
「あの子って、フランシュですか?」
「うん。ドレスの幽霊がテラスであることは分かっていたから、フランシュがいるであろうことは分かっていたよ。相性的に君が負けることはないけど、君は勝てないと判断すれば帰ってくると思っていたよ。」
「はい。あれは正真正銘、怪物ですから。」
エリスの言葉に、エフィは頷き、次の指示を出す。
「エリス。君には彼女たちと交渉してもらう。フランシュは君を殺せないし、テラスは論外だ。力を誇示する必要はない。交渉を要求すれば、彼女たちは聞き入れてくれるだろう。」
「わかりました。ところで、エフィさんは何故ここに?」
「秘密。」
エフィは人差し指を立てて、唇に指をあてる。
「さて、吸血鬼ちゃん。君は私に何を要求し、何を差し出すのですか?」
後ろにフランシュを控えさせ、椅子に触るラルヴァは、そうエリスに質問する。
「この争いの停戦を要求します。代わりに、貴女方の望むものをできる範囲なら用意しましょう。」
「良いわ。交渉成立ね。」
ラルヴァは、錬金術バカである。彼女の望むもの。それは、錬金術に使用する〈金属〉や〈触媒〉など。フランシュに関しては、基本無欲のため何も望まない。
エリスが用意した制約書に、ラルヴァが調印したことにより、交渉内容は確約された。
「それじゃあ。そろそろこの家も飽きたし、私達もオルニスに行きましょうか。」
「…」
ラルヴァの言葉にフランシュは無言のまま頷くと、ラルヴァの後ろを静かに歩き始める。
「吸血鬼ちゃん。手始めに、この子が生活できる空間を用意してくれるかしら?」
「わかった。ある人の強力な結界を施した家を用意するよ。」
エリスはラルヴァの要求を聞きながら、2人を連れて、オルニス都市に向かった。
一方その頃。
「君が関わっていたとはね。腐竜〈タナトス〉。」
エフィは床に倒れる執事服の男〈タナトス〉を見下している。
「何を黙っているんだ?あの程度の攻撃で、君が気絶するわけないだろう?」
〈バレていたか。しかし、私も見誤った。あの吸血鬼の後ろに貴様がいたとはな。〉
「はは。仕方ないさ。私は完全に気配を消せるからね。」
タナトスはゆっくりと体を起き上がらすと、エフィを睨む。
「そう睨むな。竜になるまで待ってあげるから、早く〈人化〉を解きなよ。」
〈クックック!その言葉、後悔するんだな。〉
タナトスの体が肥大化し、竜の姿へと変化する。
その姿は体が腐敗しており、所々、骨が視認できる。
「約200年前にフランシュに殺され、しかし、彼女は魔力を持たないから、君を完全に殺すことはできなかった。」
〈良く知っているな。そうだ、あの怪物のせいで、私は200年苦しんだ。〉
「そうか。安心しろ。私は君を滅せる。」
〈クックック。やってみろ。〉
直後、タナトスの叫び声とともに、世界からタナトスが消失した。
「!」
「どうかしたの?フランシュ。」
「…」
「何でもない?そう。」
フランシュはタナトスの消失を感じ取り、驚いたような顔で、空を見上げる。その様子を見てラルヴァがフランシュに声をかけると、フランシュは何事もなかったかのような顔で首を横に振った。
「ふーん。」
2本の漆黒の角を生やした少女が、愉快そうな顔で呟く。
「どうかなさいましたか?」
少女の為に紅茶を用意する、メイド服を完璧に着こなした女性のエルフは、少女の顔を見て、そう問いかける。
「タナトスが消えたっぽい。」
「その様ですね。」
少女の返答に、エルフは冷静に相槌を打つ。
――タナトス。君が私に挑んだ時、私は君を殺してあげなかった。どうやら、君は優しい人を見つけたようだね。それにしても、あのレベルの僵尸を消滅させられる程の実力者か。楽しくなりそうだ。
少女は立ち上がると、愉快そうな顔のまま、窓から空を見上げた。




