4 セシル
3学期が無事に終わり、3月20日に国王の退任式が行われる為すぐに帰ってくるように父から手紙が来ていたのでセシルは自宅へと戻った。
久し振りに見る父は少し窶れていた。
「お父様、大丈夫ですか?少しお疲れなのでは?」
「大丈夫さ。今は王宮も慌ただしいから多少無理をしないといけない時期なんだ。」
「そうですか…。」
セシルには母親がいないのと元々ドレスや貴金属に興味がない為、乳母が退任式参加準備をしていた。
「退任式にはこのドレスを用意しました。今の体型に合うようにしますので、都合が良くなったら言ってください。」
そう言って乳母は部屋から出て行った。
セシルは荷物の片付けをメイド達に頼み、着替えを済ませ乳母の元へ向かった。
乳母に案内された部屋には既に薄紫色のドレスと薄水色のドレスがが掛けれていた。
「最近の流行りは薄い色なので2つ用意しました。」
セシルは乳母とメイド達に進められ薄紫色のAラインドレスと薄水色のマーメイドラインを試着した。
「私はどっちでも良いんだけど…」
セシルの言葉を聞いた乳母メイド達はどちらをセシルに着せるか戦争が勃発した。
結局、乳母の権力を振りかざし薄紫色のドレスに決まった。
メイド達は文句を言いながら、それに合う宝石を準備し始める。
「このドレスに合う髪型をするには今持っている物じゃ駄目ね。…セシル様、明日私と一緒に街に行きましょう。」
ゆっくりしたかったセシルだが乳母の無言の圧力で出掛ける事になった。
次の日、何とか乳母のお眼鏡に叶うジュエリーを見付け購入し帰宅した。
「セシルさん、そのドレスとても良く似合っています。」
「今日のお前すっげー可愛いじゃん!」
「っ!?!?」
疲れ切ったセシルがマツリドとルーカスが出て来る夢を見て絶対言わない言葉を言っていて驚いて飛び上がった。
「な…なんて夢なの…。」
窓を見るともう日が暮れていて、セシルが下に降りると夕食のいい匂いがした。
沢山歩き疲れ、うたた寝をしていたセシルはお腹がとても減っているのに気が付き夕食を思う存分おかわりした。
お風呂に入り父におやすみなさいと挨拶をしようと書斎に入った。
「おっセシル、久し振りだな。またデブになったか?」
「セシル久し振り!見ない内にまた一段と可愛くなったな!」
長男フォース、次男ウィットが父の書斎に居た。
フォースはセシルをいつも馬鹿にするし、ウィットはセシルを溺愛している。
この二人のお陰でセシルの性格に影響が出たのは間違いない。
既にウィットに抱き締められ激しく頬ずりされているセシル。
「学校に入学してから毎日手紙を書いているのにどうして返事をくれないんだ。遠征しているお兄ちゃんが心配じゃなかったのか?」
「ウィット、お前毎日こいつに手紙書いてたのかよ。彼女に書いてたんじゃねーの?」
「何言ってるんだ!俺には可愛い可愛いセシルが居るのに彼女なんているわけないだろう?」
「…ウィット、そろそろセシルに頬ずりするのをやめなさい。セシルが磨り減る。」
「はっ!それは困る!セシル大丈夫か!?磨り減ってないか!?」
父に諭されようやく頬ずり地獄から開放されたセシルだった。
「お兄様方お帰りなさい。お父様、おやすみの挨拶をしに参りました。」
「えっ!セシルもう寝ちゃうのかい!?なら久し振りにお兄様と一緒に寝よう!」
「お断りします。おやすみなさい。」
セシルはさっさと自室へ戻りベッドの中に入った。
次の日。
セシルは誰かに頬をつんつんされている事に気が付いて目が覚めた。
「セシル、おはよう!よく眠れたかい?」
「ウィットお兄様おはようございます。何故、私の寝室に居るのですか?」
「それはお兄様がお休みだからだよ!」
遠征から帰って来た二人の兄は1週間程休日を与えられているらしく、セシルが大好きなウィットは早朝からセシルにちょかいを出していた。
「そうですか。でも私はまだ眠いので寝かせて下さい。」
「駄目だよセシル?お兄様が休みなんだから起きてお兄様の相手をしてくれなくちゃ。」
「いえ、眠いので。」
「まあ!ウィット様、あれ程勝手に入らないように申しましたのに!これは乳母様に叱っていただかないといけませんねっ!」
良いタイミングでメイドがやって来てウィットを引きずるように部屋から追い出した。
セシルは再度目を瞑った。
次にセシルが目を覚ましたのは9時だった。
のろのろ起き着替えをし遅い朝食を食べに行った。
「セシル、メシ食い終わったらどれだけ強くなったか見てやるよ!庭で待ってるかな!」
フォースが訓練着に着替え模造刀を持ちセシルに言うとセシルが返事をする前に父が口を開いた。
「見なくていいっ!セシルはお前達と違って私の跡を継ぐんだ!護衛術だけ覚えていれば良いんだ。」
「そうだよ、フォース。俺の可愛い可愛い華奢なセシルがムキムキマッスルセシルになってしまうから辞めてほしいんだけど。」
「1時間位、訓練するだけじゃムキムキにはならないって!来ないと一生ブタって呼ぶからな。」
「バカ兄貴っ!セシルに向かってブタと言うなっ!」
セシルは黙々と朝食を食べた。
お腹が膨れたセシルはウィットに邪魔されながら1時間程ゆっくりし、訓練着に着替えフォースの待つ庭へ向かった。
「おっ、来たな。」
フォースは模造刀をセシルに渡しセシルに打ち込ませた。
身体が温まった所でフォースと剣を交えたが手加減されているとはいえ実戦をいくつもこなし剣技が洗練されているフォースに勝てる訳がなかった。
「ふんっ。弱っちだな。」
「お前が強過ぎるだけだって。」
二人の打ち合いを見ていたウィットはセシルに敗因を真面目に教え、フォースの弱点も教えた。
「おーぉ。流石軍師様。俺の事良くお分かりで。」
「いつも訓練中に注意してるだろ?全く直そうとしないけどな。」
二人で言い合いになっているのを放置して疲れたセシルはお茶を飲みにテラスへ向かった。
二人ぼっちになった事に気付いた兄二人がいそいそとテラスにやって来てセシルが隣に来るように座った。
「置いていくなよ!ったく。いつまで経っても自分勝手だな。そんなんじゃ嫁の貰い手がなくなるぞ。」
「フォース!セシルは婿を取るに決まってるだろ!この家から離れないよなっ!セシルの結婚うんぬんの前にフォースこそ結婚しろよ。そして早く家を出て行け。そしたらセシルを一人占め出来るのに。」
「…フォースお兄様もですけどウィットお兄様もご結婚されては如何ですか?」
セシルの言葉にメイド達はうんうんと頷いた。
二人とも結婚適齢期なのだ。
「俺?俺は結婚しないよ。ずーっとこの家に居て可愛い可愛いセシルを俺から奪ったまだ見ぬ婿をいじめ抜くんだ。」
「うっわー!お前、超嫌な奴だなー!」
「ではお兄様を鬼畜にしない為にも私も一生独り身で生きて行きますね。」
「それは駄目だ!そんな事をしたら可愛い可愛いセシルの遺伝子を継いだ子供が見れない!可愛がれない!」
「…お兄様、お兄様も私と同じ遺伝子を持っていますよ?結婚し子供を持ち、その子供を可愛がっては?」
「でもでも、セシルより可愛い子は居ないし…。」
ブツブツ言いながらお茶を飲むウィット。
「俺はいつ死ぬか分からねぇし世帯を持つつもりはねーよ。」
フォースはそう言って訓練に戻って行った。




