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39 ゼムスの過去

ある日、ゼムスは国王から緊急の呼び出しを受けた。

学校を休み王宮へ戻ると隣には見たことがない女性が居て国王は頭を抱えていた。


「初めまして。私、砂漠の国の第二王女アイーシャと申します。」

「初めまして。ガクガアール国第二王子ゼムスと申します。」


挨拶をそこそこにアイーシャは今回の来日理由を話した。

兄アルゼルが溺愛しているターシャ嬢の母親キーシャは砂漠の国の罪人で、キーシャとその娘ターシャの引き渡しを求めに来たのだ。

そして引き渡しに応じなければ国の力を持ってガクガアール国に攻め入ると言ってきた。

ガクガアール国としてアイーシャの話が本当ならばキーシャ親子は不法入国者で有り、罪人である。

本来なら当然引き渡しに応じなければいけないが、将来の国王であるアルゼルが溺愛している少女だ。

ターシャの母親キーシャは簡単に引き渡せるだろうがターシャの引き渡しは難しいだろう。

アルゼルに跡を継がせたい国王はアルゼルの機嫌を損ねるのを恐れている。

だからアルゼルに話す前にゼムスを呼んだのだろう。


「なる程。仰る事は分かりました。アイーシャ王女、いくつか確認したい事が有るんですが宜しいですか?」

「えぇ、どうぞ。」


まずキーシャがどの様な罪を犯したのかを聞いた。


「砂漠の国の現状はご存知ですよね。」


砂漠の国は女尊男卑で女王が治める国。

極端に男が少なく、仕事から家事育児まで全てを女性が行い貴重な男は子種をまくだけ。

ゼムスは頷くとアイーシャは、キーシャは王宮でメイドをしていたが女王の側室と恋仲になり男女の仲になってしまった事を話した。


「王族の側室と関係を持つ事は私達の国では法律で禁止されています。当然、女王の側室と関係を結ぶ事も禁止です。その禁を破ったキーシャは罪人です。」

「分かりました。キーシャの引き渡しはお約束しましょう。」


アイーシャはその言葉に眉を潜めた。


「私はキーシャとその娘の引き渡しを望んでいます。」

「えぇ、先程そう仰っていたので存じ上げております。」


ゼムスはキーシャは罪を犯し娘のターシャを産んだがターシャには何の罪も無い事を言った。

しかしアイーシャは首を振った。


「そちらの国ではそうでしょう。…本来なら我々の国もそうなのですが、王族、まして女王の側室の子供なのです。これを許す事は権威を汚す事と同意なのです。」


ゼムスは全く話し合いに入って来ない国王に呆れながらアイーシャを見た。

微笑んでは居たが目の奥が笑っていない事に気が付いた。


「…アイーシャ嬢、少しよろしいですか?」


ゼムスはアイーシャに手を差し伸べ国王を置いてけぼりにし部屋を出て別の応接間に案内した。

皆心配しながら二人を見守り、宰相も二人の後に続こうとしたがゼムスが止めた。

メイドに給仕させた後、すぐに下がらせ部屋には二人きりとなった。


「アイーシャ王女、ここには私と貴女しか居ません。腹を割って話をしましょう。」


ゼムスの言葉に今まで穏やかに微笑んでいたアイーシャは鋭い目をして笑顔をやめた。


「そう仰るのならまず、貴方から誠意を見せるべきでは?」

「勿論です。」


ゼムスはガクガアール国の次期国王が自分の兄アルゼルで有り、そのアルゼルがターシャを溺愛していて砂漠の国への引き渡しを了承する可能性がが低い話をした。


「大変お恥ずかしい話ですが、国王が跡継ぎであるアルゼルに強く出る事が出来ないのです。」


アイーシャはティーカップを置いた。


「存じ上げております。」

「え?」

「第一王子が罪人の子を大変可愛がっている事を知っている上で引き渡しを要求しています。」


アイーシャはキーシャ親子がガクガアール国に居ると判明したのは第一王子の噂を耳にしたからだと話した。


「そもそも何故、引き渡しを強行しようとしているか知っていますか?」

「…罪人だからじゃないんですか?」

「勿論それもあります。ですが、それは建前です。」


アイーシャは真っ直ぐゼムスを見た。


「女王がキーシャ親子を見付け連れ帰った者を次期女王とすると宣言したのです。」


キーシャは女王の最も気に入っている側室がメイドと恋仲になりメイドがお腹に命を宿した事に激怒し、そう宣言したのだった。


「私を含めた女王の娘達は血眼になってキーシャ親子を探していたのです。そこへ第一王子の噂を聞き、密偵を付け調べさせました。」

「…その結果、キーシャの娘だと判明したのですか?でもどうやって?」

「簡単です。我が国には罪人に必ず入れる入れ墨が有りキーシャは当然の事、その娘にも入れてあるのです。」

「…では間違いないという事なのですね。」


アイーシャはにっこり微笑んだ。

ゼムスは頭を抱えた。

キーシャだけでなくターシャも引き渡さないと戦争になる。

しかしターシャは次期国王のお気に入り。

絶対引き渡しに応じないだろう。


「…1つ聞いてもよろしいですか?」


アイーシャがゼムスに問いかける。


「貴方が国王になるという道はないのですか?」

「…私は…。」


言葉に詰まるゼムス。


「国王が第一王子を次期国王と宣言したので私が国王になるという道はないです。」

「聞き方が悪かったようですね。貴方は国王になりたいと思わないのですか?」


何もかもを見通すかの様な視線にゼムスは隠しても無駄と思い素直に言った。


「なりたいと思った事は有りました。しかし宣言を覆す事は難しいと知り諦めました。」

「…分かりました。この国で貴方の他に話が分かる方は居ますか?」

「…でしたら、イグニシ宰相だと思います。」

「では、この場に呼んでください。」


アイーシャに言われ、近くに待機していたイグニシ宰相を部屋に迎え入れた。

宰相は挨拶をし、どの程度の話をしたのかを聞きアイーシャはまだ何の話も進んでいないと言った。


「イグニシ宰相様、話をする前に1つ伺ってもよろしいですか?」


宰相は頷いた。


「貴方は第一王子と第二王子どちらが次期国王に相応しいと思っておりますか?」


宰相は目を見開きアイーシャとゼムスを見たが何も答えずに居るとアイーシャはため息をついた。


「お答えになって頂かないと話が進まないのですが。この質問は私の興味で聞いております。誰かに公表したり致しませんわ。」

「…ゼムス第二王子だと思っております…。」


宰相はアイーシャの迫力に負け静かに告げるとアイーシャは目の奥が笑っていない笑みを浮かべた。


「そうですか。そう思っているのはどの位の人数が居るか分かりますか?」

「詳しい人数までは…。お恥ずかしい話し、この王宮には第一王子派、第二王子派、中立派の派閥がございます。私は次期国王に相応しいのはゼムス第二王子だと思っておりますが中立派の立場に居ます。」

「そうでしょうね。自身の地位の保身の為にも中立に立っていた方が良いですもの。」


図星をつかれた宰相は黙り込む。


「さて、ここからが本題ですわ。先程から申し上げている様に私はキーシャ親子の引き渡しを要求しております。引き渡しを拒むのであれば全力を持ってガクガアール国を攻めます。次期国王アルゼル王子がターシャの引き渡しを拒むのであればばアルゼル王子の引き渡しも要求します。」

「「っ!?」」

「そっそんな事は許されない!いくら大国の姫君でも冗談が過ぎます!」


宰相がアイーシャを非難するとアイーシャは飲んでいたティーカップを置いた。


「冗談では有りません。アルゼル王子を婿として迎えると言ったほうが宜しいですか?王族では地位の高い婿を迎えるのがステイタスになっておりますの。…それに、他国の罪人を囲う愚かな者より優秀な者が国王になる方が国の為になるかと思いますが?」

「勿論、私もそう思うが…しかし…国王が…。」

「では大国相手に戦争をしますか?」


アイーシャは現国王を玉座から引きずり落としゼムスを次期国王とすれば問題はないだろうと言ったが宰相は問題大ありだと答えた。


「あなた程の人なら引きずり落とす口実などいくらでも付けられるでしょう?…すぐに答えを出して頂きたい所ですが秋まで待ちますわ。」


アイーシャは視察も兼ねゼムスの通う学校へ入学をする事になった。

ゼムスは宰相から在学中アイーシャに第一王子とターシャの引き渡しを諦めてもらうよう説得しろと言われた。

しかし第一王子だけならまだしもターシャの引き渡しは絶対に譲らない事を知っていたゼムスは頭を抱えた。


「アルゼル様は婿に頂ければ嬉しいけど別に断わられても構わないと思っているわ。私の目的はあくまでもキーシャ親子だから。」


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