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婚約者候補パーティから何ヶ月も過ぎたが王宮から何の音沙汰もない事が分かり、自分は候補からの外れたんだと喜んで居たティーナ。
「アンタ何寝ぼけた事言ってるの?王子も私達もだけど、もうすぐ学校に入学だからその準備の為に音沙汰が無いだけよ。」
「そうね。1学期が終わる頃には連絡がくるはずよ。…そう学年末試験が終わった頃に…」
今日はナタリーの家でお茶会をしている3人。
もうすぐティーナ達は平民も貴族も関係ない学校生活が始まるのだ。
学校では寮に入る事になっており、成績に応じて寮が違うし部屋の内容も違う。
Aクラスは1番豪華な部屋でメイド付き、Bクラスは2番目に豪華な部屋でメイドなし…と待遇も違ってくるので平民の子はともかく貴族の子はCクラスには入っておきたい。
なぜなら最下位Fクラスは4人部屋だからだ。
そして今年、双子の王子も高等部へ入学する年。
ティーナは自分がすっかり試験を受けた事を忘れていた。
「えっ!じゃあ私達も準備しなきゃじゃん!」
「…まだ終わってないの?」
セシルは慌てるティーナを冷静に見つめてお茶を飲む。
「ティーナ、あと2週間で学園生活始まるわよ。セシル、クラス分けの手紙見た?私はAクラスだったわ。」
「もちろん、私もAクラスよ。」
ナタリーは知らん顔をしてお茶を飲む。
「えぇっ?クラス分けも発表されてるの?」
ナタリーとセシルはお互い顔を見合わせため息をつき帰り支度を始めた。
「アンタ、少し落ち着きなさい。まだ何とか間に合うはずよ。私達は帰るからお母様に叱られなさい。」
「そうね。ティーナは抜け過ぎよ。自分の事は母かメイドが何でもやってくれると思っていたら痛い目を見るわよ。ナタリー、帰りに雑貨屋さん行かない?」
「いいわね。行くわ。じゃあティーナまたね。」
二人が帰るの見送るとティーナは慌てて母親の元へ向かった。
「お母様っ!?大変っ!私っ学園の事、忘れてて!今っ!」
「ティーナ、落ち着きなさい。」
そう言ってティーナに座るよう促した。
「学校の準備はとうに出来ていますよ。…ティーナ、前から言っているでしょう?落ち着きなさいと。もう高等部に入学ですよ。自分の事は自分でなさい。」
母親はそう言ってティーナに学園からの手紙を渡した。
「Aクラスだ…良かった!皆と同じクラスだ!」
「ティーナ、私が言ったこと覚えていますか?」
ティーナは本気で母親が怒っているのを感じ黙り込む。
「これからの3年間で貴方がどう変わるか楽しみだわ。メイドはこのエナを連れて行きなさい。」
「エナ!?私の専属メイドじゃ駄目なの…?」
「駄目です。エナ以外は認めません。学長に言ってBクラスに落とす事も出来るのですよ。」
「…分かりました…。」
エナは67歳になるティーナが産まれる前からこの家に居たメイドで今現在のメイド長である。
「エナには色々と頼みましたから是非卒業までには素敵な令嬢になって帰ってきなさいね。」
「…はい…。」
ティーナは母親の恐ろしい笑顔の圧力に押されながら部屋を出た。
入学前日。
夕食を終えたのを見計らって母親がティーナに小箱を渡した。
「ティーナ。最後にこれを。」
開けてみると家紋とティーナの名前が入った銀色に輝くネクタイピンだった。
「これは意中の男性に渡すものです。見ての通り一つしか有りません。誰構わず差し上げても良い物ではありません。」
学園が創立された頃からの伝統で一人一人、貴族は家紋と自分の名前の入ったネクタイピンを平民は家紋が無いため学校のエンブレムと自分の名前が入ったネクタイピンを持つ事になっている。
最初の頃は自分の物だったがいつしか恋人同士が持つようになったのだ。
「家紋と名前の入った物を交換するということはどういう事か分かりますね?」
「はい…。」
ネクタイピンを交換し合う事はイコール将来を誓う合うという意味でもあるのだ。
結婚には政略結婚、恋愛結婚がある。
昔は政略結婚が多かったが恋人同士のネクタイピンの交換が主流になってからは王族以外、恋愛結婚が大多数になってきている。
在学中、交換が行われれば婚約者となり結婚する事になるが交換する事が出来なければ学園卒業後、両親が用意したお見合いをこなさなくてはいけなくなるのだ。
下級貴族でも上流貴族と婚姻を結べる事が出来るかもしれない為、貴族の子供達は入学前に婚約者が居ないのだ。
「私の時はね、お父様が…」
母親の思い出話が始まり、それとともイチャイチャしだす両親を見てげんなりしながら自室へ戻るティーナ。
次の日。
荷物は事前に送っている為、鞄と身体一つで馬車に乗るティーナとそれを見送る家族。
「では、エナ。くれぐれも頼みましたよ。」
「はい、奥様。」
短い挨拶を済ませ馬車に乗り込むティーナとエナ。
新しい生活が今始まろうとしている。