4 ナタリー
「ナタリー嬢、良くぞ参った。」
玉座に座るアイーシャはそう言って人払いをした。
謁見室にはアイーシャとナタリーの二人だけになった。
「トルマリンからナタリー嬢の様子は聞いているぞ。意欲的に技術を学んでいるとな。さて、そなたを呼んだのは他でもないトルマリンの事じゃ。」
アイーシャにトルマリンの事を聞かれナタリーは王族の男子に世話になるのは申し訳ないが、とても良くお世話になっていると話した。
「ふむ。異性としてはどうじゃ?」
「…は?…彼は私と6歳も違います。異性としてではなく弟の様に思っております。」
「…そうか。しばし待たれよ。」
そう言ってアイーシャは玉座を立ち上がり外に待機していた侍女に何かを言って玉座に座った。
暫くすると侍女が男子を連れてやって来た。
「ナタリー嬢、これはダイヤの原石じゃ。ダイヤの原石、ナタリー嬢に挨拶を。」
「初めまして、ダイヤの原石と申します。歳は23でございます。」
ダイヤの原石と呼ばれる男子は、トルマリンと同じく美しい顔をしていた。
「ダイヤの原石、今日からナタリー嬢の世話をするように。」
「畏まりました。ナタリー嬢、どうぞ宜しくお願い致します。」
「ちょっと待ってください。私にはトルマリンさんがおりますので、これ以上の世話役は結構です。」
ナタリーは慌てて世話役はもういらないといった。
年下のトルマリンにさえアレコレされるのに時間が掛かったのに年上のしかも対して歳が変わらない男性にアレコレされるのを考えただけでも恥ずかしくて嫌だと思ったからだ。
「ならばトルマリンの原石と変わらせればよい。」
アイーシャは穏やかに笑ったがナタリーはトルマリンと過ごした日々を思い出し、トルマリンが良いと言ったがアイーシャが折れず結局、トルマリンとダイヤの原石の二人がナタリーの世話役となった。
自宅に戻り、ため息をつくナタリー。
「ナタリー様、申し訳ございません。」
「え?」
「世話役はトルマリンの原石だけで良いと仰っていたのにアイーシャ女王が譲らずに私を押し付けてしまって…。」
「気にしなくて大丈夫よ。えーとダイヤの原石さんって呼ぶのも大変だからダイヤさんで良いかしら?」
ダイヤの原石は目を開いてナタリーを見たが、すぐに微笑んだ。
「どうぞ、呼び捨てでお呼びください。」
「いえ…王族の方を呼び捨てにするなんて恐れ多いのです。」
「なる程。ではお好きな様にお呼びください。」
一礼をしてナタリーの手の平にキスをする。
「っ!?」
月水金日をトルマリン、火木土をダイヤがナタリーの世話をする事に決まり夜になってナタリーは自室へ戻った。
リビングに残されたトルマリンとダイヤ。
「で?お前、1年も側に居て何もなかったわけ?」
ダイヤが口を開く。
「貴方には関係ない事です。」
「お前のせいで俺が巻き込まれてるんだけど?…やっぱ年下は恋愛対象にならないんだな。っま、俺としちゃ願ってもないチャンスだから良いけど。」
砂漠の国の王族の男子は来日した女性の世話係を担当する。
そして女性と恋仲なり婚約し結婚をしなければ王宮からの出る事が出来ない為、王子達は気に入られる為に容姿を気にし世話係として完璧に仕えられる様、日々努力をしている。
とはいえ誰でも来客の世話係を任せられるわけではないので、世話係として優秀な者でなおかつ来客人の年齢に近い者しかなれない狭き門を通らないといけない。
しかし、世話係に任命されても恋仲になれないなら解任されるか次の世話係を追加させられてしまう。
誰とも恋仲になれないまま35歳を迎えると宝石の原石ではなく石と言われ客人の前に出る事なく生涯を王宮で迎える事になってしまう。
「俺は石になるのは絶対に嫌だからナタリー嬢を落としてみせる。」
そう言ってダイヤは与えたられた部屋に戻り、トルマリンは何も言い返せず拳を強く握った。
次の日。
今日は月曜日の為、トルマリンがナタリーの世話係だ。
いつもの様に全ての支度を済ませ、ナタリーを工房へ送っていく。
「トルマリン、ありがとう。」
トルマリンを呼び捨てにする様になったナタリーはお礼を言って工房の中へ入って行った。
トルマリンは今回で2度目の世話係だったが前回担当した貴族のお嬢様と違うナタリーに好意を抱いていた。
少しずつ好きになってもらおうと思っていたがダイヤが世話係として追加された以上、のんびりしている場合ではないと思った。
『ナタリー様の良さを知れば多分、ダイヤも好きになるはずだ。年齢からしたら私が圧倒的に不利だ…。』
トルマリンはナタリーの迎えの時間まで図書館へ寄る事にした。
次の日は火曜日でダイヤが起こしに来た。
トルマリンと同じ様に世話を焼くがナタリーは恥ずかしさでダイヤの言葉に、はいしか答えなかった。
「ナタリー様、そんなに緊張されてしまうとこちらまで緊張してしまいます。」
「あっ、そっそうよね!ごっごめんなさい。」
ダイヤはナタリーの美しい髪をセットしながら微笑んだ。
ナタリーは終始落ち着かない様子で工房へ向かった。
「ちょっと!ナタリー!あの人はどなたなの?見たことないんだけど!」
お昼休み中ジェネが興奮気味にナタリーに聞いた。
「ダイヤさんって言って新しくお世話してくれる人よ。」
「えっ!トルマリン様はどうしたの?」
エリーがナタリーに聞く。
次々質問され、げんなりしながら答えるナタリー。
「あーん!羨ましい!私もどっかの貴族に生まれれば良かったー!あんなイケメン二人侍らすなんて…贅沢過ぎる!!」
ジェネとエリーは終始、良いな良いなと言っていたがナタリーはトルマリンは置いておいてダイヤに身の回りの世話をされ続けたら心臓が持たないと心の中で叫んだ。
水曜日になりトルマリンが起こしにやって来た。
「トルマリン!!」
トルマリンに会えて嬉しくて抱き締めるナタリー。
「なっナタリー様っ!?」
「あーもうっ!昨日は心臓が持たなかった…。」
支度をしている間にダイヤの事を話し続けるナタリー。
ナタリーの口からダイヤの名前が出るたびにトルマリンは心が傷んだ。
気分が滅入ったが笑顔でナタリーの話しを聞き支度を済ませる。
「じゃあ行ってくるわね!」
「はい、行ってらっしゃいませ。」
笑顔で見送るトルマリン。
トルマリンと別れたナタリーは今日も工房で技術を学ぶ。
「ふんふん。次は原石の加工と磨きをしておくれ。これが上手く出来る様になったら希少価値の原石のカットを任せるからね。」
「はい!ありがとうございます!」
クズ原石のカットから始まりクズ原石の加工、磨きの技術を認められ原石のカットを任されていたナタリーは原石の加工と磨きを任されるようになった。
「凄いじゃない!工房に来てまだ1年半くらいなのに。私なんかまだクズ原石のカットよ…。」
ジェネが羨ましそうに言った。
ジェネは工房に来てから3年目だが未だにクズ原石の加工、磨きを任されていない。
「原石はクズ原石と違って加工、磨きを失敗するとクズ原石と同等の価値になっちゃうから結構神経使うのよ。まだクズ原石に関わってた方が気が楽だわ。」
エリーはため息交じりに言った。
エリーも工房に来てから3年だったが手先が器用なのかすぐに原石の加工、磨きを任されるようになっている。
ナタリーはエリーの話しを聞いて気を引き締めた。
「お疲れ様でした。」
トルマリンがナタリーを迎える。
「トルマリン、聞いて!私、ついに原石の加工と磨きを任されるようになったの。」
「それは良かったですね。ナタリー様は努力家ですからすぐに認められますよ。」
「そんな事無いわ。トルマリンが集めてくれた本のお陰よ。だから貴方に一番最初に言いたかったの。ありがとう。」
ナタリーがトルマリンにお礼を言うとトルマリンは嬉しそうに笑った。




