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1 セシル

セシルは1年生の3学期が始まってからマツリドの授業外授業を受けるのを止めた。

飛び級したくなくて感情に任せマツリドに当たった為、どんな顔をすれば良いのか分からなかった。

ティーナとナタリーにはマツリドの事は諦めると言ったが本当に諦められるのかセシルは微妙だった。

諦めるのならマツリドに近付かなければいいのだがそうもいかなくなった。

なぜなら進級式と入学の式の手伝いを学級委員が行う為、1学期の始めに決めた学級委員は不在なのでマツリドがセシルとルーカス指名し直したのだ。


「本来は成績順でセシルとティーナだが男手が欲しいと要請を受けたのでセシルとルーカスにする。」


セシルはため息を付いた。

授業が終わりルーカスと一緒にマツリドの待つ教員室へ向かう。

ルーカスは平民の子で両親は医療関係者だと言い将来自分も両親の手伝いをしたいと言った。

セシルは特に興味がなかったのでルーカスの話を聞いてるふりをして聞き流した。


「では、ルーカスは体育館に行ってミクワリ先生の指示に従って動いてください。セシルは私と一緒に学生簿の作成をお願いします。」


他の学級委員も既に担任の先生からの指示を聞いて動いていた。

セシルはマツリドと一緒に印刷準備室へ向かった。


「入学手続き資料の名前とここに印刷されている名前が間違っていないか確認をして下さい。AクラスからFクラスまであるので急がなくても良いので正確にチェックをお願いします。」


セシルはマツリドから書類を受け取りチェックを始める。

セシルがチェックをしている間、マツリドは別の書類の確認とチェックをしていた。

お互い何も話さず、淡々と作業を進めた。


「さて、そろそろ1時間です。休憩しましょう。」


そう言ってマツリドはセシルに温かいココアを入れ、セシルはお礼を言ってココアを飲んだ。


「…すみませんでした。」

「え?」


小さな声でマツリドがセシルに謝る。


「あなたが望まないのに飛び級をさせてしまって…。」

「…いえ。」

「学長にセシルを通常進級に戻せないか聞いたのですが、戻せないと言われてしまいました。」

「そうですか。」

「…飛び級したくないと言われたのは初めてでした。あの時は教えてくれませんでしたが、今教えてもらえる事は出来ますか?」


マツリドはセシルに聞いたがセシルは黙り込んだ。

マツリドが好きだから少しでも長く高等部に在席していたいとは言えなかった。


「…10分経ちましたので作業を始めますね。」


そう言ってセシルは手を動かし始め、何も言わずマツリドも手を動かした。

また1時間経ちマツリドは今日はこれでお終いにしようと言い、印刷準備室を後にした。


「明日もよろしくお願いします。」

「分かりました。」


それから1週間経ち新入生分の書類整理が終わった。


「もう参ったよ…。あの1週間ずーっと体育館の清掃と飾り付けで筋肉が悲鳴上げてたよ。」

「ルーカス、お疲れ様。」


新しく学級委員に指名されてから仕事を命じられ二人でこなしていくうちに少しずつ仲良くなった二人。


「セシルの方はどうなんだよ?」

「そうね…新入生分の書類整理が終わって明日からは進級生用の書類を整理するみたい。」

「マツリド先生と一緒にだろ?息詰まらねぇ?」


ルーカスはマツリドの優しさを知らない為、セシルを心配してくれた。

でもマツリドの優しさを知っているセシルは大丈夫とだけ返事をした。


「そっか。俺は明日から卒業式の準備だってよ。一体いつ終わるんだよ…。」

「頑張ってね。」


次の日、授業が終わり印刷準備室に向かうセシル。

すでにマツリドが待っていた。


「…では始めましょう。」


黙々と作業を始める二人。

1時間経って休憩を取る。


「先生、思ったんですけど…この作業に私いりますか?」


セシルに渡す書類は全てマツリドが入力し確認している為、ミスがない。

だから新入生用の書類を処理している時から自分は要らないと思い聞いたのだ。


「勿論だ。自分で確認しているが自分では気付かないミスもあるからな。」

「そうですか。」


休日になりセシルは久々に一人で市内に出た。

学校の有る市内は高い壁で覆われていて出入口は3つしかなく、出入口を含め至る所に衛兵が居る為、貴族の生徒達も一人で買い物をしたりしている。


「あら?ルーカス?」


一生懸命ショーウィンドウを見ているルーカスを見つけたセシルは声を掛けた。


「ん?ああ、セシルか。一人で買い物か?」

「買い物はしてないわ。一人で歩き回ってるだけよ。さっきから真剣に何を見ているの?」

「妹が誕生日だから何かプレゼントしようかと思ってるんだけど、何にしようか悩んでたとこ。」


セシルがルーカスの隣に立ち、お店に並べてあるリボンを見た。


「妹さんはリボンが好きなの?」

「いや、分かんねー。女の子ってこういうのが好きなんじゃねーの?」

「そうとは限らないわ。ねぇ妹さんの年齢は?」

「確か10歳になるはず。」

「だったらリボンよりもコサージュにしたら?コサージュならリボンに比べて長く使うようになるわ。」

「うぉ…セシルすげぇな…。なぁ一緒に選んでくれないかな?俺女心とか全然分かんなくてよぉ。」


ルーカスは何度もお店を行ったり来たりしていて途方に暮れていた所だったと話した。


「時間もあるし良いわよ。良いお店があるわ。」


そう言ってセシルは行きつけのお店に向かった。


「ちょっと待って!セシル、ここめちゃくちゃ高そうなんだけど…俺平民よ!?」

「…高級そうに見えるだけ。このお店は学生向けよ。」


スタスタと入っていくセシルと後を追うルーカス。


「ほら、ここ。」


セシルが案内した所は10Gから1000Gまでのコサージュが売っているコーナーだった。

この店は売り場の半分を学校に通う平民の為にリーズナブルなコサージュコーナーにし、もう半分は貴族用の高級志向のコサージュコーナーとしている。

リーズナブルとはいえ高級志向のコサージュに見劣りしないよう作られている為、貴族の令嬢もリーズナブルなコサージュを買っている。


「おぉっ!」


ルーカスが商品を見始めたが一向に決まる気配がなかった。


「ルーカス、妹さんは何色が好きなの?」

「色?分かんねぇ。」

「じゃあ、どういう服をよく着てる?」

「えー分かんねぇよ。」

「…ちょっとそれじゃあ選べないじゃない。絵姿とかないの?」

「あー、それならある。」


そう言って懐中時計の蓋の内側を見せるルーカス。


「私と同じ髪が短いのね。…それにルーカスに似ているわ。」

「似てるかー?」

「そっくりではないけどね。…10歳位なら、これなんてどう?」


セシルがルーカスに薄オレンジ色のシンプルなコサージュを指差した。

性格の明るいルーカスに似ている事と髪の毛が短い為、華やかなコサージュは普段使いに向かない事、そして10歳位なら少し背伸びをして大人っぽい物を欲しがるだろうとセシルは言った。

ルーカスは何度も頷いてセシルが選んだコサージュに決めた。

会計をするから待っていて欲しいとセシルに告げセシルはお店から出てルーカスが出て来るのを待った。


「お待たせ。セシルのお陰で良い買い物が出来たぜ。ありがとなっ!」


太陽の様に眩しく笑うルーカス。


「…良かったわね。じゃあ次は私に付き合ってくれる?」

「おう!良いぜ。」


数分後、ルーカスは思いっ切り後悔することになる。

セシルが向かったのは薄ピンクと白を基調としたカフェで学生の間では《カップルカフェ》と呼ばれているお店だった。

別名の通りスイーツから飲み物まで1つで二人分ある量で出て来るし、カップル限定のスイーツがある。

セシルはルーカスが居るからカップル限定のスイーツを注文した。

席に座ると周りはいちゃいちゃしまくるカップルばかりで、あちこちからハートが飛んで来る。


「お前…マジかよ…。」


セシルにコーヒーを奢られたルーカスはげんなりしながらセシルを見た。


「付き合ってくれるって言ったでしょ?ここの限定メニュー食べてみたかったの。」

「いや…言ったけど…言ったけどさぁ…流石に俺、恥ずかしい。」

「まあ、そうでしょうね。でも大丈夫。周りはお花畑で私達の事を気にしている人達はいないわ。それよりも…本当にコーヒーだけで良かったの?」

「コーヒーだけが良いんだよ。お前の食いっぷりを見てるだけで腹いっぱい。」


セシルはカップル限定スイーツだけではなく、期間限定のスイーツ達を1つずつ注文していた。


「何?女性は少食じゃないといけないの?」

「そんな事は一言も言ってない。少食より普通に食べる女子の方が俺は好きだけど、お前は食い過ぎだと思う。」


スイーツを堪能したセシルは満足げにお店を出た。

この後の予定もなかった為、二人は一緒に寮に戻った。


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