6
学長の長い話が終わり仲良し3人組はAクラスに向い自分のクラスメイトを観察していると見知った顔が居れば見知らぬ顔も居た。
しばらくするとチャイムがなり深緑色の髪をしたイケメンが教室に入ってきた。
「今日から1年間、貴方達の担任になるマツリドです。よろしくお願いします。では席順に挨拶をしてください。時間の無駄ですので名前だけでお願いします。」
ティーナを含む殆どの生徒が担任のマツリドをよく思わなかったろう。
しかし先生に口ごたえもせず淡々と名前を言っていく。
「はい、言い終わりましたね。では、明日から通常授業が始まります。1週間分の予定表を配りますので、その通りに準備をしてきてください。」
配られたプリントを見るとティーナは目を疑った。
月曜日から金曜日まで朝8時から5時まで授業がみっちり入っていたのだ。
そして
【希望する者は朝7時から夜8時まで授業可。土曜朝7時から11時まで授業可。】
と書いてあった。
全員に配られたのを確認し先生は時計を見た。
今まだ10時前だ。
「クラス委員はアルゼルとゼムスだな。では解散。」
出て行こうとする先生を女子生徒が止めた。
「先生!クラス委員は男女のペアじゃないんですか?それに王族だからって贔屓はいけないと思います!」
その女子生徒は、アルゼルの寵愛を受けいる少女だった。
「ターシャさん、この席順を見て気付きませんか?この席順は成績順です。そして一番目にアルゼル、二番目にゼムス。優秀な生徒が委員になるのは当然だと思いますが?このご時世、男尊女卑の考えはないですよ。そんな時代は過ぎました。今は男女平等の時代、実力社会の時代です。質問は以上ですか?はい、では解散です。授業の時間を伸ばしたい者は11時までに言いに来る事。」
ターシャは呆気に取られ教室から出て行く先生を見送った。
クラスメイト達は帰り支度を始め一人また一人と帰っていく。
他の教室を覗くとまだ挨拶をしていたり委員を決めていたりしていた。
「あの先生はとても優秀な先生らしいわ。」
ランチをしながらセシルが言った。
「そうなの?厳しそうな先生だけど…」
「ナタリーもそう思った?私もそう思ったわ。」
家に居る時と違うので令嬢らしく振る舞う3人。
「ええ。父に聞いたけど、常にAクラスの担任らしいわ。元は平民だったけど優秀過ぎて飛び級進学して本来貰えるはずの爵位よりも上の爵位を貰ったんですって。」
「そんな優秀な先生の授業についていけるかしら…ナタリーもセシルも頭が良いからついていけるだろうけど…。」
実力社会主義のガクガアール国は優秀な者には貴族だろうが平民だろうが地位を与える。
貴族であれば領地を貰えるし、平民なら爵位と領地を与えられる。
勿論、辞退する事も可能だが大体者が領地を取得しその領地を栄えさせている。
平民にとっては学校生活は一生を左右するものなのだ。
マツリドに出会ってから顔色が優れないティーナは食欲がないようで、さっきからスープしか口に入れていない。
「そんな事を言ったらティーナよりも後ろの席の人達なんて絶望しか感じないでしょうね。」
「そうね。私も何とか1列目に居るけど気が抜けないわ。多分貴族ではない人達が何人か居るもの。」
ナプキンで口を拭きながらティーナを見るナタリーと食後のデザートを食べるセシル。
席順でセシルは1列目、ナタリーは2列目、ティーナは4列目なのだ。
「…そもそもね、手を抜き過ぎたんだよ。ティーナ嬢は。」
声がする方を見るとそこには第二王子ゼムスが居た。
「本当なら君は学年1位のはずなんだ。」
「なっ!?…ゼムス殿下、何をおっしゃっているのですか?あの席順は私の実力ですのよ。」
「そう。そう思っているのは君だけだよ。ほら、セシル嬢もナタリー嬢も私の言っている事に反論しないだろう?」
ティーナは二人を見るとにっこりと微笑み返された。
実はティーナ、貴族が家庭教師を選ぶ為に行う試験で見事な点数をとっている。
「何年もティーナ様と一緒にいたんですもの。気が付かないはずありませんわ。」
「そうですね。ティーナ様のお話についていけるよう必死に勉強をしているのですよ。」
普段、落ち着きがなく馬鹿な事ばかり考えるティーナだったが経済、地学、語学など貴族が貴族として必要な知識を高いレベルで持つ為、二人と真面目な話をする時は二人は揃って言い負けてしまったりティーナ以上の良い意見が出ないのだった。
その為、二人はティーナに負けないよう必死に勉強をしていたのだ。
「何故、実力をお出しにならなかったのか是非教えて頂きたくてお探ししていました。」
ゼムスの裏のある笑顔に勝てないと悟ったティーナは白状した。
「…私は将来的な未来の王妃にはなりたくないのです。ですから、家の恥にならぬ様な成績になるよう手を抜きました。」
「何故、王妃になりたくないと?」
「それは…」
口籠るティーナにセシルが続きを言う。
「殿下はご存知ですか?不機嫌王子の噂を。失礼を承知で申し上げますが、第一王子はいつ訪問しても不機嫌で挨拶もなされない、挙げ句優秀かどうかも分からない平民の女を囲っている。そんな人間が将来の国王。そんな人間と結婚をして幸せな家庭を築けるとお思いですか?」
セシルの言葉を聞いてゼムスは苦笑いをした。
「中々手厳しい指摘ですね。でもそれはセシル嬢もしくは一般論であってティーナ嬢の考えではないはずだ。私はティーナ嬢の気持ちが知りたい。」
「ナタリー様と同じ考えでおります。」
意を決めたように今は恋愛結婚が普通となっているが王族は基本政略結婚で有ることと、力のある貴族もしくは優秀な者と縁を結びたがっている事を知っていると話し、自分が知力と地位を2つ持っている事を知られれば王族は何としてもティーナを第一王子であり将来の国王でもあるアルゼルと結婚させるだろうと考え事。
政略結婚ならば仕方ないと諦め結婚するが国王に即位しているわけではないのに既に女性を囲っているアルゼルとは死んでも結婚をしたくないと話した。
「なるほど。分かりました。貴女は王妃でなく兄と結婚をしたくないと言うことなんですね。」
ゼムスはティーナの話を聞いて否定するわけでもなく、そう言って去って行った。
すっかりおいてけぼりをくらったナタリーとセシルだったがゼムスがティーナに好意を抱いているのが分かったがティーナには何も言わなかった。
「さあ、お茶も冷めてしまたっし帰りましょうか。」
「そうね。」
気を利かせたナタリーはそう提案し3人は寮のそれぞれの部屋に戻った。
「今日は令嬢として素晴らしく対応なされていたと思います。…ですが…その姿は令嬢に相応しくないのはお分かりですか?」
エナがソファで寝転ぶ姿を見て注意をする。
「良いじゃない。今日は疲れてるんだから。」
「そうですか。では今日の報告書に書いておきますね。…ロウ様宛に。」
それを聞いたティーナは慌ててソファから飛び起き優雅に座った。
エナが言ったロウとはティーナの祖母で他国の姫だったゆえにマナーには大変厳しくティーナのマナー学を担当していた。
ロウの授業は地獄の様に厳しく完璧に覚えそつなく振る舞える様になるまで毎日泣いていたティーナはロウが誰よりも怖い存在となったのだ。
「エナ、報告書を書くのですか?」
「はい。奥様に頼まれ全ての報告はロウ様にいく様になっております。」
しらーっと答えるエナ。
外でも寮内でも令嬢としての立ち振る舞いを求められたティーナは早々に明日の準備をしてベットに入った。