3 ナタリー
次の日もトルマリンに起こされ世話を焼かれるナタリー。
「今日は技術士の元へ行きます。」
ナタリーは待ってましたと言わんばかりに喜んだ。
さっそくラクダの馬車に乗り込み技術士の元へ向かった。
ラクダに揺られて2時間、窓から見る景色は険しい山々が聳え立っていた。
山の麓にかなり大きな工房が有り、二人はその工房の中に入った。
「バジュラさん、今よろしいですか?」
トルマリンが一人の女性に話し掛けると、女性は作業を止めた。
「ああ、例のお嬢さんが来たんだね。アンタ名前は?」
「ナタリー・マスカゼと申します。どうぞ宜しくお願い致します。」
「あぁ…良いとこのお嬢さんか。私は加工師のバジュラ。悪いが、こっちは職人なんでね丁寧な喋り方は出来ないんだよ。」
「構いません。私は技術を学びに来ましたので師となる方や先輩方はお気軽にお話ください。」
「そうかい。じゃあ早速アンタの腕を見せてもらおうか。」
バジュラは何かの原石をナタリーに渡した。
「では工房営業時間が終わる頃に迎えに上がります。バジュラさん、ナタリー嬢を宜しくお願いしますね。」
「はいよ。」
トルマリンは工房を後にした。
ナタリーは自分の領地で行っていた様に原石に手を加えていく。
1時間位掛け宝石をより美しく見せる為のカットと磨きを始めた。
これが上手く出来なければ宝石の価値は下がってしまう為、ナタリーは丁寧に手を加える。
「出来たか?」
「はい。どうぞ。」
バジュラはナタリーがカットした宝石を取り光にかざした。
「ブリリアントカットか…。綺麗に出来ているが時間が掛かり過ぎだね。これじゃあ製品にするまでに1週間掛かっちまう。」
そう言ってバジュラは加工を始めた。
「…凄い…早い…。」
原石をカットして宝石のカットと磨きが終わるまで約束1時間しか経っていなかった。
バジュラは自分がカットした宝石をナタリーに渡し、ナタリーは光にかざした。
「同じブリリアントカットなのに輝きが全然違う…。」
「まず原石を加工する時間を短縮練習からだね。工房は朝9時から昼の3時まで、休日は土日。さぁもう工房を閉めるから帰んな。」
ほぼ追い出されながら工房から出ると既にトルマリンが待っていたので滞在先に戻った。
「やっぱり私はまだまだね。」
夕食を取りながらナタリーが呟く。
「バジュラさんは歴42年ですから差が有って当然です。」
トルマリンはナタリーを励ます。
次の日も工房に向かいトルマリンはナタリーを送り席を外した。
「じゃあ今日はクズ原石のカットをしてもらう。失敗してもクズ原石だから気にするんじゃないよ。工房が終わる時間までに一つでも多くの原石をカットするんだ。」
「はい。分かりました。」
バジュラはそう言って大きな籠一杯に入った原石を二人がかりで持ってこさせナタリーの横に置かせた。
ナタリーは早速原石のカットに取り掛かり、黙々と手を動かすナタリー。
工房が閉まる3時になる頃には3つカットする事が出来た。
「3つしかカット出来なかったのか。…1時間で1つカット出来る様にならないと話にならないよ。ゆくゆくは1時間で2つ以上カット出来る様に頑張んな。」
それから1週間、1か月と2ヶ月と時間が過ぎて行った。
「ナタリー様、今宜しいですか?」
とある休日、家で寛いでいたナタリーはトルマリンに話し掛けられ頷いた。
トルマリンはカート一杯に積まれた本をナタリーに見せた。
「これらは我が国の原石カットから磨き方法が記された本です。」
どうやらトルマリンはナタリーが工房に居る間に専門書が売っているお店に行ったり、現在では古過ぎて取り扱いをしていない本を図書館に行って写していたらしい。
「ありがとう!大変だったでしょう?とても嬉しいわ!」
ナタリーが満面の笑みで微笑むとトルマリンは照れながらお辞儀をした。
ナタリーは早速貰った本を見始める。
「凄いわ…ガクガール国とは比べ物にならない位、技術が発達しているわ。」
夢中になり過ぎて気が付いた時には夕日が沈んでいた。
夕食を食べ、入浴を済ませたナタリーはまた本を読む。
深夜になりナタリーはようやく眠りにつく。
「おはようございます。ナタリー様、朝でございます。」
トルマリンが起こしに来た。
ナタリーら目を擦りながら朝の支度を始める。
トルマリンに色々世話を焼かれるのも慣れてきたが相手は王族なので必ずお礼を言うのを忘れなかった。
今日は工房の営業日なので、全ての準備を終わらせ工房に向かった。
「うんうん。ようやく早くカット出来るようになったね。じゃあ明日からはクズ宝石の加工をしてもらおうか。」
ナタリーはそれを聞いて嬉しくなり、すぐに返事をした。
自宅に戻りナタリーはトルマリンに今日の出来事を話すとトルマリンは自分の事のように喜んだ。
砂漠の国に滞在してから1年が経ち、ナタリーはバジュラからクズ原石ではない原石のカットを任されるようになった。
同じ工房で働く人達とも仲良くなり、カットや加工、磨きのコツを教えてもらえるようになった。
「ところでナタリー、いつも迎えに来る彼とはどういう関係なの?」
「それ、私も気になってたー!」
特に仲の良いジュネとエリーが聞いてきた。
「トルマリンの事?彼は私の世話をしてくれているだけよ。」
「そうなんだー。あんなイケメンが居るのに好きになったりしないの?」
「ならないわよ。彼は6歳も下なのよ。」
「って言うか男の人が近くに居るのが羨ましい!」
工房の人達は皆ナタリーが国の招待で技術を学びに来ていて王族の男子が世話をしているのも知っている。
身近に男子の居ない年頃の平民達はナタリーとトルマリンの関係を想像して話すのが日課になっていた。
自宅に戻ったナタリーは改めてトルマリンを見た。
「どうかしましたか?」
ナタリーの視線に気付きトルマリンが問いかける。
「あ…何でもないわ。」
「そうですか。」
にっこり微笑むトルマリン。
『ジュネとエリーが変な事を言うから意識しちゃうわ。二人にとってはイケメンかもしれないけど、私から見たら弟にしか見えなないのよね…。』
「ナタリー様、王宮から手紙が来ています。」
トルマリンがナタリーに手紙を渡し、ナタリーは手紙を読んだ。
「来週、王宮に来て欲しいらしいわ。」
「左様ですか。では来週までに準備を致しますね。」
「ええ。お願い。」




