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8 ナタリー

母国に別れを告げ割り当てられた部屋に行くナタリー。

特に何もする事が無かったのでラウンジに行く事にした。


「…ナタリー。」


そこで声を掛けてきたのはアルゼルだった。

どうやら同じ船で帰国するらしい。

アイーシャ女王の姿はなく代わりに護衛が居た。

ナタリーは幼い頃、アルゼルの婚約者だったがターシャの存在に苦言を言ったり警告したが一切無視された記憶が蘇ってきた。


「あら、アルゼル元王子。ガクガール国の王子誕生祭は楽しまれましたか?」

「…楽しいものか。あそこは本来なら私が座る場所だったのに…。」

「そうですか。ターシャ様はお元気ですか?」


アルゼル王子が廃嫡される原因となったターシャの様子を聞くとアルゼルはグラスに注がれていたワインを飲み干した。


「…分からない。生きているのか死んでいるのかも分からないんだ…。」

「そうですか。」

「きっと何処かで俺に助けを求めているかもしれないのに探しに行く事すら出来ないんだ…。」

「アルゼル元王子、貴方はもうアイーシャ女王の夫なのですから他の女性を想うのはおよしになったら如何ですか?」

「…夫?はっ!俺が何番目の夫か知っているか?13番目だ。」

「そうですか。」


ナタリーは、まだブツブツ言っているアルゼルに呆れ果て大人しく部屋に戻る事にした。

今回も無事に航海が終わり砂漠の国に到着したナタリー。

てっきりトルマリンが迎えに来てくれるものだと思ったが迎えに来たのは顔色の悪いダイヤだった。


「ダイヤさん、体調悪いんですか?」


心配になりナタリーがダイヤに聞くとダイヤは首を振った。

邸に着くとダイヤはナタリーの荷物をラクダから取り出し部屋へ運ぶ。

ナタリーはダイヤにお礼を言ってトルマリンを探した。

しかし何処にもトルマリンの姿がなかった。


「ダイヤさん、トルマリンが見当たらないんだけど何処に行ったか知ってますか?」

「トルマリンは婚約が決まった為、王宮に呼び戻されました。」


荷解きが終わりナタリーにお茶を用意しながら答えるダイヤだった。


「そう…。戻って来るのかしら?話したい事が有ったのに…。」


ダイヤはナタリーの言葉を聞いて勢いよくティーカップを落とし座ろうとしていたナタリーの肩を思いっきり掴んだ。


「っ!?…ダイヤさん…?」

「…どうしてあいつには何でも話して俺には何も話してくれないんだ。俺だって貴女の世話役なのに…。」

「ダイヤさん、痛い…。離して…?」


ダイヤはナタリーを力いっぱい床に投げた。

そして安全の為帯刀していた小刀を抜きナタリーの顔の真横に振り落とした。


「何故、あいつが選ばれたんだ…。年齢的に俺が選ばれるはずだったのにっ!」


ナタリーは恐怖でダイヤに話し掛ける事を止めてしまった。


「俺はこのチャンスを逃したら次いつ指名されるか分からないのにっ!」


何度も小刀がナタリーの顔の横を通る。


「今から俺を婚約者として指名しろよ…。」

「…な、何言っているの…?」

「…トルマリンと婚約を結んだんだろ?とぼけるな。」


ドスッと小刀が床に突き刺さる。


「た、確かに砂漠の国の王子と婚約を結んだわ。名前は同じだけど全くの別人よ!」

「…は?何言ってるんだ?まあいいや…。俺を指名しないならアンタも道連れにして死んでやる…。」

「やっやめてっ!」


死を覚悟したが一向に小刀が振り下ろされないので、ゆっくり目を開けるとメイドのアリッサがダイヤの手首を押さえていた。

アリッサはダイヤから小刀を取り遠くへ投げた。


「ご無事ですか?」


ナタリーは何度も頷いた。

アリッサは自分のエプロンを使いダイヤの手首に巻いて解けない事を確認すると部屋を出てロープを持って来てダイヤの手首に巻いた。


「ナタリー様、私は今から王宮に向かわなければなりません。キッチンに料理長がおりますので、本日は料理長と共にお過ごしください。」

「えぇ…。分かったわ…。アリッサ…ありがとう。」

「いいえ、これも仕事ですので。では失礼します。」


アリッサはダイヤを連れ出した。

ナタリーはキッチンに居る料理長を訪ね、理由を話すと何も言わず美味しい紅茶を出してくれた。

それからケーキを焼いて差し出した。


「怖い思いをしましたね。でもナタリー様がご無事で本当に良かったです。」


料理長は世話役を指名された王子は婚約を交わせないと腹いせに令嬢を襲う事が極稀にあり、最近はそんな事がなかったが念の為、腕の立つ者をメイドと料理長として邸に置く事になっていると話した。

美味しい紅茶とケーキを頂き、まだ恐怖心は残るが落ち着いてきたナタリー。


「…ダイヤはどうなるの?」

「運が良ければ廃嫡され店に買われるでしょう。」


料理長は運が悪かった場合を教えてくれなかったがナタリーは大体想像がついた。

暫くすると凄い勢いでドアが開く音がした。

ナタリーは身体がビクついたが料理長がナタリーを庇う様に両手に包丁を持った。

何者かが真っ直ぐキッチンにやって来た。


「ナタリー様!!ご無事ですか!?」


料理長は男の姿を確認し包丁を下ろした。

ナタリーが料理長の後ろから顔を覗かせると婚約者のトルマリンが立っていた。


「大丈夫ですわ。ご心配お掛けして申し訳ございません。」

「何を仰っているのですか!!大切な婚約者を心配しない者などおりましょうか!」


これで会うのが2回目なのに随分心配してくれたんだとナタリーは顔が綻んだ。

ナタリーの無事を確認し婚約者のトルマリンは邸を後にした。

次の日、アリッサが一人の女性を連れて帰って来た。

問題を起こしたダイヤの代わりに王宮の副執事を連れてきたのだ。


「初めましてニレーヌと申します。どうぞ宜しくお願い致します。」


ナタリーはダイヤの代わりにトルマリンが戻って来るのを期待したが婚約が決まったから自分の世話を外されたのねと思いながらニレーヌに挨拶をした。


「さてナタリー様、工房にはいつから参りますか?」

「そうね…今日は静かに過ごしたいから明日からにするわ。」

「畏まりました。ではバジュラ様の元へ行きその旨をお話して来ますので、アリッサと料理長に留守をお任せします。決して私が居ない間に街に出ないで下さいね。」


ニレーヌは言う事を言ってさっさと出掛けてしまった。

ニレーヌの迫力に返事も頷く事も出来ずに見送るナタリー。


「ニレーヌは無駄な動きが嫌いなんですよ。その性格が評価されまた17歳という歳で副執事に任命されたのです。取っ付きにくいでしょうがご勘弁ください。」


ナタリーは頷いた。

次の日。

ニレーヌはトルマリンやダイヤが起こしに来ていた時間通りにナタリーの部屋へやって来た。

無駄がないようニレーヌは計算尽くされた様にナタリーの支度を始める。

朝食を済ませたナタリーをラクダに乗せ工房まで送ると直ぐに何処かへ行ってしまった。


「久し振りだね。さ、仕事を始める前に腕が鈍ってないか見るからね。」


バジュラはクズ原石と原石を2つ渡した。


「カットと加工、磨きまで終わらせるんだ。終わったら見せに来ること。」

「はい。」


ナタリーは早速取り掛かった。

ガクガール国では原石に触る機会が無かった為、嬉しくて嬉しくて夢中で原石を加工した。


「出来ました。」


ナタリーがバジュラの所へ宝石を行くとバジュラは時計を確認しナタリーが加工した宝石を光に当てて確認した。


「時間も早いし良い出来だね。本当は暫く原石の加工磨きをして欲しかったんだけど希少価値の高いコイツのカットをしておくれ。」


そう言ってナタリーの目の前に手の平サイズの原石を出した。


「こういった原石はあまり発掘されないんだ。だから私やベテランがカットから磨きまでをするんだ。これはクズ原石や原石と違って失敗は出来ないよ。最初だから時間を掛けても良い。加工する種類も任せるからね。」

「はい…。」


ナタリーはバジュラから手渡された原石を自分の机に置いた。

今まで加工する種類はバジュラから指示されていたが今回は任されると言われてしまったナタリー。

ナタリーは、まずこの原石がどんな人物に渡るのだろうと考え、

希少価値の高い宝石を持てるのは王族か力のある貴族だけだろうと想像した。

次にどう使われるのかを考えた。

大きいな宝石は普段使いや外交時に付けるには向かないと思い、つけるなら婚礼や戴冠式だろうと考えた。

ナタリーは婚礼用にしようと思ったが、はっと思い出し手を動かし始めた。

工房の稼働時間が来る頃にナタリーは出来上がった宝石をバジュラに見せに行った。


「マーキースカットにしたんか。理由を聞いても?」

「最初は婚礼用のティアラに着けるようにしようと思ったのですが…大きかったので沢山削るの勿体無いので思い切って玉座に嵌める宝石にしてみました。」

「なるほどね。」


宝石に光を当てるバジュラ。

見事にキラキラ光り輝いていて見事な物だった。


「時間を掛けた分、良く輝いているね。これなら王宮に献上しても問題ないだろう。…よし、ナタリー明日から希少原石に携わってもらうからね。」

「あっありがとうございます!」


ナタリーはトルマリンに報告しようとしたが、もう邸には来ない事を思い出した。

邸に着きトルマリンがくれた本を読む。


『トルマリンは元気かしら…。どんな人と結婚するのかしら。せめて結婚する事を手紙にして残しておいてくれれば良かったのに…。』


ナタリーはトルマリンが手書きで書いた技術書を読む。


『綺麗な字…。』


ナタリーはトルマリンに今までのお礼と自分も婚約者が出来た事を伝えたかったと思った。



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