29 セシルとマツリド
「それで用事とは?」
ティーナとルーカスが居なくなったのを確認しセシルはマツリドを見た。
「私は飛び級したくありません。」
セシルの言葉を聞いたマツリドは目を開き驚き、詳しく話を聞こうと言って相談室へ向かった。
相談室に着き、マツリドは温かいココアを入れセシルに渡し椅子に座った。
「それで飛び級したくないとは?」
「そのままの意味です。」
それ以上答えないセシルにマツリドは考え込む。
「…理由はどうあれ認定証を貰ったのだ。来年から3年生として学生生活を送って欲しい。」
「飛び級は嫌ですと言っております。」
セシルはマツリドを見る。
マツリドは真っ直ぐセシルを見る。
「君はとても優秀な生徒だ。だから早く高等部を卒業し専門学を学んで欲しいと思っている。」
マツリドは言葉を選びながら、飛び級というのは大変名誉な事で有りこの先進学や父親の跡を継ぐのに早くに得た知識が武器になるとも話した。
セシルは飛び級してしまうと貴方に会う時間が少くなってしまうのが嫌だと言おうとしたが、踏みとどまる。
「…何故、飛び級テストだと仰ってくださらなかったのですか?」
「それを言ったら篩にかける意味がなくなるだろう?誰もが飛び級できる訳じゃないんだ。」
「そんな事は分かっています。言ってくださればもっと低い点数を取りたかったのです!」
マツリドは頭にハテナマークが浮かんだ事だろう。
「…何故?」
「どうしてもです!…飛び級は覆らないのですね!分かりましたっ!」
セシルは飲み終わったマグカップをマツリドに強引に渡し相談室から出て行った。
早歩きしながらセシルは涙を堪えていた。
マツリがセシルを生徒の一人としか見ていないのは分かっていた。
だから特別な生徒として見て欲しくて訳の分からない授業も必死についていったし授業外の授業も受け始めた。
授業回数を重ねていくうちに本人は気付いていないけど、普段見せない顔を見せてくれるのが嬉しかった。
必死に勉強したけど、結局はマツリドの特別な生徒ではなく何処までいっても優秀な生徒のままだった。
飛び級が嫌なんじゃなくてマツリドに会えなくなるのが嫌だと言えば良かった、困らせてやれば良かったと思いながらセシルは二人が居るかもしれないガゼボへと向かったのだ。




