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王宮からの手紙は来ないまま新学期が始まってしまった。

マツリドの言葉通り成績順位に座るクラスメイト達は驚きを隠せなかった。

一列目1位のセシル、次にゼムスが並びに2列目にティーナ、次にアルゼルが座っていたのだ。


チャイムが鳴りすぐにマツリドが入ってくる。

そして教室を見渡した。


「皆さん私が学期末に言った事を良く覚えていました。今日は今週用意する科目を伝えていないので明日からの授業予定表を配ります。次に今日1日、私が用意した本を読み感想を書いてください。」


マツリドは本を渡していく。

本は基礎医学で教科書の内容をよりも詳しくしたもので特別難しいものではない。


「5時に取りに来ますので、自由に取り掛かってください。」


マツリドはそう言って教室を出て行った。

マツリドの気配が消えるとすぐにターシャがアルゼルの所へやって来た。


「ねぇねぇ一緒にやりましょう?私、医学関係苦手なのぉ。」

「別に構わないが席がないだろう?」

「あっ、じゃあ私の所から椅子持って来てくれるぅ?私じゃ重くて運べないからぁ〜。ねっ☆いいでしょ?」


アルゼルはターシャの言う通りに最後の列の1番後ろに向かった。


「アンタも婚約者候補なんですって?家が金持ちってだけで選ばれたんでしょう?けど、残念ね。アルゼルの心は私のものよ。」


ティーナにしか聞こえないしかも低い声でターシャは言った。


「ターシャさん、何を言っているのか聞こえないのではっきり言ってくれませんか?」

「っっ!?」


ティーナが普通に声を出して聞いてきたのでターシャは声も出なかった。

アルゼルが椅子を持って戻って来たので、猫をかぶるターシャ。


「ターシャどうしたの?」

「ううん。何でもないのっ☆」

「ターシャさん、足踏まないで貰えますか?痛いです。」


ティーナの足を思いっ切り踏みつけていたターシャ。


「あっ!ごめんなさーい!わざとじゃないのぉ」

「そうですか。わざとでなければ上履きに足跡が残るくらい踏んづけても宜しいのですね。」


ティーナの上履きには言い逃れが出来ない程、見事に足跡が付いていた。


「ひっどーいっ!わざとじゃないし、ちゃんと謝ったのにぃ。アルゼルゥどうすればいいのぉ?」

「ティーナ嬢、ターシャがわざとじゃないと言っているし謝っているのだから許してあげてはどうだろうか?」


ティーナは舌打ちをし令嬢にあるまじき顔をし、すぐに微笑んだ。


「ええ、そうですわね。」


そう言って立ち上がりアルゼルの足を思いっ切り踏み付けた。


「あら、ごめんなさい。わざとじゃないの。」

「っっ!?ティーナッ嬢っ」

「…鼻クソを付けられないだけありがたいと思いなさい。」


ティーナは本と感想用紙、筆記用具を掴んで教室から出て行った。

ターシャが騒いでいるうちにゼムスはティーナの後を追った。


「ティーナ嬢。」


ドスドス歩くティーナをゼムスは手首を掴んで止める。


「何かしら?」


明らかに顔は笑っていても怒りのオーラを隠せていないティーナを見てゼムスは笑ってしまう。


「君は本当に面白いね。見ていて飽きないよ。」

「そうですか。なら好きなだけご覧になって。」


ほらどうぞと言わんばかりに顎を上げ偉そうなポーズをする。


「愚兄でごめんね…。あんな兄でもターシャ嬢と会うまでは尊敬する兄だったんだ…。」


悲しそうに笑うゼムスを見てティーナは偉そうなポーズをやめゼムスの頭を撫でた。


「…やり返したからスッキリしてる。そんな顔しないで。」 

「ティーナ嬢は優しいね。」


ティーナの撫でた手を取るゼムス。


「…良いところお邪魔して申し訳ないのですが、今はまだ授業中ですわ。…まあっ!資料を見に図書室へ行く途中でしたの?」

「私達も偶然にも図書室へ資料を見に行く途中でしたの。4人で行きましょうか。」


ナタリーとセシルが二人の後ろに居た。

二人を追い越しスタスタと歩き出すナタリーとセシル。

ゼムスはティーナの手を離し二人の後をついて行った。


「この前、3人でお茶会した時に第一王子の婚約者の話をしましたの。」


資料を調べ大体まとめ終わり感想を書き終えたナタリーが言った。


「王宮側は何故、寵愛を受けているターシャ様を婚約者として認めないのですか?」


ぶっ込んだ質問をするナタリーにゼムスは苦笑いをした。


「詳しい事は話せないな。…と言っても僕も王宮での噂位しか知らないけどね。」

「噂で構いませんわ。教えて下さる?」

「うーん…あくまでも噂だよ?」


すると王宮では光を浴びる第一妃を他国の姫かティーナにして表には一切出させない第二妃をターシャにしようと話が出ているらしい。

しかし他国の姫はともかくアルゼルとロレッタ公爵が反対をしているのだ。

驚く事にターシャは第二妃で良いと言っているらしい。

ロレッタ公爵嬢から辞退の話が届いたのに、まだ辞退承認が取れていないのはロレッタ公爵からの多額の持参金、影響力を捨て切れない王宮のせいらしい。


「…そんな事はどうでもいいの。ゼムス、私をゼムスの婚約者にするってどういう事なの?」


ナタリーとセシルはティーナとゼムスを見た。

ゼムスは顎の前で手を組んでにっこりと笑った。


「そのままの意味さ。」


それから恥ずかしくなったゼムスは顔を下に向けた。


「…と言うか…求婚している事は秘密にしておいて欲しかったよ…。振られたら恥ずかしいじゃないか…。」


ナタリーとセシルはゼムスの肩を叩いて首を振った。


「誰にも言わないでと書いておかないと…」

「…ゼムス様って案外取っ付きやすい人なのね。ずっと腹黒だと思っていたわ。」

「っ!ティーナ、セシル嬢が僕の事を腹黒だと思っていたって…ティーナ知っていたかい?」

「残念だけど…ゼムス様とお付き合いのない方は大体は腹黒だと思っておりますわ。」


その言葉を聞いてワナワナと震え出すゼムス。


「なんと言う事だ…!病弱だったから友達を増やそうと努力した結果が腹黒なんて…。くそぅ…これが神が与えられし試練なのか…!」

「おぉ…ゼムス…ゼムス。ゼムスよ聞こえるか…」


ティーナが両手を広げゼムスに語りかける。


「そなたはまだ若い…いくらでも失敗をしていいのだ…神である私はそなたを遠くから見守っている…。おぉ…ゼムスよ…。」

「…私達は一体何を見せられているの?」


ナタリーがセシルに聞くとセシルは少し考え


「神と信者の交信?」


5時前には教室に戻り感想を提出した4人は、図書室での出来事がなかったかのように振る舞いナタリーとティーナは寮へ歩き出した。


「しかし…第二王子もヤバいわね…色んな意味で。」

「彼は身体の方はもう良くなってるみたいだけど、まだ病気みたい。お医者様の話によれば大人になればなくなると言っているらしいわ。楽しいから付き合ってるの。」


それを聞いたナタリーはため息をついた。


「あなた達、とってもお似合いよ。第二王子の婚約者の話、受けたら?少なくとも第一王子よりはマシよ。」

「まあ…それも考えたんだけど…ゼムスにときめかないのよ…。セシルの話を聞いて素敵っ!私もそんな恋がしたい…でもゼムスじゃ無理〜っ!!」


ティーナは空に向かって叫んだ。

帰宅途中の生徒達の注目の的になっている事に気付いたナタリーはそっと離れた。

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